バカディアーノのから騒ぎ
エリエス君の事件は一応、目処がついたと考えました。
おそらく、自分が蓋を開けてなんとかできるものだとは思えなかったからです。
もしも蓋を開けられる者がいるとしたらエリエス君本人だけです。
何よりの理由は変化が落ち着くまで待とうと思ったからです。
今はまだエリエス君本人に自覚がないようにも見られます。
せめて先生に相談してくれるくらい自覚が欲しいですね。
「では始めましょう」
【室内運動場】の用具室から机を出してきました。
机の上に設計図を広げると生徒たちも好奇心から顔を近づけてきます。
「これが今回の建築の設計図です」
「もう一枚は術式具? 二種類あるけど?」
合計三枚の設計図。内二つがマッフル君の言う設計図です。
この設計図には二種類の術式具を描いています。
お湯を温めることを目的にした熱源になる術式具。
もう一つは水の流れを調整する流水の術式具です。
「その前に建材に木材も使っているように見えますが肝心の木材はどこに?」
キースレイト君が完成図のラフ画を見て言いました。
こんな感じになるだろうな、というただの想像です。
表面はただの木造の家。
穴を開けたように内部を描いたラフ画です。
内部は石材で作られているので、のっぺらとしたものです。
「ていうか絵、うま……」
マッフル君もラフ画を見て言いました。
珍しく素直ですね。悪いものでも食べましたか?
「必ずではありませんが術式師は絵に関する事柄に詳しくなる傾向があります」
カルナガラン方式が絵画に例えられるように、陣を描くにあたって想像力は必要です。
特に『眼』がない術式師は陣を正確な想像で描くので、はっきりとしたビジュアルイメージが脳内にあります。
で、そういった想像力を鍛えるのに一番の方法はたくさんのもの、特に情念のこもった物を見るように師に勧められます。
いわゆる美術品を観ろ、と言われるのです。
自分の師――クソジジイはそんなこと、一言も言いませんでしたけどね。
結局、自分がそうだと聞いたのは【源理世界】在住の謎生物によって怪死を遂げた施工主さんからでした。
「想像することと描き出すことは違いますが、そこは本人の素養でしょう。同じような理由で大工さんにも絵がうまい人がいますよ?」
実際に完成図が目に見える形にあれば、わかりやすいでしょう。
「以前、面白い大工さんにあったことがあります。その人は小さな模型を作り『こういう形の自宅でいいですか?』と伝えていました」
これも怪死した施工主さんのことです。
本当、惜しい人を亡くしました。
色々と建築の話も聞けたのが今、こんな形で活きるとは思いもしませんでしたが。
「一芸は万芸に通じる、というわけではありませんが先生も職人ですからね。当然、一品ものを手がけることもありました。依頼者の要望に答えて実物を作るまでに何回か話し合うこともあります。そうした際によくラフ画を書きます。絵が上手くなる必然があったんですよ」
ド・ヴェルク族くらいになると使用者を見て、意見を聞くだけで形にします。
正直、それくらいできる職人はすごいと思いますよ。
自分なんか根ほり葉ほり聞いて、ようやく形にしますからね。
絵も最初の頃は下手くそでした。
何度もやっているうちに見られる程度には腕があがりましたね。
「結局、ラフ画しか書きませんし本職に比べると劣りますが十分でしょう。さて、木材でしたね」
もうそろそろ到着するはずなのですが。
思ったより到着が遅れているようです。
「変な音がするであります」
耳に手を当てているリリーナ君に生徒たちは不思議そうな顔をしました。
「音って何さ?」
「ぴーぴー、ぱらりら? みたいな音であります」
「余計にわからなくなりましたわね」
やがて七不思議花畑を土煙をあげて爆走する牛車の影が見えました。
しかも一つではありません、三つです。
「何あれ……」
マッフル君が呆然と呟きました。
もうここまで近づかれると耳を澄まさずとも聞こえてきます。
リーゼントにしたヤグーに引き連れられ、爆走してくる荷車。
パラリラ、パラリラと複数の小さなラッパを紐でくくりつけて吹き鳴らすような不快な音。
荷車のガタゴトと鳴る音が合わさり、非常に鬱陶しいですね。
一瞬、ベルガ・エス・プリムを撃ってやろうかと思いましたが自重しました。
荷まで燃えたら大変です。
ソレは自分たちの隣を轟音と共に通り過ぎると急カーブしながら停車しました。
「待たせたなッ!!」
風変わりな赤で塗りたくられた牛車。御者台に立ったまま屈強な男が吠えました。
その男の格好はお世辞にも常識とは程遠いものでした。
首元からつま先まで、まぶしい白で構成された衣装。
ドクロの首飾りに暑苦しい胸元をはだけた――仁王立ちのアフロがそこにいました。
「注文の品ぁ……、持ってきたぜぇ!!」
腹の底から声を出す姿に生徒たちもポカンとしていました。
一人、キラキラした瞳をした子がいますね。
フリド君、あんなものに憧れてはいけませんよ?
