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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第五章
287/374

死をもって償うハメになるわよ

 あの場で犬頭はインガルズさんに捕まりました。

 豪腕で犬頭の後頭部を掴むと一瞬で地面に叩きつけました。


「連れていけ」


 そうして鳥頭さんに放り投げると狼狽しながら受け取り、二人で倒れました。

 そのまま這い出て、犬頭を連れて行きます。


 殺してくれても良かったのに、やはり身内となるとそうはいきませんね。


 何より歓待の席でこれ以上の血は御免です。


 生徒たちも動揺しています。

 一番、動揺した瞬間はインガルズさんが犬頭を無力化したところですけどね。


「我が止めるべきであったが、血を流させてしまったな」


 そんな穏やかなことを言っている後ろではアンドレアスさんが「姫様ー!? 姫様、お怪我ございませんか!?」と大騒ぎしていました。

 お願いですから、そっちも止めてください。


「正直に言いましょう。生徒たちが止めなければ殺すつもりでした。貴方が止めるのなら貴方ごと――必要ならその後ろも含めて」

「それが貴公の大事なものか」


 緩やかな笑みを浮かべるインガルズさんでしたが、後ろからの視線が痛いです。

 そっと振り向くと猫みたいに目が丸くなっているマッフル君と、猫みたいな口をしているリリーナ君がいました。

 そして、その後ろはクリスティーナ君がちょっと赤い顔で憮然としていますし、セロ君は自分が見ていると気づき、ニコリとし、エリエス君はいつも通りでした。


 一つ咳をして、改めてインガルズさんに向き直りました。


「どこに出してもまだ恥ずかしい、自慢の生徒です」

「そこはちゃんと美少女で可愛い、将来有望な商人だって言ってよ! 顔を繋ぐだけでも価値があるんだから!」


 てい、と傷のある腕を叩こうとするマッフル君。

 ちゃんと避けました。かなり深い傷ですからね。今、強化術式で筋肉を絞めて止血していますが指先の感覚はなくなりつつあります。


「先生は恥ずかしがりでありますなー。もっと褒めて、褒めてであります」


 リリーナ君は何を曲解したのか、怪我のないほうの腕に巻きついてきます。

 噛むな、甘噛むんじゃありません。


「まだ……、か」


 小さく呟き、インガルズさんは兵たちに大きく手を広げました。


「ひとまずこの地より下がれ! 我らは今より此度の件で先方と話し合いを行う! その間、悪戯にこの地の民を蔑み、傷つけた者は何人であろうとも首が飛ぶと思え!」


 ざわざわとしていた空気もインガルズさんの怒声に、シンと静まり返りました。

 そして、すぐに兵たちは学園の庭園から離れ、少し離れた山中でテントを張り始めています。


「こちらの不手際で歓待を台無しにしてしまったようだ」


 粗方、撤退したのを確認してからインガルズさんは言いました。

 集まってきた教師陣は皆、困惑や心配、とにかく曖昧な表情ばかりでした。

 その中で自然な笑みを浮かべている学園長に、自分は少し寒気がしました。

 なんでしょうね、この危機感は。ちょっと触りたくないです、はい。


 学園長がインガルズさんの前に出ると、にっこりと笑みを深めました。


「アルファスリン姫様はお疲れのようですね。どちらの陣営でお休みに?」

「アンドレアス」


 姫の顔についた汚れをハンカチで拭っていたアンドレアスさんが、小さく首を縦に振りました。


「……医療施設をお借りしたい。この礼は必ず、この名にかけて」

「……なるほど。大変なことになっているようですね」


 何を言っているんですか。

 もう大変なことに、いえ、学園長に限って言葉の選択を間違えるとは思えません。

 となると、これは何かしらの画策の上で起きたこと、と捉えるべきでしょう。


 それだけの事情があの一件にあった、というのなら、まずは話を聞かねばならないわけですね。


