第14話 猫と魔法の説明文
書類よし、手土産よし、猫のおやつよし、ツバキよし。
持っていくものが2つを超えると忘れ物をしやすい。
エッカート女史の家にお邪魔する前に、持っていくものを確認する。
きちんと揃っていることを確認できたので、オレはエッカート女史の家へ向かった。
エッカート女史の家の扉をノックすると、すぐに扉が開いた。
「ジルバーシュタイン様。いらっしゃいませ」
以前伺ったときと違って、かわいらしいワンピースを着ている。
きっと、これが普段着なのだろう。
猫が逃げ出さないように、素早く中に入る。
「これ、手土産です。 知り合いに聞いたお菓子を買ってきたのですが……」
「ありがとうございます……。お知り合いって女性ですか……?」
手土産、おかしかったかな? 好みじゃなかったか。
「幼馴染というか妹みたいな……女性の好みそうなものを聞いたのですが、好みじゃなかったですか?すみません」
女史は、にっこり微笑みながら、
「いえ、好みです。男性が好まれるものじゃなかったから、聞いてしまいました。妹さんですね」
いやげ物ではなかったようだ。オレはほっとした。
応接室に通されると、女史は飲み物を入れてきますと席を立った。
入れ替わりに猫のアンバーが入ってくる。
《あら、あんただったのね。ネリーがやけにウキウキしてるから。まさか、あのチャラ男かと思ったら》
《アンバー、久しぶり、嬉しい》
《アンバー、ニャーもいるよ。こんにちは!》
ツバキとアンバーは、鼻の頭をお互いにチョンっとぶつけ合う。
アンバーは、オレの足にすりっと体をこすりつけた。
《レモン、元気、オレ、心配、様子、見る、来た》
こっちが本題だよな。
《ああ、あのびびりね。 お外怖いーしか思ってないわよ。こっちに追い立ててあげるわ》
アンバーは、部屋から飛び出す。しばらくして、レモンが飛び込んできた。
《アンバー何するんだよ!! って誰!!!!》
レモンは、オレの姿を見て、慌ててソファーの陰に隠れた。
《ニャーは、ツバキだよ。 レモンが迷子になったとき探すの手伝ったんだよ。えっへん》
ツバキは、誇らしげな態度だった。ツバキがいたから見つけられたのだもんな。威張っていいよ。
《オレ、敵、違う、レモン、友好、願う》
ゆっくり、瞬きをしながらレモンに話しかける。
《お前、追っかけたりしない?》
《しない、友好、願う》
オレは、指先をレモンにゆっくり近づけた。レモンは匂いを嗅いでいる。
《アルも、レモンを探しに行ったんだよ》
ツバキが、オレを援護する。 レモンは男に追っかけまわされたんだ。オレが怖くて当たり前だ。
《レモン、オレ、おやつ、土産、持つ、レモン、あげる》
カバンから、ハンナ謹製の猫用クッキーを出して、レモンの前に置いた。
ツバキの口元でよだれが光っている。
《あたしの分はないの!? ねぇ?ねぇったら》
アンバーが激しいアピールを始めたので、アンバーにも差し出す。
アンバーは、オレの手からクッキーを食べた。
レモンの前のクッキーがなくなっている。
《うんめぇ、うんめぇ、もっとぉ》
いつの間にか、レモンがオレの腕にしがみついていた。ハンナのお菓子やばいって。
アンバーの目もぎらぎらしている。
《女史、許可、ない、ダメ》
部屋の外で、トレイを持った女史と目が合った。
「すみません。勝手におやつあげちゃって、これ残りは女史があげてください」
おやつの袋を女史に差し出した。猫3匹の視線が怖い。
「レモンもアンバーも、ジルバーシュタイン様には、すっかりなついちゃって」
女史は、テーブルに紅茶を置いたあと、おやつを受け取ってくれた。
猫たちの視線は、おやつから外れない。
オレは、カバンから書類を取り出して、テーブルに広げた。
「エッカート先生、どうかよろしくお願いいたします」
頭をさげる。
「もう、先生だなんて。拝見させていただきますね」
1枚目――
魔法登録番号:074000326
分類:生活魔法
タイプ:随時発動型
必要魔力:10~30B
メモリ使用量:1M
概要:手から風を出す
主な使用方法:
手から風を出す
2枚目――
魔法登録番号:074000472
分類:生活魔法
タイプ:随時発動型
必要魔力:20~30B
メモリ使用量:2M
概要:畑をたがやす魔法
主な使用方法:
畑をたがやす
オレは、どきどきしながら女史を見守った。
女史は目頭を押さえたあと、眉間にしわを寄せた。
「ジルバーシュタイン様、物を買うときに人は、それを使う自分を想像して買うのです。」
女史は、言葉を選んで説明してくれた。
「例えば、パンを買うときは。 おいしいパンを食べる未来を想像しているんです。まずいパンを食べること考えませんよね? お店の人もナッツが入っているとか、もっちり食感だとかおいしさをアピールします。」
ふむふむ。
「『手から風を出す』だけだと、想像ができないのですよ」
うん、確かに。
それから、女史はオレに、魔法を作るときにどんなことを考えて作ったか、実際使った時のことを事細かに聞いていった。
1枚目――
魔法登録番号:074000326
分類:生活魔法
タイプ:随時発動型
必要魔力:10~30B
メモリ使用量:1M
概要:ドライヤー
主な使用方法:
手から冷風から温風まで、好きな温度、強さの風を出すことができます。
外出先で髪を乾かすときや、雨に濡れた時など、使用場所を選ばないのが特長です。
細かく調整できるため、繊細な髪質の方や、ペットにもご利用できます。
2枚目――
魔法登録番号:074000472
分類:生活魔法
タイプ:随時発動型
必要魔力:20~30B
メモリ使用量:2M
概要:簡易耕運魔法
主な使用方法:
家庭菜園などの小規模の農作業に最適です。
大型魔動機が入れない場所、山芋、遺跡発掘など繊細な操作が必要な時にも使用できます。
女史の添削により、説明文が見違えた。
「まだまだ、この魔法には使い道があるとは思いますが、差し当たってはこのような感じでしょうか?」
オレは、最初の書類を地中深くに埋めて消滅させたい気分になった。
「すごい。確かに。ありがとうございました!!」
女史は、にっこり微笑みながら、
「よろしければ、今後も作成された魔法の書類、一緒に作りましょうか?」
なんて、いい人なんだ。だけど、頼りすぎるのもよくないよな。
「そこまで迷惑かけるわけには、今回はレモンの件のお礼で特別にやっていただけただけでも勉強になりましたし……」
「迷惑じゃないです!!私がやりたいのです!! また、持ってきていただけませんか? あの、レモンもアンバーも待ってますし……」
最後はちょっと聞き取れなかった。さては、レモンとアンバーがハンナ教に入信しちゃったか。
「では、また猫のおやつ持って、お邪魔させていただきますね」
だいぶ、時間がかかったので、今日はもうお暇する。女性の家に長居するのはよくないしね。
《あんたも、大概ね。 ネリーは苦労するわ》
家を出る前にアンバーから、苦言を言われた。説明文が壊滅的ですみません。
《アル、帰ったらニャーもおやつ食べたい》
ツバキが帰り道にねだってきた。
《ごはん、全部、食べる、後、おやつ》
《ちゃんと残さず食べるから、おやつ!おやつー!》
ツバキは、家に帰りつくまで、ずっと『ツバキ作:おやつの歌』を歌っていた。
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