「えぇ。お待ちしていました」
と、返すと何故かパラリラ、パラリラと威嚇するように、それでいて歓声のように音が鳴り響きました。うるせぇです。
「先生。質問があります」
物怖じしないエリエス君はアフロを指差しました。
「アレはなんですか?」
「遺憾ながら大工さんです」
「聞こえません」
音が邪魔してエリエス君の声が聞きづらいですね。
自分はエリエス君の唇を読んでいるのでわかりますが、エリエス君はやっぱり聞こえないようです。
自分は連装式ラッパを吹いているアフロの手下っぽいモヒカンに狙いを定めると、小さく飛びあがってラッパを蹴り飛ばしました。
放物線を描いてから地面に落ちたラッパの音が周囲を静かにしました。
「……何しやがる! てめぇ!」
恐れ知らずのモヒカンが吠えましたがニッコリ微笑むと青ざめました。何故でしょうね?
ちなみにこの手の人種は一度、力関係をハッキリさせると従順で大人しくなります。
「止めろぃッ!!」
アフロが小さく手をあげるとモヒカンがピタリと止まりました。
「お客さんに手ぇあげんじゃねぇ……、漢の拳は何のためにあるんだ……」
アフロの震える声は妙に心がこもっていました。
「釘を殴るためにあるんだろうが……」
「あ、兄貴ぃ……!」
「先生よぅ。あんたもだぜ」
お断りします。
人の手はハンマーを握ることはあっても釘を殴るように出来ていません。
「棟梁さん。学園の敷地内で騒音は困ります。場合によっては制裁対象です」
「聞こえたかぁ!! テメェらぁ!! お口にチャックしろぉ!!」
「うぉおお!! もちろんでさぁ! 兄貴ぃ!!」
てめぇたちがうるせぇです。
ともあれ軍隊並に統率がとれているようで、すぐにモヒカンたちは静かになりました。
さて、この漢気がビジュアルから溢れる不思議な人物がリーングラード学園の土木関係の総指揮を取っている棟梁さんです。
恐ろしいことにこんなでも【貴賓館】を建てるくらいに腕が良い、名大工です。
「注文の品は木材にセぇーメントぉ! 用水路用の石材で間違いねぇな?」
「えぇ。気合より先に伝票をもらえますか?」
資材の伝票を二枚貰い、日付と学園名義をサインして一枚を返しました。
それぞれが納品書と受領書です。
自分の手元にあるのが納品書で、棟梁さんの手元にあるのが受領書です。
「月末までに学園事務のシェスタさんかシャルティア先生に持って行ってください。学園予算から資材費がおりるはずです」
「心得てるさ……」
脱ぐな。殺したい。
棟梁が手をあげるとモヒカンたちが荷台から資材をテキパキと下ろし始めました。
その手際はモヒカンとは思えないくらい鮮やかで、生徒たちが何かを手伝う前に全てを下ろし終えていました。
上半身裸で木材を運ぶ棟梁さんの姿だけは抹消したい記憶です。
しかし、見た目はアレですが全員、練度の高い強化術式を使っていますね。
継続時間が長く、瞬発力よりも持続力に多く割り振られた混成色の強化術式です。
個人個人、微妙に術式に差があるところを見るとアレンジまでしているようです。
そんな異常な光景と納品書を見比べ、荷物に不備がないか確認していたのですが思った以上に荷物が、特に麻袋の数が多いですね。
麻袋の中身はセメントです。
どういうことかと棟梁さんを見てみると、すでに作業を終えて牛車に乗り終えていました。
「セメント! まけといてやったぜぇ!!」
ニカリと獰猛な白い歯を見せてきました。
こちらは頑張って苦笑いしました。
なんでしょう、この複雑な気持ち。喜怒哀楽のどれにも当てはまりません。
もっとも近いものをあげるのなら虚無感でしょうか? あるいは脱力感。
それから棟梁さんと愉快な仲間たちは爆走しながら帰っていきました。
ちゃんと約束通り、学園の敷地を抜けるまでラッパを吹かなかったあたり信用に足る人物なんでしょうが非常に疲れます。居るだけでずっしりきます。
彼らがやってきた理由はこのとおり、建築資材の一部を融通してもらうためです。
二日前に【宿泊施設】に寄った時に話をつけておきました。
あんなテンションで生きている奇妙な大工のせいで初対面のときはついモヒカンを二、三人ほど殴り飛ばしてしまいましたが建材不足でもこっちに資材を流してくれるくらいには心が広いようです。
ベルベールさん調べでも頭の中が『筋』しかなかったため、採用されたようです。
しかし、ベルベールさん。
自分はそろそろ言ってもいいような気がします。
どうしてこんな変な職人しか集められなかったんですか?
