第19話 猫トイレ、運用開始
今日は、ついに大工に注文していた猫用トイレの箱が届いたのだ。
オレは、さっそく魔石をはめ込んだ。
トイレ部分に猫砂を入れ、ゴミを排出する引き出しの開閉も確かめた。
うん、問題なし。
《ツバキ、トイレ、できた、使う》
《うーん? トイレ?》
ツバキは、箱の中を覗き込んだ。砂をつついて、においをかぐ。
《まあ、いいんじゃない》
《ツバキ、使う》
《使いたくなったら使うー》
ツバキはきびすを返して、去っていった。
それからオレはツバキと猫じゃらしで遊びながら、なるべく水分の多そうなおやつを与え、その時を待った。
ツバキが廊下に向かう。
オレもついていく。
《アル、着いてこないで。何でトイレ覗こうとしてるんだよ!!》
ついにツバキに怒られた。オレは、反省して壁の横からそっと覗くにとどめることにした。
ざっざっざっ。
砂を掻く音がして、ツバキは戻ってきた。
そしてオレを見て、ちょっと嫌そうな顔をした。
オレはトイレにいそいそと向かっていった。
さっそく魔石を起動!!
水分が蒸発し、不純物らしき粉が穴に吸い込まれていった。
よさそうだな。
ただ、使用済みの砂を直接手でさわるのは、ちょっと憚られたので、スコップでかき回してみる。
見た目は使用前と同じように見えた。引き出しの中には、ほんの少量の粉が入っていた。
成功だ! オレはガッツポーズをした。
そんなオレを後ろから、ツバキが冷たい目で見ていた。
しばらくは猫トイレの運用テストをしながら、次の魔法の開発を考える日々を過ごすことにした。
カイルが来るまでは。
「アル、頼みがあるんだけど」
ダーヴィットの頼みならば、断る一択だが、カイルはそこまで、おかしなことを頼まない……はず。
「何かあったのか?」
とりあえず、コーヒーでも出しながら話を聞くことにした。
カイルは、カバンから紙の束を取り出した。
「ローザ・オイラーの独演イベントに参加してくれないか? チケット代は出すから。あ、ネリーさんも一緒に。あと友達とか行きたい人いたらお願いします!!」
ああ、あの5股の噂の女優ね。カイルの推しである。
今まで何度か付き合わされたけど、今回は必死だな。
「彼女、あの記事のせいで、チケットの売れ行きが悪いらしいんだ……ファンクラブ会員としては何とかしなくちゃいけない!!」
カイルは、出世頭で給料も良いのだが、推し活動のために質素な生活を送っていた。
「いや、チケットはお前が買ってるなら、売れてるからよくないか?」
だん!!
「何言ってるんだ!? 空席が目立ったら彼女が傷つくじゃないか」
「あ……はい」
「でも、熱愛発覚でお前も熱が冷めたの……」
ギロリ。
オレは、それ以上言えなかった。こえぇ。
「それは悪意ある記者の妄言だ。我々ファンは彼女の芸術性を認め、彼女を信じて……」
オレは踏んではいけないスイッチを踏んだようだ。
ざっざっざっ。
ツバキがトイレを使ってるなー。確認しにいきたい。
カイルの熱い話が止まるまで、オレは意識を飛ばし続けた――。
カイルから預かったチケットは10枚。絶対来れる人に配ってくれとカイルは念押しして帰った。
誰に配ろう。
ネリーが猫トイレを見にくるって言っていたから相談しよう。
オレは猫トイレの魔石に魔力を込めながら、途方に暮れていた。
ネリーが猫トイレを見に来た。
都合よく、ツバキがトイレを使用してくれた。
ネリーが実際に使ってみたいと言ったので、使い方を教えて見守る。
「おー、汚れが回収されてますね! この穴の先どうなっているんですか?」
「それは、そこの引き出しに溜まるようになってる」
「引き出しの中身を捨てれば、再利用可能っていいですね。砂を運ぶの大変だから。砂代も結構かかるし……」
ネリーは真剣に見て回っている。そうかオレは庭の土使ってたけど、猫砂って買わないといけないのか。
「砂除けもいいですね。掃除が楽になります。うーん。サイズですよね」
「レモンが大きいから、これだと狭い?」
ツバキももっと大きくなるかもしれないな。
「いえ、仕事に行っている間は留守なので、猫のトイレが3台は必要なんですよ。汚れたトイレを嫌うから、3台置くスペースはないですね」
「あー、そうだよな。使った後に魔石起動しないといけないから」
「掃除は楽なんですけどねー。猫が魔石起動してくれればいいのに」
「それだ!!」
猫が使用したタイミングをトリガーに自動で起動されるようになればいいんだ。
「ちょっと改良しようと思う。あと何か気づいたこととかあれば教えて欲しい」
しばらくネリーとアイディアを出し合い、猫のプライバシーに配慮した屋根、消臭機能などを検討することになった。
ひとしきり、話し合った後、オレはカイルの件を思い出した。
オレは、カイルから頼まれたチケットの件をネリーに相談した。
ネリーはチケットを手に取ると、つぶやいた。
「全席自由席なんですね。これなら10人一緒の席というわけじゃない……つまりふたりっきりでデート」
最後のほうが声が小さくて聞き取れなかった。
「アルが、一緒に行ってくれるなら私行きたいです。あと残り8枚は秘書課で行きたい人募りますよ」
「本当、ありがとう。いやー、困ってたんだよね。空席は嫌だっていうから」
一気に解決した。ネリー神。
ネリーは、独演イベントに興味があったのか、にこにこだ。
イベントの日は、会場付近で待ち合わせすることになった。
ネリーを家まで送る帰り道、ネリーは終始ご機嫌だった。
そんなに見たいイベントだったのだろうか。よかったな。カイル。
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