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第15話 王家の禁忌庫へ!消えた初代聖女の記録と、森から届く謎の声

王宮地下に隠されていた禁忌の実験施設。エルマたちは十七体の神獣を救出し、王宮魔導研究院院長ゼルヴァンの陰謀を暴き始めました。


しかし、事件はまだ終わっていません。


黒い結晶は完全には破壊されておらず、聖ラマは「向こう側」から何者かが呼びかけていると告げました。


さらに、第一封印が崩壊するまで、残された時間はわずか三十日。


初代聖女はいったい何を封じたのでしょうか。そして、なぜ彼女の記録は歴史から消されたのでしょうか。


真実を求め、エルマたちは王家の禁書庫へと向かいます!

翌朝。


王宮の神獣専用治療棟では、昨夜救出された神獣たちの治療が続いていた。


「魔力の流れは少しずつ安定してきています。ただ、長期間にわたって魔力を奪われていた影響は大きいですね」


治療を担当する宮廷魔術師の報告を聞き、エルマは眠っている神獣たちを見つめた。


「みんな、もう少しだけ頑張ってくださいね。絶対に元気になってもらいますから」


「そのためにも、ゼルヴァンの行方と第一封印の謎を明らかにしなければなりません」


隣に立つラインハルトが静かに告げた。


そのとき、治療棟の扉が開き、グレゴールが入ってきた。


「エルマ殿、ラインハルト辺境伯。王太子殿下から許可が下りました」


「許可、ですか?」


「王家の禁書庫への立ち入りです。初代聖女に関する古い記録を調べることが認められました」


エルマの顔が明るくなる。


「本当ですか!?」


「ただし、閲覧には記録管理官が立ち会います。資料の持ち出しは禁止。許可されていない魔法の使用も認められません」


「もちろんです!」


エルマは力強くうなずいた。


「私、初代聖女について知りたいんです。聖ラマも、あの人が封印の鍵だと言っていましたから」


「では、早速向かいましょう」


ラインハルトが歩き出すと、おこげがエルマの足元から飛び出してきた。


「ボクも行くよ!」


「おこげ、いつの間に起きていたんですか?」


「最初から起きてたよ! 大事な調査に参加するために、体力を温存していたんだ!」


「さっきまで寝ていたように見えましたが……」


「気のせい!」


エルマは思わず苦笑した。


肩の上のソラも、青い光を明滅させている。


「ソラも一緒に来るんですね」


「ピィッ!」


「分かりました。では、みんなで行きましょう!」


こうして一行は、王宮の奥深くにある禁書庫へと向かった。


重厚な扉には王家の紋章が刻まれ、幾重もの魔法陣が施されていた。


扉の前に立つ白髪交じりの記録管理官は、許可証を確認すると、ゆっくりと杖を掲げた。


「王太子殿下の許可を確認しました。どうぞ、お入りください」


扉が開く。


その向こうには、天井まで届く書架が何列も並んでいた。


古い羊皮紙、装丁の剥がれた書物、封蝋で封じられた箱。どれもが長い年月を経てきたことを物語っている。


「すごい……」


エルマは思わず息をのんだ。


「これだけの記録があれば、何か分かるかもしれませんね」


「ええ。ただし、古い記録には誤記や後世の書き換えが混ざっている可能性があります。慎重に調べましょう」


ラインハルトの言葉に、グレゴールもうなずいた。


「まずは王国建国期の資料です。初代聖女が活躍したのは、その時代だったと伝えられています」


記録管理官が目録を開いた。


しかし、数ページめくったところで、突然その手が止まった。


「……おかしいですね」


「どうしたのですか?」


「初代聖女に関する記録の項目が、一部削除されています」


グレゴールの表情が険しくなる。


「いつ削除されたのですか?」


「記録上では、三十二年前となっています」


「三十二年前……?」


エルマは首をかしげた。


「その頃に、何かあったんですか?」


「王宮の古い文書を整理する大規模な事業があったそうです。しかし、なぜ初代聖女の記録まで削除されたのかは分かりません」


「偶然とは思えませんね」


ラインハルトが低い声で言った。


初代聖女の記録は消されていた。


そして現在、王宮地下では神獣の魔力を利用する禁忌の実験が行われていた。


二つの事件が無関係だとは、エルマには思えなかった。


第二章 消された記録と二つの力


記録管理官の案内で、エルマたちは書架の奥へ進んだ。


そこには、分類変更以前の古い目録に従って保管された資料が残されていた。


エルマが箱を開けると、数枚の羊皮紙が見つかった。


その一枚には、古い文字でこう記されていた。


『第一聖女、王都北方の聖域にて儀式を執行』


