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——街中の外れにある、落ち着いた雰囲気のカフェ。
そこは、先日、ジェフに連れていかれたカフェだった。
おだやかな店内には、スゥとフェレア以外、だれもいない。
フェレアは迷いなく、トマトスープのパスタを頼んだ。
「ここ、ずっと来たかったんですけど、ひとりで入るには、敷居が高く感じちゃって………あの、ほんとにおごりでいいんですか? 自分の分は払いますけど」
「いいよ、これまでのお礼も兼ねてるし」
「ありがとうございます!」
厨房から、香辛料の香りがただよってくる。
昨日のパスタの味が、口の中に広がっていく。なんだかんだあったけど、パスタがおいしかったのは事実だし、体は正直に、その味を思い出している。
(こういうのも人生か)
そう思いつつ、スゥは二度目のパスタを待って、お冷で口をうるおした。
ほどなく、店主がパスタを運んできた。
フェレアは目をきらきらさせて、赤いトマトスープにひたったパスタを、フォークで巻いて、口にする。酸味とうまみが、後から後からやってきて、パスタを巻く手が止まらない。唇をスープで赤くなるのもかまわず、フェレアはどんどん、
スゥもフォークを取った。
昨日とちがって、落ち着いて食べられる。昨日の自分が、どんなふうにフォークを使ったのか、まったく覚えていない。でも、フォークを逆さまに持っていても、フェレアなら気にしないはずだ。
スゥは、パスタを巻いて、口にする。
トマトの酸味。スープのうまみ。やわらかいパスタの麺。
……味がしなかった。
気兼ねはまったくしていない。
しかし、スゥの意識は、目の前の少女にばかり向いていた。
フェレアより少しおくれて、スゥはパスタを食べきった。
昨日と量は変わっていないのに、昨日よりずっとおなかが膨れている。
店主が食後のコーヒーを持ってきた。
フェレアは、カップに砂糖とミルクを入れて、甘くしたコーヒーを一口飲むと、ゆったりと背もたれに寄りかかって、満足そうな息をついた。
「すごくおいしかったです。こんなにおいしいなら、もっと早く、お店ができたときに来ればよかった」
フェレアはうれしそうに口元をゆるめて、
「スゥさん、ありがとうございます。今度来るときは、わたしがごちそうしますね」
……スゥの返事はなかった。
フェレアが怪訝に、スゥを見つめる。
スゥは、ぼうっと、コーヒーを見つめていた。わずかにうつむいて、考えこむように、目を細めている。コーヒーの表面でたゆたっている白い湯気は、コーヒーが冷めるにつれて、しりすぼみに消えていた。
フェレアは首をかしげて、
「あの、どうしたんですか? もしかして、調子が悪いとか? だったらお医者さんに——」
スゥは、そっと目を閉じて、考えをまとめた。
「……フェレアを誘ったのは、ひとつ、たしかめたいことがあったから」
「え? なにをですか?」
スゥは、胸にたまっていたもどかしさを抜ききるように、深く息をつく。
顔を上げる。
そして、困惑顔のフェレアに、スゥは言った。
「謀ったでしょ」
「……え?」
フェレアの表情が、固まる。
スゥは、フェレアの嘘を確信して、つづけた。
「あのコンテスト、本当は、あなたが出る予定だったんだよね。わたし、知ってるんだから」
肝心なところで嘘がつけない。
この子はそういう子だと、スゥは理解した。