 何の事情も聞かず下手に処罰をすると学園側が不利になる、というわけですか。


 その辺は学園長にお任せしましょう。

 やり方次第ではこっちに有利な条件を引き出し放題でしょうし、今はむしろ――


「ヨシュアン先生ぇっ! はやくこっちに来てくださぁい!」


 ――腕を優しく、しかし、容赦なく体ごと持っていこうとする柔らかい御手が大事です。

 傷口を見て、ちょっと息を吸いこみ、次の瞬間、医療に携わる者の顔になりました。


「えぇ、今すぐに走っていきましょう。どこへでもお供します」

「走ってはいけませぇん! 激しい運動をすると血が出るんですよぅ!」


 必死で腕を看ているリィティカ先生はやはり女神ですね。


「えー、生徒たちはどうしましょう」

「ヘグマント先生たちが引き継ぐからまずは治療を受けてくださいぃ~!」


 それなら安心です。

 リィティカ先生に連れられて、インガルズさんを通り過ぎた時に、


「グラム殿。不躾だが一つ頼みがある」


 真剣なインガルズさんと目がぶつかりました。


「大盤振る舞いですね。これ以上、学園に何を?」

「学園ではなくグラム殿にだ」

「聞くだけ聞きましょう」

「この話し合いが終わるまでの間、姫様の警護を任せたい」


 他国の歓待側、それも一個人に頼みはともかく、主賓の警護ですか?

 襲ってくれと言っているようなものじゃないですか。


「非常識極まりないですね。自分は今、貴方の『敵』かもしれませんよ?」

「だが姫様の敵ではない。そして、あそこまで子に好かれる者が子を害するとは思えん」

「子供を道具のように扱う、そんな女もいましたよ。そいつは子供に好かれていましたが」

「頼む」


 議論は無しですか。

 あー、はい、この手のタイプは確かに約束は守るので信用できます。


 何より少しだけアンドレアスさんが見えましたが、血涙でも流しそうな顔で睨んでいます。

 不本意だけど仕方ない事情があるんでしょうね。


「姫様のためにもなろう」


 何故、と聞いても答えないのもこの手のタイプならではです。

 タイプ分けで人を判断するつもりはありませんが、目は嘘をついていません。


「クリスティーナ君が怪我をしなかったのはあのヴェーアシャカールから出る敵意と【支配】を感じ、身を守ろうとしたからです」


 何度もオシオキで奇襲してきた結果、クリスティーナ君たちは奇襲に強くなっています。

 それでも相手はヴェーア種。避けきれなかった可能性もあります。マッフル君だったら受けようとして怪我をしていたでしょう。


 そして、今回は間に合わないかと思いました。


「許しはしませんが、請け負いましょう。パルミアに誓って」

「感謝する。暗き瞳の戦士よ」


 とは言ったものの、いざ教師陣や生徒たちと別れ、アルファスリン姫と医務室に来たのですが……、なんでしょうねこの状況。


 自分は椅子に座ってリィティカ先生が傷口を縫ってくれているのですが、その様子をアルファスリン姫がじっと見ています。

 椅子の上で体育座りして、親の仇かというくらい見てきます。


「……リィティカ先生。さっき塗っていた薬は麻酔薬でしたよね?」


 たしか麻痺、麻酔の薬は経口薬が最初だったはずです。

 その経口薬、言わばただの麻薬なんですが抽出の技術が高まるに連れて麻薬という依存性や後遺症の強いものから副作用の少ないものへと移行されて、ついには内紛中に吸引麻酔の出来損ないまで生まれています。


 もっともソレを作ったのはやっぱりアルベルタでした。

 疲労回復薬と一緒に医師会に登録されています。


 今回、リィティカ先生が使用した麻酔は注射針による局部麻酔でした。

 吸引麻酔よりももっと原始的で、しかし実績のある技術です。


 注射の実績ではありません。


 例えば蚊です。

 彼らは極めて優秀な麻酔師です。

 何せ痛みを感じさせずに局部を麻酔します。痒さも忘れません。

 彼らの生態は注入による麻酔の実績と見て良いと思います。

 

