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 ——翌日。

 朝食を食べてから、スゥは大きな塀のところまでやってきた。

 レインに教えてもらったとおり、塀の中ほどに、大きな鉄の門がある。

 今日も、槍を持った門番がいた。

 門番の男は、路地からスゥがやってきたのを見つけて、にこやかに話しかけてきた(門番は、槍を見せつけるように、柄を地面についてみせた)。

「なにか御用ですか?」

 スゥはきれいなお辞儀をして、

「はじめまして、スゥと申します。世界じゅうを旅していて、先日、こちらの街に立ち寄らせていただきました。街のみなさまには、とてもよくしていただいて……遅ればせながら、神父様に、ご挨拶をと思いまして」

「これはこれは、ご丁寧に」

 門番は閉じた門に近づいて、鉄格子越しに、「お客様だ、神父様に伝えろ」と、門の先に控えている仲間に話した。

 仲間が奥に去ってから、門番はスゥのところにもどっていく。

 スゥは、じっと、門の斜め上を見つめていた——視線の先には、太ももあたりで見切れた巨大な足がある——門番が気づいた。

「足神様です。興味がありますか?」

「はい。じつは、」

 スゥは言った。

「街の入り口にいらっしゃった守衛の方に、足神教について教わったんです。わたし自身、放浪の身ですので、これといった宗教に属してはいなかったのですが……」

 と、スゥはひとつ息を吸って、

「……よろしければ、足神教に帰依させていただければと思いまして」

 門番の目が光る。

 スゥがいくらかまばたくと、門番は、人の好さそうな笑顔を浮かべていた。

「すばらしい心意気だと思います。あなたのような方こそ、足神教にふさわしい。敬虔な気持ちがあれば、足神様は必ず、あなたを祝福してくださいます」

 しばらくして、門が開く。

 門番は、仲間と交代して、スゥを塀の奥の敷地に案内した。


 塀のすぐ後ろは、林のようになっていた。葉っぱの大きな木がいくつも植えられている。陽の光が、大きな葉の一枚一枚を、透かし、緑のやわらかい光を、林じゅうに降らしている。定期的に人の手が入っているのだろう、鬱蒼とした感じはなかった。

 小路を抜けると、視界が開けた。

 それだけで街の一区画分はありそうな、広い庭だった。石畳の小路の先に、円形の噴水がある。小路は、噴水を中継地にして、遊歩道のように、四方に分かれていた。花壇や庭木をながめたり、わずかに離れたところにある東屋に行ったり、この庭にいるだけで、心安らぐ時間を過ごせそうだ。

 門番は、スゥを噴水のさらに向こうへと案内する。

 門番に案内された先——大きな館が現れる。

 白い壁には染みひとつなく、朝日を正面から浴びて、館全体が白く輝いているように見える。

 神様が暮らす館。

 なにも知らないひとがそう教えられたら、思わず信じて、うっとり見つめてしまうに違いない。

 ……しかし、スゥの目には、神聖な館も、うつくしい庭の景色も、映っていなかった。

 スゥの視線は、館の屋根の、さらに向こうに伸びている。そこには、館の屋根で見切れた、巨大な太ももが見えていた。

「どうぞ」

 と、門番が館の扉を開ける。

 扉の先は、石造りの大広間になっていた。

 大理石の床は、あまりに透明で、スゥの顔が映っている。高い天井には、天窓がいくつもはめられていて、明るい日差しが、広間全体を照らしている。館と同じ、真っ白な素材でできた柱には、巨大な足をかたどったような意匠がほどこされていた。

 門番は、広間の奥に向かって、えんじ色の絨毯を進んでいく。

 そして最奥に着くと、門番は大きくひざまずいた。

「神父様、お客様をお連れいたしました」

「ありがとう、下がりなさい」

 壇上にいた男が振り向いた。

 その男は、高貴な白い服を着て、その首に、足の形をしたネックレスをつけていた。

 彼が、この街の神父だ。

 つるっとした禿げ頭の下には、太い眉と、細い目と、分厚い唇がある。

 守衛が去ったのを見て、神父は、低く、耳に残る声で言った。

「はじめまして、トーラスと申します。この度は、私どもの街にお立ち寄りいただき、ありがとうございます。街の者はみな、神父と呼びますが、どうぞ、呼びやすいほうでお呼びください」

 神父が壇上から降りてくる。

「お聞きしたところによると、スゥ様は、足神教に入信されたいそうですね」

「はい」

 スゥは、さっきの守衛を真似るように、ひざまずいた。

「放浪の身ゆえ、これといった神を信じることがありませんでした。ですが、ひとり旅をしていると、ときどき、ふっと、訳もわからない不安に駆られることがあります。このまま旅をつづけていいのか、いっそ、道端で狼に食われたほうが楽なんじゃないか……そう思うと、暗い荒野の中、焚火を前にしていても、眠れなくなることがあるんです」

「いけません」

 神父が、やわらかく、スゥの肩に手を添えた。

「旅とはなにも、足を前に出して歩くことばかりではありません。人生それそのものが、まさに旅なのです。たしかに、旅は苦しいものでしょう。ですが、その旅の苦しみから、一時でも解き放たれようと、自らの首に手を掛けるような真似は、どうかなさらないで。旅の苦しみの中には、心休まる時間や、楽しい出来事もあるはずです」

 神父はやさしく、スゥの肩をなでた。

「あなたのように、旅に悩める方にこそ、足神教はふさわしく思います。足神様も、あなたの長い旅に、祝福とご加護を与えてくださるでしょう」

 ——いつのまにそこにいたのだろう。

 気づけば、スゥの後ろに、六人のシスターが立っていた。

 うち、ひとりが、スゥの体をやんわりと支え、ゆっくりと立ち上がらせた。

 神父が言う。

「これより、入信の儀を執り行います」


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