第23話 迷子猫からの証言
ブラウを連れ帰ったオレに、ツバキは最初目を丸くした。
《誰?》
《ブラウ、迷子、オレ、ブラウ、飼い主、捜す、ブラウ、それまで、家、いる》
《ブラウです。ミリアムが見つかるまでお世話になります》
ブラウは、おずおずとツバキに近寄って挨拶をした。ツバキもそれに答える。
《ニャーは、ツバキ。ミリアムが早く見つかるといいね》
ツバキは、ブラウに家の中を案内していた。
《ここトイレ、あっちのキッチンは絶対入ったらダメ。ハンナが怒るから》
ブラウはツバキの説明を大人しく聞いていた。オレは仲良くやってくれそうだと安心した。
平和だったのはここまでだった。
とりあえず、迷子になってから何も口にしていないだろうと思い、ブラウに水と食事を出したところ、
《何これ! おいしい! こんなの食べたことない》
《ニャーにもごはん!! アルー、ニャーにもちょうだい!!》
ブラウの皿を引き寄せようとするツバキ、それを阻止するブラウ。
思っていたのとは違う修羅場を迎えていた。
《ツバキ、ごはん、こっち》
《ごはんー!!!》
ツバキに2回目の夕食を出すことで修羅場は収束した。
オレは適当なカゴにクッションを詰めてブラウの寝床を用意した。
疲れたのだろう。ブラウはすぐにうとうとと眠り始めた。
さて、どうやってブラウの飼い主を探そうか。
しかし、ブラウは飼い主の同僚に捨てられたと言っていた。
そのまま飼い主のもとに戻しても、また捨てられるんじゃないのか。
・ブラウの飼い主を探す
・ブラウが再び捨てられないようにする
この2点をクリアしなければならないってことだな。
ただし、再発防止は飼い主と相談してからだから、一旦保留。
まず、オレにできることは
1.自警団に問い合わせがないか確認
2.新聞のたずね人欄に出す
この2つまでで見つかればいいんだが、わざわざ車でブラウを捨てに来たということは、ここからかなり離れた場所から連れてきた可能性もある。
せめて、ブラウがどこから来たかがわかればいいんだけど。
オレも疲れた。行動は明日からにして休むことにする。
いつのまにか、ブラウのカゴにツバキが潜り込んでいた。窮屈そうだな。
2匹の様子を見た後、オレも自分のベッドに潜り込んだ。
コン、コン、コン
「坊ちゃん、起きていらっしゃいますか?」
今日もやってきたハンナが、返事も待たずにドアを開けた。
「……なんで猫が増えてるんですか?」
あー、説教モードに入りかけてる。やばい。
「いや、これは」
「坊ちゃんは、猫屋敷にするつもりですか?ツバキちゃん1匹の面倒もひとりでできてないのに……」
ハンナがじろりとオレをにらみつける。
「この子は、迷子で。飼い主を見つけるまで預かっているだけなんだ」
「まあ!誰から引き受けたのですか?」
「……猫から」
オレは、魔法の詳細についてはところどころぼかしながら、猫の言葉がわかることと、ブラウの事情をハンナにしゃべることになった。
全てを聞き終えたハンナは、ため息をつきながら、
「坊ちゃん、魔法の開発は慎重になさってくださいね。一応、お屋敷に報告させていただきます」
実家に知られるのは、ちょっと困るけど仕方ないかぁ。
《ねぇねぇ、話終わった?ハンナごはんー。ごはんまだ?》
様子を伺っていたツバキがすかさず、ハンナにまとわりつく。
《あの人が怖いハンナ?》
ブラウは、ソファの後ろに隠れて様子を見ている。
《ハンナ、味方、ごはん、くれる》
ごはんの一言にブラウの目が輝いた。
ハンナは、ブラウの体形を見て、2匹の距離を離した位置に皿を配置した。
さらに間に衝立をたてる。
たぶん、中身違うんだろうな。ツバキはダイエット飯だな。
《うーん、今日も薄味……いつものごはんじゃないの?》
残念だが、ツバキがやせるまでは、いつものごはんは出てこないよ。
《何これ!何これ!昨日のごはんも美味しかったけど、これもっと美味しいー》