さらに、その下には別の記録が続いていた。


『第二の力、封印完了。第一の力、王家の管理下へ』


「第二の力……。第一の力……」


エルマは文字を指でなぞった。


「聖ラマが言っていた、二つの力のことかもしれません」


「確か、伝承では一つが守護の力、もう一つが禁じられた力とされていましたね」


グレゴールが記憶をたどるように答えた。


「しかし、どちらが第一で、どちらが第二なのかは分かりません」


エルマは羊皮紙を光にかざした。


すると、文章の一部に不自然な削り跡があることに気づいた。


「待ってください。ここ、文字が消されています!」


「本当ですね……」


ラインハルトがのぞき込む。


削り跡の下には、かすかに文字が残っていた。


『初代聖女、封印の代償として――』


その先は、刃物のようなもので削り取られていた。


「代償……。封印するために、何かを犠牲にしたのでしょうか」


エルマの胸に、嫌な予感が広がった。


そのときだった。


「ピィッ!」


ソラが突然、青い光を放った。


光が羊皮紙を照らすと、紙の端に隠されていた魔法文字が浮かび上がった。


『封印の継承者は、二つの力を同時に受け継ぐ』


「継承者……?」


次の瞬間、羊皮紙が淡く輝き、エルマの手のひらに紋章が現れた。


円の中に二つの光。


一つは青白く、もう一つは黒に近い紫色をしている。


「これは……!」


グレゴールが息をのんだ。


「その紋章は、王家に伝わる古い肖像画に描かれていたものと一致します。初代聖女の紋章です!」


「ええっ!? でも、どうして私に……?」


エルマ自身にも、何が起きたのか分からなかった。


その瞬間、頭の奥で女性の声が響いた。


――ようやく、見つけた。


――あなたが、次の継承者なのですね。


「誰ですか!?」


エルマは思わず声を上げた。


「エルマ殿!?」


ラインハルトがすぐに彼女を支える。


「今、誰かの声が聞こえたんです。頭の中で……」


記録管理官は顔面蒼白になっていた。


「まさか……。本当に継承者が現れるとは……」


「ご存じなのですか?」


グレゴールが問いかけたが、老人はすぐには答えなかった。


やがて、震える声で告げた。


「古い記録には、初代聖女の紋章が再び現れたとき、第一封印に異変が起こると記されているのです」


「第一封印に異変が……?」


エルマは自分の手のひらを見つめた。


どうして自分が継承者なのか。


第一封印は何を封じているのか。


そして、初代聖女は今もどこかに存在しているのか。


その答えは、まだ見つからなかった。


第三章 王太子が明かす王家の秘密


禁書庫での発見を受け、エルマたちは王太子との面会を求めた。


執務室に入ると、王太子は報告書を机に置き、真剣な表情で一同を迎えた。


「禁書庫で初代聖女の紋章が現れたそうだな」


「はい。記録管理官の方も、初代聖女のものと一致するとおっしゃっていました」


エルマが手のひらを見せると、王太子は目を見開いた。


「間違いない……。王家に伝わる肖像画と同じ紋章だ」


「殿下。第一封印について、教えていただけませんか?」


エルマはまっすぐに王太子を見つめた。


「なぜ初代聖女の記録は削除されたのでしょうか。第一封印とは何を封じているのですか?」


王太子はすぐには答えなかった。


窓の外に目を向け、長い沈黙のあと、口を開いた。


「王家に伝わる伝承では、初代聖女は建国以前の大災厄を鎮めたとされている。しかし、その詳細は代々の王族にも完全には伝えられていない」


「王族にも、ですか?」


「ああ。王位継承の際に限られた者だけが閲覧できる記録がある。私もすべてを知っているわけではない」


王太子は引き出しから、小さな金属製の鍵を取り出した。


「これは王家の記録室を開く鍵だ。禁書庫よりも古い記録が保管されている。ただし、封印を解除するには王家の認証と、もう一つの条件が必要なのだ」


グレゴールが尋ねた。


「もう一つの条件とは?」


「初代聖女の紋章だ」


エルマは息をのんだ。


「つまり、私が必要なのですね」


「そうなる。ただし、君を危険にさらすつもりはない。封印が何を意味するのか分からない以上、無理に解除することはできない」


「でも、第一封印が弱まっているんです。地下施設では、残り三十日という文字も見つかりました」


王太子の顔から笑みが消えた。


「三十日……。その情報は確かなのか?」


「誰が残したものかは分かりません。でも、黒い結晶の奥に刻まれていました」


王太子は立ち上がり、窓辺を歩いた。


「もしそれが事実なら、時間はほとんど残されていない。だが、焦って封印を解けば、取り返しのつかないことになるかもしれない」