料理人のリューミンといい、あの大工といい、変態ばっかりじゃないですか。
何より一番、怖いのが答えを聞きたくないってことですよ。
「なんでしたの、あれ……」
クリスティーナ君の呟きに生徒の幾人かは無言で首を縦に振りました。
「先生! リリーナもあのヤグーが欲しいのであります! 買ってほしいであります!」
「めっ! あんなヤグーを持っているとご近所様に笑われますよ」
リリーナ君はヤグーに興味を示したようです。
いえ、目がいきますけどね、リーゼントのヤグー。
牧場で見たことがないので棟梁さんの専用牛でしょう。
リスリアにヤグーはほとんどいません。
なのでリーングラードに来てから購入したのでしょう。
「ヨシュアン教師。木材と用水路用の石材はわかりますがこの麻袋は何ですか?」
キースレイト君は棟梁さんたちを出会わなかったことにしたようです。
若干、目が虚ろだったことは言わないでおきましょうか。
「セメントを知りませんか? 言ってしまえば建築用の接着玉です。火山灰に水と消石灰を混ぜ合わせたものです。もっとも水を混ぜると泥のようになった後、固まってしまうので今は火山灰と消石灰を混ぜただけの粉です。ここに焼いた粘土や軽石を砕いて混ぜ合わせるともっと強度があるセメントができますね。それこそ石材の代わりになるくらいのね」
「石材同士を繋げる、となるとこの用水路用の石材に使われるのですね」
このUの字の形をした石材。
北の湖からここまで地面に埋めこんでいき、水を運んでくるためのものです。
種類はコンクリートで作られたものから石を削り出したもの、術式で整形したものまで様々ありますが、今回は安価で済ませるためにコンクリートです。
とはいえコンクリートのものは少しばかり問題があります。
「質は大丈夫だと思いますが、とにかく材料は揃いました。昼までに基礎の基礎まではやっておきたいですね」
混ぜ合わせて作る性質上、別の何かが混じりやすいということです。
塩分の多い石や酸性の強い何か、とにかく水増ししようとしてセメントの段階から何か別のものを混ぜようとする大工もいます。
そうした質の悪い建材は建物の寿命に影響します。
下手をすれば地震などの災害時に倒壊することもあります。
そういえばコンクリートを飲む、なんて隠語もありましたね。
水増しして浮いた金額を接待に使う、という意味でしたか。どちらにしても良い意味ではありません
「では先に用水路から作ってしまいましょうか。クリスティーナ君とマッフル君、リリーナ君とフリド君は先生に着いてきてください。エリエス君とキースレイト君は設計図を見て術式具の基盤を作ってください」
こうして、ようやく建築が始まりました。
生徒たちと一緒に荷台を使って用水路用の石材を北の湖まで持っていき、自分は術式で湖から一直線に地面に溝を敷いていきます。
まだ水が流れこんでもらっては困るので湖と溝は繋げていません。
出来た端から生徒たちが用水路用の石材をはめていきます。
セメントは石材を並べ終えてからですね。
その途中、途中でエリエス君とキースレイト君の様子を見ていました。
お互い、無言で金属を彫っていました。
エリエス君は基本、あまり口を開きません。
質問以外は積極的に話題を出すような子でもありません。
キースレイト君もエリエス君が不正をしようとしたことに心の奥底では納得しきれていませんから嫌な沈黙に包まれていました。
それでも、です。
「キースレイト」
「なにか?」
「……定員がある以上、競走しなければと言った」
「それがおかしいことか?」
「勝ってどうするの?」
勝ってどうする、ですか。
ある意味、教育やら競走を根こそぎ否定する言葉です。
ですがエリエス君だって勝つことの意味を知らないわけではありません。
少なくとも第一試練の時、エリエス君はリリーナ君とキースレイト君より下だったことに憤りを感じていました。
「私は勝ちに意味を見出してはいない。何故なら勝って当たり前だったからだ」
なんか突然、語り始めましたね。
