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スゥは、巨大な左足を見上げた。
ほかの街で見てきたものと同じように、その左足は、天を衝く肌色の巨塔のように、人間の足の数百倍の大きさをしていた。巨大なぶん迫力があるが、太ももから爪先までのバランスを見ると、かなり細身に見える。骨格を考えれば、おそらく女性の足だろう。
これまでの街でも、女性のものと思われる足は、何度となく見てきた。
しかし、そのどれともちがって、むき出しの素足には、あらゆる装飾がきらめいていた。
幾何学模様の刺青が彫られている。
銀色のチェーンや、ビーズを束ねたアクセサリーが巻かれている。
白く長い爪には、色とりどりの宝石や、ネイルアートがほどこされていて、五本のゆびに夜空の星を映しているかのように、それらはキラキラと輝いている。
足首には、青紫色の宝石を繋げたアンクレット。
五本のゆびには、ネイルの他に、銀色のフィンガーリングがはめられている。
——巨大な左足には、およそ、この世の足飾りのすべてがつまっていた。
左足の麓には、長い待機列ができていた。
巨大な足のそばに設けられた石垣の門には、「第164回美脚コンテスト」と、看板が立てられていた。
「あれ、なに?」
スゥが指さす先——巨大な足を囲むように作られた石垣には、縦長の絵画が、防水用のケースに入れられて、所せましと掛けられていた。
フェレアが言った。
「歴代コンテストの優勝者の足です。コンテスト専属の画家が、その年の優勝者の足を、ああやって、絵として残してくれるんです。とっても名誉なことですよ」
列がひとつ進むごとに、石垣の絵が見えてくる。
油絵、水彩画、モザイクアート……表現の仕方にちがいはあれど、優勝者の足は、どれも、細く、すらっとしていた。左端の絵が初代優勝者、右端が前回優勝者の足になっている。古い絵は素足のものがほとんどで、時代が進むにつれて、アクセサリーで飾った足が多くなっていた。
(……まさか優勝しないだろうな)
スゥは、そわそわと落ち着かない気持ちをごまかすように、フェレアにたずねた。
「あの足、見つかったときから、こんな感じに飾られてたんだよね?」
「はい。スゥさんは、あの足のこと、どのくらいご存じですか?」
「存在は知ってたけど、それ以外はぜんぜん」
それなら、とフェレアが言った。
「あの左足は、一七〇年前に、初代の長老様が世界を冒険していたときに、発見したそうです。さいしょは、土地をならしたり、家を建てたり、街づくりでいそがしかったみたいですが……みんなが落ち着いたころに、街建設の労いとして、そのときの長老様が決めました。当時の出資金は、ぜんぶ、長老様が旅でかき集めた金銀財宝で賄われたとか」
「へえ」
またひとつ、列が進む。
会場の入り口には、机を三つ並べただけの、簡単な受付があった。受付には、スーツ姿の男女が三人、座っている。彼らは、手元の用紙に、参加者をまとめているようだ。
列がひとつ進むごとに、スゥの後ろに、新しい人が並ぶ。男性の参加者も、少なくなかった。女性に限定したコンテストではないらしい。どの男性も、七分丈のズボンを穿いていて、女性かと見間違うくらい、白く、細い脚をさらしていた。
スゥはたずねた。
「フェレアは、わたしに優勝してほしいの?」
「うーん」
フェレアはうなって、
「そうなったら面白い、とは思います。でも、コンテストの参加者は、毎年百人は超えますし、そんな中、最高峰に選ばれるって、かなり厳しいです。審査員の感性も、それぞれなので……」
スゥの視線を感じたのか、フェレアは、はっとした顔をして、
「でもでも! スゥさんの足、ほんとにきれいです! 自信持ってください! わたしも、いいところまで行けるよう、しっかりサポートしますから」
フェレアのやる気がすさまじい。
参加費さえもらえるなら、それでいいのに、あまり期待されても……
スゥはひとまず、笑顔を作っておいた。
「次の方!」
スゥは、受付の一番奥に向かった。
受付には、眼鏡をかけた若い男性が座っていた。
「お名前は?」
「スゥ」
「身長と、脚の長さを教えてください」
「あー、えっと、測ったことなくて」
「では、身長計に立ってください」
言われたとおりに、スゥは、身長計の上に立つ。
眼鏡の男性は、目を細めて、目盛りの数字を、用紙に書きとめる。
男性は言った。
「当日は、正午までに、ここに集合してください。出場の順番は、当日、くじ引きで決めます。服装に指定はありませんが、魅力的な足に見えるよう、衣装を選んでください。街中の服飾店は、大会出場者には無料で衣装を提供しています。ご活用ください」
受付はこれで終わりらしい。
スゥはうなずいて、次の参加者にゆずるべく、その場を離れた。
——そのとき。
「……やっぱり、そうなんだ」
スゥは振り向いた。
いまの声は? たぶん、あの眼鏡のひとだったと思うけど……
しかし、眼鏡の男性はもう、スゥを見ていなかった。
「次の方!」
と、待機列に呼び掛けている。
立ち止まるスゥの手を、フェレアがにぎった。
「さあ! 次は衣装決めです。スゥさんに似合う服を見つけましょう!」
フェレアが、スゥの手を引いて、参加者の列の外に出る。
気がかりだけど、わからないことを考えても、仕方ない。
スゥはおとなしく、フェレアに手を引かれていた。