「えっとぉ、シューリン師の息子さんがですねぇ、必要だろうからと医療品を錬成して送ってくれたんですぅ」


 ものすごく嬉しそうに話すリィティカ先生は太陽のように輝いていました。

 え、なんかすごい綺麗なんですけど、どういうことですか? これが女神の慈悲ですか。五体投地も否めません。


「身体を倒さないでくださいねぇ」


 五体投地すら満足にさせてもらえませんでした。

 では、どうやって信仰を表せばいいのでしょうか? 女神の試練です。


 赤く爛れたような線に青黒い痣を見て、難問に頭を抱えました。

 流れるようにリィティカ先生から痛み止めをもらい、噛むように飲みこむ自分は我が事ながら手馴れていました。

 後はモフモフに舐めてもらえば化膿止めにもなるでしょうし、怪我は放っておきましょう。


 包帯を巻き直したらリィティカ先生は会議に参加すべく帰ってしまいました。残念すぎます。


 アルファスリン姫は今度は自分の顔を目だけで覗きこみ、小さく目を見開きました。

 なんでしょうね、この反応。嫌な予感しかしません。

 頼まれたとはいえ素直に姫の護衛を受けたのは失敗でしたね。


 そう考える一方、これは一つの機会を得たのではないかと思いました。


 自分もこの五ヶ月、生徒たちの問題を解決してきた実績があります。

 それは果たして他の子供にも通用するのか、興味があります。


 見事、アルファスリン姫を御し切れるのなら自分は教師として成長している証になります。


 では基本その一。イニシアティブを取ること。


「さて、アルファスリン姫様。長旅でお疲れでしょう。今、紅茶を淹れます」

「いいわよー、別に。私が淹れるから」


 実は密かにベッドに座っていた女医さん(36)が紅茶を淹れ始めました。

 忘れていたわけじゃないですよ?

 女医さん(36)はどちらかというと内科に近い人ですからね。もちろん外科も修めているのでしょうが、麻酔の腕を含めると今のリィティカ先生に勝てる人はいないでしょう。


「さぁ、どうぞお姫様。どこかの執事さんよりは腕は落ちるけど」


 この人、なんでこう他国の姫にこんなに素で接せるのでしょう。


「不思議そうな顔ね。おおかた『他国の姫にブレないな』って考えているんでしょう?」

「ベルベールさんですか、貴方は」

「ベルベールさんっていうのがどんな人かは知らないけれど、そんなの顔を見なくてもわかるわよ」

「是非、コツを教えてもらっていいですか?」

「女のカン」


 学べませんね、それ。

 女性しか覚えられません。


「この部屋は私の王国で、貴方たちは例え王でも医務室の民よ。医師の言葉を疑うのなら死をもって償うハメになるわよ」


 相変わらずの暴君です。

 ですが、この人が信念を持って女医をやっていることくらい、知っています。

 というか、それくらいでないと内紛中に女医なんてやってられません。


「さすがに常備のものじゃ出せるに値しないから、職員室から取ってくるわ。あそこは冷凍庫があったわよね」


 それでも一応、上質の民として扱うところを見ると配慮してもらえているのでしょう。


「二番目の棚は触らないでくださいね。何せシャルティア先生用です」


 だらしなく手を上げて、女医さん(36)も去っていきました。

 こうして姫と二人きりという非常に困る状況が完成しました。もう逃げられません……、あの女医さん(36)!? 逃げたんですか!


 呆気にとられましたよ、本気で。


「汝は痛くないのか?」


 そして、驚いている間に、姫にイニシアティブを奪われました。


「えぇ。多少の傷は慣れっこでして」

「済まなかった。妾の兵が傷をつけた」


 基本そのニ。謝らない子はオシオキ……、なんですが謝られました。

 姫相手には教師の技術が通用しないようです。ですが唯一の武器ですからね。負けられません。


「姫様が他国の者に軽々しく頭を下げてはいけませんよ」

「アンドレアスみたいなことを言うでない」


 ふくれっ面で下を向いてしまいました。

 だけど目だけはこっちを見上げています。


「大人はいつもそういうのじゃ! アレはダメ、コレはダメと! モモはもっと優しかったぞ!」

「モモ・クローミのことを自分は知りませんので」

「よかろう! ではモモのことを妾が教えてしんぜよう!」


 挙句の果てには教師の立場すら危ういですね。


「モモはすごいのじゃぞ? モモの周りは色んな種族が笑いながら暮らしておる。ヒト種はもちろん、肩肘の張ったエルフが力を抜き、気難しがりなド・ヴェルグが仕方ないと笑うのじゃ。いがみ合っていたヴェーア種はモモの前では喧嘩せん。喧嘩すればモモが「コラー」と言うからの! マグルもフェーリアもモモを気に入って離れやせん。この前などリーゼスが大きな猪を担いでモモのために宴会を開いておった。そうだ、クレープス、クレープスを知っておるか?」


