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——翌朝。
日課のランニングを終えて、朝食を取ったあと、スゥは旅支度をして、ホテルを出た。
朝の街は、いつもの活気を取りもどしていた。さわがしくなく、道行く人はみんな、落ち着いている。それでも、会話の節々に、昨日のコンテストの結果を思わせるような言葉が、ちらついていた。
スゥはまっすぐ、街の出口に向かった。
詰め所には、壮年の男性が座っていた。
街を出る手続きをすると、男性が「行ってらっしゃい」と見送ってくれる。
スゥは一礼して、街を出た。
さて、次はどこに行こう。
そう思って地図を広げたとき、
「スゥさん!」
と、後ろから、フェレアが駆けてきた。
いつもの衛兵服じゃない。軽そうな綿の上着に、ジーンズのハーフパンツを穿いている。フェレアの脚は、とても太くて、筋肉質だった。旅人のスゥにとって、好ましく、うらやましい……そして、この脚が、街の人たちに、新しい感性を与えたのだ。
フェレアは、スゥを前にしても、すぐに言葉が出なかった。
だから先に、スゥが言った。
「優勝、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
フェレアは照れたように頬をかいて、
「でも、ほんとうに、わたしでよかったんですかね。なんというか、まだ夢の中にいるみたいな気がしていて……」
「会場にいたたくさんの人が、フェレアの脚が素敵だって思ったってことでしょ。もっと自信を持って」
「そう、ですかね」
「そうだよ。フェレアを推薦した、ジェフさんのためにも」
フェレアは、ぼっと音が出そうなほど、頬を真っ赤にした。
しかしすぐ、フェレアから笑顔が消えた。
スゥは、ずっと先までつづく道を背に、おだやかな笑顔を浮かべている。
フェレアは、悲しそうな顔をして、
「……行っちゃうんですね?」
「この街の足は、もう見たから」
「スゥさんは、足を見て回っているんですね」
「うん。そういえば、そういう話、ぜんぜんしなかったね」
「ですね」
フェレアは、なんとか晴れやかな気持ちで見送ろうと、笑顔になろうとする。けれど、ぜんぜんうまくできなくて、なんとも言えない表情になってしまう。
「もっと、お話すればよかったです。わたし、自分のことばっかり考えて、ぜんぜん、スゥさんのこと、知れませんでした」
「ちょっとしか街にいないんだもん。わたしだって、フェレアのこと、ぜんぜん知れてない」
「それじゃあ、あの——」
フェレアは、スゥの手を取って、真剣なまなざしで、言った。
「また、この街に来てください。まだ、案内していないところ、たくさんあります。コンテストがなくても、この街は、素敵なところが、いっぱい、ありますから」
スゥは、フェレアの視線を受け止めて、
「必ず」
「ぜったい、ぜったいですよ?」
「ぜったい来る。忘れないから」
「もし来なかったら、わたしから、探しに出ますからね」
「さすがにそこまでしなくていい。ジェフさんといっしょに、この街で——」
「わたしがそうしたいんです」
フェレアにゆずる気はないらしい。
そして、彼女は気づいているだろうか。スゥと話すあいだ、ずっと、両目から、大粒の涙を流していることに……
スゥは、根負けしたように微笑んだ。
「わかった。でも、わたし、待たないから」
ふたりはしばし見つめあって——
——スゥは、手を離した。
フェレアにも、街にも、巨大な足にも背を向けて、スゥは歩き出す。
さようなら、さようなら、と、背中から声が聞こえてくる。
スゥは、振り向かず、長い道を歩いていった。
長い道はうねうねと曲がりくねって、やがて、背後の街が見えなくなる。
スゥは言った。
「街ってさ、どこにでも、郵便局があるよね」
「まあそうだな」とブーツ。
「このあいだ、ブラシとタオルを買い替えたばっかりだし。それに、コンテストの参加費をもらったから、お金には割と余裕がある」
「そうだな」
ブーツはにやりと言った。
「素直になれよ」
「うるさい」
スゥは短く鼻をすすった。
——着飾った足 了




