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第6話 今さら帰ってこいですって? 辺境伯様は聖女を絶対に渡しません!

今さらエルマを連れ戻そうとする王太子。

けれど、エルマにはもう、彼女の意思を尊重し、守ってくれる人がいます!


王都からの使者を前に、毅然とした態度を貫くラインハルト様。

そして、エルマが思わず口にした「ラインハルト様のそばにいたい」という言葉に、辺境伯様の反応は……!?


もちろん、今回もおこげとフェザーウサギたちの可愛い姿が盛りだくさん♪


一方、エルマを失った王都では、聖ラマの大暴れによって大変なことに……?


もふもふに癒やされ、甘々な溺愛に胸キュンする第6話。

どうぞ最後までお楽しみください!

「エルマは、私が守る」


 ラインハルト様のその言葉が、いつまでも私の胸の中で響いていた。


 王都から届いた、私を連れ戻すための命令書。


 かつて私を聖女として祭り上げ、都合が悪くなれば簡単に切り捨てた人たちが、今になって何を望んでいるのだろう。


 考えれば考えるほど、胸の奥が冷たくなっていく。


 けれど。


「……大丈夫だよ、エルマ」


 隣に座るラインハルト様が、私の手を優しく握ってくれた。


「君が望まない限り、誰にも君を連れていかせない」


「ラインハルト様……」


「だから、そんなに不安そうな顔をしないで。せっかくの可愛い顔が台無しになってしまう」


「か、可愛い顔!?」


 思わず声が裏返った。


 この方は本当に、どうしてこういうときに限って、恥ずかしいことをさらりと言うのだろう。


 私が真っ赤になっていると、ラインハルト様は満足そうに微笑んだ。


「うん。いつもの顔に戻ったね」


 ……絶対に、わざとだ。


 だけど、そのおかげで少しだけ気持ちが軽くなった。


 私は深呼吸をして、彼の手を握り返す。


「ありがとうございます。私、もう逃げたりしません」


「そうか。では、堂々と迎え撃とう」


 迎え撃つ。


 その言葉が、どうしてこんなにも頼もしく聞こえるのだろう。


 私は小さく頷いた。


 そのとき。


「きゅふっ!」


 私たちの足元から、おこげの元気な声が聞こえた。


 見下ろすと、おこげは小さな木の器を抱えて立っていた。


「あら、おこげ? それ、どうしたの?」


「きゅふふっ!」


 器の中には、さっきまでお皿に載せていたミルククッキーが数枚入っている。


 どうやら、おやつの残りを自分で運んできたらしい。


「まあ! そんなに食べたら、お腹がいっぱいになっちゃうわよ?」


「きゅっ!?」


 私が器を取り上げようとすると、おこげは慌ててクッキーを抱え直した。


 まるで「これはぼくの!」と主張しているみたいだ。


 その様子を見たラインハルト様が、くすりと笑った。


「ふふ。ずいぶん頼もしい護衛がいるじゃないか」


「もう、ラインハルト様ったら」


「王都からの使者にも、クッキーを差し出してくれるかな?」


「きゅふっ!」


 おこげは元気よく鳴いた。


 ……もちろん、クッキーは渡す気がないらしい。


 私たちは顔を見合わせて笑った。


 けれど、穏やかな時間は長くは続かなかった。


     


「閣下。王都からの使者が到着いたしました」


 しばらくして、ラインハルト様の側近が部屋へやってきた。


「通しなさい」


「はっ!」


 ラインハルト様は立ち上がり、私に向き直った。


「エルマ、君も同席するかい?」


「えっ? 私もですか?」


「もちろん。君自身のことなのだから、君が話を聞く権利がある」


 その言葉に、私は目を見開いた。


 以前の私なら、きっと「聖女なのだから従いなさい」と言われていたはずだ。


 私の気持ちなんて、誰も気にかけてくれなかった。


 けれど、ラインハルト様は違う。


 私の意思を、ちゃんと尊重してくれる。


「……はい。私も、お話を聞きたいです」


「わかった。では、一緒に行こう」


 彼は私に手を差し出した。


 私はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


 おこげも、ぽてぽてと私たちの後をついてきた。


「あら、おこげも来るの?」


「きゅふっ!」


「ふふ。心強いわね」


 こうして私は、ラインハルト様とおこげと一緒に、王都からの使者が待つ応接室へ向かった。


     