 モモ・クローミを語るアルファスリン姫はただの少女でした。

 目に星を入れ、手振り足振りですごさを伝えようとし、夢見るように興奮していました。


 きっとこの子にとって、モモ・クローミは大事な人なのでしょう。

 立場も重荷も忘れさせてくれる憧れであり、誇りでもあるのでしょう。


「海に住む種族ですね。多くは陸の人の敵だと聞きますが」

「なんとそのクレープスがモモだけには何もせん。すごかろう?」

「すごいですね。それはどうしてですか?」

「よく聞け! 法国が守護竜たるトリシュラ様に認められたからじゃ! この何十年とトリシュラ様のお声を聞ける者は神務代行の中でもおらんかった! なのにモモは声を聞き、認められておる! それからはもっとすごいのじゃ! 先だって行われた帝国の邪悪な侵攻にもモモはな――」


 期もせず帝国侵攻の内情と法国のトップシークレットであるモモ・クローミの活躍を聞いてしまいました。

 これは普通にまずくないですか?


 どうにもモモ・クローミは情報的に守られている感がありました。

 それも【タクティクス・ブロンド】と近しい形でです。


 下手すると彼女を守るために、法国からも暗殺者を向けられるかもしれません。

 きっと各氏族とやらはノリノリで襲ってくるでしょう。


「そこでリューディがモモを守ると息巻いてな、リジルも勝手にどこかへ行ってしまいおって……、聞いておるのか!」

「もちろん。かの有名な冒険者リジル・ファフナーにまで守られるとは。とても大切なヒトなんですね」

「うむ。じゃがリジルはダメじゃ。いつもあくびをして眠そうにしておる」


 そして、とうとうリジル・ファフナーの情報まで手に入れてしまいました。

 身体に油をかけて燃やされる一歩手前ってこんな気分なんでしょうか?


 誰か助けてください。


「で、モモ・クローミの人柄は伝わりましたがどんな姿なのでしょう? 聞いていても良いヒトである、という以外、あまり想像がつきません」


 こうなったら出された毒を喰らい尽くしてみます。

 ベルベールさん、お墓をお任せしてもよろしいですか?


「……うむ。そうじゃの」


 今度は思案気に眉を潜め、じ~っと顔を近づけてきました。


「そこでじゃ。汝はどうしてそんな顔をしておる」


 これはオシオキすべきですかね?

