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リーングラードの学び舎より  作者: いえこけい
第三章
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健康に気を使います

 医務室で眠ったセロ君をそのままにしておくわけにもいかず、抱えて寮まで連れて行った後の話です。


 セロ君の顔色は倒れる前に比べて、やっぱり良いですね。

 ちょっとだけ入ったセロ君の部屋は、あまり物が置いておらず、唯一、目立っていたのは『バナビー・ペイター』の人形だけでした。


 物持ちは少ないのか、女の子の部屋にしてはさみしい感じでした。

 哀しいので次のキャラバンで何か買ってあげましょう。


 管理人さんに後をお任せして、自分は社宅に戻りました。

 ちょっとだけ管理人さんに話しかけるとき勇気が必要だったのは余談でしょう。


 どうしてそう、にこやかに話を聞いてくれるのか。

 不躾なお願いかもしれませんが機会があったら管理人さんに聞いてみたいですね。


 さて、あとは……、まだ仕事が残っているんですよね。

 心配したり、落ちこんだりで忙しかった一日ですが、明日の教員会議までに『竜巻発生器』を調べておかねばなりません。


 なので早速、社宅に戻って『竜巻発生器』を解体してみました。


 支柱、基盤と取り外し、問題点がありそうな基盤の術陣からチェックしました。


 その結果に、自分は首を傾げることになりました。


「おかしい」


 何度もチェックした結果、結局、送風器が竜巻発生器になった理由がわかりませんでした。


 基盤に刻まれた術陣も使われた金属も全て精査しましたが、


「どうあがいてもアレだけの出力が出ない」


 いくら基盤を三つ使ったからと言って、イスが飛ぶほどの風圧は発生しません。

 それどころか組み直して動作チェックした結果、ちゃんと普通の働きをしました。


 通常、術式具の威力を決定するのは術陣です。

 大きく広くなるほどに陣は威力を高めます。


 初級のエス・プリムが一抱えくらいの面積しかないとして、【戦略級】は人の十倍以上、あるいは視界八割が術陣で埋まることもあります。


 必ずしも陣の面積が大きくなればなるほど威力が上がる、というわけではないのですが高威力陣を刻むつもりなら、それ相応の面積が必要ということです。


 基盤三枚分はやり方次第で、初級でも上級に迫る術陣を刻めるでしょう。

 竜巻を発生させるくらいならできます。


 ですが、供給する源素がなければ陣は動きませんし、金属の純度如何によっては陣の重みと耐久性が原因となり自壊します。


 燃料がない、燃料を押しこむ機能がない、燃料を爆発させる機能がない、これらの理由により出力不足は間違いありません。


 この竜巻発生器は元々送風器なだけあって、送風の術式三つ分とそれぞれが動く程度の供給口しかありませんでした。


「軍用に使われるような供給口の改造なんて教えてませんし、刻まれてもいない。どうしたらあれだけの威力と源素を持って来れたのでしょうか」


 謎のオーパーツを発掘した研究者みたいな気分でした。

 何せ専門家が首を傾げるほどなのですから、どんな技術なんでしょうね。


 もしも、エリエス君がそんな術式具を作れるのならすぐにでも免許皆伝を出しますよ、えぇ。

 看板だって分けてあげます。


「とはいえ、事実ですしね」


 自分はこれらの事実だけを持って会議に出席しました。


 いつもどおり、自分が最後のようです。


「相変わらず遅いな。早い時でも最後から数えたほうが早いぞ。もっと早く来い」

「ちょっと教室の備え付けの手直しをしてましてね」

「それなら私のクローゼットも改造してもらいたいものだな。後三十着は入るようにな」

「物理的、時間的、空間的に可能なら。素直に職人に頼んでください」


 そのどれもが不可能な現状です。


 シャルティア先生の洗礼は今に始まったことではないので特に問題ありません。

 会議はつつがなく進んだと言ってもいいでしょう。


 竜巻発生器による被害や説明を改めて、学園長の前で語り、そして今回の謎も説明しました。

 まったく問題ないと説明することが一番、苦労しました。


「どういうことだ、それは」


 他の教師よりも術式の知識のあるアレフレットなら、疑問に思うでしょう。

 現に他の教師たちが術式具の説明をどれくらい理解しているか不明ですが、正確にわかっているのはアレフレットくらいです。


「ありえないことが起きた、ということです」

「【術陣臨界】の可能性はどうだ」

「アレはこのタイプの術式具では起きません。術式との明確な差でもありますし、臨界した瞬間、金属が融解します」


 【術陣臨界】は術式の暴走という現象です。

 術陣に供給する源素の量が術陣の耐え切れる量をはるかに上回った場合、術陣が変形し、意図しない効果が発揮されるというものです。


 大抵は大爆発、あるいは大暴発です。

 術式の失敗とは一線を画す失敗ですね。


 玄人にこそ起こりやすい失敗というべきでしょうか?