「良質の教育を受け、人の上に立つ。そう教わってきた。当然だ。私は貴族なのだから。同年代の貴族より優秀であることは誉れではあったが、それも当然だと思っていた。少なくとも私を打ち負かす相手は同年代になく、周囲もそれを褒め称えた」
キースレイト君は『私を打ち負かすのはいつも年上だった』と小さく付け足しました。
「初めてだったのだ。負けたのは」
確かに文武両道ですからね、キースレイト君は。
そして、キースレイト君はたしかに文武共に優秀でなければならない理由がありました。
古くからリスリアを支えた四大貴族の本家、最後の生き残り――とは言いますが別に全員、死んでいるわけではありませんがね。
根こそぎ滅ぼしたわけではありません。
戦後、四大貴族は【十年地獄】を止められなかった責として国政への発言権を奪われました。
四家の内、ファーデンの血統――キースレイト君の家のことです――は内紛の中でも民に負担をかけないように努力していました。
また内紛時も貴族院相手に苦言を呈し、ほとんど軟禁のような扱いをされていました。
その功績や境遇で減責され、かろうじて本家の存続を認められました。
現領主であるキースレイト君の父親は国政への発言権を奪われただけに留まりました。
それも一代限り、正式な次代であるキースレイト君に家督を譲ればまた国政に関われます。
なので正確には四大貴族の本家で復権できる、最後の一人です。
この子だけメイドさんがついているのはそのせいなんでしょうね。次代を担うキースレイト君の護衛兼身の回りの世話役として。
もっとも最近ではそのメイドさんは寮の仕事ばかりしているそうですが。
内、二家は自分とバカ王が領主から長男までを殺し、分家も断裂させ排斥、残り一家は分家筋のクリスティーナ君、つまりアンデルの血統として本家に成り代わりました。
今や四大貴族の血縁は二家しか存続していません。
もっとも排斥された二大貴族はその権利を他の貴族に継承させ、表向き四大貴族のままです。
そう考えるとキースレイト君とクリスティーナ君は自分と関わり深い人物の子供と言えなくもないのです。
あるいは『両親や本家を貶めた男』の位置にいるのです。
「模擬試練の時、一位だったことに何一つ思うことがなかった。ヨシュアン教師に教師の手伝いをしないかと言われ、受けるくらいに余裕があった。そしたらどうだ。本試練であろうことかリリーナ嬢に負けてしまった」
いえ、あれはリリーナ君のサボり癖が原因ですからね。
あと本人の資質がズバ抜けて高いせいです。それこそ同年代から逸脱しています。
大人顔負け、というヤツですね。
「驚いたよ。ピットラット教師に詰め寄った。これは何かの間違いではないかと。どうしてあの奔放なエルフに私が負けるのだ、とね」
キースレイト君の印象でもリリーナ君は自由すぎるようです。
「ピットラット教師に諭されて、思い出した」
喋りながらも手を止めなかったキースレイト君はここでようやくポンチを置きました。
「思い返せば負けたのは初めてではなかった」
そういえば格闘成績はフリド君のほうが上ですね。
稀にやる合同授業での戦績は自分たち教師陣にも伝わっています。
「私はフリドに剣で負けていた。だから私はフリドに敬意をもった。ティッドには人の気持ちを察して弱者でありながら身を呈する気概があった。だから私はティッドも認めた。たとえ平民であっても貴族を凌駕できる力があったのだと理解できた。しかし、どこかそこには侮りがあったんだろう。一分野だけなら負けて当然だ、性格なら仕方ない、と知らぬ間に言い訳していた自分に気づいた」
キースレイト君が背負っている重みを考えれば『全分野で勝って当然』と考えてもおかしくはなかったのです。
そして、キースレイト君はそのための努力を惜しまず、確かに正しく結果を出していました。
「上にはエルフが居て、すぐ足元には平民がいた。リリーナ嬢は――ともかく、たった二点で勝ち誇っていた滑稽さに気づいたのだ。そうして気づけば、この義務教育の意味を初めて理解した。たとえ平民であろうとも、エルフであろうとも、いや、それはきっと同じ貴族であっても同等の教育を受ければこんなものだと。血の誇りは当然、あるがそれ以外に他より誇るものが私にはなかった」
