↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/14

第7話 王都から来た旧友と、聖女を追い出した本当の理由

王都からの使者を退け、ようやく穏やかな日常を取り戻したエルマ。


ところが、辺境伯領に現れたのは、かつて王宮で一緒に過ごした懐かしい人物でした。


彼女が持ってきたのは、王都で起きている異変と、エルマが追い出された理由に関する驚くべき情報で……?


もちろん、ラインハルト様の甘々な溺愛と、もふもふたちの可愛い活躍もあります♪


それでは、第7話をどうぞ!

「エルマ様に、お会いしたいという女性がいらっしゃっています」


 朝食を終え、おこげにミルクをあげていた私は、執事さんの言葉に顔を上げた。


「私に、ですか?」


「はい。王都からお越しになったそうです」


 王都。


 その言葉を聞いただけで、胸の奥が少しだけざわついた。


 昨日の使者が帰ったばかりなのに、また何かあったのだろうか。


「お名前は?」


「クラリス様とおっしゃっています」


「……クラリス?」


 その名前には、覚えがあった。


 王宮で聖女として暮らしていた頃、私の身の回りの世話をしてくれていた侍女さんだ。


 私が体調を崩したときには、こっそり温かいお茶を用意してくれた。


 周囲から冷たく扱われていたときも、何も言わずにそばにいてくれた、大切な人。


「すぐにお会いします!」


 私は立ち上がった。


 その勢いで、おこげの頭に乗せていた小さな帽子がぽとりと落ちる。


「きゅふっ!?」


「あっ、ごめんね、おこげ!」


 慌てて帽子を拾い、頭に戻してあげる。


 すると、隣で見ていたラインハルト様が、くすりと笑った。


「随分と嬉しそうだね」


「はい! クラリスは、私が王都にいた頃から仲良くしてくれた人なんです」


「なるほど。それは会うのが楽しみだ」


 そう言ったラインハルト様は、なぜか私の手を取った。


「私も同席していいかな?」


「えっ? もちろんですけれど……」


「ありがとう」


 その笑顔は優しかったけれど、私には少しだけ不思議に思えた。


 ……どうして、そんなに嬉しそうなのだろう?


