第21話 青い花は偶然か
ネリーの次の休みまでの間、オレは猫トイレの屋根部分の設計図を作って大工に依頼したり、改善用の魔法を魔石に入れたりしながら過ごしていた。
尚、消臭機能は常時発動型にして、屋根部分に埋め込むことにした。
残す課題は、使用後に自動でどうやって動かすかである。
念のため、屋根部分には後から魔石を設置できるよう、いくつか設置スペースも確保してある。
そんなこんなで、ネリーの休みの日がやってきた。
最近は、お留守番も多かったので、ツバキを誘ってみた。
《ツバキ、外、着いてくる?》
《んー、行ってやろうかな。》
ツバキは、のそのそとカバンに入っていった。 以前よりカバンが重くなった気がした。
《アル、おやつ忘れないでね》
いや、いらないだろうって思ったが、ツバキが監視していたので、しぶしぶおやつの袋をカバンに入れた。
ネリーと待ち合わせて、自警団詰所に向かった。
途中に差し入れがあったほうがいいだろうと、とにかく量が多いお菓子の大袋を購入していく。
「ヘルマンさん、いらっしゃいますか?」
詰所では、イグナツさんが書類を整理していた。
「あ、これ差し入れです。良かったら皆さんで」
イグナツさんに大袋を手渡した。
「ああ、あんたたちか。ヘルマンさんなら裏の花壇いじってるよ。差し入れありがとう。うちは甘いもの好きが多いから喜びます」
オレたちは、ヘルマンさんがいる裏手に向かった。
詰所の裏では、オレが作った花壇が倍の広さになっていた。さらに畑まで。
しかも、麦わら帽子を被ったヘルマンさんが、魔法を使って畑を耕していた。
「あれ……もしかして、その魔法」
「ああ、あんたたちか。あんたが使ってた魔法を買ってきたよ」
ヘルマンさんはタオルで汗を拭きながら、こちらにやってきた。
「ありがとうございます!!!」
魔法売れた―――!! 魔法管理局に確認に行かなきゃ。
「私も、ドライヤーの魔法買いました……」
ネリーが何かつぶやいていた。
オレは嬉しさのあまり、ヘルマンさんの手を握りしめるのに夢中だった。
「ヘルマンさん、空き巣事件ってどうなったんですか?」
「ああ、それはここじゃ何だから、中で話そう」
オレたちは、再び詰所の中に戻った。
「それがな、どうも取り調べしている部署でも、容疑者が黙秘していてな。」
ヘルマンさんは、少し悩んだあげくに話し始めた。
「まず、容疑者は近くの宿屋に宿泊しており、夜の12時に外出し、3時に戻ってきた。近くの飲食店は1時までに閉まるため、不審に思った宿屋からの情報提供によって現在容疑者として拘留されている。」
あれ、オレの報告ってどうなってるの?
ヘルマンさんは、ちょっと気まずそうな顔をして、続けた。
「君の報告も一応、記録はしているが……猫が見たというのは、ちょっと認められなくてな……」
まあ、仕方ないのかもしれないけどさー。
「もうすぐ拘留期限も切れるんだが、何か黙秘を崩す手がかりがあればと言われた」
手詰まりなのかー。まあ、仕方ないのかもしれないな。
「あの……」
ネリーがカバンから、付箋を貼ったパンフを取り出した。
「ここを見てもらえますか?」
『煙突がある家』『屋根の色は青く塗り直して』に付箋が貼ってあった。
「ローザ・オイラーは、青い花が好きで、ファンはイベントに青い花を持参するそうです。また、ファンからのプレゼントは青い花の植木鉢が多いと」
「確かに、符号は一致するが事件と結びつけるには……」
ヘルマンさんは苦い顔をしている。
ネリーは、カバンから新聞を取り出した。
「これは、空き巣が入った日の夕方に配られた号外です」
『ローザ・オイラー熱愛発覚』と書かれた通常の半分サイズの新聞だった。
「号外が配られた日の夜に、ローザの象徴である青い花の植木鉢が割られて、同じ特徴を持つ家に空き巣が入った。偶然にしては出来すぎてないでしょうか?」
しばらくの沈黙の後、ヘルマンさんは、
「お嬢さん、こちらの資料をお借りしてよいでしょうか? 取り調べをしている部署に連絡してみます」
「キルヒナー氏のことがあるので、結果が出たら教えてもらえますか?」
「捜査上で問題がない範囲で、よければ。資料の返却の時にでも」
こうして、オレとネリーは詰所を後にすることにした。
「うーん。これで結果が出れば、キルヒナー氏も安心するだろうな」
ネリーを送る帰り道、オレの言葉にネリーはうなずかなかった。
「あら猫ちゃん」
オレたちの前に一匹の猫が寄ってきた。バケツだ。
《よお、久しぶりだな。また、あの食べ物くれよぉ。何でも情報調べるから。なぁなぁ》
人間の目には、人懐っこく寄ってきているように見えるが、実態は中毒患者みたいだ。
ハンナ中毒というべきだろうか。
「アル、この子何ていってるんですか?」
……オレは迷った末、
「お腹が減って、食べ物欲しいみたいだよ」
ネリーは自身のカバンを探って、
「うーん、猫が食べられそうなものはないですね。ごめんね」
《はぁはぁ、そこの兄ちゃん。持ってるんだろう?においがするぜ》
いよいよ、発言がやばい。
《ダメー!! これはツバキのだから》
ツバキが顔を出した。
《おまえ……まさかツバキか?》
ツバキはおやつを取られまいと必死だ。必死すぎる。
《ツバキ……デブったな? 誰かわからなかったぞ。》
固まるツバキを、オレは見た。おなかのくびれがない……。
《アル、ツバキ太ってないよね?》
オレは黙って首を振った。
バケツにおやつを分けてあげると、彼は去っていった。
家に帰るまで、ツバキはずっと静かだった。
覗いてみたら、ただ眠っているだけだったけど。
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