第9話 迷子の猫
ドン、ドン、ドン
「アルー、起きてるかー?」
ダーヴィットは、朝一番にやってきやがった。
「準備するから、そこで待ってろ」
オレは、ツバキにごはんを出し、ゆっくりコーヒーを飲んでから出掛ける準備をした。
「準備に時間かかりすぎだろー。おせーよ」
いや、わざとですが。
カバンからツバキが顔を出している。
《また、マリアのとこいくのー?》
《違う、猫、迷子、捜す、手伝う、頼む》
ツバキは、しゃきーんとした顔になった。
《それは心配だね。ニャーも手伝うよ!》
2人と1匹は、依頼主の元へ向かった。
ダーヴィットが、案内してくれた家で、女性が出迎えてくれた。
「彼女は、ネリー・エッカートだ。俺の彼女」
ダーヴィットが、どや顔で紹介してきた。
「アルフォンス・フォン・ジルバーシュタインです。こいつは、ツバキです。」
「まあ、猫ちゃん。わざわざ、ありがとうございます。いなくなったうちの子のことを話しますので、室内へどうぞ」
エッカート女史は、疲れ切った顔をしていた。愛猫がいなくて不安なのだろう。
応接室に通されると、一匹の白い猫が近づいてきた。
「あ、すみません。この子はいなくなった子じゃなくて、2匹飼っていたんです。アンバーあっちの部屋に行こうか」
《ネリーは今弱ってるの。煩わせるなら帰ってくれる?》
アンバーは、不機嫌そうににらみつけてきた。
《ニャー達は、迷子を捜すの手伝いにきたんだよー!!》
ツバキが慌てて、説明する。
《あんたは、そうなのね。でもあのチャラ男はどうなのよ?あたし、アイツ嫌いなんだけど》
《アルは、一緒に探してくれると思うよ?》
《オレ、迷子、捜す、来た》
《あんた、猫語わかるの?》
《少し》
アンバー、ツバキ、オレの様子にエッカート女史は戸惑っているようだ。
「あ、こいつ魔導士で猫の言葉わかるらしいんだよー」
ダーヴィットが、自分の手柄のような顔でにへらっと笑う。
「まあ、いなくなった子は、レモンというトラ柄の子です。家から出したことがなかったのですが、おとといドアを開けた隙に……」
エッカート女史がうつむく。
《レモンは、外に興味持ってたから隙を狙ってたの。ネリーを心配させるなんて》
アンバーは腹立たしげに言った。
「外に出たのはおととい、トラ柄の猫で外には出たことないのですね?他に特徴はありますか?」
「ピンク色の首輪をしています。オス猫です」
「とりあえず、近所に聞き込みしてきますね。エッカート女史は、少し睡眠取られたほうがいいです」
たぶん、寝てないんだろうな。
「俺が付いてるから大丈夫だよ。アル、猫探し頼んだ!!」
ダーヴィットが、エッカート女史の肩を抱く。アンバーが威嚇した!!
《このチャラ男も連れてってよ!!》
いや、こっちも邪魔なのでいりません。
「また、進展があったら連絡しますね」
オレ達は、エッカート女史宅を後にした。
さて、この辺りは、かぎしっぽの縄張りではない。
《アル、塀の上にいる奴に聞いてみようよ》
ツバキが猫を発見した。白黒のブチ柄の猫がこちらを警戒しながら見ている。
視線を合わせないようにしながら、伝える。
《オレ、敵、違う、迷子、猫、捜す、する、教える、願い》
《んー、なんだお前、猫の言葉わかるのか?》
《少し、迷子、猫、捜す、する》
《ニャーは、ツバキ!!こいつはアル。いなくなった迷子の猫を探してるんだ。》
ツバキも顔を出してアピールする。
《俺はハートだ。で? どんな奴なんだ?迷子は?》
背中にハートの形をした模様がある。それが由来なんだろうな。
《トラ柄、家、出た、ない、オス、首輪、ある》
《えーっとね、トラ柄のオス猫で首輪してるのー。家から出たことないんだって》
ツバキがオレの片言を補完してくれた。
《なんだ、お坊ちゃんか。んー、近くの餌場で聞いてみるか?誰か知ってるかもな。ついてきな》
《人、通る、できる、道、頼む》
《人間が通れる道でお願いってー》
《人間は面倒だな。遠回りになるが仕方ねぇ》
そういいながら、ハートは道を選んでくれた。
ハートに案内された場所には、10匹ほどの猫がいた。
オレを見て、一斉に警戒態勢になる。
《あ、こいつ。猫の言葉がわかって、迷子の猫探してるらしい。誰かトラ柄の知らない顔の猫、見てないか?首輪してる奴》
ハートの言葉に猫たちは口々に話し出した。
《見てないー》
《カラスに驚いて、隣の通りに逃げたの見たよ》
《知らないー》
《魚のおじさんの近くで、人間に追っかけられてたよ》
《人間に追われて、橋のほうに逃げたの見たー》
人間に追われていた?ダーヴィットが探していたのか?
