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ハズレ召喚だと笑われた白いまんじゅう、実は《錬金釜》持ちの最強相棒でした  作者: ヨグー
第二章 肩の上の白い相棒は、今日も笑われる

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9/23

母はポコを、先にかわいいと言った

 火石板から前足を離したポコは、

 何事もなかったみたいな顔で、

 僕たちを見上げていた。


 母さんは鍋のふたを持ったまま、

 ぱちぱちと瞬きをしている。


「……今の、見えた?」


「見えた。青く光った、よね」


 僕がそう言うと、母さんは

 ゆっくりとうなずいた。


「火石板の術式も、少しだけ

 明るくなった気がしたのだけど」


「僕もそう見えた」


 火石板は、台所でよく使う

 小さな魔道具だ。

 中に入った火石の熱を、刻まれた

 術式でじんわり広げる仕組み

 らしい、と前に父さんから

 聞いたことがある。


 でも、見て分かるのはそこまでだ。

 僕には、魔道具の中身までは

 よく分からない。


 だからこそ、今の反応は

 少し不思議だった。


「ポコ」


 僕がしゃがんで呼びかけると、

 ポコは「ぷきゅ」と小さく鳴いた。


「今の、火石板が気になったの?」


 ポコは言葉では答えられない。

 でも、白い丸い体を小さく揺らして、

 もう一度だけ火石板のほうを

 見た。


 その視線は、ぼんやり眺める

 みたいな感じじゃない。

 ちゃんと何かを見ていた。


「もしかして、この子、

 魔道具の中の魔力みたいなのが

 分かるのかしら」


 母さんがぽつりと言った。


「そんなこと、あるのかな」


「どうかしら。でも、ただ火が

 気になっただけの顔じゃないわよね」


 そう言われて、僕ももう一度

 ポコを見る。


 たしかにそうだった。

 火に驚いたわけでも、

 あたたかさに寄っていった

 わけでもない。


 中をのぞきこんでいるみたいな、

 そんな目だった。


 僕の胸の奥で、昨日からずっと

 重たく沈んでいた不安が、

 ほんの少しだけ揺れる。


 《錬金釜》。


 よく分からない、古い力。

 珍しいけれど、役に立つかは

 分からないと言われた力。


 でももし、今の反応に意味が

 あるのなら。


 ポコには、僕たちには見えない

 何かが見えているのかもしれない。


「ねえ、もう一回だけ

 見せてもらえる?」


 母さんがやさしくたずねると、

 ポコはしばらく考えるみたいに

 止まったあと、とことこと

 火石板の前まで歩いていった。


 前足を伸ばす。


 ほんの少しだけ近づけた

 その瞬間、白い体の内側に

 細い青い線がふわりと走った。


「……っ」


 僕は思わず息をのむ。


 今度は見間違いじゃない。

 たしかに光った。


 しかも、火石板の表面に刻まれた

 細い線まで、呼応するみたいに

 淡く明るくなっている。


 でも、暴れたりはしない。

 熱が強くなるわけでも、

 火が噴いたりするわけでもない。


 ただ、ポコが中身を

 たしかめているみたいだった。


「やっぱり……」


 母さんが小さくつぶやく。


「この子、何か分かってるのね」


 ポコはしばらくそのまま

 じっとしていたけれど、やがて

 前足を引っこめた。

 青い光はすうっと消えて、

 火石板の術式も元の明るさへ戻る。


「ぷきゅ」


 得意そうというよりは、

 報告するみたいな鳴き方だった。


「今の、すごいよね」


 僕が言うと、母さんは

 うれしそうに笑った。


「すごいわよ。少なくとも私は、

 台所の火石板を見て光る子なんて

 初めて見たもの」


 そう言いながら、母さんは

 しゃがんでポコの目線に合わせた。


「ねえ、ポコちゃん。

 あなた、ひょっとして

 とっても賢い子なんじゃない?」


「ぷきゅ」


 ポコは小さく胸を張るみたいに

 体を持ち上げた。


「ふふ。やっぱりそうね」


 母さんはすっかり楽しそうだ。

 珍しい召喚獣を前にしている

 というより、新しく来た家族に

 話しかけているようだった。


 その様子を見ていたら、

 なんだかおかしくなってくる。


「母さん、全然こわがらないんだね」


「どうしてこわがるの?」


「だって、見たことないし。

 能力だってよく分からないし」


 母さんはきょとんとして、

 それから少しだけ目を細めた。


「見たことがないことと、

 こわいことは別でしょう?」


「……まあ、それはそうだけど」