 生身の人間が使う術陣ならば自由に変形ができるため【術陣臨界】は暴発という形で周囲に被害を与えますが、術式具はその限りではありません。


 そもそも陣が金属ですからね。

 変形しようと思ったら金属自体を変形させなければなりません。


 無理な金属の展性は、金属そのものの展性限界=崩壊、すなわち陣の崩壊です。


 暴発する前に陣自体が壊れて使えなくなる、というわけです。


「実際、竜巻発生器を持ってきました」


 テーブルにドンッと乗せるとアレフレットの顔が引きつり、リィティカ先生は身を引きました。

 普通の反応をありがとうございます。


 いつも動じないピットラット先生、何故か動じないシャルティア先生、そして、こういう危険物の取り扱いに慣れているヘグマントは身動きすらしませんでした。


 学園長? この人を驚かせるのはちょっと自分では無理ですね。


「それでは動かします」

「ちょっと待てー!?」


 アレフレットが止めてくる前に金属縁を触り、術式具を作動させました。


 リィティカ先生が頭を抱えて、机の下への避難行動に入りましたね。

 ちなみにこれが危機意識を持った普通の人の反応です。


 しかし、一応は自分が精査したものです。

 竜巻発生器からは普通の風しか起きません。

 地味に術式具の首あたりが風見鶏みたいに回転して、風を周囲にバラまいています。


「貸せ、ヨシュアン」


 シャルティア先生は物怖じもせずに竜巻発生器を己の目の前に置きました。


「これは使えるのか?」

「一応、使えます。といっても生徒が作ったものですから仕様がちぐはぐですね。本来、これは天井に近い、高い場所のほうが効果があるのですが、台座が備えられているため置く場所が限られます」


 たとえばクローゼットの上とかですね。

 しかし、そんなところに送風器を置いても部屋全体への効果は薄いでしょうし、三方向回転ギミック付きである必要はありません。


 つまり、部屋の中央に高い台のようなものを用意しないと台座の意味がありません。ついでに天井にぶら下げればいいのでしょうが、そうなると台座はいりません。


 アレフレットが疲れたようにイスに体重を預け、普通に会話していることに気づいたリィティカ先生が机の下から出てきました。

 なんというか、このナナメ上から見下ろす光景は素敵ですね。


 光り輝く神気を放つリィティカ先生ではありますが、そ~っと顔を覗かせる姿に大人の美貌と少女の愛らしさを混同させた幻想的な光景です。


「で、お前の作ったものはいつできる」


 雲行きの妖しい質問ですね。


「次の参礼日までには作りたいですね。数多の問題が邪魔さえしなければ」

「なら、しばらくはこれで我慢してやろう」

「使うのは構いませんが、ホースの部分に気をつけてくださいね。熱した空気が出ていくように作られているために水滴が漏れます。室内の埃を吸った水滴なので汚いですよ」

「盥とセットか。ますます仕様に難があるな。エリエスにはよく言っておけ。デザインと仕様の構造がベーレのタルトよりも甘すぎるとな」


 デザイン力ってどうやって向上させられるんでしょうね?

 木彫りでもさせればいいんでしょうか?


 シャルティア先生はとりあえず扇子で扇ぐ必要がなくなった、というところだけは評価しているようですね。

 竜巻発生器を目の前に置いたまま、動かす気配がありません。


 というか明らかに所有者みたいな貫禄がありました。

 お金、払ってくれるんですよね?

