小話 生まれたての足
「あれ」
スゥはふと立ち止まって、バックパックから地図を取り出した。
「どうした?」
「あそこ」
スゥは地図から顔を上げて、視線の先を指さした。
砂の道の向こう、小川の橋を越えた先に、大きな足を見つけた。
スゥはまた地図に目を落として、
「地図にも載ってない。行ってみよう」
と、スゥは歩き出した。
その右足は、ずんぐり、むちむちした肌をしていた。
見た目からして、赤ん坊の足のようだ。
これまで見てきた足より小柄だが、人間の背丈よりずっと大きい。
右足の麓に近づくと、人だかりができていた。
人々は鍬や、鎌や、のこぎりなんかを持って、足の周りをならしていた。
「すいません」
スゥは、周りの作業を見ていた男性に声をかけた。
「みなさん、なにをしているんですか?」
「新しい街を作ってんのさ」
「なんでまた」
「見てみな」
男性が、ずんぐりとした足を指さす。
右足の親指の側面に、いくつもかさぶたができていた。いまは、何人かの女性が、川から水を汲んできて、傷の周りを、ていねいに拭いている。巨大な親ゆびのそばには、ハイエナの死骸が転がっていた。
男性が言った。
「たまたまこの道を通ってたら、ハイエナどもが、あの足にかみついているのを見つけてよ。足も足で、蹴り飛ばすことも踏みつぶすこともしないで、じっとしてんだ。それがなんだか、かわいそうで……俺たちでハイエナを退治したんだ」
男性はあたりを見渡して、
「このあたりは、どう猛な野生動物がわんさかいるんだ。このままだと、また同じように動物にやられちまう。それなら、ここに街をつくって、あの足を守ってやりゃあいいんじゃねえかと思ってな」
「へえ」
スゥは、素敵なものに出会ったような目で、足の周りで作業する人たちを見つめた。
「どんな街にするんですか?」
「……そうだな」
男性は、ずんぐりした足を見上げて、
「まだわからん。けど、きれいな街にしようと思う。家は新築で、街の通りにはゴミなんてひとつもない。街のまわりには、野生動物がこないよう、塀か柵をこしらえるか。そしたら、この足は、いつまでもきれいなままでいられるだろ?」
男性の笑顔に当てられて、スゥも笑顔がこぼれた。
「いいと思います」
スゥは、足が動き出したら危ないから、と軽く助言をして、その場を去った。
地図を広げて、いまいる場所に、新しい足のマークを描いた。
——生まれたての足。
(機会があったら、また来てみよう)
どんな街になっているか、楽しみだ。
—— 生まれたての足 了




