第16話 王家の禁書庫、ついに解禁! 初代聖女の本当の名前と、もふもふ達の大歓迎
前回、王家の禁書庫へ向かったエルマたち。ついに明らかになる初代聖女の本当の名前と、二つの力に隠された秘密!
しかし、第一封印の残り時間は二十八日へと減少し、北の森からは新たな助けを求める声が届きます。
果たして、エルマたちは封印の謎を解き明かせるのでしょうか?
もちろん、もふもふたちとの触れ合いと美味しいご飯も忘れません!
それでは、第16話をお楽しみください!
翌朝。
私は、王宮の一室で大きなあくびをしていた。
「ふわぁ……」
「エルマ、眠れなかったのか?」
隣に座っていたラインハルト辺境伯が、心配そうに顔をのぞき込んでくる。
「いえ、眠れました。ただ……昨日の夜、いろいろ考えてしまって」
第一封印の残り時間は、二十九日。
森の奥から届く謎の声。
そして、私の手のひらに現れた二つの光を持つ紋章。
考えれば考えるほど、分からないことが増えていく。
けれど。
「お腹は空きました」
「……そうか」
ラインハルト様は一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。
「なら、朝食にしよう。重要な調査も、腹が減っていては進まないからな」
「賛成です!」
こうして私たちは、王宮の食堂へ向かった。
朝食は、焼きたてのパンに野菜たっぷりのスープ、それから香草を使った卵料理。
どれもおいしい。
……うん。やっぱり、ご飯は大切だ。
食事を終えた私たちは、王宮の奥深くにある禁書庫へ向かった。
今日はいよいよ、王家に代々伝わる記録を調べる日だ。
第一聖女の本当の名前。
二つの封印の意味。
そして、私が受け継いだ力の正体。
そのすべてに、少しでも近づけるかもしれない。
「ここが、王家の禁書庫だ」
王太子殿下が立ち止まったのは、重厚な扉の前だった。
扉には王家の紋章と、見たことのない古い文字が刻まれている。
「この先の記録は、王族の認証がなければ開けられない。だが、それだけではない」
王太子殿下の視線が、私の手のひらへ向けられた。
「初代聖女の紋章。それも必要だ」
私は手のひらを扉にかざした。
すると、青白い光と暗い紫色の光が、同時に輝き始めた。
扉に刻まれた文字が、ひとつ、またひとつと浮かび上がる。
カチリ。
重い音とともに、扉が開いた。
「本当に……開いた」
グレゴール様が驚いたようにつぶやく。
その向こうには、壁一面に並んだ書物と、古い羊皮紙の束があった。
長い年月、誰にも読まれることなく眠っていた記録。
私たちは慎重に奥へと進んでいった。
「こちらです」
記録管理官が案内したのは、最奥にある小さな書架だった。
そこには、ほかの書物とは違う白い表紙の本が一冊だけ置かれていた。
表紙には、こう記されている。
――初代聖女の記録。
私はそっと本を開いた。
最初のページには、古い文字で名前が書かれていた。
「……セレスティア?」
思わず声に出す。
「それが、初代聖女の名前だ」
王太子殿下が静かに答えた。
セレスティア。
歴史の教科書にも、王国の伝承にも、そんな名前は載っていなかった。
ページをめくると、彼女が神獣たちと暮らしていたことが記されていた。
森の動物たちに食べ物を分け与え、傷ついた神獣を治療し、時には王宮の人々に料理を振る舞っていたという。
「えっ……料理もしていたんですか?」
思わず、そこに食いついてしまった。
「そこなのか、エルマ」
ラインハルト様が苦笑する。
「だって、気になりますよ! 神獣たちに何を食べさせていたんでしょう?」
記録には、彼女が作った料理の名前も残されていた。
野菜と豆の煮込み。
木の実を練り込んだパン。
薬草を使った温かなスープ。
どれも、特別な魔法を使った料理ではない。
ただ、相手のことを考えて作られた食事だった。
私は、なぜだか胸の奥が温かくなるのを感じた。
初代聖女も、神獣たちと一緒にご飯を食べていたのだ。
そう思うと、少しだけ親近感が湧いた。
しかし。
その先のページを読んだ瞬間、私は息をのんだ。
――初代聖女セレスティアは、二つの力を分け、第一の力を王家に、第二の力を聖域に託した。
――彼女は封印の代償として、その存在を歴史から消すことを選んだ。
「……存在を、消す?」
グレゴール様が眉をひそめた。
「待て。歴史から消すことを選んだ、とはどういう意味だ?」
さらにページをめくろうとした、そのとき。
文字の一部が、黒く塗りつぶされていることに気づいた。
私は手のひらの紋章に意識を集中させた。
青白い光が紙面を照らす。
すると、黒く塗りつぶされていた文字の下から、新たな文章が浮かび上がった。
――私は、封印の中に残る。
――二つの力が再び一つになったとき、継承者は私の選択を知るだろう。
――ただし、決して忘れてはならない。
――封印は、災厄を閉じ込めるためだけのものではない。
「災厄を閉じ込めるためだけではない……?」
私は顔を上げた。
そのとき、ソラが低く鳴いた。
「キュゥ……!」
いつもは穏やかなソラの身体から、青い光があふれ出す。
同時に、私の手のひらが熱くなった。
青白い光と暗い紫色の光が、まるで互いを呼び合うように明滅する。
そして、誰も触れていないはずの本が、ひとりでにページをめくり始めた。
バサッ、バサッ、バサッ。
最後のページで、本がぴたりと止まった。
そこには、今までの記録とは違う筆跡で、短い文章が記されていた。
――継承者が二つの力を受け継いだとき、第一封印は新たな主を求める。
――主が定まらなければ、封印は崩壊する。
「そんな……!」
王太子殿下が声を上げた。
「つまり、エルマが二つの力を受け継いだことで、封印が不安定になっている可能性があるということか?」
「まだ断定はできません。しかし……」
グレゴール様は険しい表情で記録を見つめた。
「残り二十九日という表示と、無関係とは考えにくい」
その瞬間だった。
ドォォォンッ!
