第13話 王宮地下の禁忌! 黒い結晶に封じられた初代聖女
第12話を読んでくださり、ありがとうございます!
前話では、エルマとラインハルトが王宮に到着。しかし、聖ラマの治療記録は隠され、王宮の壁の奥には謎の扉が存在していました。
そして、扉の向こうから聞こえてきた不気味な言葉。
「実験体が、目を覚ましたか」
その言葉の意味とは何なのか。
今回は、エルマたちがついに王宮地下の秘密へと迫ります!
聖ラマを救うことはできるのか。そして、黒い結晶に隠された恐るべき真実とは……?
それでは、第13話をどうぞ!
「実験体が、目を覚ましたか」
扉の向こうから響いた声。
その一言を聞いた瞬間、私は全身に冷たいものが走るのを感じた。
実験体。
いったい、誰のことを言っているのだろう。
聖ラマ?
それとも、別の誰か?
「ラインハルト様……」
私は、隣に立つ彼を見上げた。
ラインハルト様は、扉から目を離さないまま、静かに剣の柄へ手を伸ばした。
「エルマ、私の後ろに。何がいるのか分からない」
「……はい」
私はおこげを抱き寄せ、ソラをそっと腕に乗せた。
ソラの小さな角は、青白い光を放っている。
『……こわい』
ソラの声が、私の心に響いた。
「大丈夫。私たちが一緒にいるからね」
そう答えたものの、私自身も恐怖を感じていた。
王宮の地下に、何が隠されているのか。
どうして聖ラマが、こんな場所にいるのか。
そして、あの声の主は何を企んでいるのか。
答えを知るためには、進むしかなかった。
「……開けます」
ラインハルト様が、扉に手をかけた。
ギィィ……。
重い音を立てて、扉が開く。
その先には、地下へと続く石造りの階段が伸びていた。
壁には見たことのない魔法陣が刻まれ、青白い光が足元を照らしている。
しかし、その光の奥には、黒い霧のようなものが漂っていた。
「……この魔力は」
ラインハルト様が眉をひそめた。
「普通の魔法とは、明らかに違うね」
「ソラも、嫌な感じがすると言っています」
『……くろい……いやなにおい……』
ソラは、地下へ続く階段を見つめていた。
私は、胸元のペンダントを握りしめた。
青かった石は、すでに紫色へと変化している。
間違いない。
この地下には、聖ラマを苦しめているものと同じ異常な魔力が存在している。
「行こう、エルマ」
「はい!」
私たちは、慎重に階段を下り始めた。
一段。
また一段。
下りるたびに、空気が冷たくなっていく。
そして、階段の終わりにたどり着いたとき。
私たちは、信じられない光景を目にした。
「……そんな……」
そこは、巨大な地下施設だった。
天井には無数の魔石が埋め込まれ、床には複雑な魔法陣が広がっている。
その中央には、人の背丈を何倍も超える巨大な黒い結晶が浮かんでいた。
結晶から伸びる黒い光の筋は、施設のあちこちへとつながっている。
そして、その光の先には――。
「……神獣たち?」
私は息を呑んだ。
大小さまざまな神獣が、透明な結界に閉じ込められていた。
白い翼を持つ鳥。
銀色の毛並みをした狼。
小さな角を生やした鹿。
そのどれもが、力なくうずくまっている。
中には、立ち上がることさえできない神獣もいた。
「どうして、こんなことを……」
胸が苦しくなった。
神獣は、王国にとって大切な存在だ。
人々を守り、自然を支え、ときには人間と心を通わせる。
そんな神獣たちが、まるで道具のように扱われている。
私は、拳を握りしめた。
「……許せません」
そのときだった。
「……エルマ様?」
背後から、かすれた声が聞こえた。
振り返ると、そこにはグレゴール卿が立っていた。
彼は私たちの姿を見て驚いたようだったが、すぐに苦しそうな表情を浮かべた。
「なぜ、ここへ……」
「グレゴール卿! ここで何が行われているんですか!?」
私は、一歩前へ出た。
「どうして神獣たちが閉じ込められているんですか? この黒い結晶は何なんですか!?」
グレゴール卿は、答えなかった。
ただ、黒い結晶を見上げている。
「……私は、止めようとしたのです」
やがて、彼は絞り出すように言った。
「しかし、私の権限では、これ以上どうすることもできませんでした」
「止めようとした……?」
「この施設で行われているのは、神獣の魔力を黒い結晶へ集める実験です。集めた魔力を利用し、王国全土を覆う強力な防護結界を作ろうとしているのです」
「防護結界……?」
ラインハルト様が、厳しい表情で尋ねた。
