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スゥは巨大な足を目指しながら、街中を見回した。いますぐ買うつもりはないが、ブラシとタオルは、そろそろ買い替えたほうがいいように思う。店の目星は、つけておいたほうがいいだろう。
ほどなく、雑貨屋を見つけた。棚をあれこれ見ていると、ブラシとタオルは難なく見つかった。帰りに買おうと決めて、スゥはまた歩き出した。
たくさんの街人とすれちがった。
忙しく働く男たち。買い物に行く婦人たち。遊び回る子どもたち。旅行客は見当たらない。そして、店主が言ったような、背信者らしい人影も……
「ふつうの街っぽいけど」
「さいしょはそう見えんだよ」
ブーツが応えた。
「いつも夜があるわけじゃねえのと、おんなじだ。暗闇ってのは、お天道様が出てるあいだはおとなしくしてるもんだろ」
「なるほどね」
スゥは、家と家のあいだ、日陰のつづく路地を見つめた。
「お日さまが出てるから、影になるところもあるけどね」
スゥは路地から目を離して、真っすぐ、巨大な足を目指した。
——スゥは気づかない。
スゥの後ろ、一定の距離を保って、小さな足音がついてきていた。
スゥのブーツは、すぐそれに気づいたけれど、黙っていた。
スゥがなにも聞かなかったからだ。
——しばらく進んで。
「あれえ?」
スゥはまた、行き止まりで立ち止まった。
街の通りは、家屋や露店にはさまれて、横に長い形になっている。目的の場所は、どの建物よりはるかに巨大で、少し顔を上げれば、屋根の上で見切れた肌色の太ももが見つかる。見切れた太ももを頼りに進めば、いずれたどりつけるはず……なのに、スゥは、スゥは行き止まりにばかり突き当たった。
「おいおい」
ブーツがため息をつく。
「ずいぶんな方向音痴じゃねえか。旅なんてやめちまえ」
「やめないし、方向音痴じゃない」
スゥは、通りを引き返した。右手に見切れた太ももを見つつ、先に進む。途中、路地を見つけて、そこに入る。路地の先はT字路になっていて、足を目指して、左に折れる。今度は左に、今度は右に——そうしたら今度は、さっきまでいた通りに出てしまった。
ブーツが、人間みたいなため息をつく。
「どん詰まりじゃねえか」
「詰んでない。でも、こうなったら、しょうがないよね。あの行き止まりを上って——」
「もしもし、おねえさん」
と、低いところから、弾むような声がした。
振り向くと、小柄な男の子がいた。スゥよりずっと幼い。裾のほつれた紺色シャツと、ポケットのやぶれた麻の短パンを穿いている。短パンからのぞく細い脚は、遊びまわっているのか、あちこち擦り傷ができていた。
男の子が、にっと笑う——開いた唇の隙間から、歯並びの悪い前歯が見えた。
「おねえさん、この街のひとじゃないでしょ」
「どうしてわかったの?」
「だって、ずっとあっちこっち見てるんだもん。この街のひとなら、どこになにがあるかわかってんだから、そんなことしないよ」
男の子は得意げに鼻を鳴らした。
「ね、ぼく、道案内してるんだ。よかったら案内するよ」
スゥは、それとなく、男の子を見つめた。
土にまみれた革の靴、すり傷だらけの脚、服とズボン……そして、男の子の、利発そうな顔……
スゥはやわらかく微笑んだ。
「じゃあ、お願いしていい?」(「おい」、とブーツが小声で言う)
「まっかせて! どこ行きたいの?」
スゥは真っすぐ指さした。
「あっち。あの足のところに行きたいんだけど」
男の子は、ほんの一瞬、表情を消した。
が、スゥが見下ろすときには、もとの明るい顔にもどっていた。
「任せてよ! ほら、こっち!」
男の子が、スゥの前を歩いた。
「あの足ばっかり見てるから、迷うんだ。そういうときは、ちゃんと前を見ないと」
男の子は、スゥが出てきた路地に入って、それを突き当りまで進む。
「ほら、見て」
男の子が、突き当りを指さす。
よく見ると、突き当りの壁に、切れ目がある。
男の子は、ためらいなく、壁に手を付けて、押した。
すると、壁が、回転扉のように開いた。扉の向こうには、別の路地がつづいていて、その先に、広い通りが見えている。
「これが、この街の歩き方。この路地を突っ切って、反対の区画に行くのが、この街のセオリーだよ」
「区画?」
「そう。どの通りもさ、建物がつらなって、壁みたいになってるの、わかるでしょ? この壁が、街をひとつひとつ、区切ってる。いまいるのが第1区画、この向こうが第2区画……で、あの足があるのが、第6区画って感じにね」
「なるほど」
スゥは神妙にうなずくいて、男の子についていく。
路地を進むと、さっきと同じくらい大きな通りに出た。
「あとはこれの繰り返し。路地に入って、扉を開ける。行き止まりだから通れないっていうのは、この街の人の考え方じゃないね。行く先がわかってるなら、どうやったら最短で着くのかって、考えなきゃ」
男の子が、スゥを見上げた。
「どうする? この先も同じような道だから、ひとりで行けると思うけど……案内があったほうが、便利だと思うな」
スゥは迷わずうなずいて、
「わたしもそう思う。ひとりだから、迷ったらどうしようって思ってたし」
(「心にもないことを……」と、ブーツがぼやいた)
「じゃあ決まりね!」
男の子はぴょんっと跳ねて、スゥの手をひいた。
「ついでに、街のこと、教えてあげる! まっすぐ足に行くだけじゃ、つまんないでしょ」
スゥは微笑みを浮かべて、男の子に案内をまかせた。




