第1話 本番環境(オレ自身)
「急がなくては」
キッチンから、パン、小皿、大きな手提げカゴを適当に見繕う。
あとは、タオルを一枚ひっつかんで、慌ててオレは外に飛び出した。
オレこと、アルフォンス・フォン・ジルバーシュタインは魔導士である。
今の状況は、2日前に起因する。
2日前――
「聞いてくれよぉ。アルー。今の上司が法律にうるさくってさ。」
学生時代からの友人カイルと夕食の予定だった。
よっぽど溜まっていたのか、カイルはあっという間に出来上がり絡んでくる。
「あー、はいはい」
「学生でもないってのに法律全書を全部暗記しろって、できなければ減給とか言いやがったんだぞ」
法律全書って拳ひとつ分ぐらいの厚さあったな。
うん、横暴だな。
「記憶力よくなる魔法欲しい――お前作れよぉ」
カイルがオレに掴みかかってくる。酔っ払いすぎだろう。
「カイル。水飲もうか。」
給仕に水と、帰りの車の手配を頼む。
オレはカイルを何とか車に押し込み、夜道を歩いて帰った。
記憶力をよくする魔法か需要あるかもしれないな。
ほろ酔いの体に春の気温は心地よかった。
家に戻ったオレは、さっそく魔導士専用魔法開発ツール【エディター】を起動する。
魔導士は、魔法を一から構築することができる。
昔は願いなどと、作り手次第であやふやだったものが、今は明確に数値化される。
どんな結果を出すのか。必要な機能は何か。
まずはざっくりと考える。
今の魔法は、魂の領域ともいわれる人体の【メモリ】に刻み付ける【インストール】が主流である。
メモリにインストールする魔法を【アプリ】と呼ぶ。
魔法を使うには体内魔力が必要で、体内魔力の残量【バッテリー】を気にしながら使うこととなる。
アプリはバッテリーを消費することで、登録された事象を何度でも実行することができる。
ただし、メモリは有限であり、一度インストールされたアプリは【アンインストール】できない。
よってアプリは本当に必要なものだけが厳選されるようになった。
魔導士は、選ばれるアプリを作らなければならない。
使えないアプリを開発しても生活できないのである。
情報を圧縮して記憶できる量を増やす方法も考えた。
だが、圧縮するための処理そのものがメモリを使いすぎる。
アプリは、メモリの必要量が少なく、かつ、バッテリー消費が少ないものが好まれる。
うーん、法律全書丸ごと取り込むほうがいいかな。
あー、でも、それじゃ使い方固定されすぎる。
取り込みたいデータは、選択できるようにしたほうがいいか。
近くにあるデータを取り込む形にして……データ選別の方法はとりあえずなしで。
勢いのまま、エディタに刻んでいく。
スズメの声が聞こえていたが、気が付けば暗くなっていた。
あー、完徹しちゃったな。
とりあえず、試しに動かしてみるか。
作ったアプリをいきなりインストールはしない。
テスト用の魔石【シュミレータ】を実行先にして、オレはアプリを試した。
あ、やばい。
自分のメモリにインストールされていることに気づき、慌てて確認したが遅かった。
アプリの実行先はシュミレータじゃなく、本番環境(オレ自身)になっていた。
「テストは開発してから一日置いてからやるべき」と言っていたのは誰だったかなぁ。
何かのデータの取り込みと、飲酒からの徹夜、オレは意識を失った。
そして冒頭に至る――。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
新作、始めました。
今回は「魔法」と「魔法開発」に、ちょっとだけITっぽい要素を混ぜています。
そしてアルフォンスは、いきなり本番環境でやらかしました。
……開発者として、それはダメだろう。
この先、アルフォンスの身に何が起きたのか。
そして「何のデータ」を取り込んでしまったのか。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
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それでは、次話もよろしくお願いします。




