第7話 四人の距離
8月。
沖縄の夏は、まだ終わる気配を見せていなかった。
ひろしが沖縄へ来て、二か月以上が経った。
最初は長いと思っていた出張も、気づけば残りわずかになっていた。
「時間、早いな……」
朝、ホテルの窓から外を眺めながら、ひろしは呟いた。
この二か月で、生活は大きく変わった。
仕事にも慣れた。
現場の仲間とも打ち解けた。
そして何より――。
三人の女性との関係が、以前とはまったく違っていた。
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「ひろし、今日の昼どうする?」
なおみが声をかける。
「まだ決めてないです」
「じゃあ一緒に食べようよ」
「はい」
最近、なおみとは自然に二人で食事をすることが増えていた。
仕事の相談。
くだらない話。
将来の話。
何でも話せる。
ひろしにとって、なおみは安心できる存在だった。
ただ、それだけではなかった。
時々、なおみが笑うだけで胸が高鳴る。
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午後。
現場で作業をしていると、しょうこが近づいてきた。
「ひろし」
「何?」
「今日、仕事終わったら時間ある?」
「あるけど」
「じゃあ、付き合って」
「どこに?」
「また海」
「また?」
「嫌?」
「嫌じゃない」
しょうこは満足そうに笑った。
最近、しょうことも二人で出かけることが増えていた。
口喧嘩もする。
くだらないことで笑うこともある。
でも、一緒にいると妙に楽だった。
しょうこは、ひろしの前だけでは少し素直になる。
そのことに気づいてから、ひろしは彼女を放っておけなくなっていた。
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夕方。
二人で海へ向かう。
「ねえ」
しょうこが運転しながら言う。
「ん?」
「沖縄の出張、終わったらどうする?」
「大阪に帰るよ」
「そりゃそうか」
しょうこは笑った。
「じゃあ、もう会えないね」
「……また沖縄に来るかもしれない」
「仕事で?」
「たぶん」
「ふーん」
しょうこは前を向いたままだった。
「私は?」
「え?」
「私とは……もう会わない?」
ひろしは答えられなかった。
しょうこが笑う。
「ごめん。変なこと聞いた」
「……会いたいよ」
思わず口から出た。
しょうこの手が一瞬止まった。
「……ほんと?」
「うん」
「じゃあ、連絡して」
「もちろん」
しょうこは小さく笑った。
「約束」
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海岸。
二人は並んで座っていた。
「ひろし」
「ん?」
「私、あんたのこと……」
しょうこが言葉を止める。
「好きかもしれない」
ひろしは黙った。
「まだ分かんないけど」
しょうこは海を見る。
「でも、あんたが誰かといると、ちょっとムカつく」
「……」
「だから、たぶんそういうこと」
ひろしは胸が熱くなった。
「ありがとう」
「何それ」
「嬉しい」
しょうこは顔を赤くした。
「……馬鹿」
そして、ひろしの肩に頭を預ける。
「今日は、このままでいい」
「うん」
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その夜。
ホテルへ戻ると、莉奈から電話が来た。
「もしもし」
『ひろしさん』
「どうしたの?」
『今から会えない?』
「……うん」
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二人が会ったのは、以前訪れた海だった。
莉奈は何も言わず、ひろしの隣を歩いた。
「ひろしさん」
「うん」
「もうすぐ大阪に帰るんだよね」
「……そう」
「寂しい?」
「寂しいよ」
莉奈は立ち止まった。
「私は、寂しい」
ひろしも足を止める。
「もっと一緒にいたかった」
莉奈の声が少し震えていた。
「私ね、最初はただの出会いだと思ってた」
「俺も」
「でも違った」
莉奈がひろしを見る。
「好きになった」
ひろしの胸が締め付けられる。
「莉奈さん……」
「答えなくていい」
莉奈は笑った。
「今夜だけ、私の隣にいて」
二人は砂浜に座った。
肩が触れる。
莉奈がひろしの手を握る。
「ねえ」
「うん」
「大阪に帰っても、連絡していい?」
「もちろん」
「毎日でも?」
「……うん」
莉奈が笑う。
「じゃあ、約束」
そのまま、二人は長い時間、海を眺めていた。
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ホテルへ戻ったひろしは、ベッドに座った。
スマートフォンには三つの名前。
なおみ。
しょうこ。
莉奈。
三人とも、自分にとって大切になっている。
けれど、同じ「好き」ではない。
なおみといると安心する。
しょうこといると楽しい。
莉奈といると、胸が苦しくなるほど惹かれる。
では、自分は誰を一番好きなのか。
ひろしには、まだ分からなかった。
そのとき、なおみからメッセージが届いた。
『明日、二人で話したい』
続いて、しょうこ。
『明日、海行こう』
そして莉奈。
『明日の夜、会いたい』
ひろしはスマートフォンを握ったまま、深く息を吐いた。
夏の終わりが近づいている。
だからこそ――。
今まで曖昧にしてきた気持ちから、もう逃げられなくなっていた。




