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——スゥが街の出口に向かう。
ちょうど、泊まっていた宿の前を通りかかったとき、
「朝飯でも食っていけ!」
と、宿の店主に呼び止められた。
お言葉に甘えて、スゥは食堂の席に着く。
スゥがもしゃもしゃとパンをかじるあいだ、店主はスゥの向かいに座って、あれこれと話していた。
あの神父はやっぱり怪しかったとか、これで街が良くなればいいとか。
スゥが食べ終えるのを見計らって、食後のお茶を持ってくる。
店主が言った。
「それで、どこに行くんだ?」
「足があるところなら、どこへでも」
「あてはないのか」
「そうでもないです」
スゥは、バックパックから、丸めた用紙を取り出した。
それは、この世界の地図だった。あまりに大きくて、四人掛けのテーブルにも収まりきらない。その分、地図はずいぶん細かくて、世界じゅうに張り巡らされた陸路が、点と線で書いてあった。
地図のあちこちに、マークがある。 街、山、河川……もちろん、足のマークも。
スゥは言った。
「この地図にある足を見て回るのが、目的です。でも、地図にない足もあるから、そういうのも見つかればうれしいです。この街の足も、地図にはなかったので」
地図によると、この街は、地図のド真ん中、広大な大陸の西側にあるらしい。
スゥは鉛筆を走らせて、新しい足のマークを描いた。
地図を丸めて、バックパックにしまう。
「そういえば、」
スゥは店主を見つめた。
「店主さんは、さいしょから、神様を信じてませんでしたよね」
「まあな」
「どうしてですか? 街のほとんどのひとが信じてたっていうのに」
「だってよ——」
店主が笑った。
「神様がいるなら、どうしておれが、こんなに働かなきゃいけねえんだ? 神様に願いが届くなら、いますぐ金も飯も出てくるだろう? でも、どんなに願ったって、そんなことにはならねえから」
「なるほど」
スゥは「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
店主は、気をきかせて、携帯食料をいくつか分けてくれた。
店主が手を振って見送ってくれる。
「いってらっしゃい!」
スゥは手を振り返して、街の外を目指した。
間もなく、草原につながる道が見えてくる。
そこでまた、スゥは呼び止められた。
「あ、お嬢さん!」
出入り口の詰め所から、守衛がひとり、飛び出してくる。
なにやら、両目をきらきらと輝かせているが、どうしたのだろう。
スゥが少し引き気味に見ていると、守衛がスゥの手をにぎった。
「お嬢さん、いえ、天使様! ぜひこの街に永住してください」
「……はい?」
スゥは首をかしげて、
「あの、天使様って……?」
「あなたは、神父たちの虚言を見破って、あの巨大な足を見事御したそうではありませんか! じつは私、常々、あの神父は胡散臭いと思っていたんです」
「はあ」
「ですが、あなた様は違います! 崇高な正義と純真さで、あの巨大な足を御された。あなた様は、この街の新しい指導者にふさわしい。いかがですか、どうか、我々の平穏のため、御身をこの草原の街に——」
守衛が言い切るまえに、スゥは守衛の手を振り払った。
守衛の声が聞こえなくなるまで、全力で走って。
スゥは、大きく息をついた。
「いいのか、天使様」
トレッキングブーツが茶化してくる。
「いますぐあの街にもどれば、民を救った天使として、みんなからあがめられると思うぜ。金も、飯も、なんでも用意してくれるだろうに」
「馬鹿なこと言わないで」
スゥは、風に揺れる草原を、大きく見渡した。
さえぎるものは何もない。
白く真っすぐな道が、ずっと先までのびている。
スゥは言った。
「縛られるのは、嫌いなの」
——草原の足 了
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