↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/50

3

 スゥは、巨大な左足を見上げた。

 ほかの街で見てきたものと同じように、その左足は、天を衝く肌色の巨塔のように、人間の足の数百倍の大きさをしていた。巨大なぶん迫力があるが、太ももから爪先までのバランスを見ると、かなり細身に見える。骨格を考えれば、おそらく女性の足だろう。

 これまでの街でも、女性のものと思われる足は、何度となく見てきた。

 しかし、そのどれともちがって、むき出しの素足には、あらゆる装飾がきらめいていた。

 幾何学模様の刺青が彫られている。

 銀色のチェーンや、ビーズを束ねたアクセサリーが巻かれている。

 白く長い爪には、色とりどりの宝石や、ネイルアートがほどこされていて、五本のゆびに夜空の星を映しているかのように、それらはキラキラと輝いている。

 足首には、青紫色の宝石を繋げたアンクレット。

 五本のゆびには、ネイルの他に、銀色のフィンガーリングがはめられている。

 ——巨大な左足には、およそ、この世の足飾りのすべてがつまっていた。


 左足の麓には、長い待機列ができていた。

 巨大な足のそばに設けられた石垣の門には、「第164回美脚コンテスト」と、看板が立てられていた。

「あれ、なに?」

 スゥが指さす先——巨大な足を囲むように作られた石垣には、縦長の絵画が、防水用のケースに入れられて、所せましと掛けられていた。

 フェレアが言った。

「歴代コンテストの優勝者の足です。コンテスト専属の画家が、その年の優勝者の足を、ああやって、絵として残してくれるんです。とっても名誉なことですよ」

 列がひとつ進むごとに、石垣の絵が見えてくる。

 油絵、水彩画、モザイクアート……表現の仕方にちがいはあれど、優勝者の足は、どれも、細く、すらっとしていた。左端の絵が初代優勝者、右端が前回優勝者の足になっている。古い絵は素足のものがほとんどで、時代が進むにつれて、アクセサリーで飾った足が多くなっていた。

(……まさか優勝しないだろうな)

 スゥは、そわそわと落ち着かない気持ちをごまかすように、フェレアにたずねた。

「あの足、見つかったときから、こんな感じに飾られてたんだよね?」

「はい。スゥさんは、あの足のこと、どのくらいご存じですか?」

「存在は知ってたけど、それ以外はぜんぜん」

 それなら、とフェレアが言った。

「あの左足は、一七〇年前に、初代の長老様が世界を冒険していたときに、発見したそうです。さいしょは、土地をならしたり、家を建てたり、街づくりでいそがしかったみたいですが……みんなが落ち着いたころに、街建設の労いとして、そのときの長老様が決めました。当時の出資金は、ぜんぶ、長老様が旅でかき集めた金銀財宝で賄われたとか」

「へえ」

 またひとつ、列が進む。

 会場の入り口には、机を三つ並べただけの、簡単な受付があった。受付には、スーツ姿の男女が三人、座っている。彼らは、手元の用紙に、参加者をまとめているようだ。

 列がひとつ進むごとに、スゥの後ろに、新しい人が並ぶ。男性の参加者も、少なくなかった。女性に限定したコンテストではないらしい。どの男性も、七分丈のズボンを穿いていて、女性かと見間違うくらい、白く、細い脚をさらしていた。

 スゥはたずねた。

「フェレアは、わたしに優勝してほしいの?」

「うーん」

 フェレアはうなって、

「そうなったら面白い、とは思います。でも、コンテストの参加者は、毎年百人は超えますし、そんな中、最高峰に選ばれるって、かなり厳しいです。審査員の感性も、それぞれなので……」

 スゥの視線を感じたのか、フェレアは、はっとした顔をして、

「でもでも! スゥさんの足、ほんとにきれいです! 自信持ってください! わたしも、いいところまで行けるよう、しっかりサポートしますから」

 フェレアのやる気がすさまじい。

 参加費さえもらえるなら、それでいいのに、あまり期待されても……

 スゥはひとまず、笑顔を作っておいた。


「次の方!」 

 スゥは、受付の一番奥に向かった。

 受付には、眼鏡をかけた若い男性が座っていた。

「お名前は?」

「スゥ」

「身長と、脚の長さを教えてください」

「あー、えっと、測ったことなくて」

「では、身長計に立ってください」

 言われたとおりに、スゥは、身長計の上に立つ。

 眼鏡の男性は、目を細めて、目盛りの数字を、用紙に書きとめる。

 男性は言った。

「当日は、正午までに、ここに集合してください。出場の順番は、当日、くじ引きで決めます。服装に指定はありませんが、魅力的な足に見えるよう、衣装を選んでください。街中の服飾店は、大会出場者には無料で衣装を提供しています。ご活用ください」

 受付はこれで終わりらしい。

 スゥはうなずいて、次の参加者にゆずるべく、その場を離れた。

 ——そのとき。


「……やっぱり、そうなんだ」


 スゥは振り向いた。

 いまの声は? たぶん、あの眼鏡のひとだったと思うけど……

 しかし、眼鏡の男性はもう、スゥを見ていなかった。

「次の方!」

 と、待機列に呼び掛けている。

 立ち止まるスゥの手を、フェレアがにぎった。

「さあ! 次は衣装決めです。スゥさんに似合う服を見つけましょう!」

 フェレアが、スゥの手を引いて、参加者の列の外に出る。

 気がかりだけど、わからないことを考えても、仕方ない。

 スゥはおとなしく、フェレアに手を引かれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。