 応接室の扉が開くと、立派な衣装を身にまとった男性が立ち上がった。


 胸元には、王家の紋章。


 間違いない。


 王都から派遣された使者だ。


「お初にお目にかかります、ラインハルト辺境伯閣下。私は王太子殿下の命により参りました、王宮使節のセドリックと申します」


「遠路はるばるご苦労。用件を聞こう」


 ラインハルト様は席につくと、静かに告げた。


 その声は穏やかだったけれど、どこか冷たい。


 使者の男性は一瞬だけ表情を強張らせたものの、すぐに懐から一通の書状を取り出した。


「こちらが、王太子殿下からの正式な命令書でございます」


 側近が書状を受け取り、ラインハルト様へ渡す。


 彼は封蝋を確認し、書状を開いた。


 そして、数行ほど読み進めたところで。


「……なるほど」


 その目が、すっと細くなった。


 室内の空気が、一瞬で張り詰める。


「聖女エルマを速やかに王都へ帰還させよ、か」


「はい。王太子殿下は、聖女様のお力が王国にとって必要不可欠であるとお考えです。つきましては、エルマ様には直ちに王都へお戻りいただきたく存じます」


 使者の男性は、私へと視線を向けた。


「エルマ様。王太子殿下も、これまでのことを反省しておられます。どうか、寛大なお心でお戻りください」


 ……反省?


 私は思わず、唇を噛みしめた。


 私が聖女として働いていた頃、どれほど無理をしても、誰も気にかけてくれなかった。


 体調を崩しても、祈りを捧げることを求められた。


 神獣のお世話を任されても、失敗すればすべて私の責任にされた。


 そして、私が不要になった途端、追い出された。


 それなのに。


 今さら、反省したから戻ってこい?


