13
スゥは長剣を放って、神父たちのところに歩み寄った。
神父も、シスターも、男たちも、だれもが腰を抜かして、目の前にいる少女を、見つめている。どの目も、不可思議と、恐怖と、なにかよくわからない気持ちで、揺れていた。
スゥは言った。
「あの足、けっこう動きたがりみたい。だから、今度から、足の近くに家を作らないほうがいいよ」
「……おまえは」
神父が、声をふるわせる。
「おまえは、何者だ?」
「ただの旅人」
「神の遣いか?」
「わたしの話、聞いてる? わたしは人間。それ以上でも、それ以下でもない」
「だ、だが、説明できん!」
神父は叫んだ。
「身のこなしも、足の知識も……あの足はいったいなんだ! 家を壊し、地鳴りを起こし、あれが神の足じゃないとすれば、なんだと言うんだ!」
スゥは、巨大な足をあおいで、
「自分の足を考えてみて。一日中、ただじっとしつづけたら、筋肉は固まるし、足に血が溜まって、気持ち悪いでしょ。そうなったら、ほら、足踏みしたり、伸びをしたり、するじゃない? それと同じ」
巨大な足は、朝日に照らされて、血色のいい肌をしていた。縄をぐるぐる巻きにされていたところは、いまも赤い痕が残っている。が、うっ血したようになっていた足先は、すっかり血の気を取りもどして、ほかの肌と同じ、健康に焼けた肌色をしていた。
「もう、あの足を縛っちゃいけないよ」
そう言って、スゥは、神父たちの脇を、通りすぎた。
「待って!」
声がして、振り向く。
ディリアが駆け寄ってきた。目の前で起こったことに、いまだ理解が及んでいないような顔をしていたが、スゥを前にして、スゥが無事だったことを喜ぶように、うれしそうに瞳を濡らしている。
ディリアが言った。
「どこに行くの?」
「また旅に出ます。この街でやるべきことは、終わったので」
ディリアは、不思議な少女を見つめて、
「そっか」
とうなずいた。
「わたしは……どうしようかな。働き口、なくなっちゃったし」
「街のひとから集めた金貨が、書斎にあります。お金が必要なら、それを持って、故郷に帰れば——」
ディリアは、首を横に振った。
「神父がだまして盗ったお金でしょ。あれは街の人に返して回るよ。それからは……」
ディリアは、スゥを見つめた。
それまで厳しかった目をやわらげて。
「わたしも、旅に出てみようかな。ほかの街に行けば、きっと、ちゃんとした職場があると思うし」
「いいと思います」
スゥはきびすを返して、館の外に向かった。
レインに預けていた荷物を、荷物を取りに行かなければ。
館の前には、人だかりができていた。
街人は、突然の地鳴りに驚いて、みんな外に出てきたらしい。そうしたら、いままで動かなかった足が動き出して、神父の館を瓦礫に変えてしまったのだ。みんな見物に来ていて、なにが起こったのかと、口々に話している。
レインは、人だかりの先頭にいた。スゥのバックパックを抱えている。見ると、レインの右頬が腫れていた。神父にぶたれたらしい。
スゥは心配そうに言った。
「だいじょうぶ?」
「あ、うん。平気だけど」
レインは、おそるおそる、スゥの後ろをのぞいた。
「ね、ねえちゃん、あれと戦ったの?」
「ううん。でも、怖い大人が襲ってきたから、それとは戦った」
「あれ、平気なの?」
スゥは、巨大な足に振り向いて、
「近くにいなければ、だいじょうぶ。ときどき足踏みしたりするから、地鳴りがするだろうけど、地震みたいに長くないから、怖がらなくていい」
ほとぼりが冷めたと見たのか、大人たちが、スゥの脇を走っていく。
これから、神父たちの尋問が始まるだろう。
それがどんな結果になるか——スゥの知ったことではない。
スゥは、この街を去るのだから。
レインが言った。
「あれ、ただの足なんだよね」
「うん」
「ねえちゃんは、どうしてそんなこと知ってたの?」
スゥは、レインから荷物を受け取って、
「教えてくれたひとがいるの」
と、人波に逆らうように歩き出した。
レインはそれを見送った。
レインの後ろで、街人が喜びの声を上げる。
崩れた瓦礫から、大量の金貨を見つけたのだ。




