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14

 ——翌朝。

 日課のランニングを終えて、朝食を取ったあと、スゥは旅支度をして、ホテルを出た。

 朝の街は、いつもの活気を取りもどしていた。さわがしくなく、道行く人はみんな、落ち着いている。それでも、会話の節々に、昨日のコンテストの結果を思わせるような言葉が、ちらついていた。

 スゥはまっすぐ、街の出口に向かった。

 詰め所には、壮年の男性が座っていた。

 街を出る手続きをすると、男性が「行ってらっしゃい」と見送ってくれる。

 スゥは一礼して、街を出た。

 さて、次はどこに行こう。

 そう思って地図を広げたとき、

「スゥさん!」

 と、後ろから、フェレアが駆けてきた。

 いつもの衛兵服じゃない。軽そうな綿の上着に、ジーンズのハーフパンツを穿いている。フェレアの脚は、とても太くて、筋肉質だった。旅人のスゥにとって、好ましく、うらやましい……そして、この脚が、街の人たちに、新しい感性を与えたのだ。

 フェレアは、スゥを前にしても、すぐに言葉が出なかった。

 だから先に、スゥが言った。

「優勝、おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

 フェレアは照れたように頬をかいて、

「でも、ほんとうに、わたしでよかったんですかね。なんというか、まだ夢の中にいるみたいな気がしていて……」

「会場にいたたくさんの人が、フェレアの脚が素敵だって思ったってことでしょ。もっと自信を持って」

「そう、ですかね」

「そうだよ。フェレアを推薦した、ジェフさんのためにも」

 フェレアは、ぼっと音が出そうなほど、頬を真っ赤にした。

 しかしすぐ、フェレアから笑顔が消えた。

 スゥは、ずっと先までつづく道を背に、おだやかな笑顔を浮かべている。

 フェレアは、悲しそうな顔をして、

「……行っちゃうんですね?」

「この街の足は、もう見たから」

「スゥさんは、足を見て回っているんですね」

「うん。そういえば、そういう話、ぜんぜんしなかったね」

「ですね」

 フェレアは、なんとか晴れやかな気持ちで見送ろうと、笑顔になろうとする。けれど、ぜんぜんうまくできなくて、なんとも言えない表情になってしまう。

「もっと、お話すればよかったです。わたし、自分のことばっかり考えて、ぜんぜん、スゥさんのこと、知れませんでした」

「ちょっとしか街にいないんだもん。わたしだって、フェレアのこと、ぜんぜん知れてない」

「それじゃあ、あの——」

 フェレアは、スゥの手を取って、真剣なまなざしで、言った。

「また、この街に来てください。まだ、案内していないところ、たくさんあります。コンテストがなくても、この街は、素敵なところが、いっぱい、ありますから」

 スゥは、フェレアの視線を受け止めて、

「必ず」

「ぜったい、ぜったいですよ?」

「ぜったい来る。忘れないから」

「もし来なかったら、わたしから、探しに出ますからね」

「さすがにそこまでしなくていい。ジェフさんといっしょに、この街で——」

「わたしがそうしたいんです」

 フェレアにゆずる気はないらしい。

 そして、彼女は気づいているだろうか。スゥと話すあいだ、ずっと、両目から、大粒の涙を流していることに……

 スゥは、根負けしたように微笑んだ。

「わかった。でも、わたし、待たないから」

 ふたりはしばし見つめあって——

 ——スゥは、手を離した。

 フェレアにも、街にも、巨大な足にも背を向けて、スゥは歩き出す。

 さようなら、さようなら、と、背中から声が聞こえてくる。

 スゥは、振り向かず、長い道を歩いていった。

 長い道はうねうねと曲がりくねって、やがて、背後の街が見えなくなる。

 スゥは言った。

「街ってさ、どこにでも、郵便局があるよね」

「まあそうだな」とブーツ。

「このあいだ、ブラシとタオルを買い替えたばっかりだし。それに、コンテストの参加費をもらったから、お金には割と余裕がある」

「そうだな」

 ブーツはにやりと言った。

「素直になれよ」

「うるさい」

 スゥは短く鼻をすすった。


              ——着飾った足 了


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