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 ——カーン、カーン、カーン!


 スゥがダンスを終えて、人だかりにもどったとき。

 大きな鐘の音が、街じゅうに響き渡った。

 街人も観光客も、興奮したように、通りの向こうに走って行く。

 わけがわからず突っ立っていると、さっきの男の子が、スゥの手を取った。

「行こ、おねえちゃん!」

「えっと、どこに?」

「あっち!」

 男の子が指さす先には、巨大な、幼子の右足があった。

 男の子に手を引かれ、スゥは、巨大な足の方に向かった。


 南から吹いていた風が、勢いを増す。しっかり足をついていないと飛ばされてしまいかねないくらい、強烈な風だった——嵐が来たのだ。

 巨大な足の麓に、人だかりができていた。ほとんどの観客は、杭でできた円——バリケードの外に集まっている。そんななか、屈強な男たちが、上裸になって、巨大な足へと近づいていった。

 スゥは、片腕で目元をおおって、巨大な右足を見た。

 巨大な足は、強風にあおられて、ぐらぐらと揺れている。その揺れをおさえるように、足の周りには、大きな木の柱が、いくつも立てられていた。木の柱は、八本の太い荒縄が巻かれていて、足を支える壁のように、隙間なく固定されていた。

 なにがはじまるんだろう。

 わくわくしながら見ていると、祭りの主催らしい男性が、嵐に負けない大声で言った。

「それでは、本日最後の催し、巨足防護をはじめます! みなさま、盛大な声援を、よろしくお願いいたします!」

 空は、その声を聞き届けたとばかりに、吹く風をさらに強くした。

 風にあおられた巨大な足が、後ろ向きに倒れていく!

 男たちは、大急ぎで、八つの方向に散らばった。男たちが行く先には、柱の束に巻かれた縄の端が、垂らされている。男たちは、それぞれの縄をつかんで、力いっぱい引っ張った。柱の束が、ぎゅぎゅっと重なりを強くする。巨大な足が倒れそうになるたびに、木の壁が恐ろしい軋みをあげた。男たちは、雄たけびと悲鳴があわさったような声を上げながら、必死に荒縄を引きつづけた。

 観客は目いっぱい叫んでいた。

 がんばれ!

 負けるな!

 愛してる!

 嵐と、雄叫びと、とりとめのない声援が、スゥの胸を熱くさせる。

「がんばれ! がんばれ!」

 スゥも叫んだ。

 喉をひらいて、肺の奥から、空気の塊が飛び出していく。

 体の内側から熱くなって、雨に濡れているのに、大粒の汗が噴き出した。

 自分にこんな大声が出せるなんて、いまのいままで、知らなかった。

 スゥは、声が枯れるまで、声援を送った。

 観客も、へとへとになるまで叫んだ。


 ——ああ、もう、ダメ。


 これ以上、声が出ない。

 スゥはついに、ひざをついた。

 喉はすっかりがらがらで。

 体の熱に負けたのか、首の後ろが重くて、顔が上がらない。

 ……ふと、不思議に思った。

 さっきまで体に雨粒が当たっていたのに、いまはなにも感じない。そういえば、風もない。嵐はどうした? いったい、どこに行ったんだ? 

 残った気力で、顔を上げる。

 すると——


 ——青空が広がっていた。


 強風に飛ばされた雨雲は、いまや北の方に消えている。

 午後の白い日差しが、雨に濡れた街に、降りそそぐ。

 地面にできた水たまりが、鏡のようにきらめいている。

 遠くに見える草原が、雨のしずくを弾いて、きらきら輝いている。

 日差しに温められた風が、スゥの濡れた体をなでていく。

 嵐のあとの神秘的な光景に、しばし、スゥは目をうばわれた。

 スゥの周りで、一際大きな歓声が上がった。

 男たちが抱き合って喜んでいる。

 観客はバリケードを越えて、男たちをたたえている。

 拍手の嵐が巻き起こるなか、次々と、木柱がはがされていく。

 青空の下、巨大な、幼子の右足が、現れる。

 白く、きめ細かく、内側から水分がはじけそうなほど、ふっくらとした右足は、木柱のてっぺんで擦り傷ができたくらいで、ほとんど傷がなかった。

 スゥは、思わずほっとして、両手を広げて、仰向けに倒れた。

 視界いっぱいに、青空を映す。

 そうしていると、なんだか、胸の底から可笑しさがこみあげてきた。

 スゥは、声をあげて笑った。

 巨大な足が、街人のみんなに守られている。

 それが、自分のことのように、うれしかった。


                ——嵐の足 了


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