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——翌日。
スゥは太陽が上るまえに、目を覚ました。
体が重い。
その原因には心当たりしかないけれど、一晩寝たら、少しはマシになっていた。
スゥは、ブーツを履いて、ランニングに向かった。
早朝の、静かな空気につつまれた街。
軽くストレッチをして走り出す。
ホテルの前から、街の入り口に向かっていく。
空が青く、白んでいく。
全身に残っていた気だるさは、温かい血が巡るのといっしょに、どこかに消えていった。
あと一周しよう。
そうして、詰め所のあたりで折り返したとき、
「あ、スゥさん!」
街のほうから、フェレアが、手を振っていた。
フェレアは、いつもの守衛服ではなく、ゆったりとしたトレーニングウェアを着ていた。
「スゥさんもランニングですか?」
「うん。フェレアも?」
「はい! 鍛えるのが日課なんで。よかったら、いっしょに走りませんか」
スゥは、ひとつ、うなずいて、
「いいよ」
と答えた。
フェレアと並んで、朝の街を走っていく。
朝日がのぼって、あたたかい風が吹きはじめた。朝の風にあてられて、鳥も、植木も、花壇の花も、すっかり目が覚めたらしい。鳥の声、草木のざわめき、揺れる花からただよう香り——街じゅうに、心地よい朝の空気が、広がっていく。
ふたりは、噴水のある広場まで走って、折り返した。
「コンテストまで、あと三日です」
フェレアが言った。
「準備はだいじょうぶそうですか?」
「正直、はじめてのことだから、なにを準備したらいいのか、よくわかってない。でも、このあいだ、フェレアといっしょに用意したあの衣裳で、十分だと思う」
「そうですか? ならよかったです」
ふたりはまた、黙々と走る。
ホテルが近づいて……スゥは、立ち止まらず、フェレアの隣についていった。
フェレアのペースは、かなり速い。スゥはいま、はじめて、フェレアを意識した。隣に立つと、フェレアのほうが、スゥより頭ひとつ大きいことがわかる。ゆったりしたトレーニングウェアの上からでも、胸とお尻のラインははっきりしているし、これだけのペースで走るのだから、かなりの健脚だともわかった。
フェレアはまったく、息を切らしていなかった。
それはスゥも同じ。
ふたりは詰め所で折り返して、また、広場に走っていく。
街中に人が増えはじめる。
(走りすぎ)
日課のランニングとはいえ、朝食もなしにここまで走ったことはない。体力はつけたいけれど、やりすぎることを、スゥは望んではいない。スゥは自覚した——この街に来てからずっと、ペースを乱されっぱなしだ。
スゥには、スゥのペースがある。
いつまでも、相手の手のひらの上で転がされるのは、スゥの性質にあわなかった。
だから、スゥはわざと、ペースを落とした。
フェレアがわずかに先を行く。
スゥは、フェレアに呼びかけた。
「きょう、時間ある?」
「え?」
フェレアがペースを落として、スゥの隣に立つ。
「そうですね。昼間で詰め所の番をしたら、午後は暇です」
「なら、付き合ってくれない?」
スゥは、不安そうに微笑んで、
「やっぱり、コンテストの準備、もうちょっとやったほうがいいかなって。衣装だって、フェレアが選んでくれたものだけじゃないんでしょ。だったら、ほかにもいろいろ、見といたほうがいいだろうし」
フェレアは、うれしそうな顔をして、
「そういうことなら、任せてください! お昼を過ぎたくらいに、このあいだの公園で、待合わせましょう!」
ふたりは、ホテルの前で別れた。
フェレアは詰め所に向けて走っていった。まだまだ余裕があるらしい。フェレアの走り方は、大きなウサギが跳ねるような、楽しそうな足取りをしていた。
スゥは、フェレアの背中を、じっと見送る。
朝日に照らされるなか、フェレアの背中は、逆光で、影っていた。