王宮全体が大きく揺れた。
「な、何事だ!?」
遠くから、兵士たちの叫び声が聞こえる。
窓の外を見ると、王都の北方から黒い光が立ち上っていた。
あの森だ。
昨夜、夢に見た石造りの神殿がある場所。
そして、私の耳に、あの声が届いた。
『……セレスティアの継承者よ』
女性の声だった。
『お願いです。あの子たちを……助けて』
「……あの子たち?」
私は窓辺から振り返った。
すると、禁書庫の扉の向こうから、小さな足音が聞こえてきた。
トコトコ、トコトコ。
現れたのは、王宮で保護されている神獣の子どもたちだった。
小さな狐のような神獣。
丸い耳を持つ白い神獣。
ふわふわの毛並みをした、まだ幼い獣たち。
彼らは私を見つけると、一斉に駆け寄ってきた。
「きゅうっ!」
「みゃあ!」
「くぅーん!」
「わわっ、みんな、どうしたんですか!?」
足元に集まった神獣たちは、私の服の裾を引っ張ったり、手のひらに鼻先を押しつけたりしている。
まるで、何かを伝えようとしているみたいだ。
私はしゃがみ込み、一匹ずつ優しく撫でた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと話を聞きますからね」
すると、神獣たちは少し落ち着いた。
その様子を見たラインハルト様が、静かに言った。
「エルマ。君には、彼らの言葉が分かるのか?」
「はっきりとした言葉ではありません。でも……怖がっているのは分かります」
そして、もう一つ。
彼らが恐れているのは、黒い光そのものではない。
森の奥で、誰かが待っている。
そんな気配がした。
私は立ち上がった。
「ラインハルト様。私、北の森へ行きたいです」
「危険だ」
「分かっています。でも、あの声は助けを求めていました。それに、この子たちも何かを知っているみたいなんです」
ラインハルト様は、しばらく私を見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……君がそう言うと思っていた」
「では!」
「もちろん、私も同行する。グレゴール、王太子殿下。北の森への調査隊を編成していただきたい」
「分かった。王宮の魔導士と騎士を集めよう」
王太子殿下が力強くうなずいた。
そのとき、私の手のひらに、再び文字が浮かび上がった。
――第一封印。
――残り二十八日。
昨日より、一日減っている。
けれど、それだけではなかった。
文字の下に、今までなかった一文が刻まれていた。
――継承者の接近により、封印の再構築を開始する。
私は思わず息をのんだ。
私が近づけば近づくほど、封印は変化する。
それが何を意味するのか、まだ分からない。
それでも。
神獣たちを見捨てることはできない。
初代聖女セレスティアが何を守ろうとしたのか。
なぜ、自らの存在を歴史から消したのか。
そして、森の奥で助けを求める声の主は誰なのか。
すべてを知るために、私は北の森へ向かうことを決めた。
……その前に。
「ラインハルト様」
「どうした?」
「森へ行く前に、神獣たちのための携帯食を作ってもいいですか?」
「……携帯食?」
「はい! 森の調査は長くなるかもしれませんし、お腹が空いたら大変ですから!」
ラインハルト様は一瞬だけ目を丸くしたあと、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「分かった。厨房には私から話を通しておこう」
「ありがとうございます!」
こうして私は、王国の歴史を揺るがす秘密を追う前に、神獣たちのためのお弁当作りに取りかかることになった。
封印の謎も、黒い光も、初代聖女の秘密も。
きっと、一つずつ解き明かしてみせる。
そして、もふもふたちが安心して暮らせる場所を守ってみせる。
私の新しい冒険は、いよいよ北の森へと向かう。
――ただし、携帯食の味見をする時間は、ちゃんと確保するつもりだ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
ついに王家の禁書庫が解禁され、初代聖女セレスティアの名前と、二つの力に隠された秘密が少しずつ明らかになりました。
けれど、第一封印の残り時間は二十八日。
北の森から届く謎の声と、助けを求める神獣たち。
エルマたちは無事に秘密を解き明かせるのでしょうか? そして、冒険の前には腹ごしらえも大切です!
次回、エルマたちは北の森へ。もふもふたちと一緒に、封印の謎へと迫ります。 引き続き、エルマたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです!