「それに、この子。

 さっきからずっと、リクのことを

 見てるじゃない」


 言われて、僕はポコを見た。

 たしかにポコは、火石板よりも、

 母さんよりも、最後にはちゃんと

 僕のほうを見ていた。


 確認するみたいに。

 大丈夫だよ、と言うみたいに。


「そういう子はね、

 たいてい悪い子じゃないの」


 母さんの言葉は、あんまり

 迷いがなかった。


 広場では、能力名を聞いた人たちが

 首をかしげていた。

 珍しい、今どき聞かない、

 何ができるんだろうって。


 それはきっと普通の反応だ。


 でも母さんは違った。

 能力がどうとか、その前に、

 ポコがどんなふうに僕を見て、

 どう振る舞うかを見ている。


 そのことが、僕はうれしかった。


「ねえ、リク」


「うん?」


「この子、かわいいわ」


 母さんが真剣な顔で言うので、

 僕は一瞬ぽかんとしてしまう。


「……そこなんだ」


「大事よ。すごく大事」


「そうかな」


「すごく大事。

 毎日一緒にいる相手なんだから、

 見ていてほっとするのは

 とてもいいことなの」


 母さんはそう言って、

 ポコの頭をもう一度だけ

 そっと撫でた。


 ポコは気持ちよさそうに

 目を細めている。


「それにね、かわいい子は

 得をするのよ」


「そんな言い方ある?」


「あるわよ。みんな最初は

 見た目から入るんだから。

 だったら、この子のかわいさは

 立派な長所だわ」


 言い切られてしまって、

 僕は思わず笑ってしまった。


 たしかにそうかもしれない。

 少なくとも、母さんはもう

 すっかりポコの味方だ。


「ぷきゅ」


 得意そうに鳴くポコに、

 僕は肩をすくめる。


「よかったね、ポコ。

 母さんに気に入ってもらえたみたい」


「ぷきゅう」


 返事まで少し誇らしげで、

 僕はまた笑った。


 そのとき、鍋のふたが

 ことりと鳴った。

 中の煮込みが、そろそろ

 ちょうどいいころらしい。


「あら、いけない」


 母さんは立ち上がって、

 あわてて鍋のほうへ戻る。

 火石板の赤い光を確かめながら、

 木の杓子で中身をゆっくり混ぜた。


「リク、お皿取ってくれる?」


「うん」


「ポコちゃんはどうしようかしら。

 食卓の椅子、使える?」


 その言い方があまりにも自然で、

 僕は少しだけ目を丸くする。


「もう一緒に食べる前提なんだ」


「家族だもの」


 母さんは、なんでもないこと

 みたいに言った。


 その一言が、胸にすとんと落ちる。


 家族。


 今日、召喚されたばかりで、

 能力のこともよく分からなくて、

 広場では少し笑われもした。


 それでも、もう家の中では

 そういう扱いなんだ。


 僕は皿を棚から取り出しながら、

 なんだか泣きそうになるのを

 ごまかすみたいに息を吐いた。


 ポコは椅子の上へぴょこんと

 飛び乗って、ちょこんと丸くなる。


 白くて、小さくて、丸い。


 でもさっき、火石板の中の術式に

 反応してみせた。

 あれは偶然なんかじゃない気がする。


 母さんは鍋を食卓へ運びながら、

 ふと僕を見た。


「父さんが帰ってきたら、

 きっとその子のことも、

 ちゃんと見てくれるわ」


「……うん」


「でもその前に、リク」


「なに?」


 母さんは、いつもより少しだけ

 やわらかい顔で笑った。


「あなた、自分で思ってるより

 ずっといい顔してるわよ」


「え?」


「召喚殿を出たときは、

 もっとしょんぼりした顔で

 帰ってくるかと思ってたもの」


 そう言われて、僕は思わず

 自分の頬に触れた。


 そんなに分かりやすいのかな。


「……そうかな」


「そうよ。

 ちゃんと、その子を見てる顔してる」


 その言葉を聞いた瞬間、

 肩の力が少しだけ抜けた気がした。


 能力のことは、まだ分からない。

 これから調べないといけないし、

 きっと簡単じゃない。


 それでも。


 僕はたしかに、もうポコを

 見ていたんだと思う。

 ハズレかどうかじゃなくて、

 この子がどんな相棒なのかを。


 食卓の椅子の上で、ポコが

 こっちを見上げて鳴いた。


「ぷきゅ」


 それは返事みたいでもあり、

 これからよろしく、みたいでも

 あった。


 だけど、その少しあと。


 玄関の戸が開く音がして、

 低く落ち着いた声が家の中に響く。


「ただいま」


 父さんが帰ってきたのだ。


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