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14

 ——スゥが街の出口に向かう。

 ちょうど、泊まっていた宿の前を通りかかったとき、

「朝飯でも食っていけ!」

 と、宿の店主に呼び止められた。

 お言葉に甘えて、スゥは食堂の席に着く。

 スゥがもしゃもしゃとパンをかじるあいだ、店主はスゥの向かいに座って、あれこれと話していた。

 あの神父はやっぱり怪しかったとか、これで街が良くなればいいとか。

 スゥが食べ終えるのを見計らって、食後のお茶を持ってくる。

 店主が言った。

「それで、どこに行くんだ?」

「足があるところなら、どこへでも」

「あてはないのか」

「そうでもないです」

 スゥは、バックパックから、丸めた用紙を取り出した。

 それは、この世界の地図だった。あまりに大きくて、四人掛けのテーブルにも収まりきらない。その分、地図はずいぶん細かくて、世界じゅうに張り巡らされた陸路が、点と線で書いてあった。

 地図のあちこちに、マークがある。 街、山、河川……もちろん、足のマークも。

 スゥは言った。

「この地図にある足を見て回るのが、目的です。でも、地図にない足もあるから、そういうのも見つかればうれしいです。この街の足も、地図にはなかったので」

 地図によると、この街は、地図のド真ん中、広大な大陸の西側にあるらしい。

 スゥは鉛筆を走らせて、新しい足のマークを描いた。

 地図を丸めて、バックパックにしまう。

「そういえば、」

 スゥは店主を見つめた。

「店主さんは、さいしょから、神様を信じてませんでしたよね」

「まあな」

「どうしてですか? 街のほとんどのひとが信じてたっていうのに」

「だってよ——」

 店主が笑った。

「神様がいるなら、どうしておれが、こんなに働かなきゃいけねえんだ? 神様に願いが届くなら、いますぐ金も飯も出てくるだろう? でも、どんなに願ったって、そんなことにはならねえから」

「なるほど」

 スゥは「ごちそうさまでした」と手を合わせた。


 店主は、気をきかせて、携帯食料をいくつか分けてくれた。

 店主が手を振って見送ってくれる。

「いってらっしゃい!」

 スゥは手を振り返して、街の外を目指した。

 間もなく、草原につながる道が見えてくる。

 そこでまた、スゥは呼び止められた。

「あ、お嬢さん!」

 出入り口の詰め所から、守衛がひとり、飛び出してくる。

 なにやら、両目をきらきらと輝かせているが、どうしたのだろう。

 スゥが少し引き気味に見ていると、守衛がスゥの手をにぎった。

「お嬢さん、いえ、天使様! ぜひこの街に永住してください」

「……はい?」

 スゥは首をかしげて、

「あの、天使様って……?」

「あなたは、神父たちの虚言を見破って、あの巨大な足を見事御したそうではありませんか! じつは私、常々、あの神父は胡散臭いと思っていたんです」

「はあ」

「ですが、あなた様は違います! 崇高な正義と純真さで、あの巨大な足を御された。あなた様は、この街の新しい指導者にふさわしい。いかがですか、どうか、我々の平穏のため、御身をこの草原の街に——」

 守衛が言い切るまえに、スゥは守衛の手を振り払った。

 守衛の声が聞こえなくなるまで、全力で走って。

 スゥは、大きく息をついた。

「いいのか、天使様」

 トレッキングブーツが茶化してくる。

「いますぐあの街にもどれば、民を救った天使として、みんなからあがめられると思うぜ。金も、飯も、なんでも用意してくれるだろうに」

「馬鹿なこと言わないで」

 スゥは、風に揺れる草原を、大きく見渡した。

 さえぎるものは何もない。

 白く真っすぐな道が、ずっと先までのびている。

 スゥは言った。

「縛られるのは、嫌いなの」


                  ——草原の足 了


*閲覧ありがとうございます!

*以降、2~5話ずつ投稿していく予定ですm(_ _)m

*面白かったり、琴線に触れる部分がございましたら、評価・感想等、よろしくお願いいたします!


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