「それでも、何もしないわけにはいきません」


エルマは拳を握った。


「私は聖女です。神獣たちを助けるためにも、この国の人たちを守るためにも、真実を知りたいんです」


王太子はしばらくエルマを見つめたあと、静かにうなずいた。


「分かった。明朝、王家の記録室の封印解除を試みよう。私とグレゴール、ラインハルト辺境伯が立ち会う。少しでも危険があれば、すぐに中止する」


「ありがとうございます!」


エルマが頭を下げた、そのときだった。


執務室の扉が勢いよく開いた。


「殿下! 緊急の報告です!」


駆け込んできた王宮騎士が、息を切らしながら告げた。


「北方の森林地帯で異常な魔力反応が確認されました! 周辺の村からも、奇妙な声が聞こえるという報告が相次いでいます!」


エルマの表情が変わった。


北方の森林地帯。


禁書庫で見つけた記録にも、同じ場所が記されていた。


『第一聖女、王都北方の聖域にて儀式を執行』


「まさか……」


ラインハルトが低くつぶやいた。


「第一封印と関係があるのでしょうか?」


騎士は首を横に振った。


「まだ分かりません。しかし、森林地帯の中心部から、黒い光が空に向かって伸びているとのことです」


その瞬間、エルマの手のひらの紋章が熱を帯びた。


青白い光と黒紫色の光が、交互に明滅する。


そして、頭の中に再び声が響いた。


――来てはいけない。


――そこへ来れば、あなたも私と同じ運命をたどる。


エルマは息をのんだ。


「今度は、はっきり聞こえました……」


「誰の声ですか?」


ラインハルトが尋ねる。


「分かりません。でも……初代聖女かもしれません」


王太子は騎士に向き直った。


「森林地帯の周辺を警戒し、住民の安全を確保せよ。原因が分かるまで、調査隊以外の立ち入りを禁ずる」


「はっ!」


騎士が退出すると、執務室に重い沈黙が落ちた。


「エルマ殿、明日の記録室の調査を待つべきです」


グレゴールが慎重に告げた。


「現地へ向かうのは、それからでも遅くありません」


「……分かりました」


エルマはうなずいた。


しかし、胸の奥では、声の主への疑問が膨らんでいた。


来るなという言葉は、脅しなのか。


それとも、自分を守ろうとしているのか。


そして、もし本当に初代聖女が呼びかけているのなら、彼女は何百年もの間、何を見続けてきたのだろう。


第四章 森から届いた映像


その夜。


エルマは王宮に用意された客室で、手のひらの紋章を見つめていた。


紋章は普段、ほとんど見えない。しかし、北方の森林地帯の話が出てから、光を帯びるようになっていた。


「どうして私なんだろう……」


ベッドの上で丸くなっていたおこげが、片目を開けた。


「エルマ、眠れないの?」


「うん。初代聖女のことを考えていたんです」


「そっか……」


おこげは起き上がり、エルマの隣に座った。


「でも、考えすぎて一人で抱え込んじゃダメだよ。エルマが困ったときは、みんなで考えればいいんだから」


「おこげ……」


「それに、ボクだっているんだからね! 危ない場所に行くなら、ボクが先に様子を見てくるよ!」


「それはダメです。一人で危険な場所へ行かせるわけにはいきません」


「ええーっ!?」


エルマが思わず笑うと、おこげは頬をふくらませた。


「じゃあ、一緒に行く!」


「それなら約束です。絶対に一人で先走らないこと」


「はーい!」


そのとき、窓辺にいたソラが突然、強い光を放った。


「ソラ?」


ソラは北の方角をじっと見つめている。


「ピィィ……!」


その鳴き声は、いつもの明るい声とは違っていた。


不安と悲しみが混じった、切実な声だった。


エルマが窓に近づくと、手のひらの紋章が強く輝き始めた。


そして、今度は声だけではなかった。


脳裏に、見知らぬ光景が流れ込んできた。


深い森。


朽ち果てた石造りの神殿。


床一面に刻まれた魔法陣。


その中央に、白い衣をまとった女性が立っていた。


長い髪が風に揺れている。顔は光に隠され、はっきりとは見えない。


女性は両手を広げ、何かを押しとどめるように叫んでいた。


『まだ、開けてはなりません!』


次の瞬間、黒い光が神殿を覆い尽くした。


女性の姿が闇に飲み込まれ、映像は途切れた。


「今のは……」


エルマは窓枠に手をついた。


おこげが慌てて駆け寄る。


「エルマ、大丈夫!?」


「うん……。でも、見えたんです。北の森にある神殿が」


ソラが小さく鳴いた。


「ピィッ!」


「ソラも、あの場所を知っているの?」


ソラは青い光を明滅させた。


エルマはその反応を見つめた。


「そうなんですね……。あの神殿には、何かがあるんですね」


