第2話 森の奥の違和感――隠された洞窟
野兎の血抜きを終えたラースは、吊るした獲物を見上げながら、
胸の奥に残るざわつきを抑えきれずにいた。
(……まだ終わってない)
そう思った瞬間、森の奥から“何か”が呼ぶような感覚がした。
風が吹いたわけでもない。
動物の気配でもない。
もっと……もっと深いところから響くような、静かな“呼び声”。
(……あっちだ)
ラースは無意識に足を踏み出していた。
森の奥へ進むにつれ、周囲の空気が変わっていくのを感じた。
鳥の声が遠のき、風の音も弱くなる。
まるで、森そのものが息を潜めているようだった。
(……ここ、昨日の夜に感じた気配と同じだ)
胸の奥がざわつく。
怖いわけではない。
むしろ――懐かしい。
(……なんで懐かしいなんて思うんだ)
自分の感情に戸惑いながらも、足は止まらなかった。
草木が密集し、普通なら通れないような場所に差し掛かった時――
ラースは“それ”を見つけた。
「……洞窟?」
草木が覆いかぶさるように生い茂り、外からはほとんど見えない。
だが、その奥にぽっかりと黒い穴が開いていた。
まるで、森が意図的に隠しているような場所。
ラースは喉が鳴るのを感じた。
(……ここだ)
昨日の夜、寝室の窓から感じた“視線”。
あれと同じ気配が、洞窟の奥から漂っている。
胸の奥が熱くなる。
怖いのに、進みたい。
逃げたいのに、確かめたい。
矛盾した感情が渦巻く。
(……行かなきゃいけない)
理由は分からない。
ただ、強烈な衝動がラースを突き動かした。
ラースは自分の両頬を軽く叩いた。
「よし!」
その声は、10歳の子供らしい明るさを帯びていた。
だが、その目は違った。
暗闇の奥を見据えるその瞳は、
まるで“戦場”へ向かう兵士のように静かで、強かった。
(……行く)
ラースは果物ナイフを握りしめ、洞窟の黒い口へ足を踏み入れた。
コツッ、コツッ。
ラースの足音だけが、洞窟の中に反響する。
外の森とは違う空気。
湿り気を帯び、冷たく、どこか重い。
(……ここは何なんだ)
目が慣れるにつれ、洞窟の壁の輪郭がぼんやりと浮かび上がってきた。
岩肌は滑らかで、自然にできたものとは思えないほど均一だった。
(……誰かが掘った?いや、そんなはず……)
思考がまとまらない。胸の奥のざわつきが、さらに強くなる。
(……奥に何かがいる)
確信に近い感覚が、ラースの背筋を震わせた。
だが、足は止まらなかった。
暗闇の奥へ――ラースは一歩、また一歩と進んでいった。




