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——一週間が過ぎた。
スゥはすっかりシスターの仲間で、まるで何年もそこで勤めているように、だれの違和感も買っていなかった。
その日曜日、館のようすが、いつもとちがった。
神父も、シスターも、みんなが大広間に集まっている。
神父は、壁画を背に、十人のシスターを見回した。
「今日という日を与えてくださったことを、足神様に感謝いたします。しかし、未だ街中には、神への忠誠を知らぬ者が大勢います。信徒も、信徒ならざる者も、みな等しく、足神様の子であります。神の御加護は、万人に与えられるもの。それを伝えることこそ、私たち足神教の信徒の役目です。そして、神の御恵みに対し、民からの感謝を届けることも、我々の役目でしょう」
シスターたちは、頭を低くし、神父の言葉に耳をかたむけている。
神父が言った。
「心安き者たちに、祝福の言葉を。信徒ならざる者に、石を投げられても、恐れてはいけません。忠義を掲げる者には、神の恵みが。敵意と憎悪を向ける者には、神の鉄槌が——さあ、行きましょう」
シスターたちが立ちあがり、ぞろぞろと館を出ていく。
門番たちは、表の門を開けて待っていた。
「いってらっしゃいませ」
門番に見送られながら、スゥは、街へと繰り出した。
シスターは、二人一組——網籠を持つ人と、経典のサンプルを持つ人——に分けられた。
それぞれのペアは、街をめぐりながら、「お布施」を集めていく。
街では、多くの民が、家や店の前に立っていた。
シスターが民の前に行くと、民は「ありがとう」と言って、金貨や銀貨を、網籠に入れていく。
スゥは、網籠がお金でどんどん重くなっていくのを、驚きながら見ていた。
「こんなに集まるんですね」
スゥのペア——シスター・ディリアは、不服そうに口をゆがめていた。
任されていた区画を、ひととおり回り終える。
ディリアは黙々と歩いていたが、額に汗をにじませて、荒い息を吐いている。一区画とはいえ、かなり距離があった。
道の端に、ちょうどいい木陰とベンチがある。
そこに腰かけると、スゥは心配そうに言った。
「だいじょうぶですか?」
「……へいき」
ディリアは、背もたれに大きく寄りかかって、
「わたしより、あなたは、自分を心配したら?」
「わたしの?」
「そうよ」
ディリアは、嘲るように言った。
「あなたはもう終わり。神父に目をつけられた。明日か、明後日か……そう遠くないうちに、あなたは純潔じゃなくなる。そうなってから自分の汚らわしさを嘆いたって、遅いんだから」
「どういうことですか?」
言いつつ、スゥは内心、神父がスゥになにをするつもりでいるか、想像がついていた。
そんなスゥの心が、ディリアにわかるはずもない。
ディリアは言った。
「これまで、何人のシスターが、神父の手にかかったか。それを苦にして、街を出ていった子もいる。そういう子はたいてい、足神様への忠誠心が強い子だった。あの神様が、いまに、辛い境遇から解放してくれる。そう願った子から、真っ先に、脱落する」
ディリアが、疲れた息を吐いて、空を見上げた。木陰がディリアをおおうなか、かすかな木漏れ日が、虫食いの穴のように、ディリアの顔で揺れている。ディリアの目は、悲しい過去を思い出すかのように、細められていた。
スゥは言った。
「シスター・ディリアは、どうして、わたしを気にかけてくれるんですか?」
「気にかけてなんか——」
「うそ。そうじゃなかったら、わたしに、館を去れなんて言いません」
スゥは、おとなしい少女のように、うつむいてみせる。
「わたし、頭が良くないから、難しいことはわかりません。でも、だからこそ、感情の機微には、敏感なほうだと思います。ディリアさんは、わたしを気にかけてくれています。でも、その理由がわかりません。ディリアさんにとって、わたしは、ただの新人で、他人もいいところなのに」
ディリアは、わずかに視線を落として、スゥを見た。
次にまた、空を見た。
その目は、日陰と、木漏れ日と、日差しを透かした木の葉を見ているようで……その向こうに、まったく別の世界を見ているようでもあった。
ディリアは言った。
「……妹がいるの。わたしが故郷を出たときは、うんと小さかったけど、いまはちょうど、あなたと同じくらいの歳になってる。あなたは、その子に似てる。目の色とか、話し方とか、この世にないものを信じてるところとか——あなたはあの子じゃない——そんなのわかってる。でも、できることなら、あなたには、ひどい目にあってほしくない」
真昼の風が、ディリアの髪をなでていく。
スゥはたずねた。
「ディリアさんこそ、街を出ようと思わないんですか?」
「あなたが知ってるか、わからないけど」
ディリアは、ベンチに置かれた網籠を、虚しく見つめた。
「結局、この世の中、お金がすべてなの。家も、食事も、信仰心も、ぜんぶお金で買えてしまう。お金があれば幸せになれる。わたしは、妹にも家族にも、幸せになってほしい。だから出稼ぎに出た。あの館で働いていれば、神様の御布施がいくらでも入ってくる。そのおこぼれでも、わたしの家族にとっては、乾いた畑に降る一粒の雨くらい、貴重だから」
ディリアは、ふぅっと、長い息をついた。
それから、スゥを、いつくしむように見つめた。
「でも、心と体を壊せば、それまで……いまからでも、修道服を脱ぐ気はない? ひどいことになるまえに」
「そんなことにはなりません」
スゥは心からの笑顔を浮かべた。
それを見て、ディリアは、もう言えることがないと悟ったらしい。
悲しそうな目をして、また空をあおいだ。