 そんな言葉だけで、すべてがなかったことになるのだろうか。


「……申し訳ありません」


 私はゆっくりと口を開いた。


「私は、王都へ戻るつもりはありません」


「なっ……!」


 使者の男性が目を見開いた。


「エルマ様、それはどういうことでしょうか! 王太子殿下からの正式な命令なのですよ!?」


「ですが、私はもう王都で聖女として働くつもりはないのです」


「そんな勝手が許されるとお思いですか!?」


 思わず肩が震えた。


 やっぱり、私は間違っているのだろうか。


 王太子の命令に逆らうなんて、許されないことなのだろうか。


 そのとき。


「……言葉を慎みなさい」


 低く、静かな声が響いた。


 ラインハルト様だった。


「彼女は、すでに自分の意思を明確に伝えた。それ以上、何を求める?」


「し、しかし、閣下! 聖女様のお力は王国全体に関わるものでございます!」


「それが何だ?」


 ラインハルト様は、書状を机の上に置いた。


「聖女である前に、彼女は一人の人間だ。本人の意思を無視して連れ戻す権利が、王太子殿下にあるとでも?」


「そ、それは……」


「そもそも、彼女を手放したのは王都側ではなかったか?」


 使者の男性が、ぐっと言葉に詰まった。


 ラインハルト様は一歩も引かない。


「必要がなくなれば追い出し、困ったら戻ってこいと言う。随分と都合のいい話だな」


 その声には、隠しようのない怒りが滲んでいた。


 私のために怒ってくれている。


 その事実に、胸が熱くなった。


「ですが、王太子殿下は……!」


「返答は決まっている」


 ラインハルト様は側近へ視線を向けた。


「返書を用意しなさい」


「かしこまりました」


 彼は使者の男性へと向き直る。


「エルマ嬢は、本人の意思により王都への帰還を拒否している。辺境伯領としても、本人の意思に反する連行には一切協力しない。以上だ」


「な……!」


「異議があるなら、正式な外交文書で申し立てるよう伝えなさい」


 あまりにも堂々とした対応に、私は思わず見惚れてしまった。


 これが、辺境伯領を率いる総司令官。


 そして、私を守ってくれる人。


「……承知いたしました」


 使者の男性は、悔しそうに唇を引き結んだ。


「王太子殿下には、必ずご報告いたします」


「そうしてくれ」


 ラインハルト様は、それ以上話すことはないというように席を立った。


 使者の男性も、深々と頭を下げて応接室を後にした。


 扉が閉まる。


 ようやく、張り詰めていた空気が緩んだ。


「……エルマ、大丈夫かい?」


 ラインハルト様が、すぐに私の顔を覗き込んだ。


「顔色が少し悪い。怖い思いをさせてしまったね」


「い、いえ……」


 私は慌てて首を振った。


「ラインハルト様が守ってくださったので、怖くありませんでした」


「そうか」


 彼はほっとしたように微笑んだ。


「なら、よかった」


 そして、私の頭をそっと撫でてくれた。


 その優しさに、張り詰めていた気持ちが一気にほどけていく。


「……ありがとうございます」


「礼はいらないよ。君が自分の意思を伝えられたことが、私は嬉しいんだ」


 私は思わず顔を上げた。


「私の、意思……?」


「そうだよ。君はもう、誰かの命令だけで生きる必要はない」


 ラインハルト様は、真っ直ぐに私を見つめた。


「これからは、自分がどうしたいのかを大切にしてほしい」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。


 ああ。


 私は、ここにいてもいいのだ。


 聖女だからではなく、誰かの役に立つからでもなく。


 ただ、私自身として。


「……はい」


 私は小さく頷いた。


「私、ここにいたいです」


 ラインハルト様の瞳が、わずかに見開かれた。


「この辺境伯領で、おこげたちと一緒に暮らしたいです。皆さんのお役に立てることがあれば、少しずつ頑張りたいです」


 そして、最後に。


「……ラインハルト様のそばに、いたいです」


 言ってしまった。


 最後の一言は、ほとんど聞こえないくらい小さかったはずだ。


 けれど。


「……エルマ」


 ラインハルト様の声が、少しだけ掠れた。


 彼は私の手を取ると、そっと両手で包み込んだ。


「それは……期待してもいいということかな?」


「えっ!?」


「君が、私のそばにいたいと言ってくれたことだよ」


「そ、それは……!」


 顔が一気に熱くなる。


 でも、嘘ではない。


 私は小さく頷いた。


「……はい」


 その瞬間。


 ラインハルト様は、今まで見たことがないほど幸せそうに笑った。


「ありがとう、エルマ」


 そして、私の手の甲へ、そっと口づけを落とした。


「君がそう望んでくれるなら、私はこの先も、君が安心して暮らせる場所を守り続けよう」


 もう、何も言えなかった。


 心臓がうるさい。


 顔が熱い。


 けれど、嫌ではない。


 むしろ、この温かい手をずっと握っていたいと思ってしまう。


「きゅふっ!」


 そのとき、足元から元気な声が聞こえた。


 おこげが、私たちの間に割り込むようにして立っていた。


「あら、おこげ?」


「きゅふ、きゅふっ!」


 おこげは私の足に前足をかけたあと、ラインハルト様の靴にも前足をかけた。


 まるで「ぼくもいるよ!」と主張しているみたいだ。


「ふふっ。おこげも、ずっと一緒にいたいのね」


「きゅふぅ!」


 私が抱き上げると、おこげは満足そうに胸元へ顔を埋めた。


 ラインハルト様も、その小さな頭を優しく撫でる。


「もちろん。君も大切な家族だからね」


 その言葉に、胸がいっぱいになった。


 家族。


 私にとって、ずっと遠いものだと思っていた言葉。


 けれど今、私の腕の中にはおこげがいて、隣にはラインハルト様がいる。


 ここには、私を必要としてくれる人たちがいる。


 それだけで、十分すぎるほど幸せだった。


     


