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10

 ——街中の外れにある、落ち着いた雰囲気のカフェ。

 そこは、先日、ジェフに連れていかれたカフェだった。

 おだやかな店内には、スゥとフェレア以外、だれもいない。

 フェレアは迷いなく、トマトスープのパスタを頼んだ。

「ここ、ずっと来たかったんですけど、ひとりで入るには、敷居が高く感じちゃって………あの、ほんとにおごりでいいんですか? 自分の分は払いますけど」

「いいよ、これまでのお礼も兼ねてるし」

「ありがとうございます!」

 厨房から、香辛料の香りがただよってくる。

 昨日のパスタの味が、口の中に広がっていく。なんだかんだあったけど、パスタがおいしかったのは事実だし、体は正直に、その味を思い出している。

(こういうのも人生か)

 そう思いつつ、スゥは二度目のパスタを待って、お冷で口をうるおした。


 ほどなく、店主がパスタを運んできた。

 フェレアは目をきらきらさせて、赤いトマトスープにひたったパスタを、フォークで巻いて、口にする。酸味とうまみが、後から後からやってきて、パスタを巻く手が止まらない。唇をスープで赤くなるのもかまわず、フェレアはどんどん、

 スゥもフォークを取った。

 昨日とちがって、落ち着いて食べられる。昨日の自分が、どんなふうにフォークを使ったのか、まったく覚えていない。でも、フォークを逆さまに持っていても、フェレアなら気にしないはずだ。

 スゥは、パスタを巻いて、口にする。

 トマトの酸味。スープのうまみ。やわらかいパスタの麺。

 ……味がしなかった。

 気兼ねはまったくしていない。

 しかし、スゥの意識は、目の前の少女にばかり向いていた。


 フェレアより少しおくれて、スゥはパスタを食べきった。

 昨日と量は変わっていないのに、昨日よりずっとおなかが膨れている。

 店主が食後のコーヒーを持ってきた。

 フェレアは、カップに砂糖とミルクを入れて、甘くしたコーヒーを一口飲むと、ゆったりと背もたれに寄りかかって、満足そうな息をついた。

「すごくおいしかったです。こんなにおいしいなら、もっと早く、お店ができたときに来ればよかった」

 フェレアはうれしそうに口元をゆるめて、

「スゥさん、ありがとうございます。今度来るときは、わたしがごちそうしますね」

 ……スゥの返事はなかった。

 フェレアが怪訝に、スゥを見つめる。

 スゥは、ぼうっと、コーヒーを見つめていた。わずかにうつむいて、考えこむように、目を細めている。コーヒーの表面でたゆたっている白い湯気は、コーヒーが冷めるにつれて、しりすぼみに消えていた。

 フェレアは首をかしげて、

「あの、どうしたんですか? もしかして、調子が悪いとか? だったらお医者さんに——」

 スゥは、そっと目を閉じて、考えをまとめた。

「……フェレアを誘ったのは、ひとつ、たしかめたいことがあったから」

「え? なにをですか?」

 スゥは、胸にたまっていたもどかしさを抜ききるように、深く息をつく。

 顔を上げる。

 そして、困惑顔のフェレアに、スゥは言った。

「謀ったでしょ」

「……え?」

 フェレアの表情が、固まる。

 スゥは、フェレアの嘘を確信して、つづけた。

「あのコンテスト、本当は、あなたが出る予定だったんだよね。わたし、知ってるんだから」

 肝心なところで嘘がつけない。

 この子はそういう子だと、スゥは理解した。


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