「そのために、神獣たちから魔力を奪っているということか?」
「……はい」
グレゴール卿は、うつむいた。
「実験を主導しているのは、王宮魔導研究院の院長、ゼルヴァンです。彼は、この結晶が完成すれば、王国はあらゆる災厄から守られると主張しています」
「だからといって、神獣たちを犠牲にしていい理由にはなりません!」
私は、思わず声を上げた。
グレゴール卿は、何も言い返さなかった。
「……そのとおりです」
彼の声は、ひどく弱々しかった。
「しかし、計画は王宮の一部の上層部にも支持されています。反対すれば、私自身が排除されかねない状況でした」
「それで、黙って見ていたんですか?」
私の問いに、グレゴール卿は顔を伏せた。
「……申し訳ありません」
その姿を見て、私は複雑な気持ちになった。
彼もまた、何かに縛られていたのかもしれない。
けれど、だからといって、神獣たちが受けた苦しみが消えるわけではない。
正しいと思うことを実行するのは、簡単ではない。
それでも。
「……これ以上、誰にも犠牲になってほしくありません」
私は、黒い結晶を見つめた。
「この実験を止めます。そして、神獣たちを助けます」
ラインハルト様が、力強く頷いた。
「私も協力する。まずは、聖ラマの居場所を確認しよう」
その言葉に、私ははっと顔を上げた。
そうだ。
ここに来た目的は、聖ラマを救うことだった。
「グレゴール卿! 聖ラマはどこですか!?」
私は、必死に周囲を見回した。
けれど、聖ラマの姿は見当たらない。
グレゴール卿は、施設の最奥を指さした。
「……あちらです」
そこには、ほかの神獣たちが閉じ込められている結界よりも、はるかに厳重な扉があった。
扉には王家の紋章と、黒い結晶と同じ紋様が刻まれている。
私は駆け寄ろうとした。
しかし、ラインハルト様が私の腕をそっとつかんだ。
「エルマ、待ってくれ。結界の状態を確認しよう」
「でも、聖ラマが……!」
「必ず助ける。だから、君自身も危険にさらさないでほしい」
私は唇を噛みしめた。
……そうだ。
聖ラマを助けたいからこそ、冷静に行動しなければならない。
「……分かりました」
ラインハルト様は、結界の周囲を慎重に調べた。
「グレゴール卿。この結界は、どうすれば解除できる?」
「通常は、管理者の許可が必要です。しかし、この施設の管理者は私ではありません」
「誰が管理しているんですか?」
「ゼルヴァンです」
私は、思わず拳を握った。
やはり、あの男がすべてを握っているのだ。
そのとき。
「きゅうっ!」
ソラが、私の腕から飛び出した。
「ソラ!?」
ソラは、聖ラマのいる部屋へ向かって駆けていった。
そして、結界の前で立ち止まると、小さな角を青く輝かせた。
「きゅううっ!」
青い光が、結界へと広がっていく。
すると――。
ピシッ。
結界の表面に、小さな亀裂が走った。
「……何だと!?」
グレゴール卿が目を見開いた。
「その結界は、王家の認証がなければ解除できないはず……!」
「でも、ソラが……!」
私の胸元のペンダントが、紫色から淡い青色へと変化し始めた。
ソラの力が、結界に流れる異常な魔力を打ち消しているのだろうか。
理由は分からない。
けれど、今なら。
「ソラ! お願い、もう少しだけ!」
「きゅうっ!」
ソラの角が、さらに強く輝いた。
そして――。
パリンッ!
結界が、ガラスのような音を立てて砕け散った。
「結界が……!」
私は、すぐに扉を開けた。
「聖ラマ!」
部屋の中には、白い毛並みを汚し、床に横たわる聖ラマの姿があった。
「聖ラマ!」
私は駆け寄り、その体をそっと抱き起こした。
「聖ラマ、分かる? 私よ! エルマよ!」
聖ラマの耳が、かすかに動いた。
そして、ゆっくりと目が開く。
『……エルマ……?』
「そうよ! 迎えに来たの!」
『……ほんとうに……きてくれた……』
「当たり前じゃない……!」
声が震えた。
「ずっと心配していたのよ……! もう大丈夫だからね!」
聖ラマは、弱々しく私の手に頬を寄せた。
『……ありがとう……』
その声を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。
間に合った。
本当に、間に合ったのだ。
けれど、喜びに浸っている時間は長く続かなかった。
「……エルマ、気をつけて!」
ラインハルト様の声が響いた。
振り返ると、黒い結晶が激しく輝き始めていた。
ゴゴゴゴゴ……!
