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アルフォンスは魔導士ではなく、猫である  作者: 猫のアミーゴ


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第18話 もう一つの植木鉢

自警団の詰所には、安定のこわい顔、でも心は優しいヘルマンさんがいた。

「どうかされましたか?」

キルヒナー氏が、意を決して説明しようとした瞬間、

「こら!! また、持ってきたのか!」

「ごめんなさい。 はなして―!」

若い男性の声と子供の声が聞こえた。

「失礼!」

ヘルマンさんが、声のする方に向かっていく。

なんとなしに、オレたちも着いていった。



詰所の裏手で、若い団員に捕まった5歳ぐらいの男の子が暴れていた。

近くには、ピンク色の花が咲いた植木鉢が転がっている。

ヘルマンさんは、何か察したようで、

「イグナツ、放してやれ」

「坊主、どうして植木鉢をここに持ってくるんだい?」

若い団員から解放されて座り込んだ男の子に、やさしく語りかけた。

「ヘルマンさん。いたずらに決まってますよ!!」

イグナツを手で制しながら、ヘルマンさんは優しい声で話す。

「何か理由があるんだろう? おじさんが手伝ってあげるから教えてくれないかな?」

男の子は泣きそうな顔で、話し出した。



ヘルマンさんが男の子から聞き出した話は――。

男の子の母親は、自警団詰所の裏にある治療院に入院しているそうだ。

入院は長引いていて、母を応援したいと彼は思ったそうだ。

母の好きな花を見せれば、元気になってくれるかもしれない。

そう思った彼は、花を持っていこうとした。

しかし、治療院には土の付いた植物を持ち込むことができない。

また、彼には花を用意する手段もなかった。

そのため、近所から持ち出した花の植木鉢を、病室の窓からよく見えるこの場所に運んでいた。



「ごめんなさい。ごめんなさい。」

悪いことをしたことは分かっているのだろう。男の子は泣き止まない。

「坊主、名前は何ていうんだ? 私はヘルマンだ。」

「マルコ……。」

ヘルマンさんはしゃがんで、マルコに目線を合わせながら話す。

「花は持ち主に返しに行こう。私も一緒に謝りにいってやる」

「でも、でもママが……」

「私は土いじりは、わからないがここに花壇を作るから、マルコ手伝ってくれないか?」

マルコは目を丸くした。

「マルコは手伝ってくれないのかな?」

ヘルマンさんが重ねて言うと、マルコは、輝くような笑顔で、

「うん!! 僕手伝う」

「イグナツ! 悪いがマルコを連れて植木屋にいって、花壇に植えられるような花を適当に買ってきてくれないか?」

ヘルマンさんは、財布から出したお金をイグナツに渡す。

「マルコ、お母さんはどんな花が好きなんだ? このお兄さんと一緒に選んできてくれるかい?」

「ピンク!! お母さんはピンクの花が好きなんだ!!」

イグナツはマルコと手をつないで、植木屋へ向かっていった。



「ヘルマンさん、花壇を作るのにいい魔法があるので、手伝いますよ」

「そんな都合のいい魔法を持っているんですか? ああ、じゃあ、この一角を」

ヘルマンさん、ネリー、キルヒナー氏が興味津々でオレを見守る中、オレは畑を耕す魔法で、土をふわふわに盛るような形に整えた。

「おおー」

あっという間に完成した花壇。

ヘルマンさんは土の具合を確認し、ネリーは何やらメモを取っている。

使える魔法だと思うんだよね。

なんで売れないんだろうか。



マルコとイグナツが帰ってくるまでの間に、オレ達は本来の用事を済ませることにする。

空気だったキルヒナー氏が、口を開いた。

「実は、少し前に私もここに植木鉢を持ってきたのです。」

「まさか、あなたの家族も治療院ですか?」

ちょっと、あきれた顔でヘルマンさんが聞く。

マルコの後だからね。

キルヒナー氏は、植木鉢を持ってきた日と事情を話した。



話を聞き終えたヘルマンさんは、眉を寄せた。

「その植木鉢のことは覚えてますよ。 見回りから戻ったら、いつもは裏手にピンク色の花が置かれているのに、その時は詰所の真ん前に青い花が置かれていたので、ちょっとだけ不思議に思っていたんですよ。」