 ――その頃、王都。


「何だと!? エルマが帰還を拒否しただと!?」


 王太子の怒声が、執務室に響き渡った。


 報告書を手にした側近は、青ざめた顔で頭を下げている。


「は、はい。さらに、ラインハルト辺境伯閣下からは、本人の意思に反する連行には協力しないとの返答が……」


「辺境伯め……!」


 王太子は机を強く叩いた。


 まさか、辺境伯がここまで明確に拒絶するとは思っていなかったのだ。


 エルマは聖女だ。


 王国にとって必要な存在であり、王太子である自分の命令に従うのが当然だと考えていた。


 それなのに。


「……こうなったら、別の手を考えるしかない」


 王太子は、冷たい笑みを浮かべた。


「エルマを連れ戻す方法は、まだあるはずだ」


 その言葉を聞いた側近は、何も答えられなかった。


 王太子はまだ、理解していない。


 一度失った信頼は、命令ひとつで取り戻せるものではないということを。


 そして、彼が次の手を考えている間にも、王都の状況は少しずつ悪化していた。


 国獣である聖ラマは、相変わらず不安定な状態が続いていた。


 エルマがいなくなって以来、聖ラマは以前のように落ち着いて眠ることも、食事を楽しむこともなくなっていたのだ。


 世話係がいくらなだめても、機嫌を直すどころか、時には王宮の調度品を壊す始末。


「殿下……聖ラマ様が、また暴れておられます!」


「何だと!?」


「今度は、王太子殿下の寝室へ向かわれたようで……!」


「なっ、待て! あの部屋には大切な品が――!」


 王太子が立ち上がった、その直後。


 遠くから、何かが壊れる大きな音が響いた。


 ガッシャーン!!


「……まさか」


 王太子の顔から、さっと血の気が引いていく。


 側近は、目を伏せたまま小さく告げた。


「……高級寝台が、無残な状態になっているとの報告です」


「う、嘘だろう……」


 王太子は頭を抱えた。


 エルマを追い出してから、何もかもがうまくいかない。


 けれど、まだ彼は認めようとしなかった。


 自分たちが、どれほど大切なものを失ったのかを。


     


 その頃、辺境伯領では。


「エルマ、少し休憩にしないか?」


 ラインハルト様が、厨房の入口から顔を覗かせた。


「えっ? でも、まだクッキーを焼いている途中なんです」


 私はボウルの中で生地を混ぜながら、振り返った。


 王都からの使者が帰ったあと、私は気分転換も兼ねて、おこげたちのおやつを作っていた。


 甘いミルクの香りが漂う厨房は、それだけで心が落ち着く。


「もう少しで焼き上がりますから」


「……そうか」


 ラインハルト様は、少し残念そうに私の手元を見つめた。


「では、私もここで待たせてもらおう」


「ラインハルト様、お仕事はよろしいのですか?」


「問題ない。君と過ごす時間も、私にとっては大切な仕事だからね」


「そ、そんなお仕事はありません!」


 思わず声を上げると、厨房にいた料理人さんたちが一斉にこちらを振り向いた。


「……失礼いたしました、聖女様」


「い、いえ! こちらこそ!」


 私は真っ赤になって頭を下げた。


 ラインハルト様は、そんな私を見て楽しそうに笑っている。


 もう!


 この方は本当に、いつも私をからかうのだから!


「きゅふっ!」


 足元から元気な声が聞こえた。


 見れば、おこげが小さな木の器を抱えて立っていた。


「あら、おこげ。おやつが待ちきれないの?」


「きゅふぅ!」


 おこげは期待に満ちた目で、オーブンを見上げている。


 その後ろでは、三匹のフェザーウサギたちも羽をぱたぱたさせていた。


「ふふっ。もう少し待っていてね」


 私はしゃがみ込み、小さな頭を順番に撫でた。


 すると、ラインハルト様が私の隣に膝をついた。


「エルマ」


「はい?」


「君がここにいてくれて、本当によかった」


 不意に告げられた言葉に、私は目を瞬いた。


「……どうして、急にそんなことを?」


「君が来てから、この屋敷が以前よりずっと明るくなった気がするんだ」


 ラインハルト様は、もふもふたちを見つめながら続けた。


「使用人たちも、兵士たちも、君の話をよくしている。君が笑えば、周囲まで笑顔になるんだよ」


「そんな……。私は、何も特別なことはしていません」


「君はそう思っているのだろうね」


 彼は優しく微笑んだ。


「けれど、君が思っている以上に、君は多くの人を幸せにしているんだ」


 胸の奥が、じんわりと温かくなった。


 かつての私は、聖女として役に立たなければ価値がないと思っていた。


 祈りを捧げ、神獣の世話をし、誰かの期待に応え続けなければならない。


 そうしなければ、ここにいてはいけないのだと。


 けれど、ラインハルト様は違う。


 私が何かを成し遂げたからではなく、ただ私がここにいることを喜んでくれる。


「……ありがとうございます」


 私は小さく微笑んだ。


「私も、ここに来られてよかったです」


 そう答えると、ラインハルト様は一瞬だけ目を見開いた。


 そして、嬉しそうに私の手を取った。


「なら、これからもずっとここにいてくれるね?」


「は、はい!」


 勢いよく答えてしまってから、私は自分の言葉の意味に気づいた。


 ずっと。


 ここに。


 ラインハルト様のそばに。


 ……ああ、もう!