     ◇


 応接室に入ると、窓辺に立っていた女性が振り返った。


「エルマ様……!」


「クラリス!」


 私は思わず駆け寄った。


 彼女も涙ぐみながら私の手を握ってくれる。


「よかった……! 本当に、無事でよかったです!」


「クラリスこそ! どうしてここに?」


「どうしても、エルマ様にお伝えしたいことがあったんです」


 クラリスは私の顔を見つめ、それからほっとしたように微笑んだ。


「お元気そうで安心しました。お顔の色も、王宮にいらした頃よりずっとよくなっています」


「そうかな?」


「はい! 以前はいつも疲れたご様子でしたから……」


 そう言われて、私は少しだけ苦笑した。


 あの頃は、毎日が必死だった。


 聖女として祈りを捧げ、国獣のお世話をし、王宮の人たちの期待に応え続ける。


 休みたいと言うことさえ、怖かった。


「今は、毎日とても楽しいの」


 私がそう答えると、クラリスは安心したように目を細めた。


「……よかったです」


 そのとき、ラインハルト様が静かに口を開いた。


「話を聞かせてもらえるかな。わざわざここまで来たのだから、何か事情があるのだろう?」


「はい、閣下」


 クラリスは表情を引き締めた。


「実は、王宮で大変なことが起きているんです」


 私は息を呑んだ。


「聖ラマ様が、今も落ち着かない状態なのです。王太子殿下のお部屋まで荒らしてしまい、神獣管理局も対応に追われています」


「やっぱり……」


 私の胸が痛んだ。


 聖ラマは、王国にとって大切な神獣だ。


 私が王都にいた頃は、毎日のようにお世話をしていた。


 あの子が苦しんでいるのなら、心配しないはずがない。


 けれど、クラリスは首を横に振った。


「それだけではありません」


「え?」


「エルマ様が王宮を去られたあと、聖ラマ様の世話を担当する人たちが何度も交代したのですが、誰も原因を突き止められていないんです」


「原因……?」


 クラリスは、懐から小さな紙片を取り出した。


「これは、王宮の神獣管理室で働いている友人から預かったものです」


 紙片には、いくつかの薬草と、見慣れない魔法薬の名前が記されていた。


「聖ラマ様には、最近、新しい鎮静薬が与えられているそうです」


「鎮静薬ですって?」


 私は思わず身を乗り出した。


「聖ラマは、昔から強い薬が苦手だったはずです。少量でも、体調を崩すことがあったのに……」


「はい。ですが、王太子殿下の側近が、特別に調合されたものだから問題ないと説明しているそうです」


 胸の奥が冷たくなった。


 もしかして。


 聖ラマが暴れているのは、私がいなくなったからだけではないのだろうか。


「クラリス、その薬のことを、もっと詳しく調べることはできる?」


「はい。友人も、何かおかしいと感じているようです」


 すると、ラインハルト様が静かに口を開いた。


「その薬の調合記録と、聖ラマの診療記録を入手できるだろうか」


「閣下?」


「原因が分からないまま神獣が苦しんでいるのなら、調べる必要がある。エルマも心配しているのだろう?」


 私は思わず彼を見上げた。


 ラインハルト様は、私が聖ラマを心配していることを責めなかった。


 むしろ、私の気持ちを理解して、力になろうとしてくれている。


「……ありがとうございます」


「礼はいらないよ」


 彼は私の頭を優しく撫でた。


「君が大切にしていた神獣なのだからね」


 その言葉に、胸が温かくなった。


     ◇


 クラリスが持ってきた紙片を詳しく調べるため、私は彼女と一緒に小さな応接室へ移動した。


 そこへ、おこげがぽてぽてとついてくる。


「きゅふっ!」


「あら、おこげ。あなたも気になるの?」


 おこげは紙片の匂いをくんくんと嗅いだ。


 そして突然、ぴたりと動きを止めた。


「きゅ……?」


 小さな鼻をひくひくさせ、紙片から少し離れる。


「どうしたの、おこげ?」


 おこげは私の膝に飛び乗ると、紙片を見つめながら不安そうに鳴いた。


「きゅぅ……」


 その様子を見たクラリスが、目を見開いた。


「この子、何か分かるのでしょうか?」


「どうかな……。でも、おこげは不思議な力を持っているみたいなの」


 私はおこげの頭を撫でた。


 すると、紙片の端に、小さな黒い染みが浮かび上がった。


「えっ?」


 さっきまでは、こんなものはなかったはずだ。


 黒い染みは、紙の上をゆっくりと広がっていく。


 その瞬間、私の胸の奥が、かすかに熱くなった。


 これは……。


 以前、聖ラマの世話をしていた頃にも、似たような感覚を覚えたことがある。


 神獣の体に負担をかける、邪気のようなもの。


「この薬……何か、よくないものが混ざっているのかもしれません」


 私がそう呟くと、クラリスは青ざめた。


「そんな……!」


「まだ、はっきりとは分かりません。でも、調べる価値はあると思います」


 おこげは、私の膝の上で小さく鳴いた。


「きゅふっ」


 まるで、私の言葉を肯定してくれているみたいだった。


     ◇


 その日の夕方。


 私は庭で、おこげとフェザーウサギたちにおやつをあげていた。


 クラリスは、辺境伯領に数日滞在して、王都の様子を詳しく調べてくれることになった。


 聖ラマのためにも、原因を突き止めたい。


 そう思いながらクッキーを小さく割っていると、隣にラインハルト様が腰を下ろした。


「エルマ」


「はい?」


「君は、聖ラマを助けたいのだね」


「……はい」


 私はクッキーを見つめた。


「昔、あの子は私がそばにいると安心してくれたんです。だから、今も苦しんでいると聞くと……どうしても気になってしまって」


「そうか」


 ラインハルト様は、少しだけ考えるように目を伏せた。


「もし本当に君の力が必要なら、協力しよう。ただし、君自身が無理をする必要はない」


「ありがとうございます」


「それから」


 彼は私の顔を覗き込んだ。


「君が王都へ戻らなければならない、という話にはならないからね」


「えっ?」


「神獣を助けることと、君が王都に戻ることは別の話だ」


 その言葉に、私ははっとした。


 そうだ。


 聖ラマを助けたいからといって、もう一度あの場所へ戻らなければならないわけではない。


 私には、私の暮らしがある。


 私を大切にしてくれる人たちがいる。


「……はい。私、自分にできることを考えてみます」


「うん。それでいい」


 ラインハルト様は、私の手にそっと触れた。


「君がどこにいても、私は君の味方だよ」


 その優しさに、胸がきゅっと締めつけられた。


 私はこの人のそばにいたい。


 そう思う気持ちが、日に日に大きくなっている。


「きゅふっ!」


 おこげが私の膝によじ登ってきた。


 その頭を撫でながら、私は小さく笑った。


 王都で何が起きているのか。


 聖ラマに何が起きたのか。


 まだ、分からないことばかりだ。


 けれど、もう一人で悩む必要はない。


 私は顔を上げ、夕焼けに染まる空を見つめた。


 この穏やかな日々を守るためにも、真実を知りたい。


 そして、もし聖ラマが本当に助けを必要としているのなら――。


 今度こそ、あの子を救う方法を見つけたい。


 そう、心に誓ったのだった。

第7話をお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、王都でエルマを支えてくれていたクラリスが登場しました♪


昔からエルマを気にかけてくれていたクラリス。久しぶりの再会に、二人の間にあった温かな絆を感じていただけたら嬉しいです。


そして、聖ラマの異変には、どうやら別の原因が隠されている様子……。


おこげが不思議な反応を示したことも、今後の重要な手がかりになりそうです。


エルマは聖ラマを救うことができるのでしょうか?


そして、そんな彼女を支えるラインハルト様の優しさにも、ぜひ注目してください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ブックマークや評価、ご感想などもいただけると励みになります。


次回もどうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。