「確かにそこに置きました」

「子供のいたずらと思って、植木鉢の持ち主と思われる所に返しに行ったんです。」

「戻りました!!」

ちょうど、たくさんのピンクの花を抱えたイグナツとマルコが戻ってきた。

「ふむ、マルコ。いまからグレテさんの所に植木鉢を返しに行こうか。ごめんなさいをして、戻ってきたら一緒に花を植えよう」

「うん……」

謝りに行くと聞いて、マルコはしょんぼりした。

「グレテさんの家に、例の植木鉢を届けたので、そちらで魔法の確認をしましょう。 皆さんも同行してもらえますか? イグナツも悪いが花を裏に置いたら来てくれ」



連れだって、グレテさんの家に向かう。

イグナツは最初、マルコの手を握って歩いていた。

しかし、マルコの歩く速度を考えてか、途中からおんぶをしてやっていた。

そして最終的には、肩車だ。

マルコは大はしゃぎだった。



「すみません。グレテさん」

ヘルマンさんがドアの前で呼びかけると、しばらくしてグレテさんがドアを開けた。

「あら、皆さん連れだってどうされたのですか?」

人数が多いので、目を丸くしている。そりゃいきなり6人で押しかければそうなるよな。

「ほら、マルコ」

ヘルマンさんがマルコを促す。

マルコは、一回息を吸い込んでから、

「お花、勝手に持っていっちゃってごめんなさい!!」

グレテさんは、しゃがんでマルコと目線を合わせて

「坊やは、お花が好きなのかしら」

「ママが……」

ヘルマンさんが事情をグレテさんに話す。

「そうなのね。マルコちゃん。 今度あなたが育てた花と私の育てたお花交換しない? おばちゃんもピンクの花を育てるわ」

「うん!!」

マルコは元気に返事をした。

「イグナツ、マルコを連れて先に詰所に戻ってくれ。もうちょっと用事があるんだ」

イグナツは、再びマルコを肩車して帰っていった。



マルコ達を見送った後、ヘルマンさんが再び、グレテさんに話を切り出す。

「一つだけ、こちらにお返しした植木鉢が、違うものだったらしくて」

「全部うちの子でしたよ?」

グレテさんは、不思議そうな顔をした。

「青い花の咲いた植木鉢です」

「そんなの受け取ってないですよ」

「それマリアちゃんが持っていった奴じゃないか?」

庭で様子を伺っていた旦那さんが、口をはさむ。

んー、マリアと青い花の植木鉢、グレテさん。 どっかで聞いた話だなー。あれ?

「あー!!!!」

突然、大声を上げた空気2号のオレに、皆は振り返った。

オレは、マリア宅で割られた植木鉢事件の話を伝えた。



「その割られた植木鉢の破片はどうされたのですか?」

「……捨てました」

証拠品処分したのはオレだ。皆の沈黙がつらい。

これ以上できることもなく、今日は解散となった。

ヘルマンさんが、空き巣の調書を調べておいてくれるとのこと。

キルヒナー氏は魔法検知の魔石を返却しにいってくれるそうだ。

オレは、ネリーを送っていくことにした。



ネリーと事件のことを話しながら帰る。

「結局、フォルダと植木鉢の謎が残ったな」

ネリーは、しばらく考え込んだ後、

「アル、それだけじゃありませんよ。 シュシュ強奪事件が解決していません」

「ん? キルヒナー氏だったんじゃ?」

「キルヒナー氏は、餌場にいけば、かぎしっぽさんからシュシュを回収できると考えていたのですよ」

そういえば……。

「誰がレモンの首輪を奪ったのか?」

確かにキルヒナー氏は、そんなこと何も言ってなかった。

「かぎしっぽさんとレモンの特徴は似ています。 だから、レモンの首輪を狙ったというならば」

まだ、オレはピンと来ていない。

「犯人はキルヒナーさんが、かぎしっぽさんに首輪をつけたことを知っていた」

「レモンを追っかけた白い服を着た小太りの男は、キルヒナー氏ではない?」

オレの疑問に、ネリーはうなずいた後、続ける。

「レモンの首輪を奪った後も、似たシュシュを強奪したということは、犯人はシュシュそのものを集めているわけではありません。フォルダを探しているんです。フォルダがどこにあるか犯人は知らない」

ネリーはオレを見つめた。

「アルの元にあることが、犯人に知られれば、アルが狙われます」

まあ、大丈夫だろう。

しばらく、無言のまま。ネリーの家に着いた。

「オレは安全だから。心配しないで、おやすみ。ネリー」

「……おやすみなさい。アル」

オレは、ツバキが待つ家に帰った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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