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ハズレ召喚だと笑われた白いまんじゅう、実は《錬金釜》持ちの最強相棒でした  作者: ヨグー
第二章 肩の上の白い相棒は、今日も笑われる

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8/27

白いのが一匹、家に増えた日

 門のそばに立っていた母さんは、

 僕の肩の上を見たまま、ぱちりと

 目を丸くした。


「まあ。

 白いのが一匹、増えてるわ」


 その言い方がおかしくて、

 僕は思わず吹き出しそうになる。


「増えてるって……」


「だって本当にそう見えるもの。

 それで、この子がリクの召喚獣

 なのよね?」


 母さんはそう言って、ゆっくり

 しゃがみこんだ。ポコは僕の肩の上で

 ぴくりと体を揺らしたけれど、

 逃げる様子はない。


 むしろ、じっと母さんを見ている。


「うん。今日、召喚されたんだ」


「へえ……」


 母さんは感心したみたいに目を

 細めた。見たこともない珍獣でも

 見るみたいに驚くかと思ったのに、

 その顔は思っていたよりずっと

 やわらかい。


「近くで見ても、やっぱり白いわねえ。

 それに丸いし、なんだか

 やわらかそう」


「ぷきゅ」


 ポコが小さく返事をする。

 母さんはその声を聞いて、

 さらにうれしそうに笑った。


「ちゃんとお返事もするのね。

 おりこうさん」


 そう言って、母さんは僕に

 たずねる。


「触っても平気?」


 僕はポコを見る。

 ポコは少しだけ考えるみたいに

 瞬きをしてから、こくん、と

 小さく体を揺らした。


「たぶん、大丈夫だと思う」


「じゃあ、失礼して……」


 母さんの指先が、ポコの頭に

 そっと触れる。


 白い体がふに、と少しだけへこんで、

 すぐ元に戻る。


「……あら」


 母さんが目を丸くした。


「なにこれ。すごく気持ちいい」


「えっ」


「もちもちしてるわ」


 言いながら、母さんはもう一度だけ

 やさしく撫でる。ポコは嫌がる

 どころか、目を細めるみたいにして

 じっとしていた。


「ぷきゅう……」


「気に入られてる」


 僕が言うと、母さんはくすくす笑う。


「私のほうが、この子を気に入って

 しまいそうだけど」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ

 あたたかくなる。


 広場では、珍しいとか、

 ハズレかもしれないとか、

 そんな声もたくさん聞いた。


 でも母さんは、まず先に

 かわいいとか、気持ちいいとか、

 そういうことを言ってくれる。


 それがなんだか、すごく

 救われる気がした。


「名前は決めたの?」


「うん。ポコ」


「ポコちゃん」


「ぷきゅ」


「いい名前ねえ」


 母さんはすっかりその呼び方に

 なっていて、僕はちょっとだけ

 おかしくなる。


「家の中でも、その子は肩に

 乗るのかしら」


「まだ分からないけど……たぶん」


「ふふ。じゃあ、今日からうちは

 三人と一匹ね」


 そう言って母さんが門を開ける。

 庭先には干した布が風に揺れていて、

 隅には小さな薬草棚が置かれていた。

 薬草棚の下には、虫よけ用の

 簡易刻印板が埋めてある。

 弱い魔力で香りを広げる、

 村でもよくある魔道具だ。


 母さんは家事の途中だったらしく、

 袖を少しだけまくっていた。


「さあ、入りなさい。

 父さんはもう少ししたら戻ると

 思うけど、その前にお昼の支度を

 しちゃうから」


「うん」


 家の中へ入ると、木と布と、

 少しだけ薬草の匂いがした。

 窓際には、保温用の小さな

 火石板が置かれていて、上に

 乗せられた鍋の底をじんわり

 温めている。


 村の家にしては、少しだけ便利な

 魔道具が多いのは、母さんが

 そういうものを見つけるのが

 うまいからだ。


「ほら、ポコちゃん。

 ここなら落ち着けるんじゃない?」


 母さんが椅子をひとつ引いて、

 座面をぽんぽんと叩く。


 ポコは僕の肩の上で迷うように

 揺れたあと、ぴょこん、と軽く

 飛び降りた。


「あ」


 思わず声が出たけれど、

 ポコはちゃんと椅子の上に着地して、

 ちょこんと丸く座った。


 白い。

 椅子の上で見ると、ますます白い。


「やっぱりおもちみたい」


 母さんが楽しそうに言う。


「さっきも広場で似たようなこと

 言われたよ」


「あら、みんな考えることは同じ

 なのね」


 母さんは台所へ向かいながら、

 振り返ってたずねた。


「それで、その子の力は

 どんな感じなの?」


 僕は少しだけ言葉に詰まった。


「……《錬金釜》、だって」


 母さんの手が止まる。


「錬金釜?」


「うん。記録係の人が

 そう言ってた」


「へえ……」


 母さんは不思議そうに

 首をかしげたけれど、

 困った顔はしなかった。


「じゃあ、何かを作るのに

 向いてるのかしら」


「まだよく分からないんだ。

 先生に聞いてみないと」


「分からないなら、これから

 見つければいいのよ」


 母さんは当たり前みたいに

 そう言って、鍋のふたを開けた。

 ふわりと湯気が立って、

 いい匂いが広がる。


 その言い方が、あまりにも自然で、

 僕は少しだけ目を瞬いた。


「そんな簡単に言うんだ」


「だって、召喚されたばかり

 なんでしょう?」


「そうだけど」


「じゃあ、これからよ。

 最初から全部分かるなら、

 つまらないじゃない」


 母さんはそう言って笑った。

 その横で、火石板の淡い赤い光が

 揺れている。


 椅子の上のポコは、

 その光に気づいたみたいに

 じっと鍋の下を見つめていた。


「……ポコ?」


 僕が呼ぶと、ポコは

 小さく「ぷきゅ」と鳴いた。


 それから、ゆっくりと椅子から

 降りて、火石板の近くまで

 とことこと歩いていく。


「ちょ、ちょっと熱いかも」


 あわてて止めようとしたけれど、

 ポコは怖がる様子もなく、

 ただじっと火石板を見つめていた。


 白い体の内側に、

 ほんの一瞬だけ青い線が走る。


「……え?」


 僕は息をのむ。


 気のせいかと思ったけれど、

 ポコはもう一度、火石板へ

 前足をそっと近づけた。


 すると今度は、板の表面に刻まれた

 細い術式の線が、かすかに

 明るくなった気がした。


「リク、その子――」


 母さんが驚いたように振り返る。


 ポコは火石板から前足を離し、

 僕たちのほうを見上げた。


「ぷきゅ」


 まるで、

 これ、何か入ってるよ、とでも

 言いたげな顔だった。


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