そのとき、廊下から足音が聞こえた。


扉がノックされ、ラインハルトの声が響く。


「エルマ殿、起きていますか?」


「はい。どうぞ」


ラインハルトが部屋に入ると、エルマの手のひらを見て表情を変えた。


「紋章が光っている……。何かあったのですか?」


エルマは、今見た映像と聞こえた声について説明した。


ラインハルトは黙って聞き終えると、慎重に口を開いた。


「明日の記録室の調査で、北の森に関する資料が見つかるかもしれません。しかし、現地には未知の危険がある。決して無理はしないでください」


「はい。分かっています」


「それと、もう一つ気になることがあります」


ラインハルトは窓の外に目を向けた。


「王宮地下の実験施設で見つかった黒い結晶。そして、あなたの紋章に現れた黒紫色の光。両者には、何らかのつながりがある可能性があります」


「つまり、私の力も……?」


「まだ断定はできません。だからこそ、記録を調べる必要があるのです」


エルマはうなずいた。


「明日、すべてを確かめましょう」


ラインハルトは静かに頭を下げ、部屋を出ていった。


エルマは再び窓の外を見つめた。


遠く北の方角で、黒紫色の光が一瞬だけ走った。


まるで、空の向こう側から何者かがこちらを見ているかのように。


第五章 封印の向こう側


同じ頃。


王宮地下の実験施設。


立ち入りを禁止された最深部では、破壊されたはずの黒い結晶が、かすかな光を放っていた。


結晶の表面に走る亀裂は、ゆっくりと広がっている。


その奥から、低い声が響いた。


「……継承者が目覚めた」


別の声が応じる。


「まだ早すぎる。第一封印が完全に崩れる前に、あの娘が真実を知れば……」


「知れば、どうなる?」


沈黙。


やがて、最初の声が笑った。


「すべてが始まる。あの方が望んだ、最後の儀式が」


黒い結晶の奥で、二つの光が浮かび上がった。


一つは青白い光。


もう一つは、深い闇のような紫色。


二つの光は、エルマの手のひらに現れた紋章と、まったく同じ形をしていた。


壁面に刻まれた文字が、ひとりでに書き換わっていく。


『第一封印――残り二十九日』


さらに、その下に新たな文字が浮かび上がった。


『継承者、接触確認』


その文字が現れた瞬間、黒い結晶の奥から、かすかな声が漏れた。


「……エルマ……」


それは、誰にも聞こえないはずの声だった。


しかし、その声に反応するように、王宮の客室で眠ろうとしていたエルマの手のひらが、再び淡く光った。


エルマは目を開けた。


「今……誰かが、私の名前を呼んだ?」


返事はない。


ただ、遠い北の森から、風に乗って何かが聞こえてくる。


――約束を、思い出して。


エルマはベッドから起き上がり、窓の外を見つめた。


「約束……?」


その言葉の意味を理解することは、まだできなかった。


だが、確かなことが一つだけあった。


明日、王家の記録室を開けば、今まで隠されてきた真実に一歩近づける。


そして、その真実はきっと、エルマ自身の過去にもつながっている。


彼女は手のひらの紋章をそっと握りしめた。


「待っていてください。必ず、真実を見つけます」


窓の外では、北の森の上空に黒紫色の光が漂っていた。


その光は、まるで何かが目覚める瞬間を待ち続けているかのようだった。


第一封印の崩壊まで、残り二十九日。


そして翌朝、王家の記録室でエルマたちを待ち受けているのは、初代聖女の名前だけではなかった。


そこには、王国の歴史そのものを覆しかねない、ある一枚の記録が眠っていたのである。

第15話を最後までお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、エルマたちが王家の禁書庫で初代聖女の手がかりを発見するお話でした。


初代聖女の紋章がエルマの手のひらに現れ、彼女が単なる聖女ではなく、封印に深く関係する「継承者」である可能性が浮上しました。


さらに、北方の森林地帯にある謎の神殿、封印の代償、そしてエルマの名前を呼ぶ正体不明の声……。


いったい、初代聖女は何を封じたのでしょうか。


そして、エルマと初代聖女には、どのような関係があるのでしょうか。


次回、第16話では、いよいよ王家の記録室の封印解除に挑みます!


そこで明らかになるのは、初代聖女の本当の名前と、歴史から消された驚くべき真実。


しかし、記録室を開くための儀式が始まった瞬間、王宮に予想外の異変が発生します。


果たしてエルマたちは、第一封印の謎に迫ることができるのでしょうか。


次回もお楽しみに!

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