でも、あいつそんなこと言ってなかったよな。
《追う、人間、姿、教える、頼む》
《追っていた人間がどんな姿だったか教えてー》
ツバキが助けてくれる。
《白い服きてたー》
《小太りの男だった。若くない》
ダーヴィットでも、エッカート女史でもないな。
《捕まる、した》
《捕まってしまったの?》
ツバキが流暢な猫語に翻訳してくれる。
《たぶん、逃げきれたんじゃないかな。男は首輪だけ持ってどこか行ったよ》
《最後、どこ、見る、した》
《最後に見かけたのどこ?》
《橋の下あたりだったよ》
うーん。捕まってはなさそう。その男の目的は何なんだろう。
オレは、カバンからお礼用の猫おやつを出して配った。
《情報、感謝》
ハンナのおやつは、ここでも絶大な威力を発揮していた。
ハートは、
《あの食い物くれるなら、いつでも手伝うぞ。また来いよ》
とまで言ってくれた。
オレは、エッカート女史宅に戻った。
たぶん、オレが行ってもレモンは逃げるだろう。
エッカート女史なら、レモンも安心して出てきてくれると思う。
「聞き込みの結果、レモンは、橋の辺りに逃げ込んだみたいです。怖い思いをしたみたいなので、オレが呼んでも出てこないと思うので、ご足労してもらってもいいですか?」
「もちろん!すぐ行きますわ!」
エッカート女史は、ふた付きのカゴを手に準備もそこそこに出てきた。
ダーヴィットは、猫のひっかき傷だらけになっていた。
橋が近づいてきた所で、オレはダーヴィットを止めた。
「オレ達は待機だ。レモンが怯えて出てこないかもしれない。女史お願いします。」
エッカート女史は、力強くうなずいて、レモンを呼び始めた。
「レモンー!レモンー!」
がさがさがさ……
《ネリー……?》
トラ猫が茂みから顔を出す。
「レモン!!」
《ネリー!ネリー!! 怖かったよぉ!!》
近づいてきたレモンをエッカート女史は、そっとカゴに入れた。
「ジルバーシュタイン様、本当にありがとうございました。レモンを獣医に見せたいので、お礼は後日でよろしいでしょうか?」
「ああ、レモンを優先してやってください。」
レモンは、よほど怖い思いをしたのかしきりに泣いている。
《もう、家出しないから。ネリーごめん。怖かったよ。お外はもういやだ》
レモンの首には首輪がない。
「首輪はどこかに落としちゃったのかしら。でもレモンが無事でよかったわ。カッシュさん今日は帰ってもらえますか?」
エッカート女史は、ダーヴィットを苗字で呼んだ。
《ニャーは、今日えらかった?ねぇねぇ?》
カバンの中からご機嫌な様子のツバキが話しかけてくる。
《ツバキ、えらい、オレ、感謝》
《ふふーん、ふんふん》
カバンの中で鼻歌を歌っていたツバキが、いつの間にか静かになっていた。
長い一日だったね。ツバキ、オレも疲れたよ。
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