 素材は自分が買ってきたものですよ。


「直風に当たってると風邪をひきますよ?」

「ならば太陽に文句を言ってくるんだな。お前のせいで暑い、とな」

「その結果、異端者扱いされないでしょうね」


 太陽は原始宗教の時代から神様の化身ですからね。

 太陽への文句はすなわち、宗教への直接攻撃です。


 ついでに文句を言ったせいで寒波が来たらどうするつもりです。

 夏に涼しく冬は暖かいという触れ込みのリーングラードを壊さないでください。


「本当に原因は特定できませんか?」


 と、ここで学園長からの鶴の一声です。


「考えうる限りではありません。一応、過去の失敗例と原因を一通り洗い直す予定です」

「そうですか。暴走しないものが暴走し、そこに生徒が関わりを持っているというのなら、何かしらの要因が必ずあります。他の事故に繋がる前に原因の特定をお願いしますね」


 さもありなん。

 ですが、こればかりはどうにもヒントがないと前に進めません。

 しばらくは様子見です。


「それともう一つの懸念です。エリエス君の豹変です。一瞬でしたが、リリーナ君いわく『殺気を出した』そうです。さすがに時間がなくてエリエス君に質問できませんでしたが、これもヒントが欲しいのが正直なところでして。これをヘグマント先生にお尋ねしたいのですが」

「む? 何かね。腹筋ならだいぶ鍛えているが」


 そんな話してねぇです。


「【狂化支配】についてです」

「――ぬ」


 さすがにヘグマントも顔つきが変わりました。

 他の教師たちが何事かという顔をしていますが、きっとわからない話でしょう。


 もしかしたらピットラット先生は知っているかもしれませんが、表情筋の動かない人ですから判断できません。


「何故、【狂化支配】のことを聞くのかね?」

「いえ、エリエス君にその兆候は見られたかどうか、という話なのですが」

「待て。その【狂化支配】とやらはなんだ? 【支配】くらいは実際に見た、武術の技の一つということくらいはわかる」


 シャルティア先生の待ったの声に、説明するかどうか少し迷いました。

 何せアレは武術の奥義みたいな側面もあります。


 ヘグマントとピットラット先生の顔を見ると、小さく頷かれました。

 たぶん説明しても誰も実践できないと踏んだのでしょう。自分も同意見です。


 しかし、この辺は武術家、剣術家への配慮を忘れてはいけません。

 奥義は学問や術式で言うところの秘術に当たりますからね。


「そうですね……、おさらいとして【支配】からざっくりと説明しましょう」


 まず【支配】という概念は相手への行動予測です。

 相手がどう打って出るのかを予測し、前もって抑制する。あるいは受け流す、とまれ対応する形が【支配】です。


「この【支配】はある程度まで鍛えると、ある性質を持ちます」


 個人の資質に沿って【支配】は【剛支配】と【軟支配】に変化します。


「【剛支配】と【軟支配】です。このあたりに来るとヘグマント先生ほどの修練を得た方でないと自由自在に使いこなせないでしょうね。もっとも【支配】が使えるなら、おのずとどちらかに偏ってきます。リリーナ君が【軟支配】の鱗片を見せたように」


 リリーナ君の【軟支配】はあくまで【支配】レベルでした。

 それでも特性が掴める程度の芽が出ていたあたりがリリーナ君の才能を裏付けると思います。


「【剛支配】の教えは深く短く。【支配域】を狭め、より深く相手の先手を予測することができる。剣での打ち合いに適した【支配】技術だ」


 ヘグマントが自分の説明を引き継ぎました。


「一方、【軟支配】は広く薄くだ。相手の初動を牽制するのに向いているため、弓矢や術式での狙撃、一方的に攻撃できる位置からの戦いに向く」

「近距離適応型と遠距離適応型と思ってくれたらいいですよ」


 自分がヘグマントの説明の補佐に入ります。


「そして、ここからはリスリアでも限られた人間しか使えない技術です。武術の第三段階にして天才と呼ばれる一握りの人々が扱う技術です」


 それが近距離適応型から更に進化した技能、【狂化支配】です。


「理屈は簡単、言ってしまえば【剛支配】の暴走です」


 予測された動き以外の可能性を排除し、あらかじめ行動を制限し、代わりに自らを壊すほどの膂力を発揮する技術です。


「肉体の使われない筋力の制限を排除し、予測行動に対応する以外の行動を思考しない、まぁ、相手を殺す以外考えない羅刹に変える【支配】ですね」


 この凶悪な【支配】を使いこなせる人間はほとんどいません。

 自分の知る限りだとクライヴさんとベルリヒンゲン老、あとはメルサラと黄色いのくらいでしょうか?