 いきなり人の顔に文句を言い始めましたよ、この姫。


「髪色は違うがその瞳! モモとそっくりじゃ。メガネを取れ!」


 割と乱暴な手つきで、メガネを取られました。

 指が耳に当たりましたが身動きしたら危険でしたからね。為すがままです。

 これがエリエス君だったら静かに怒りそうです。


「目を開けよ。そう、その黒曜石のような瞳じゃ。すこし汚れとるな」

「最近、目の周囲を怪我しましてね。その影響でしょう」

「目は大切にしないといかんぞ」

「前向きに善処します」

「顔の形もどこかモモの面影がある。何者じゃ汝は。モモは以前、同じ故郷の者はおらんと言っておったぞ」


 人外に愛され、歴史に干渉し、そして、黒い瞳を持つ……は、違いますね。少なくともアルベルタは違いました。ですがアレも同じ条件です。


 自分はその条件に当てはまる存在を知っています。


 どうやら毒を完食した後に出てきた真実は魔獣だったようです。


「汝の名はなんと申す。モモのように変わった名じゃなかろうか」

「ヨシュアン・グラム。リーングラード学園術学担当教師です」


 姫の気色ばんでいた顔が呆気にとられていました。


「普通じゃの。何故じゃ」

「何故と言われましても」


 そういう名前を付けられたからとしか言い様がありません。


「だが妾は誤魔化せられんぞ! 汝はモモと同じ者じゃろう」


 目を突かれる勢いで指を突きつけられました。


 さて、どう答えましょう。


 おそらくモモ・クローミは【旅人】でしょう。

 条件と照らし合わせ、風貌を聞く限り同郷人の可能性は非常に高いのですが、一つ、疑問があります。


 自分の故郷と世界の関係ですが一つだけ仮説がありまして。

 そこを考えると『彼女は一体、何時の同郷人なのか』という疑問が浮かびます。

 いえ、本当に同じなのかという事態にもなりかねません。


 何一つ確証もなく、同郷人かもしれないモモ・クローミをそうだと断定し、接触するのは危険でしょう。

 向こうも一人だったはずです。

 そこに同郷人かもしれない相手が来て、いざ開けてみれば違ったのならぬか喜びさせるだけです。


 それに自分は【タクティクス・ブロンド】ですからね。

 まず【法国の戦乙女】に会おうとすると法国全体を敵に回しかねません。

 しかもアレフレット曰く悪名高い【輝く青銅】です。


 国境を越えるのも苦労しそうです。

 無理矢理ならなんとかできそうですが、騎士オルナの時みたいにそこまでする価値が本当にあるのでしょうか。


 で、仮に会ったとしましょう。

 何を話すんです? おそらくモモ・クローミは人殺しなんてしないでしょう。

 庇護され、庇護する、共栄共存、強い信頼関係を周囲と築いているようです。


 ははっ、自分とは正反対ですね。

 周囲を威圧し、皆殺しにする殺人鬼の自分と法国の英雄。

 そんな出会いはない方がいいでしょう。


 会ってもがっかりするだけです。


 子供の夢は大人が守らなければ誰が守るんですか。

 いつか醒めるにしたって、今である必要はありません。


「違いますよ。南方人は似たような容姿をしていますし」

「……そうなのか?」


 ガッカリしてしまったのか、さっきまでの興奮が嘘のように椅子に腰を落としてしまいました。


「だが似ておると思ったのじゃ。汝もモモのように周囲に好かれておる」


 今度はこっちが呆然とする番でした。


「自分が?」

「うむ。気づいておらんのか? 妙なヤツよの」


 それなりに生徒たちに慣れてきましたし、生徒たちもそうです。

 好かれているかはともかく、気を許してくれてはいるくらい、わかります。


「汝がな、ガルージンの狂剣を止めた時じゃ。あの従士たち――ではないの。生徒というのか? 生徒は皆、安心しておったぞ」


 そんなものは当たり前ですよ。


「そして、すぐに『止めないといけない』という使命感を持った顔をしておった」


 それは当たり前じゃないですね。

 怒りすぎて、また生徒たちに心配をかけてしまいましたね。


 しかし、こればかりはどうしようもありません。

 生徒たちに心配させても生徒たちを守るのが自分です。

 言わば業のようなものです。


「あのリィティカ、という胸の大きなヒト種もじゃ」

「本当ですか! 姫様!」

「なんじゃー!?」


 脈アリですよね? 脈アリってことですよね?

 ついつい姫の肩を掴みましたがどうってことありません。


 苦節五ヶ月、ようやく芽が出てきましたか。

 一瞬、レギィのものすごい含みのある微笑とシェスタさんの『愛人、いる?』という顔が浮かびましたが、お空に放り捨てました。


 ペチペチと顔を真っ赤にして手のひらを押しつける姫を見て、正気に戻りました。


「失礼しました姫様。ちょっと女神の心が通じたような気がしました」

「なぬ! 汝もか! パルミア様の御声は妾でも一度しか聞いたことがないぞ」


 パルミア? そんな嫉妬深い神様なんかより女神リィティカの方が百倍、素晴らしいに決まっているでしょうに。

 いえ、この考えはいけません。教義に反します。


 ん? あれ? 今、すごいことを言いませんでした?

 『女神パルミアの声』を聞いた? 


「よし、決めたぞ!」


 両手を組んで椅子の上に立ち上がり、クリクリした目で睥睨してきました。


「汝よ。妾のものになるが良い!」

「せっかくですが遠慮します」


 横紙破りに横紙破りで対応するという最悪がここにありました。


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