床が揺れ、壁の魔法陣が次々と黒く染まっていく。
「何が起きているんですか!?」
グレゴール卿が青ざめた。
「結界が破壊されたことで、魔力の流れが乱れているのです! このままでは、施設全体が暴走する!」
「止める方法は!?」
「黒い結晶への魔力供給を遮断する必要があります。しかし、あれは施設全体とつながっている。下手に触れれば、何が起きるか……!」
そのとき、聖ラマが私の手をそっと押した。
『……エルマ……』
「聖ラマ? 無理をしないで!」
『……あの結晶は……ただの石じゃない……』
「え……?」
聖ラマは、苦しそうに目を閉じながら続けた。
『……なかに……だれかが……いる……』
私は息を呑んだ。
「誰かが、中にいる……?」
その瞬間、黒い結晶の内部に、人影のようなものが浮かび上がった。
私は目を疑った。
結晶の中に見えたのは、人間の姿だった。
年齢も、顔も、はっきりとは分からない。
けれど、その人物は、結晶の奥からこちらを見ているようだった。
「……いったい、誰なんだ……?」
ラインハルト様が、険しい表情で呟いた。
そのとき。
『――やめろ』
頭の中に、声が響いた。
聖ラマの声ではない。
ソラの声でもない。
もっと低く、悲しげな声だった。
『……これ以上、私を目覚めさせるな……』
私は、結晶を見つめた。
すると、結晶の内部の人影が、ゆっくりと顔を上げた。
『……頼む……』
その声には、怒りも憎しみもなかった。
ただ、深い悲しみだけが感じられた。
『……私は……もう……』
そこで、声が途切れた。
次の瞬間、黒い結晶がまばゆい光を放った。
「全員、伏せろ!」
ラインハルト様が叫ぶ。
私は聖ラマを抱きしめ、ソラを胸元に引き寄せた。
視界が白く染まる。
耳鳴りが響く。
そして――。
すべてが静まり返った。
「……う……」
目を開けると、私は床に座り込んでいた。
「エルマ! 大丈夫か!?」
ラインハルト様が、すぐそばで私を支えてくれていた。
「……はい。私は大丈夫です」
私は、腕の中を確認した。
聖ラマも、ソラも無事だった。
ほっと胸を撫で下ろす。
しかし、施設の様子は、先ほどとは大きく変わっていた。
黒い結晶には無数の亀裂が入り、床の魔法陣もほとんどが光を失っていた。
そして、檻の中にいた神獣たちが、少しずつ顔を上げ始めていた。
「……魔力を奪う力が弱まったのか?」
ラインハルト様が呟いた。
グレゴール卿は、呆然としたまま黒い結晶を見つめていた。
「こんなことが……。今まで、何をしても止められなかったのに……」
「グレゴール卿!」
私は、聖ラマをそっと床に寝かせて尋ねた。
「結晶の中に、人影が見えました。あの人は誰なんですか?」
グレゴール卿の顔から、血の気が引いた。
「……まさか」
「ご存じなのですか!?」
彼は、すぐには答えなかった。
何度も口を開きかけては、言葉を飲み込む。
そして、ようやく震える声で告げた。
「……あの中に封じられているのは、初代聖女の可能性があります」
「……えっ?」
私は、思わず聞き返した。
初代聖女。
この王国を建国した時代に、神獣たちとともに災厄から人々を救ったとされる伝説の人物。
歴史の授業で聞いたことがある。
けれど、その人は、何百年も前に亡くなったはずだ。
「どうして、初代聖女が結晶の中に……?」
「分かりません。ただ、王宮には、初代聖女の最期について、公開されていない記録が残されています」
グレゴール卿は、黒い結晶を見つめた。
「公式の歴史では、彼女は大きな災厄を封じたあと、姿を消したことになっています。しかし、その後の記録には、不自然な空白があるのです」
「不自然な空白……?」
「ええ。彼女がどこへ行き、どうなったのか。その答えを記した資料は、王宮のごく一部の者しか閲覧できません」
私は、結晶を見つめた。
もし、本当に初代聖女が封じられているのなら。
彼女は、何百年もの間、ここに閉じ込められていたということなのだろうか。
そして、なぜゼルヴァンは、彼女を目覚めさせようとしているのだろう。
そのとき、聖ラマが苦しそうに目を閉じた。
「聖ラマ!?」
『……きをつけて……』
「何に気をつけるの?」
『……これで……終わりじゃない……』
その声を最後に、聖ラマは再び眠りに落ちた。
私は、そっとその体を抱きしめた。
まだ、分からないことばかりだ。
初代聖女がなぜ封じられたのか。
ゼルヴァンが何を企んでいるのか。
そして、王宮はどこまでこの事実を知っているのか。
けれど、一つだけ分かったことがある。
この事件は、単に聖ラマを苦しめている犯人を見つければ終わるようなものではない。
もっと古く、もっと深い秘密が、この王国には隠されているのだ。
「……ラインハルト様」
私は、彼を見上げた。
「私、真実を知りたいです」
ラインハルト様は、静かに頷いた。
