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7

 ——夜。

 ホテルの部屋にもどるなり、スゥはベッドに倒れこんだ。

(……つかれた)

 昨日も疲れたけど、今日はそれ以上に疲れていた。

 昨日とちがうのは、このまま倒れていても、ぜんぜん眠れそうにないこと。

 さっさと眠ってしまいたいのに、頭がずっと冴えている。得体の知れないもどかしさのようなものが、胸のあたりにうずまいて、背筋がぞわぞわと落ち着かなかった。

「まあ、なんだ、元気出せよ」

 履きっぱなしのブーツが、めずらしく、気づかわしそうに言った。

「おれには人間の気持ちなんてさっぱりだけどよ、こういうのも、人生っていうんじゃねえか?」

「えらそうなこと言わないで」

 スゥは、シーツに顔をうずめて、くぐもった声で言った。

「……嫌んなる」

「なにが?」

「わたし、なんて馬鹿なんだろうって。変な期待ばっか、しちゃってさ」

「どういうことだ?」

 スゥは、首だけ右に向けて、

「仮に、仮の話ね。もしあの場で、お付き合いみたいな話になったとしてさ、わたしはお断りするつもりだった。わたしは旅をしていたい、だから、この街に残ることはできないって。そう言うつもりだった」

「じゃあ、なんで、そんな元気ないんだ?」

「それは……」

 いまの気持ちは、はっきりと言葉にできる。

 けど、言葉にしたくなかった。

 言葉にすれば、自分の浅ましさを認めることになってしまう。

 自分にはまだ、そういう浅ましい部分が残っていると、認めなければいけなくなる。

 そういう、皮算用みたいな期待をするのは、旅に出ると決めた、その前に、捨てていたはずなのに。

 けれど……

「ちょっとだけ、気持ちよくなりたかったから」

 スゥは、言葉にすることにした。

 どうせ、聞いているのは、生身の人間じゃない。

 道端に生えている葦とか、深い深い谷底とか、そういうのに話すのと、変わりないと思ったから。

「どういうことだ?」とブーツ。

 スゥは言った。

「お付き合いをお願いされたとするじゃない? それでさ、そのお願いを断れば……なんか、わたしのほうが、ちょっとだけ、相手より良い立場にいるって、感じられるでしょ。そんなことしたって、ジェフさんがわたしより下になることも、わたしが上になることもないのに。けど、あのとき、わたしはそういう、優越感みたいなのを、感じたかった。その期待が裏切られたから……だから、こうして、傷ついてるの」

「んん?」

 トレッキングブーツは、低くうなって、

「よくわかんねえけど……要は、あれだ、自業自得ってやつ」

「まあ、そんな感じ」

「馬鹿だねえ」

「うるさい」

 スゥはなんとか身体を起こして、ブーツを脱いだ。

 どんなに心が痛んでも、体はやることを覚えている。

 習慣には、勝てない。

 スゥは、ブーツとブラシを持って、浴室に向かった。


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