「だから【狂化支配】。肉体コントロールの極みです。自らの意思で望んだとおりの行動を正確かつ強力にする、といえばわかりやすいですかね?」

「ゆえに危険な技術だ。一度、タガの外れた肉体に敵の殲滅しか考えない思考の中、それらを制御する理性と訓練が必要となる。何よりも恐ろしいのが【剛支配】を使いこなせるようになれば、誰でも使えるということだ。ふんぬ!」


 肉体のタガを外して、何かを殴れば当然、相手と一緒に肉体は壊れます。

 リューム・ウォルルムで突進して切りつけたら腕が壊れるのと同じ話です。


「むぅん! もっとも使えることと使いこなすことは別だがな。【狂化】を支配しきれていないので【狂化支配】とは言い難い。【狂化】した人間は個人で【戦術級】に匹敵する威力を身に宿す。多くは【戦術級】よりも被害を与える前に肉体が潰れて死ぬがな」


 いちいち会話中にポージングを取らないでください。


「というか真正面から突進してくるので罠の術式か、面単位の貫通術式でも撃ってれば死にますけどね、【狂化】した敵は」


 それどころか槍の柄を地面に置いて、ちょっと頭を上げているだけで簡単に刺されにきます。馬か騎竜並です。

 支配されていない【狂化】は所詮、未完成ですね。


 ちなみに【狂化支配】を使った武術家が五千を超える本陣に単騎がけして、見事、敵大将の首を跳ねたという話があります。


 あ、いえ、訂正しましょう。

 首を砕いた、ですね。


 内紛時において革命軍最強とも謳われた黄色いのの武勇伝の一つです。

 【砕く黄金】の『砕く』はこの辺りから来ています。


「ゆえに軍でも限られた状況でしか【狂化】を使わんように教えられている」

「ともあれ生徒が使うような技術ではありません。練度、経験、全てにおいてです。しかし、リリーナ君の前例がありますからね。少し気になりました」

「エリエスは【支配】に足を踏み入れているようには見えるが、そこまでだ。元より体格が小柄なこともあり力技よりも技術を磨く傾向にある。すぐに【支配】の基盤を理解し、使いこなすぞ」

「それだけですか?」

「うむ!」


 飛躍しすぎた発想でもありました。

 敵味方、クラスメイトの識別もできない技術と言えば【狂化支配】しか思いつかなかったのも事実です。


「【狂化支配】を使えるほどの練度はない。ヨシュアン先生の考えすぎだろう」

「そうそう悪い想像ばかりが当たるというわけではない、ということですな」


 ピットラット先生も同意するように小さく頷きました。

 これ以上は余計な詮索となってしまうのでしょう。


 しかし、どうしてでしょう?

 何故か気になります。

 以前、似たような何かを知っていた……、のでしょうが思い出せません。


 対処法は一応、あるんですよ。


 頭を撫でようとすると、エリエス君は逃げてしまいます。

 人との接触を忌避するところがあるので、リリーナ君に掴まれたのが豹変の原因だということはわかっています。


 消極的すぎる方法ですが、何の糸口もない今だと手詰まりです。

 エリエス君本人に聞くのが一番でしょう。


「とりあえずエリエス君は人に触られるのが苦手なようです。接触が豹変の原因となる可能性もあるので事の真偽がわかるまで、極力、エリエス君の身体へ接触がないように心がけてもらえませんか」

「むぅん! お互いやらねばならないことばかりだな!」


 了承と見てもいいみたいです。

 これで会議は終了、と言いたいのですが、そうも言ってられません。

 まだまだ案件が残っています。


「ではこの件は留意し、注意する形で閉じましょう。他に何かありませんか?」

「いえ、もう一件、あります」


 学園長の問いかけに即答します。


「学園が始まって三ヶ月、リーングラードまでの移動を含めれば四ヶ月ほど時間が過ぎています。すでに一つの季節が終わるくらいです。新生活、慣れない授業、新しい試みに生徒会活動、この夏の暑さも原因の一つでしょうが体調を崩し始めている子もいます。ここらで一つ、生徒たちの体調管理も含めて【健康診断】を実施しては如何でしょうか」

「【健康診断】? 聞く限り体調の管理を行うことか? 体調の管理くらい子供でもできるだろう」


 アレフレットが訝しげに聞いてきます。

 やはり医学知識がないと【健康診断】というものは必要かどうかわからないのでしょう。


 さて、今日はどんな反論でアレフレットをいじり……、いえ、なんでもありません。


「そんなことないですよぅ」


 と、理屈を練っていたら、思いがけないところから反論が飛んできました。


「子供はまだ自分がぁ、どれだけの事ができるかってぇ知っていく途中なんですよぅ。だから目一杯動いてぇ、目一杯考えてるんですぅ。体調の管理はぁ、やっぱり私たちがしたほうがいいですぅ」