すべての要素を平坦化してみた結果、キースレイト君は呆然としたのかもしれません。
貴族が優れている原因は個人の才覚、血統の重みではなく『教育という外的要素』だったことに気づいてしまったのです。
もっとも貴族は優秀な人物の血を取り入れてきましたから、資質だけ見れば優れていやすいんですけどね。
それは泡のように幻想から覚めた気持ちだったのかもしれません。
「君が教育を受けた四ヶ月の間だけ。平民でありながら君は先に教育を受けていた私に僅差まで近づいてきた。模擬試練、本試練、双方共にだ。教育の可能性を見せたのはリリーナ嬢ではない。エリエス嬢、貴方だ」
そういえばキースレイト君はエリエス君の出自を知らないんでしたっけ。
教育こそされていませんがエリエス君にはあの好奇心がありました。
貪欲に知識を吸収するエリエス君のことを知らなければ、そう思いますよね。
でも実際、教育者のいない環境でたった一人、独学で昇ってきたエリエス君は、しかし、他の子と大差なかったりするんですよ。
教育を受ける、という意味では。
「だから失望させないでくれ」
そこまで言って、キースレイト君は顔を真っ赤にしていました。
再びポンチを手に取り、見えないように集中したフリをしていましたがバッチリ目撃してしまいました。
「………」
その顔は歳相応な、思春期特有の『気恥しさ』に満ちていました。
それ、喋りすぎたから恥ずかしいとか、心の内を勢いで晒してしまったことに対するだけじゃないですよね?
邪推かもしれませんが、これはひょっとしたらひょっとするんですか?
「わかった。けど――」
エリエス君はキースレイト君の言葉を黙って聞いて、それから一言。
「――競走とそれは関係ない」
エリエス君ー!?
空気読んであげて! ざっくり斬りすぎです!
「……そうか?」
「そう」
キースレイト君が普通に肩を落としましたよ?
「で、どう思います? リリーナ君」
自分と同じようにエリエス君とキースレイト君を盗み見ていたリリーナ君はフルフルと震え始めました。
「エリリンは渡さないであります! といって出ていったら修羅場でありますか?」
「滅多に見られない色の修羅場になりますね」
リリーナ君もキースレイト君に試練を与えるのをやめましょう。
ちょっと思春期の少年には厳しい試練ですよ? それ。
「ちょっと行ってくるであります!」
「やめなさい。ヤグーに蹴られてしまいますよ」
キースレイト君。
君も十分、教育の成果が出ていると思いますよ。
君の語り方はピットラット先生とよく似ているんですよ。
自分の経験から感じたことを中心に、まとめに入るやり方なんてそっくりです。
いつもピットラット先生に話を聞いている身としては、なんとなく被って見えました。
少し微笑ましいものを感じながら、振り向くとクリスティーナ君とマッフル君の眼が釣り上がっていました。
「先生! ボーッとしてないで仕事して!」
「言い出しっぺが働かないなんて何事ですの! 溝はもう埋まってますわよ!」
怒られてしまいました。
そして、文句を言う二人の後ろでフリド君が懸命な顔でU字石材を抱えていました。
ごめんよ、フリド君。
一人真面目に仕事をさせてしまって。
次の作業はセメント作りなのですが、その前にお昼にしましょうか?
それともお昼を少し過ぎてもいいからセメントでU字石材を全部、接着してしまいましょうか。
そんなことを考えながら、小さく術式具を作っている二人を見ました。
あの二人のわだかまりは自分が何かしなくても、なんとかなりそうです。
それは成長で、向き合うことで、あの時代のあの子たちにしかできないことです。
そして、同時に少し寂しいような。
手のかかる子が自分の足で立つことを覚えた時のような。
なんとも言えない気持ちです。
小さくため息だけつき、リリーナ君をひきずって仕事に戻りました。