ブラウは普通のごはんを出されたんだな。
「坊ちゃん、ツバキちゃん用とブラウちゃん用で分けていますから、与えるとき注意してくださいね」
猫2匹って大変だな。
ハンナにブラウの飼い主を探す方法を相談した。
「そうですねぇ、新聞は読まれる方でしたらいいのですが」
《ミリアム、新聞、読む?》
新聞を見せながら、ブラウに確認する。
《新聞ってその紙?ミリアムが見てるところ見たことないわ》
「うーん、新聞を読む習慣はないみたいだね」
「本当に猫と会話されているのですね」
ハンナは眉間をもんだ。
「都内で車を所有している方は、ほんの一部です。その辺りから探すほうがいいかもしれませんね」
都内で走っている車のほとんどは、国営のタクシーだ。自家用車を持つ家はかなりの金持ちに限られる。
飼い主の同僚ってどんな人なんだろうか。
《同僚、どんな、人?》
ブラウは思い出したのか尻尾を膨らませながら、
《いけ好かない女よ!!あいつ、いつもミリアムをいじめていたわ。私をさらったのもミリアムへの嫌がらせよ!!》
うーん、どういう状況でさらわれたんだろう?
《さらわれる、方法、なぜ?》
《あの日、私はミリアムの部屋でいつも通り、昼寝していたの。そこにあいつが入ってきて……抵抗する私を袋に無理やり詰めて……》
ブラウの爪がクッションに突き刺さった。
《袋ごと私を外に連れ出したの。しばらく歩いて移動してたと思う。それから車に乗ったんだと思う。捨てられるときに袋から出されたわ》
《どれぐらい、時間、わかる》
《混乱していたからわからない……でも連れ出されて1時間もたってはいないはず》
都内を走るタクシーには、遠目でも分かるように大きな装飾が施されている。
《車、見た?、装飾、ある?》
ブラウはしばらく考え込んだ。
《……あったわ。捨てられるときに爪を引っかけた》
ブラウが前脚を出してきた。爪の先に赤い塗料が残っていた。クッションの爪がささった場所にも塗料がくっついている。
《同僚、家、一緒?》
《この街に来てからは、大きな家で6人と私で暮らしていたわ。同僚も一緒。最近引っ越したの。前に住んでたところから5日ほど移動したわ》
結構遠くから引っ越してきたんだな。しかも6人で暮らすってことは結構大きな家だな。
都内のほとんどの土地は、貴族からの借地になる。
《家、外、何、ある?》
《私、ほとんどミリアムの部屋から出ないからわからないの……》
ブラウから引き出せる情報はこれぐらいかな。オレはハンナと情報を共有することにした。
聞き出した情報を書き出してみた。
・同僚、飼い主をいじめていた
・飼い主不在時にブラウを拉致、袋に詰める
・住居から徒歩+車で一時間以内
・車から放り出すときにブラウを袋から出した
・車、装飾あり、赤い塗料、猫のひっかき傷
・同僚、飼い主とその他4人と一緒に生活していた
・引っ越してきたのは最近
・引っ越し前は移動に5日かかる場所
続けて、その情報からわかることを書き足していく。
・住居から徒歩+車で一時間以内
→都内の車の時速制限は30キロ。車で移動した距離は最大でも30キロ程度。実際には徒歩や乗り降りの時間もあるから、もっと短いはずだ。
・車、装飾あり、赤い塗料、猫のひっかき傷
→装飾があるということは、タクシー。赤い色とひっかき傷がある。
・同僚、飼い主とその他4人と一緒に生活していた
→大きな家?
・引っ越してきたのは最近
→賃貸契約から探せるかも
・引っ越し前は移動に5日かかる場所
→かなり遠方。国外の可能性もある
「自警団、タクシー組合、不動産の順番ですかねぇ」
「自警団で何かわかればいいけどな」
オレは、自警団の詰所に向かうことにした。
ツバキとブラウはお留守番だ。今日も長い一日になりそうだなー。
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