「うむ。そういえばまだアレフレット先生は子供がいなかったな。子供は大変だぞ! 大人が本気を出さんといかんほどになぁ! よく熱も出す! 気にかけてやらねばならん!」

「三日、三ヶ月と慣れ始めた頃ほど危ないと言いますしな」

「べ、別に侮っていたから言ったつもりはない。ちゃんと意識していれば体調なんて崩さないと言っているんだ」


 子供に理解のあるリィティカ先生を筆頭に、娘さんがいるヘグマント、子守もこなすピットラット先生からの意見にアレフレットも驚いたようです。


 自分の場合はやはり生徒たちの中で一番、体力のないセロ君を基本に考えますからね。

 その自分でも、昨日のセロ君みたいに不覚を取ります。


 今回はそのリカバリィというか、名誉回復というか。

 実際に利点もあります。


「話を進めます。【健康診断】の目的は生徒たちの体調管理もありますが、生徒自身が客観的な数値で自分自身を見直すという面もあります。今の自分がどれくらい大きいのかを具体的な数字に表すことができます。これらの情報は積み重ねることで医学の特定分野、幼児医学、小児科学の発展に貢献するのではないかと目論んでいます。これは性教育においても一つの情報として提出するものになるでしょう。学術分野に貢献できる、これは学園側のメリットになります。次に持病の有無の確認や現在の罹患者の早期発見、流行病の有無……」


 【健康診断】で得られる情報はとても貴重です。

 幼児保育、小児科学の面からも出すところに出せば研究の発展に繋がるでしょう。

 現在の医学は小児も内科もごちゃまぜな面は否めませんからね。


 できればこちらも専門化を進め、医学の細分化を狙いたいですね。


「これらは病をあらかじめ予防することにも繋がります。流行病なんかは特に危険ですからね。こうした危険性は学園と生徒、両方へのダメージに繋がります。最悪、死者が出ようものなら『義務教育計画』に多大な支障を与えるでしょう。他にも子供には安全でいて欲しいという面もありますから、是非とも御一考を」


 予防医学の重要性を認識してもらいたいというのもあります。


 誰だって病気になってから治すよりも、病気にかからないことが一番なのですから。

 地味に義務教育へのダメージなんていう『ない危険性』を訴えて、ありもしない可能性と危機感を煽るというアジテーションをしているところは目を瞑ってください。


 自分、今回は割と思うところがあったので全力で【健康診断】を押し通すつもりです。


「次に対【試練】用としての側面です。生徒たちのパフォーマンスを十分に発揮するためにはまず、健康であることです。健康的で規則正しい生活を見直させ、十分な体調管理の重要性を教えることが必要です。客観的な情報を生徒自身にも見せることで自覚を促すことが一点」

「うむ! 平たく」

「……皆、元気なほうが幸せなので検診しましょう」


 頑張って難しい言葉にしたというのに、ヘグマントこの野郎。

 理解してください、お願いします。


「よくわかりました。体調管理面においてもそうですが、我々が生徒のことをよく知るという面でも、とても良い取り組みでしょう。何より誰も損をしないようです。ゾフィアに要請と必要な資材のリストアップ、試練前は生徒たちの調整もあるでしょうから来週がもっとも都合のいい日程でしょうね。来週、参礼日明けに可能かどうかの検討を行ってください。発案者のヨシュアン先生、それと医学知識のあるリィティカ先生の両名にこの件を任せます」


 学園長からのGOサインも頂きました。


 ちなみに学園長から飛び出したゾフィアなる人物は女医さん(36)のことです。

 ゾフィア・ルードネートが本名なのですが、自分は一貫して女医さん(36)と呼び続けます。曲がったりしません。


 さて、このままだと普通の【健康診断】で終わってしまいます。

 なので、ここで自分は学園長に許可を得なければなりません。


「外部に【健康診断】の人員依頼をお願いしてもいいですか?」

「ゾフィアではいけませんか?」

「いいえ、女医さん(36)はもちろん参加してもらいますが、そうではありません」


 この診断には優れた術式師でありながら神官でなければできません。


「今回の【健康診断】の肝は【適性判断】にあります。術式適性を調べるためにレギンヒルト試練官の協力要請の許可をいただきたいのです」


 まさかの人選に少し教師陣に動揺が走りました。


 神官位持ちしかできませんしね、【適性判断】は。

 レギィも遠慮するなと言っていたので、容赦なく使わせていただきましょう。


 リーングラードに来たのが運の尽きですよ、ははっ!


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