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8

 ——翌日。

 スゥは太陽が上るまえに、目を覚ました。

 体が重い。

 その原因には心当たりしかないけれど、一晩寝たら、少しはマシになっていた。

 スゥは、ブーツを履いて、ランニングに向かった。


 早朝の、静かな空気につつまれた街。

 軽くストレッチをして走り出す。

 ホテルの前から、街の入り口に向かっていく。

 空が青く、白んでいく。

 全身に残っていた気だるさは、温かい血が巡るのといっしょに、どこかに消えていった。

 あと一周しよう。

 そうして、詰め所のあたりで折り返したとき、

「あ、スゥさん!」

 街のほうから、フェレアが、手を振っていた。

 フェレアは、いつもの守衛服ではなく、ゆったりとしたトレーニングウェアを着ていた。

「スゥさんもランニングですか?」

「うん。フェレアも?」

「はい! 鍛えるのが日課なんで。よかったら、いっしょに走りませんか」

 スゥは、ひとつ、うなずいて、

「いいよ」

 と答えた。


 フェレアと並んで、朝の街を走っていく。

 朝日がのぼって、あたたかい風が吹きはじめた。朝の風にあてられて、鳥も、植木も、花壇の花も、すっかり目が覚めたらしい。鳥の声、草木のざわめき、揺れる花からただよう香り——街じゅうに、心地よい朝の空気が、広がっていく。

 ふたりは、噴水のある広場まで走って、折り返した。

「コンテストまで、あと三日です」

 フェレアが言った。

「準備はだいじょうぶそうですか?」

「正直、はじめてのことだから、なにを準備したらいいのか、よくわかってない。でも、このあいだ、フェレアといっしょに用意したあの衣裳で、十分だと思う」

「そうですか? ならよかったです」

 ふたりはまた、黙々と走る。

 ホテルが近づいて……スゥは、立ち止まらず、フェレアの隣についていった。

 フェレアのペースは、かなり速い。スゥはいま、はじめて、フェレアを意識した。隣に立つと、フェレアのほうが、スゥより頭ひとつ大きいことがわかる。ゆったりしたトレーニングウェアの上からでも、胸とお尻のラインははっきりしているし、これだけのペースで走るのだから、かなりの健脚だともわかった。

 フェレアはまったく、息を切らしていなかった。

 それはスゥも同じ。

 ふたりは詰め所で折り返して、また、広場に走っていく。

 街中に人が増えはじめる。

(走りすぎ)

 日課のランニングとはいえ、朝食もなしにここまで走ったことはない。体力はつけたいけれど、やりすぎることを、スゥは望んではいない。スゥは自覚した——この街に来てからずっと、ペースを乱されっぱなしだ。

 スゥには、スゥのペースがある。

 いつまでも、相手の手のひらの上で転がされるのは、スゥの性質にあわなかった。

 だから、スゥはわざと、ペースを落とした。

 フェレアがわずかに先を行く。

 スゥは、フェレアに呼びかけた。

「きょう、時間ある?」

「え?」

 フェレアがペースを落として、スゥの隣に立つ。

「そうですね。昼間で詰め所の番をしたら、午後は暇です」

「なら、付き合ってくれない?」

 スゥは、不安そうに微笑んで、

「やっぱり、コンテストの準備、もうちょっとやったほうがいいかなって。衣装だって、フェレアが選んでくれたものだけじゃないんでしょ。だったら、ほかにもいろいろ、見といたほうがいいだろうし」

 フェレアは、うれしそうな顔をして、

「そういうことなら、任せてください! お昼を過ぎたくらいに、このあいだの公園で、待合わせましょう!」

 ふたりは、ホテルの前で別れた。

 フェレアは詰め所に向けて走っていった。まだまだ余裕があるらしい。フェレアの走り方は、大きなウサギが跳ねるような、楽しそうな足取りをしていた。

 スゥは、フェレアの背中を、じっと見送る。

 朝日に照らされるなか、フェレアの背中は、逆光で、影っていた。


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