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バ火力なのに逃げたい俺と、離さない狂犬少女の天下取り  作者: 星灯ゆらり


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第2話 城の融解と、全国生配信

 念書が青い炎で吹き飛んだ。

 俺の意思じゃない。

 自動反撃するよう、発動直前で止めておいた俺の異能が発動したんだ。


「絶界、無事か!」


 一瞬で炭化して吹き飛んでいく成金風日本家屋などどうでもいい。

 俺は、俺の隣でにこにこしながら羊羹をぱくついていた絶界に振り返った。


「……殺す」


 絶界の体はきらきらしていた。

 俺の家のスマホがまだ生きていた頃に見たことがある、魔法少女アニメの主役のような光に包まれている。

 どこも焦げていない。


「むごたらしく殺してあげるわ!」


 羊羹を突き刺していた木製フォークは半ばで蒸発し、羊羹はもちろん残っていない。

 絶界から放たれる猛烈な殺気を感じた俺は、これ以上の交渉は諦めて、もう一度自動反撃を使えるよう異能の力を込め直した。


 その直後に聞き慣れない音が聞こえた。

 俺の家を襲ってきた連中の銃声より、ひとつひとつの音が迫力がある。


 だが無意味だ。

 絶界に当たった銃弾は、結界の被弾した場所のみを少し揺らしただけで勢いを吸い取られて焦げた床に落ちる。

 俺に当たった弾はもっと悲惨だ。

 膨大な熱に溶かされるだけでなく、俺に向かってきたとき以上の速度で押し返される。

 機関銃手が潜んでいた茂みに、溶けた銃弾と青い炎が襲いかかった。


「はーっはっはっは! わたしと! 猿吉さまを! 舐めるからよっ!」


 黙っていれば魔法少女アニメの和風魔法少女役もこなせそうな絶界が、邪悪な表情で高笑いしていた。



  ☆



 車のハンドルを握りながら、俺はため息をつく。


「最終的には殺し合いでも、その前に形だけでも交渉があると思ってたんだがな」


「法律守らない異能者相手に無理ですよ。徒党組んで狩り合う世界ですから。……そこ右です。都市近郊までを覆う結界の要、あの『白い城』が連中の拠点です!」


 高級住宅街にそびえる、時代劇のような白い城。

 次の瞬間、城から突き出た馬鹿でかい筒が火を噴いた。


 発砲音より衝撃が早い。

 軽自動車を覆う結界が眩しく光り、砲弾を弾き飛ばす。


「大砲だと!? 自衛隊クラスの火力を……道路や民家への被害も気にしないのかよ!」


「ふふっ。連中の大砲と、猿吉さまの大火力……。わたしにお任せです!」


 目を爛々と輝かせる絶界が、新しく出現させた『管』を城へ向けて限界まで延ばす。


「炎を消さないでくださいね、猿吉さま!」


「了解!」


 車を大きく左折させる。

 直進すれば車がいたはずの場所を砲撃が破壊して、飛び散ったアスファルトの破片が結界によって弾かれる。

 俺の体から出続ける薄い炎は管に吸い込まれ、管が白い城まで延びていく。


「猿吉さま? 苦しくなったりは……」


「力を抑えるのが苦しくなってきた。残り時間を教えてくれ」


 中途半端に力を使うのが本当につらい。

 全く使わないか、焼き尽くすつもりで炎をぶっ放すか、焼き尽くすつもりで準備しておくかの、合計三種類の経験しかないからだ。


「分かっていたけど本当にとんでもない異能……。ええ、後十秒、五秒、止めて構いません!」


 抑えていた異能を停止するが、管の中の炎の勢いは止まらない。

 とんでもなく延びた管の先端から、極太の青い炎が、見るからに強力な大砲へ降り注いだ。


「爆発しやがった」


 大砲だったものは一瞬で溶け、城の白い壁が崩れ落ちて鋼鉄の骨組みが露出する。

 それも数秒でドロドロに溶け崩れ、城全体が炎の海に沈んだ。


「さいっこう!」


 猫を被るのをやめた絶界が、拳を突き上げて邪悪に笑っていた。



  ☆



 大砲と城が焼けた後の徒党は、混乱と恐怖でまともに戦えなくなった。

 俺たちが敷地内に乗り込んだ後も、ほんの数人という弱小戦力で襲ってきては蹴散らされるを繰り返すだけだ。


「これだけ城が燃えてるのにこんなに生きてやがる。異能者ってのは頑丈だな」


 銃弾に混じって飛んできた石や氷弾を炎で消し飛ばす。

 炎で反撃すると尋問する前に骨まで黒こげにしてしまいそうなので、絶界の結界で手足を拘束してもらう。


「貴様! 何をしたか分かっているのか! 貴様個人がいくら強かろうと、我が一族が貴様の係累全てを狩り立て殺してくれる!」


 焼け残った小奇麗な男がわめき散らしている。

 絶界は嫌悪と怒りで表情を歪めるが、俺は軽く肩をすくめて言った。


「一人で死ぬのは怖いから家族をみんな殺して欲しいってことでいいか?」


「えっ」


 男は絶句し、絶界は何故か嬉しそうな顔をする。


「脅された俺はあんたに殺されるか、あんたに奴隷にされるか、あんたの一族を皆殺しにするしかないだろ? 俺は力があるんだから最後のを選ぶぞ」


「ばっ、馬鹿なことを! 貴様がいかに強かろうがしょせんは個人! 生き残った我が一族が必ずお前の子供も親も親類も殺し……な、なんだその目はぁっ!?」


「呆れてものも言えないって目だよ」


「猿吉さま! 炎をお願いします!」


 絶界は管を男に近づける。

 人間をひとり殺す直前なのに、心から喜んでいる。


「待て。殺す前にこいつの親類縁者の名前と住所を聞き出して……おい気絶するな。自分から脅してきたのに、怯えて色々垂れ流されると困るんだが」


 城を燃やした管と炎が怖くて耐えきれなかったのだろう。

 俺はため息をついてから、絶界に向き直る。


「絶界、これからどうする? 俺と組むか? 異能の相性はいいと思うぞ」


「うん! じゃあ改めて挨拶! わたしは絶界ねね! 今日から相棒だね! 魔物も賞金首もガンガン焼いていこう!」


 底抜けに明るく、けれど狂気を秘めた笑顔。

 だが、ただ綺麗な女より、頼りになる女の方が魅力的だ。


 握手を交わす。

 農作業で固くなった俺の手と、鍛錬で固くなった絶界の手が、妙になじむ。


「じゃあ始めよう!」


 気絶した男の懐から、スマホのような通信端末を抜き取った絶界が、勝手にカメラを起動して空へ放り投げる。

 結界が途中で支え、カメラが俺たちふたりを映す。


「日本中のみなさーん! うちの相棒、すっごく強いですよー!」


 俺は最初、絶界が何をしているか分からなかった。

 昔にあったインターネットのような、異能者専用の広域通信網があるなんて知らなかったんだ。


「わたしは相棒と一緒にっ! 全国制覇に名乗りを上げますっ!」


 俺が察したときには全てが遅かった。

 数分前にはひとつの県を支配していた勢力の拠点が燃え上がるのを背景に、俺と絶界の姿が日本全国の異能者に向けて生配信されていた。


 膨大な着信音が重なって聞こえる。

 画面を確認するまでもなく、ほとんどが敵意の反応だ。


「……やめろ。ほんとにやめろ」


 修理代を請求しに来ただけの俺は、絶界と共に日本争奪戦へ飛び込むことになった。

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