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君と過ごした夏の時  作者: こうた


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7/10

第7話 四人の距離



8月。


沖縄の夏は、まだ終わる気配を見せていなかった。


ひろしが沖縄へ来て、二か月以上が経った。


最初は長いと思っていた出張も、気づけば残りわずかになっていた。


「時間、早いな……」


朝、ホテルの窓から外を眺めながら、ひろしは呟いた。


この二か月で、生活は大きく変わった。


仕事にも慣れた。


現場の仲間とも打ち解けた。


そして何より――。


三人の女性との関係が、以前とはまったく違っていた。


---


「ひろし、今日の昼どうする?」


なおみが声をかける。


「まだ決めてないです」


「じゃあ一緒に食べようよ」


「はい」


最近、なおみとは自然に二人で食事をすることが増えていた。


仕事の相談。


くだらない話。


将来の話。


何でも話せる。


ひろしにとって、なおみは安心できる存在だった。


ただ、それだけではなかった。


時々、なおみが笑うだけで胸が高鳴る。


---


午後。


現場で作業をしていると、しょうこが近づいてきた。


「ひろし」


「何?」


「今日、仕事終わったら時間ある?」


「あるけど」


「じゃあ、付き合って」


「どこに?」


「また海」


「また?」


「嫌?」


「嫌じゃない」


しょうこは満足そうに笑った。


最近、しょうことも二人で出かけることが増えていた。


口喧嘩もする。


くだらないことで笑うこともある。


でも、一緒にいると妙に楽だった。


しょうこは、ひろしの前だけでは少し素直になる。


そのことに気づいてから、ひろしは彼女を放っておけなくなっていた。


---


夕方。


二人で海へ向かう。


「ねえ」


しょうこが運転しながら言う。


「ん?」


「沖縄の出張、終わったらどうする?」


「大阪に帰るよ」


「そりゃそうか」


しょうこは笑った。


「じゃあ、もう会えないね」


「……また沖縄に来るかもしれない」


「仕事で?」


「たぶん」


「ふーん」


しょうこは前を向いたままだった。


「私は?」


「え?」


「私とは……もう会わない?」


ひろしは答えられなかった。


しょうこが笑う。


「ごめん。変なこと聞いた」


「……会いたいよ」


思わず口から出た。


しょうこの手が一瞬止まった。


「……ほんと?」


「うん」


「じゃあ、連絡して」


「もちろん」


しょうこは小さく笑った。


「約束」


---


海岸。


二人は並んで座っていた。


「ひろし」


「ん?」


「私、あんたのこと……」


しょうこが言葉を止める。


「好きかもしれない」


ひろしは黙った。


「まだ分かんないけど」


しょうこは海を見る。


「でも、あんたが誰かといると、ちょっとムカつく」


「……」


「だから、たぶんそういうこと」


ひろしは胸が熱くなった。


「ありがとう」


「何それ」


「嬉しい」


しょうこは顔を赤くした。


「……馬鹿」


そして、ひろしの肩に頭を預ける。


「今日は、このままでいい」


「うん」


---


その夜。


ホテルへ戻ると、莉奈から電話が来た。


「もしもし」


『ひろしさん』


「どうしたの?」


『今から会えない?』


「……うん」


---


二人が会ったのは、以前訪れた海だった。


莉奈は何も言わず、ひろしの隣を歩いた。


「ひろしさん」


「うん」


「もうすぐ大阪に帰るんだよね」


「……そう」


「寂しい?」


「寂しいよ」


莉奈は立ち止まった。


「私は、寂しい」


ひろしも足を止める。


「もっと一緒にいたかった」


莉奈の声が少し震えていた。


「私ね、最初はただの出会いだと思ってた」


「俺も」


「でも違った」


莉奈がひろしを見る。


「好きになった」


ひろしの胸が締め付けられる。


「莉奈さん……」


「答えなくていい」


莉奈は笑った。


「今夜だけ、私の隣にいて」


二人は砂浜に座った。


肩が触れる。


莉奈がひろしの手を握る。


「ねえ」


「うん」


「大阪に帰っても、連絡していい?」


「もちろん」


「毎日でも?」


「……うん」


莉奈が笑う。


「じゃあ、約束」


そのまま、二人は長い時間、海を眺めていた。


---


ホテルへ戻ったひろしは、ベッドに座った。


スマートフォンには三つの名前。


なおみ。


しょうこ。


莉奈。


三人とも、自分にとって大切になっている。


けれど、同じ「好き」ではない。


なおみといると安心する。


しょうこといると楽しい。


莉奈といると、胸が苦しくなるほど惹かれる。


では、自分は誰を一番好きなのか。


ひろしには、まだ分からなかった。


そのとき、なおみからメッセージが届いた。


『明日、二人で話したい』


続いて、しょうこ。


『明日、海行こう』


そして莉奈。


『明日の夜、会いたい』


ひろしはスマートフォンを握ったまま、深く息を吐いた。


夏の終わりが近づいている。


だからこそ――。


今まで曖昧にしてきた気持ちから、もう逃げられなくなっていた。

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