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「スゥさん!」
立ち寄った街の詰め所で、スゥは、守衛の少女に、手をにぎられた。
「あなたを、わたしの推しにさせてください!」
「……はい?」
スゥよりずっとがたいのいい少女だった。武骨な守衛服の上からでも、メリハリのある体が見て取れる。若く、はきはきしたしゃべり口は、だれが聞いても、心地よい印象を受けるだろう。
しかし、あまりの勢いに押されて、スゥはまばたくしかなかった。
スゥが困っているのに、やっと思い至ったらしい。
「す、すいません!」
と、少女が手を離した。
やや気まずい空気が流れるなか、スゥはたずねた。
「えっと、推しって、なんですか?」
「ああ、その、えっとですね、」
少女が言った。
「この街では、毎年この時期に、美脚コンテストが催されるんです。それがちょうど、来週で……」
「もしかして、」
スゥは言った。
「それに出てほしいと?」
「はい!」
少女は前のめりになって、
「スゥさんの足は、わたしがこれまで見てきたどんな足より、すらっとしてて、健康的で、すごくきれいだと思うんです」
「そうかな」
「そうですよ、自信持ってください!」
(別に自信がないわけじゃないんだけど……)
少女は目を見開いて、
「わたし、これまで推しってどんな感覚なのか、わかりませんでした。でも、スゥさんが街に歩いてくるのを見たとき、ピキーンってきたんです!」
「ピキーン?」
「はい、ピキーン、です!」
少女に手を取られ、スゥは困ったように天井を見つめた。
この街に巨大な足があるのは、地図を見てきたから、知っていた。もちろん。美脚コンテストがあることも。その時期を見越して歩いてきたのは間違いない。
しかし、参加者として出場してくれと頼まれるなんて、思いもしなかった。
スゥの目的は、巨大な足を見て回ることだ。
美脚コンテストも、軽く見物できればそれでいいと思っていたし、次の目的地がある以上、街の雰囲気にどっぷりつかろうとも思えない。
出場するか、断るか。
心の中の天秤にかけて、丸皿にのった選択肢が、片方に大きく傾いていく。
……スゥは言った。
「わたし、明日にはもう出発しないといけなくて」
「え、そうなんですか?」
「そうなんです。次の目的地があるので」
「そうですか……旅って、いそがしいんですね」
守衛の少女は、残念そうにうつむいた。
「ですが、無理強いはできません。予定は人それぞれですので」
「理解してもらえて、助かります」
「はい。出場者には、参加費が支給されるんですけど」
スゥが、まばたく。
「……なんて?」
「ん? ああ、えっと」
少女は言った。
「出場者には、参加費が支給されます」
「支給される?」
「はい、支給されます」
「こっちが支払うんじゃなくて?」
「なんで、参加者が参加費を払うんですか?」
少女は首をかしげて、
「お金を支払うのは一般のお客さんです。その入場料の一部が、参加者に分配されるようになっているんです。体を張ったお仕事みたいなものなのに、参加者側がお金を払うなんて、変じゃないですか」
「……そういうものですか」
「そういうものです」
スゥは、頭の中で、バックパックの中身を広げた。
麻袋には、路銀が入っている。
しかし、ここしばらく使うばかりで、備蓄が滞っていた。
心もとないと思っていた。
どこかで稼げないかなとも思っていた。
この少女の提案は、降って湧いたアルバイトみたいなものじゃないか?
いや、でも、街の催しに自分が参加するのは……。
悩むスゥを見つめて、少女はきらりと目を光らせた。
少女は、スゥの前に、両手をばっと広げて、
「ひとりあたり、金貨十枚です」
「あっ、そうでした」
スゥが居住まいを正した。
「次の街がかなり遠いから、しばらく休もうと思ってたんです。来週あたりに出発しても、ぜんぜん支障ありませんでした」
「それじゃあ!」
「はい」
スゥはにっこりうなずいて、
「コンテスト、ぜひ出場させてください」
「やった!」
少女は、うれしそうに、スゥの手を取った。
詳しい説明は明日すると、少女はスゥに、宿の場所を教えた。
少女は「フェレア」と名乗った。
「敬語はいいですよ。わたしたち、もうお友達じゃないですか」
「フェレアも敬語だけど」
「わたしは守衛です。よそからのお客様は、丁重にもてなさないと」
「じゃあ、友達ついでに、聞いてもいい?」
「なんですか?」
スゥがたずねる。
「推しって、なに?」
「ピキーンって感じです! こう、頭の中が、ピキーンって」
そうか、ピキーン、って感じなのか。
スゥは「また明日」と、詰め所を出た。