 どうして私は、こんなにも簡単に本音を口にしてしまうのだろう!


「きゅふっ!」


 そのとき、おこげが私の膝によじ登ってきた。


 まるで、照れている私を助けてくれるみたいに。


「ふふっ、おこげったら」


 私はおこげを抱き上げ、柔らかな背中を撫でた。


 すると、ラインハルト様が少しだけ目を細める。


「……また、おこげに助けられてしまったね」


「え?」


「いや。何でもないよ」


 そう言いながら、彼は私の頭をそっと撫でた。


「ただ、いつか私も、おこげに負けないくらい君を笑顔にしたいと思っただけだ」


 その言葉に、胸が大きく跳ねた。


 私はもう、顔を上げることもできなかった。


     ◇


 焼き上がったクッキーをお皿に並べると、おこげたちは大喜びだった。


「きゅふっ! きゅふっ!」


「ぷぃぷぃっ!」


 小さな口で一生懸命にクッキーを頬張る姿は、何度見ても可愛らしい。


「おいしい?」


「きゅふぅ!」


 おこげは満足そうに鳴くと、私の膝にちょこんと座った。


 その頭には、クッキーの小さなかけらが乗っている。


「あらあら。おこげ、お帽子みたいになっているわよ」


 私が笑いながら取り除いてあげると、おこげは気持ちよさそうに目を細めた。


 その様子を見ていたラインハルト様が、ふと口を開く。


「エルマ。今度は、私にも作ってくれるかな?」


「もちろんです! どんなお菓子がお好きですか?」


「君が作ってくれるものなら、何でも嬉しいよ」


「そ、そうですか……?」


「ただし、一つだけお願いがある」


「お願い、ですか?」


 ラインハルト様は、私の手をそっと取った。


「今度は、私にも『あーん』をしてくれないだろうか?」


「ま、またですか!?」


 思わず声が裏返る。


 すると、彼は楽しそうに笑った。


「駄目かな?」


「だ、駄目ではありませんけれど……!」


「よかった。では、約束だね」


 その笑顔があまりにも嬉しそうで、私はもう何も言えなくなってしまった。


 おこげはそんな私たちを見上げ、不思議そうに首を傾げている。


 きっと、この子はまだ知らない。


 私の心臓が、どれほど大変なことになっているのかを。


 そして、王都では今も、私を連れ戻そうとする人たちが次の手を考えていることも。


 けれど、今はまだ。


 甘いミルクの香りに包まれながら、もふもふたちと笑い合っていたい。


 私を大切にしてくれる人たちと、一日一日を大切に過ごしていきたい。


 もう誰かの都合で、自分の幸せを手放したりしない。


 そう心に誓いながら、私はおこげをぎゅっと抱きしめた。


 ――王都からの次の使者が訪れるまで、あと少し。


 けれど、そのときの私はまだ知らなかった。


 王太子が次に送り込もうとしている人物が、私の過去を知る、思いがけない相手だということを。


第6話をお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、王都からの使者がついに辺境伯領へやってきました。


今さらエルマを連れ戻そうとする王太子に対し、ラインハルト様は一歩も引かず、エルマ自身の意思を何よりも大切にしてくれました。


「君はもう、誰かの命令だけで生きる必要はない」


この言葉には、エルマへの深い愛情と、彼女に自分らしく幸せになってほしいという願いが込められています。


そして、エルマも少しずつ自分の気持ちを伝えられるようになってきましたね♡


「ラインハルト様のそばに、いたいです」


そんな言葉を聞いたラインハルト様の嬉しそうな姿を想像すると、こちらまで幸せな気持ちになります♪


一方、王都では聖ラマが相変わらず大暴れ!

エルマを失ったことで困り果てている王太子ですが、まだ諦めるつもりはないようです。


果たして、王太子は次にどんな手を打ってくるのでしょうか?


これからも、エルマともふもふたちの幸せな日々と、ラインハルト様の甘々な溺愛を楽しんでいただけたら嬉しいです!


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

ブックマークや評価、ご感想などもいただけると、とても励みになります♡


次回もどうぞお楽しみに!

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