「ああ。私も同じだ。ただし、まずはここにいる神獣たちを安全な場所へ移そう。その後で、王太子殿下に正式な説明を求める」
「はい!」
私は、強く頷いた。
聖ラマを救うことはできた。
けれど、まだ終わりではない。
初代聖女を救うこともできるのだろうか。
それとも、彼女こそが、この王国に隠された最大の秘密なのだろうか。
私は、ひび割れた黒い結晶を見つめた。
その奥に、人影はもう見えなかった。
しかし、結晶の表面には、小さな文字が浮かび上がっていた。
――第二封印、解除。
私は息を呑んだ。
「……第二封印?」
ラインハルト様も、その文字を見つめた。
「ということは……第一封印も、どこかに存在するのか?」
誰も答えられなかった。
そのとき、施設の奥から、聞き覚えのある声が響いた。
「……なるほど。まさか、ここまでたどり着くとは」
振り返ると、黒いローブをまとった男が立っていた。
冷たい眼差し。
口元に浮かぶ、薄い笑み。
「初めまして、エルマ様。私はゼルヴァン。王宮魔導研究院の院長です」
彼は、優雅に一礼した。
「あなたのおかげで、実験は新たな段階へ進みました。感謝いたします」
私は、拳を握りしめた。
「……あなたが、神獣たちを苦しめていたんですね?」
ゼルヴァンは、少しだけ首を傾げた。
「苦しめていた、ですか。ずいぶんと感情的な表現ですね」
「感情的なんかじゃありません! 実際に、聖ラマたちは苦しんでいたんです!」
「ええ。それは認めましょう。しかし、王国全体を守るためには、多少の犠牲も必要なのです」
その言葉に、私は怒りを覚えた。
「……あなたは、何も分かっていません」
ゼルヴァンの眉が、わずかに動いた。
「ほう?」
「誰かを犠牲にして作った平和なんて、本当の平和じゃありません!」
私は、聖ラマを抱きしめた。
「私は、神獣たちを道具として扱うことを認めません!」
ゼルヴァンは、しばらく私を見つめていた。
やがて、静かに笑った。
「……なるほど。あなたは、彼女によく似ている」
「……彼女?」
「初代聖女のことですよ」
私は、息を呑んだ。
ゼルヴァンは、ひび割れた黒い結晶へ視線を向けた。
「彼女もまた、神獣を救おうとしました。そして、その結果――」
彼は、そこで言葉を切った。
「……国の歴史から姿を消したのです」
施設の空気が、一気に冷たくなったように感じた。
「……どういう意味ですか?」
ゼルヴァンは答えなかった。
ただ、私の胸元にあるペンダントを見つめた。
「その魔道具……。なるほど。あなたは、まだ自分の力を理解していないようですね」
「私の力……?」
「ええ。あなたがここへ来たことも、結界が破壊されたことも、決して偶然ではありません」
私は、思わずペンダントを握りしめた。
「……何を言っているんですか?」
ゼルヴァンは、微笑んだ。
「いずれ分かりますよ、エルマ様」
そして、彼は踵を返した。
「次にお会いするときまでに、よく考えておいてください。あなたは本当に、この国の真実を知る覚悟があるのかを」
「待ちなさい!」
ラインハルト様が声を上げた。
しかし、ゼルヴァンの足元に黒い魔法陣が現れた。
次の瞬間、彼の姿は煙のように消えてしまった。
「……逃げられたか」
ラインハルト様が、悔しそうに呟いた。
私は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
初代聖女。
第二封印。
そして、私自身の力。
分からないことが、さらに増えてしまった。
けれど、もう後戻りはできない。
聖ラマを救うために。
ほかの神獣たちを救うために。
そして、この王国に隠された真実を明らかにするために。
私は、前を向いた。
「……絶対に、諦めません」
胸元のペンダントが、淡い青色に輝いた。
その光は、まるで私の決意に応えるかのようだった。
第13話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
今回は、ついに王宮の地下に隠された秘密が明らかになりました。
神獣たちの魔力を集める黒い結晶。そして、その内部に封じられていた可能性がある初代聖女。
さらに、ゼルヴァンの登場によって、物語は新たな局面へと進み始めました。
エルマの力には、いったいどのような秘密があるのでしょうか?
そして、「第二封印、解除」という文字が意味するものとは……?
次回は、救出された神獣たちのその後と、王宮上層部への追及が始まります!
果たして、エルマたちは王国の真実にたどり着けるのでしょうか。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
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それでは、また次のお話でお会いしましょう!




