第4話 ここがテメェの桶狭間だ!
「ふぁいあーっ!」
絶好調のねねが炎を運んだ管を破片に変えて散弾のようにばら撒き、人間も馬も次々とゴミに変えていく。
「あれだけ殺したのに手応えが軽いぞ。あれは人間か?」
「式神よ。今川は自衛隊の異能者が母体になった勢力。非異能者相手にやりたい放題のクズ共ね」
「だからあんなに多いのか」
「ぜんぶ焼けば解決ですよ猿吉さま! 火をもうちょっと強くして下さい!」
「これ以上異能を使うと車ごと燃えちまうぞ」
装甲ワゴンも織田勢も強いが、俺の炎は強すぎる。
顔が茹でダゴ寸前の奴までいる。
「指揮官狙いでいく」
「滝川!」
「2時方向、ここから1.5キロ先に最大の集団がいます」
俺の言葉に織田が即座に反応し、黒服が必要な情報を出す。
本当に頼もしい。
「絶界、守りはもちそうか?」
「結界は大丈夫です!」
槍衾や矢による狙撃を、絶界の結界が防いでいる。
しかし揺れる車内が絶界の体力を急速に削る。
「絶界がバテる前にしかける。俺と絶界が飛び出して使うから……」
「それは今川を甘く見過ぎ。あたしだって戦術や作戦で元自衛隊に勝つ自信はないわ。異能で、対抗してるの」
織田の髪が艶のある黒から銀に変わる。
異能の強さはともかく、至近距離での殺し合いならヤバイと感じる。
「助言に感謝する。じゃあ、こういうのはどうだ」
俺が提案した作戦に、絶界ははしゃぎ、織田は美少女顔をひきつらせる。
装甲ワゴンの屋根に取り付けられたスピーカーから『陰陽寮を焼いたのは正当防衛です』という俺の主張が繰り返し流されていた。
☆
「エーテルさま! 対戦車地雷です!」
黒服の絶叫と同時、結界ごと装甲ワゴンが斜め上へとカチ上げられた。
「俺以外を守れ、絶界ィ!」
車内にきらきらした結界が充満する。俺はひっくり返る車内で、これまでの理不尽への殺意を込めて中指を立てた。
「今川ぁ! ここがテメェの桶狭間だ!」
真っ直ぐ立った中指から、強烈な青い光が天を衝いた。
直径100メートルを超える青の奔流が車ごと全てを飲み込み、式神の鎧武者も、隠れていた迷彩服の兵士も、空中のドローンも、一瞬でチリへと変えていく。
「ねねが選ぶだけあって素敵な異能をしてるじゃない」
人間ひとりだけを守る結界に包まれた織田が、心底楽しそうに笑う。
「おちっ、おちてます猿吉さまー!?」
俺は目を回している絶界をシートごと回収する。
炎の衝撃で天井とドアは吹き飛んでいて、少し力を入れるだけでシートが車から外れるほど車がぼろぼろだ。
「降伏勧告は今川を燃やして生きてたらだ」
「猿吉さま優しすぎます!」
「優しくなくて無茶苦茶だからねそれ!」
俺たち全員が地面に叩きつけられる。
装甲ワゴンが完全に粉砕され、異能は強くても運動神経は並以下な俺と絶界は戦場に不時着している。
織田と黒服とたちは着地の際に速度を落とさず方向だけ変えて、残った騎馬武者と兵士へ襲いかかる。
純粋な肉体強化や魔法じみた攻撃など種類は多用だが、全員が戦い慣れている。
「織田が陰陽寮に逆らうとはな。時勢を判断できぬのは、やはり小娘か」
大柄の男が異様に鋭いナイフを使い織田と切り結ぶ。
織田は素手だが固くて力強くて何より速い。
きらきらした結界が消えてもかすり傷すら受けず、しかし大男を圧倒するには至らない。
「判断できていないのはどちらかしらね。ねね! 配信を始めて!」
「命令しないでっ!」
絶界は文句を言いながら端末を操作する。
すかっり見慣れた画面には、最初はまばらだったコメントが俺への非難と敵意一色に染まる。
いや、『そいつ今川じゃね』や『なんで今川の私兵軍が』というコメントが少し混じってすぐ、コメントが混乱したものばかりになった。
「俺は陰陽寮に襲われたから反撃しただけだ。今すぐ武器を手放して『ごめんなさい誤解でした僕が悪かったですぅ』と言えば燃やさないでやる」
俺の舌は滑らかに動いている。
法で縛られない状態で弱い相手に威張るのは気持ちがいいぜ!
「下民っ」
大男の侮蔑と憤怒の声をあげる。
俺は演技でなく噴き出して『わはは』と笑う。
「日本の法律を全部無視した野郎が俺を下民と呼ぶとはなぁ。文明人な俺が下民なら、お前は人間未満だぜ」
笑いがおさまり、冷たい声が出る。
そもそも、俺の県の異能者が礼儀正しく俺の家を訪ねて来たなら、絶界を引き渡していたかもしれないんだ。
「とりあえず燃えとけ。生き残ったら話を聞いてやるよ」
織田が後ろへ跳ぶ。
大男への増援を食い止めていた黒服たちも戦闘を放棄して後ろへ下がる。
色合いだけなら平和な、きらきらした結界が、大男と今川兵の足を、ちょっとだけ掴んだ。
「じゃあな」
青い炎が、今川軍の全てを焼き尽くした。
☆
「猿吉さま! このまま今川領を制圧しましょう!」
絶界は少し休んだだけなのに回復している。
この元気さだけは羨ましい。
「それもいいが、陰陽寮の生き残りをぶち殺しにいかないか? 遠隔で焼いたとはいえ、ここまで親陰陽寮が多いってことは、まだ再起可能な程度に生き残りがいるはずだ」
救急車に運び出されていく今川兵を眺めながら、俺は次の方針を口にする。
「いいですね! 配信のコメントもびびっちゃってますし、えっと、位置的には上洛かな? 上洛して派手に焼いましょう!」
絶界は、無言で去ろうとする織田の背中にしがみついて、全力で次の地獄へ巻き込もうとする。
「放しなさい! 陰陽寮の焼け跡周辺は、元陰陽寮と漁夫の利狙いの有象無象で一杯なの! これ以上付き合いきれるか!」
「まとめて焼く最大のチャンスだろ。一緒に戦って美味しいところを頂こうじゃないか。俺たち仲間だろ?」
俺、織田、絶界の順で並ぶことで織田の次回参戦を確定させる。
これで完璧と自画自賛したタイミングで、配信のコメントに予想外の内容を見つけた。
「猿吉さま。陰陽寮の燃え残りが、赤く燃えてるって……」
「急がないとまずいな」
反撃で殴り返すのはいいが、他人を焼き続ける生活を死ぬまで続けるのは御免だ。
俺たちは織田を引きずるようにして、そのまま上洛を開始した。
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