↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/50

1

「スゥさん!」

 立ち寄った街の詰め所で、スゥは、守衛の少女に、手をにぎられた。

「あなたを、わたしの推しにさせてください!」

「……はい?」

 スゥよりずっとがたいのいい少女だった。武骨な守衛服の上からでも、メリハリのある体が見て取れる。若く、はきはきしたしゃべり口は、だれが聞いても、心地よい印象を受けるだろう。

 しかし、あまりの勢いに押されて、スゥはまばたくしかなかった。

 スゥが困っているのに、やっと思い至ったらしい。

「す、すいません!」

 と、少女が手を離した。

 やや気まずい空気が流れるなか、スゥはたずねた。

「えっと、推しって、なんですか?」

「ああ、その、えっとですね、」

 少女が言った。

「この街では、毎年この時期に、美脚コンテストが催されるんです。それがちょうど、来週で……」

「もしかして、」

 スゥは言った。

「それに出てほしいと?」

「はい!」

 少女は前のめりになって、

「スゥさんの足は、わたしがこれまで見てきたどんな足より、すらっとしてて、健康的で、すごくきれいだと思うんです」

「そうかな」

「そうですよ、自信持ってください!」

(別に自信がないわけじゃないんだけど……)

 少女は目を見開いて、

「わたし、これまで推しってどんな感覚なのか、わかりませんでした。でも、スゥさんが街に歩いてくるのを見たとき、ピキーンってきたんです!」

「ピキーン?」

「はい、ピキーン、です!」

 少女に手を取られ、スゥは困ったように天井を見つめた。

 この街に巨大な足があるのは、地図を見てきたから、知っていた。もちろん。美脚コンテストがあることも。その時期を見越して歩いてきたのは間違いない。

 しかし、参加者として出場してくれと頼まれるなんて、思いもしなかった。

 スゥの目的は、巨大な足を見て回ることだ。

 美脚コンテストも、軽く見物できればそれでいいと思っていたし、次の目的地がある以上、街の雰囲気にどっぷりつかろうとも思えない。

 出場するか、断るか。

 心の中の天秤にかけて、丸皿にのった選択肢が、片方に大きく傾いていく。

 ……スゥは言った。

「わたし、明日にはもう出発しないといけなくて」

「え、そうなんですか?」

「そうなんです。次の目的地があるので」

「そうですか……旅って、いそがしいんですね」

 守衛の少女は、残念そうにうつむいた。

「ですが、無理強いはできません。予定は人それぞれですので」

「理解してもらえて、助かります」

「はい。出場者には、参加費が支給されるんですけど」

 スゥが、まばたく。

「……なんて?」

「ん? ああ、えっと」

 少女は言った。

「出場者には、参加費が支給されます」

「支給される?」

「はい、支給されます」

「こっちが支払うんじゃなくて?」

「なんで、参加者が参加費を払うんですか?」

 少女は首をかしげて、

「お金を支払うのは一般のお客さんです。その入場料の一部が、参加者に分配されるようになっているんです。体を張ったお仕事みたいなものなのに、参加者側がお金を払うなんて、変じゃないですか」

「……そういうものですか」

「そういうものです」

 スゥは、頭の中で、バックパックの中身を広げた。

 麻袋には、路銀が入っている。

 しかし、ここしばらく使うばかりで、備蓄が滞っていた。

 心もとないと思っていた。

 どこかで稼げないかなとも思っていた。

 この少女の提案は、降って湧いたアルバイトみたいなものじゃないか?

 いや、でも、街の催しに自分が参加するのは……。

 悩むスゥを見つめて、少女はきらりと目を光らせた。

 少女は、スゥの前に、両手をばっと広げて、

「ひとりあたり、金貨十枚です」

「あっ、そうでした」

 スゥが居住まいを正した。

「次の街がかなり遠いから、しばらく休もうと思ってたんです。来週あたりに出発しても、ぜんぜん支障ありませんでした」

「それじゃあ!」

「はい」

 スゥはにっこりうなずいて、

「コンテスト、ぜひ出場させてください」

「やった!」

 少女は、うれしそうに、スゥの手を取った。

 詳しい説明は明日すると、少女はスゥに、宿の場所を教えた。

 少女は「フェレア」と名乗った。

「敬語はいいですよ。わたしたち、もうお友達じゃないですか」

「フェレアも敬語だけど」

「わたしは守衛です。よそからのお客様は、丁重にもてなさないと」

「じゃあ、友達ついでに、聞いてもいい?」

「なんですか?」

 スゥがたずねる。

「推しって、なに?」

「ピキーンって感じです! こう、頭の中が、ピキーンって」

 そうか、ピキーン、って感じなのか。

 スゥは「また明日」と、詰め所を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。