SS 第5話 一方その頃
一方その頃――
ルミエール大聖堂。
聖王執務室。
教会史上初の聖王大聖女となったソフィアは、一人、机へ向かっていた。
目の前には書類の山。
各国からの面会依頼。
四種族との友好に関する調整。
教会本部から回されてくる決裁書類。
歴代大聖女には存在しなかった、新たな職務。
「…………」
ソフィアは静かにため息を吐く。
本当の意味で。
自分に聖王大聖女の資格はない。
実力も。
功績も。
すべて、自分一人の力で得たものではない。
五年前。
大聖女へ叙任された時もそうだった。
譲り受けた功績の重みは、自分が思っていた以上に大きかった。
押し潰されそうになりながら、それでも歩き続けてきた。
それなのに。
今度は、そのさらに上。
教会史上初の聖王大聖女。
「重すぎます……」
思わず机へ突っ伏した。
ふと、先日の叙任式を思い出す。
教皇サンセリテは、大勢の参列者を前に高らかに宣言した。
『大聖女ミュゲの再来』
『初代大聖女エリアネの再来』
「……サンセリテ様」
誰もいない執務室で、小さく呟く。
「悪ノリが過ぎますよね」
「絶対、楽しんでいらっしゃいましたよね」
しばらく沈黙が流れる。
「…………」
「胃が痛いです」
「頭も痛いです」
「吐きそうです」
そのまま椅子へ寄り掛かり、窓の外を眺めた。
青く澄み渡る空。
(今頃、リアネさんは……)
(きっと、美味しいお酒でも飲んでいるのでしょうね)
少しだけ。
羨ましくなる。
「やっぱり……」
「リアネさんを教会へ迎え入れましょうか」
真剣に考える。
「いえ」
「半分では足りませんね」
「全部お願いしましょう」
口にした瞬間、自分で吹き出してしまう。
「ふふっ」
「……絶対、断られますね」
そして、小さく微笑んだ。
「次にお会いした時は……」
「一緒にお酒を飲めたらいいですね」
少し考えて、苦笑する。
「その前に」
「私も、お酒が飲めるようにならないといけませんね」
静かな執務室に、小さな笑い声が響いた。
その頃――
亜空間に存在する五大竜王会議場では。
「乾杯ーーー!」
杯を掲げるリアネ。
旧友たちの笑い声。
三千年前と変わらない、賑やかな宴。
その笑い声は、夜遅くまで絶えることなく響き続けていた。




