第5話 援軍到着、そしてまた死が迫る
翌朝。
蹄の音で目が覚めた。
ドドドドドッ……!
「帝国軍が来たぞー!!」
怒号が城壁の上を駆け抜ける。
破城槌が運ばれ、魔術師隊が火球を撃ち込むが、いくつかはすり抜けて城壁に直撃した。
ドォォンッ!!
石壁が揺れ、砂埃が舞い、ラースの視界が一瞬白く染まる。
「くそ……また来るのか……」
震える手で槍を握り直す。
汗で滑りそうになる。
だが、戦場は待ってくれない。
――前回と同じだ。
――ここから、地獄が始まる。
そのとき――
遠くから、地鳴りとは違う“軽やかな蹄の音”が聞こえてきた。
ドドドドドッ……!
「味方です! カイン将軍の部隊が来てくれました!」
その声が響いた瞬間、兵士たちの顔に光が戻った。
「カイン将軍だってよ!」
「助かった……!」
「これで勝てるぞ!」
士気が一気に跳ね上がる。
ラースも胸の奥に熱いものが込み上げた。
――助かった……いや、違う。前回の“あの瞬間”が来る。
胸がざわつく。
嫌な汗が背中を伝う。
「出撃準備!」
号令が飛ぶ。
ラースは槍を握り、列に並んだ。
「ラース、行くぞ!」
グスマンが隣で笑う。
その笑顔が、胸に刺さる。
――絶対に死なせない。
――今度こそ。
「開門!」
重い門が軋みながら開き、血と土の匂いがむせ返るほど濃く流れ込んでくる。
ラースたちは槍を構え、城外へ飛び出した。
視界に広がるのは――混沌。
叫び声、怒号、金属がぶつかる音。
馬が嘶き、兵士が倒れ、血が土を濡らす。
「前へ! 押し返せ!」
槍衾が形成され、ラースも必死に槍を突き出す。
腕は震え、狙いは定まらない。
だが、前回より確実に戦えている。
「うおおおおっ!」
グスマンが吠え、敵兵を突き倒す。
その背中は大きく、頼もしい。
――守る。
――絶対に守る。
ラースは歯を食いしばり、槍を突き出した。
そのとき――援軍の中から、一騎の馬が飛び出した。
白いマントを翻し、金の装飾の鎧を纏う若き騎士。
戦場の中で異様なほど輝いて見える。
「カイン将軍だ!」
兵士たちが歓声を上げる。
カインは馬を駆り、一直線に敵将――黒騎士へ向かっていく。
黒い鎧。鉄仮面。死そのもののような存在。
――来た。
――この瞬間だ。
「将軍、危ない……!」
ラースは叫んだ。
だが、声は戦場の轟音にかき消された。
二騎が交差する瞬間――金属がぶつかる甲高い音が響く。
キィィィィンッ!!
カインの剣が黒騎士の鉄仮面を弾き飛ばした。
「やった……!」
誰かが叫ぶ。
だが――次の瞬間、カインの動きが止まった。
「……え?」
ラースの視界がスローモーションになる。
カインの顔に浮かんだ“驚愕”。
そして、その胸を、黒騎士の剣が――深々と貫いた。
白いマントが赤く染まる。
カインの身体が馬上で揺れ、そのまま地面へ崩れ落ちた。
「カイン将軍が……!」
「嘘だろ……!」
帝国軍の叫びが戦場に響き渡る。
「敵将カインを討ち取った!!」
その声は、まるで呪いのように王国軍の士気を奪った。
「こ、後退せよ!!」
指揮官の声が震えている。兵士たちは一斉に後退を始めた。
「ラース、急げ!」
グスマンが隣で叫ぶ。
ラースも走り出した。
――今度こそ生き残る。
――絶対に。
だが――
その直後、グスマンの身体が前のめりに崩れた。
背中に、矢が三本、深々と突き刺さっていた。
「グスマン……!」
ラースが叫んだ瞬間、視界の端に赤い光が走る。
ファイヤーボール。
避けられない。
ドォンッ!!
爆風がラースの身体を吹き飛ばした。
背中が焼けるように熱い。
息ができない。
視界が揺れる。
「っ……あ……」
地面に倒れたラースの前に、帝国兵が歩いてきた。
その手には、血に濡れた斧。
腰には――グスマンの首。
帝国兵はラースを見下ろし、無言で斧を振り上げた。
――また……。
斧が振り下ろされ、視界が闇に沈んだ。




