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その街は、広大な大陸の、南西部にあった。
それほど大きな街ではない。しかし、他の街との中継地のような場所であるがゆえ、人の往来は絶えず、さまざまな衣装の人々が、通りにひしめいていた。街の西側には、広大な河が流れていた。陸路を行く馬車だけでなく、川上や川下から、客船や商船、漁船など、数多くの帆船が行き来していた。
温暖な気候にめぐまれて、作物も家畜も、育ちやすかった。街外れには、芝生の整った敷地がいくつもあった。旅行客の中には、おだやかな立地に目をつけて、家を建て、定住する人もいるほどだった。
「すごい人だかり……」
旅人・スゥは、屋台の椅子に座って、通りの人波を眺めつつ、木製のジョッキに口をつけた。ジョッキの中には、オレンジ色の液体——特産の果物をしぼったジュースだ。柑橘系のさっぱりした口触りが、旅の疲れを癒してくれる。
丸い果物でいっぱいの屋台で、店主の男が言った。
「嬢ちゃん、風祭りを知らねえのか」
「風祭り?」
店主が「ほれ」と、視線を向ける。
店主の視線の先には、肌色の柱が見えた。
スゥにとってはおなじみの、巨大な足だ。この街の足は、街の西にある、大河のほとりに立っていた。太ももも、ふくらはぎも、まるで寸胴のようにずんぐりとしている。くるぶしより先の、足の部分は、内側からはち切れそうなほど膨れている。五本のゆびは、骨格がさだまっていないような、丸みを帯びた形をしている——幼子の右足だ。あいかわらず、太ももより上は、空気にかすんで見えなかった。
店主が言った。
「毎年、夏の前のこの時期、南の方から、とんでもねえ風が吹いてくるんだ。嵐ってやつだな。俺が生まれるよりずっと前は、神の怒りだ、って言われてたらしい。いまじゃあだれも信じてねえが」
「どうしてですか?」
店主は教えてくれた。
「嵐の理由がわかったんだ。昔、賢い学者さんが来て、調べてくれた。なんでも、南にある海の気温と、気圧のせいなんだとか」
店主はつづけて、
「その嵐っていうのが、とんでもなく強くてな。赤ん坊みてえなあの足は、まったく耐えられなくて、なんども倒れてたんだと。嵐が止んだら、ひとりでに起き上がるんだが、俺のひいひい爺さんたちは、それをかわいそうに思ったらしくてな。次の年から、街人がそろって、あの足にしがみついて、倒れないように支えるようになったんだ。それがみんな、面白かったんだろう。それ以来、毎年人が増えていって、当時はそれを風って呼んでたから、その名残で、風祭りと呼ばれるようになったんだと」
「へえ」
スゥは関心深そうにうなって、空気にかすむ足を見た。
「嬢ちゃんも見て行けばいい。自分で言うのもなんだが、ほかの街にないくらい、面白い騒ぎになるから」
「なるほど……考えておきます」
スゥはジュースを一口飲んで、せわしなく流れる人波を見つめた。




