第15話 首輪の記憶
今日は、スヴェン・ランゲ教授の告別式にカイルと共に参加している。
さすがにツバキは連れていけないので、マリアに頼んで預かってもらった。
マリアは、快く引き受けてくれた。
「ツバキちゃんの預かり料として、この前教えたお店のマフィン詰め合わせセットでいいからね」
結構いいお値段しているんですけどね。
告別式は、葬式と違って、主に個人の思い出を語る場とされる。
教授の場合は、実績を称える場となり、また次期ポストを狙っての派閥争いの側面も強い。
まあ、オレたち一般の学生には、同窓会みたいな感じだな。
ただし、あくまで告別式なので、飲食の提供はされても、アルコールのたぐいはでないし、華美な格好は好まれない。
カイルと共に食事を物色していると
「ジルバーシュタイン様。奇遇ですね」
エッカート女史が、年配の男性と共にやってきた。
「あれ、エッカート女史も卒業生でしたか?」
「いえ、今日は秘書として参加してます。とはいえ叔父ですが。」
「魔法管理局事務長ハンス・エッカートです。君の噂はネリーから聞いているよ」
年配の男性が気さくに話しかけてきた。
「アルフォンス・フォン・ジルバーシュタインです。こちらこそ、エッカート女史にお世話になっております。」
「カイル・バウアーです。アルフォンスの同級生です。」
女史には、お世話になっているし、いい印象を持ってもらわないといけないな。
「同じエッカートだから、ややこしいだろう。私のことはハンスと呼んでくれ」
ハンス事務長は、女史に目配せをした。
「あっ、じゃあ、私のことはネリーと呼んでください!!」
「ハンス事務長、ネリーさん。オレのことは、アルで」
女史――改め、ネリーさんは、手をぐっと握りしめた。
ジルバーシュタインって言いにくかったんだな。長いしなー。
「僕のことはカイルと……」
カイルが小さな声で言っていた。
「ネリー、私は先に帰るから楽しんでいきなさい。アル君。ネリーを送って帰ってくれないかい?」
「はい、承りました」
ハンス事務長は、軽く手を振りながら離れていった。
「すみません。叔父が」
「アル、いつの間に素敵な女性と知り合ったんだい?」
ダーヴィットの元カノとは、ネリーさんの目の前で言えないな。
「ああ、ちょっと猫のことでね」
「そういえば、アルさんは、猫語がわかる魔法が使えるのですよね? 私もその魔法欲しいのですが」
「あー、あれね。魔法というか、魔法失敗の事故なんですよ」
「お前、また何かやらかしたの?」
カイルがまぜっかえす。
「いや、お前のせいだからな。」
「何で俺?」
9:1でカイルが悪いとオレは思っている。
・カイルが酔っ払って、記憶できる魔法が欲しいっていうのが発端で魔法を開発することにしたこと
・うっかり、テスト前の魔法を自分にインストールしてしまったこと
・近くで亡くなった猫の記憶を取り込んでしまったこと
これらを掻い摘んで話す。ただし、かぎしっぽの死因は、ネリーさんには伝えなかった。
レモンのこともあるしね。ショック受けるだろうし。
「そういう訳で、猫の言葉がわかるんだ。話すのは猫の体じゃないから、片言なんだけど」
「まあ……猫と話せるのがうらやましいと思っていましたわ」
「俺のせいじゃないじゃん」
いいや、お前のせいだと思うぞ。
あれ、今横を通った人、どこかで見たことがあるような……。
「アルさん、どうかされたのですか?」
ネリーさんがすぐにオレの様子に気づいた。
「今、横を通った男性、どこかで見たことがあるような気がしたけど、思い出せなくて」
「あの方は、ランゲ教授の助手を長年務めていた方ですよ。トーマ・キルヒナーさん。今日も、最初のほうで挨拶されていましたから。」
んー、オレもカイルもそんなの聞いてなかったから、その時に見た訳じゃない気がする。
どこで見たのだろう……オレが見たんじゃない!!
「わかった! かぎしっぽが見たんだ」
「記憶の猫ですよね? かぎしっぽさんは、飼い猫だったのですか?」
「いやノラ猫だったよ」
「いつも餌をくれる人だったんですか?」
「いや、初めて見る人だったけど、かぎしっぽに首輪つけてた。」
もしかしたら、かぎしっぽを飼い猫にしようとしたのかな。いなくなって探しているかも。
「猫を探してるかもしれないから、亡くなったことを教えてあげたほうがいいよな」
「でも、かぎしっぽさんは、初めて会った人なんですよね? 飼うなら首輪つけた時に保護すればよかったでしょうに」
「伝えるだけ伝えてくるよ」
「じゃあ、その間に俺はデザートとってきとくよ。適当に確保しとくな」
カイルは、デザートのコーナーに向かったので、オレとネリーさんで、キルヒナー氏の所へ向かった。
「あのー、すみません」
「なにか?」
突然声をかけた見覚えのない男に、キルヒナー氏はいぶかしげに返事をした。
「猫の餌やり場で、猫に首輪を着けていましたよね? その猫のことなんですが……」
「!!」
キルヒナー氏の顔色が変わった。
「私は何も知らない!! 関係ない!!」
あまりの豹変にオレはあっけにとられた。
キルヒナー氏は、逃げるように去っていた。
周囲もいぶかしげにオレ達を見ている。
「オレ、何か変なこと言いましたっけ?」
ネリーさんは、キルヒナー氏の後ろ姿を見ながら、何か考え込んでいた。
その後は、カイルの取ってきたデザートを食べて、たあいのない雑談をして過ごした。
ネリーさんを遅くに帰らせる訳にもいかないし、ツバキも迎えにいかなきゃいけないので、オレは早々に会場を後にすることにした。
カイルは、もうちょっと残っていくようだ。
車を呼びたいところだが、大混雑している。
女性を夜歩かせるのは気が引けたけど、ネリーさんの一言で歩いて帰ることになった。
「近いですし、歩いて帰りませんか?」
ネリーさんと会話しながら歩く。
「アルさん。 かぎしっぽさんの首輪ってどんなものだったのですか?」
「確か、ピンク色でブタの柄が入っていたよ」
「よく覚えていますね?」
「ああ、自宅に現物があるから。ツバキの大事なものだし」
「それ! 見せていただくことできますか?」
「後日、持っていきましょうか?」
「はい……いえ、拝見しにご自宅に伺わせていただいていいでしょうか!?」
「え、お持ちしますよ?」
「えーっと、ツバキちゃんの大切なものですよね? だから私が伺いますから!!」
「あ……はい」
そうだよなぁ。ツバキに無断で持ち出すわけにはいかないか。
ネリーさんの自宅に着いたし、挨拶をしてツバキを迎えにいかなきゃな。
「では、ネリーさん。お疲れ様でした。」
「あっ、あのネリーって呼び捨てで呼んでください!!」
「ああ、じゃあ。オレのこともアルって呼び捨てで」
ネリーさん、呼び名の短縮。とことんできるところまでするつもりだな。
こっそり、こぶしを握ってガッツポーズをしているのが見えた。
「おやすみなさい。ネリー」
「はい!! おやすみなさい。アル!!」
オレは、ネリーさんの家を後にした。
ツバキを迎えにいったオレは、預け料のお菓子の詰め合わせを買いそびれたことで、後日買っていくことを約束させられた。
なぜか、マフィン詰め合わせセットとチョコ菓子の詰め合わせセットの2つに増えていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
楽しんでいただけましたでしょうか?
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ぜひ☆やブックマークで応援していただけると嬉しいです!
感想などもいただけると、とても励みになります。
これからもよろしくお願いします!




