第16話 探偵ネリー
コン、コン、コン
「坊ちゃん、起きていらっしゃいますか?」
いつも通り返事も待たずに、ハンナがドアを開けた。
「今日はご予定があるのですか?」
オレが室内着じゃなくて、着替えていることにハンナが目を丸くする。
「ああ、来客があるんだよ。女性が好むお茶菓子とかあるかな?」
「まあ!!!」
ハンナの目が光った気がした。
「そのネリー様とは、どのようにお知り合いになったのですか? ネリー様はおいくつぐらい……?」
マリアのマシンガントークの源泉がここにあった。
ただし、ハンナの手は一切止まらなかった。
玄関から応接室までが整えられていく。いつの間にか花まで飾られていた。
「こうしてはいられません! 今日はこちらに待機いたしますから。お屋敷に報告してきます!!」
ハンナは慌ただしく家を出ていった。
そして、ハンナは約束の時間一時間ぐらい前には戻ってきて、そわそわしながら待機しはじめた。
ツバキまで、そわそわしている。
《アル、何かあるの? ハンナが嬉しそうだよ》
《ネリー、来る》
《そうなの? ニャーもネリーにおもちゃ見せる!》
ツバキが、おもちゃを応接室に運び始めて、ハンナが片づける事態になった。
《ツバキ、おもちゃ、一つずつ、見せる、全部、困る》
ツバキは、納得したのか最近のお気に入りひとつをくわえてハンナと一緒に待機した。いつの間にか眠ってたけど。
コン、コン、コン
控えめなノックの音に、ハンナが飛び出していった。
「ネリー様ですね。坊ちゃんがお待ちしております。私、メイドのハンナです。」
ネリーは目を白黒させていた。だよね。
「あ、あのジルバーシュタイン様のご自宅ですよね?」
「はい!!」
「ネリー、いらっしゃい。ハンナがびっくりさせちゃったね」
ネリーは、オレを見て明らかにほっとしたようだった。
そうだよね。いきなりおばさんに絡まれたら、びっくりだよね。
「あの、これ宜しかったら」
ネリーがお菓子の箱らしきものを、ハンナに差し出した。
「まあ、ありがとうございます。 応接室にご案内いたしますね。」
応接室では、ツバキが待機していた。おもちゃをくわえて。
「ツバキちゃん!」
「ネリーに見せようと一番お気に入りのおもちゃ持ってきてるんだよ。全部持ってこようとするから大変だった」
ネリーは、ツバキの頬をつまむように、やさしく撫でた。ツバキはごろごろとご機嫌だ。
「お飲み物です。では、どうぞごゆっくりされてください」
ハンナは、にっこにことしながらお茶とお茶菓子を置いて出ていった。
《ツバキ、かぎしっぽ、首輪、ネリー、見る、良い》
《見せるだけならいいよ》
オレは、ツバキに許可を取って、かぎしっぽの首輪をネリーさんに渡した。
ネリーは、首輪をじっと見つめ、裏返したり、指先で確かめていた。
「アル、かぎしっぽさんってトラ柄の猫でした?」
「ああ、トラ柄で尻尾がかぎしっぽだったよ」
「以前、私がシュシュをひったくられた時、ひったくりが頻発しているといわれましたが、そのシュシュってこれに似ていましたか?」
「確か、その柄と同じ生地を買った人がシュシュを配ったら、ひったくりにあったと、マリアから聞いたんだけど」
「マリアさんってどなたですか!?」
「え? ハンナの娘で妹みたいな子かな」
「ああ……例の妹さんですね」
ネリーは、何を気にしているんだろう?
「アル、レモンがしていた首輪と私のシュシュ、そしてこの首輪。同じ生地が使われています。」
マリアも言っていたけど、その柄流行っているのかな。
「雑貨屋さんで、この生地を購入したのですが、新作で3枚しか入荷してないって聞いていたのです」
3枚、マリアの知り合いとネリーと誰が買ったんだろう。
「レモンは男性を怖がっていました。首輪も」
「あー、ネリーが心配するかなと思って言わなかったけど、男性に追いかけられて首輪を取られたみたいで」
「追っかけていた男性の特徴とかわかりますか?」
「白い服を着た小太りの男性と猫たちが言ってたかな」
「キルヒナー氏も小太りでしたね」
「レモンから首輪を奪ったのは、キルヒナー氏ってこと? まさか、かぎしっぽと間違えた?」
ネリーはうなずいた。
「キルヒナー氏は、かぎしっぽの首輪を探しているってこと? でも、彼がかぎしっぽに首輪を着けたのに」
「アル、この首輪の中に何か固いものが入っています」
ネリーが示した場所に、丸い石のようなものが入っている感触がする。
オレは、ごくりと喉を鳴らした。
「開けてみる?」
「そうですね。」
オレは、生地にそっとハサミを入れた。ツバキに気づかれないようにしないと。
幸い、ツバキは眠っている。
「これは、小型のフォルダ……だな」
「あ、ツバキちゃんにバレないように首輪を縫いますね」
ネリーがバッグから、ソーイングセットを出して手早く補修をしてくれた。
オレは、フォルダを観察する。
「ロックがかかってるな。暗証コードタイプみたいだ」
中身を見るためには、パスワードを知る必要がある。
……オレたちの間に沈黙が下りた。
「キルヒナー氏に聞くしかありませんね。アポをとってみましょう」
「危なくないか?」
「叔父に頼んで会議室を借ります。それなら危険も少ないかと。アルも着いてきてくれますか?」
「当たり前ですよ。女性を危険にさらす訳にはいきません。まだこのフォルダが危険なものかはわからないですし、案外日記とかかもしれませんね」
フォルダーに魔法以外、研究論文を入れている魔導士もいる。恥ずかしい日記とかだといいんだけどな。
「保険で叔父にこの話をします」
とりあえず、方針は決まった。
オレは、ハンナに突かれて、ネリーを家まで送っていくことになった。
ネリーと会話しながら歩く。
オレの作りかけの猫トイレの話に、ネリーは食いついた。
これは需要があるかも。
完成したら絶対見に行きたいと、ネリーに約束させられた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
楽しんでいただけましたでしょうか?
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ぜひ☆やブックマークで応援していただけると嬉しいです!
感想などもいただけると、とても励みになります。
これからもよろしくお願いします!




