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ハズレ召喚だと笑われた白いまんじゅう、実は《錬金釜》持ちの最強相棒でした  作者: ヨグー
第二章 肩の上の白い相棒は、今日も笑われる

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7/27

村の帰り道と、肩の上の軽い重み

 召喚殿を出ると、朝より少しだけ

 高くなった日差しが、石畳を白く

 照らしていた。


 広場には、まだ大勢の人が残って

 いる。十歳の召喚の儀が終わった

 ばかりだから、あちこちで子ども

 たちと召喚獣の話が続いていた。


 僕の肩の上では、ポコがちょこんと

 座っている。


 小さい。

 とにかく小さい。


 ガルドの石牙狼みたいな迫力は

 ないし、ミオの風詠み小鳥みたいな

 分かりやすい特別さも、まだない。


 それでも、肩に伝わる重みは

 驚くくらいやわらかくて、

 僕は何度も、そこにポコがいることを

 確かめたくなった。


「ぷきゅ」


 小さな声が耳の近くでして、

 僕は少しだけ笑ってしまう。


「……うん。いるよね」


 変な言い方だと思ったけれど、

 ポコは気にした様子もなく、

 丸い体をほんの少しだけ僕の首に

 寄せてきた。


 あたたかい。


 そのぬくもりに、さっきまで胸の

 奥に引っかかっていたざらざらした

 気持ちが、少しだけやわらいだ。


「リク――!」


 後ろから声がして、僕は振り返る。

 小走りで追いついてきたのは、

 ミオだった。


 肩には、あの風詠み小鳥型の

 召喚獣が止まっている。


 小鳥は羽先を細かく震わせながら、

 ふわり、と空中へ浮かんだ。

 ただ飛んだだけなのに、まわりの

 空気がすっと軽くなった気がする。


「待ってよ。そんなに早く

 帰らなくてもいいでしょ」


「早く帰ってるつもりは

 なかったんだけど……」


「顔がそう見えるの」


 ミオはそう言って、僕の肩の上を

 のぞきこんだ。ポコは逃げるでも

 なく、じっとミオを見返している。


「やっぱりかわいいなあ」


「ぷきゅ」


「ほら、返事した」


 ミオがうれしそうに笑う。


 その隣で、風詠み小鳥が

 すうっと一度だけ上昇した。

 羽先が細かく震え、広場を渡る風を

 読むみたいに、しばらく空中で

 静止する。


 それから、異常はないとでも

 言いたげに、またミオの肩へ

 戻ってきた。


「やっぱりすごいな」


 僕が思わずそう言うと、

 ミオは少し照れたように笑った。


「この子、風の流れにすごく敏感

 みたい。まだ私も全部は分からない

 けど、なんだか見えてる景色が

 違うんだと思う」


 そのとき、今度は重たい足音が

 近づいてきた。


「おい、二人とも置いていくなよ」


 ガルドだった。

 隣には石牙狼型の召喚獣がいる。


 灰色の大きな体が一歩前へ出る

 たび、石畳の隙間の砂がざり、と

 鳴った。肩口の毛並みの下には、

 うっすらと礫色の筋が見えている。


 あれが《礫鎧》なんだろうか。

 まだ完全に力を出しているようには

 見えないのに、立っているだけで

 強そうだった。


「ガルドこそ、さっきまで大人たちに

 囲まれてたじゃないか」


「当然だろ。俺があれだけ立派なのを

 引いたんだからな」


 そう言って、ガルドは胸を張る。

 石牙狼も主の気分が伝わった

 みたいに、鼻を鳴らして前脚を

 踏みしめた。


 かちり、と足元の小石が跳ねる。


「はいはい、すごいすごい」


「なんだその言い方は」


 ミオが軽く流すと、ガルドは

 むっとした顔をした。

 でも次の瞬間、ちらりと僕の肩を

 見る。


「……まあ、リクのやつも、

 思ってたより変じゃないな」


「変じゃない、って……」


「いや、変は変か。白いし、丸いし」


「それ、あんまり褒めてないよ」


 ミオが言うと、ガルドは小さく

 咳払いをした。


「と、とにかくだ。見たことは

 ないけど、珍しいんだろ。

 珍しいってことは、何かあるかも

 しれないだろ」


 ぶっきらぼうだけど、気をつかって

 くれているのは分かった。


「……ありがとう」


「べつに、礼を言われるほどでも

 ない」


 ガルドはそっぽを向いたけれど、

 石牙狼のほうはじっとポコを

 見ていた。


 その視線に気づいたのか、

 ポコもじっと見返す。


 少しだけ緊張したけれど、

 石牙狼は低く唸ることもなく、

 ただ一度だけ鼻を鳴らした。

 そのまま静かに顔をそらす。


「嫌われてはないみたい」


 ミオが小さく笑う。


 広場の端から、また別の声が

 飛んできた。


「おーい、リク!」


 パン屋のおじさんだった。

 店先では、炭喰いトカゲ型の

 召喚獣がかまどのそばで丸くなって

 いる。


 赤くなりすぎた炭をぺろりと

 舐めるたび、喉の奥が橙色に光り、

 火加減がちょうどよく整っていく。


 少し離れた洗濯場では、

 泡尾カワウソ型が尻尾で泡を

 くるくる立てているし、井戸端では

 水守り亀型が甲羅の縁に水をまとわせ、

 桶の水をこぼさないように運んでいた。


 どこを見ても、召喚獣は当たり前

 みたいに働いている。


 この村では、それが普通だ。


 だからこそ、僕の肩の上のポコは、

 余計に目立って見えた。


「へえ、本当に小さいねえ」

「白くておもちみたい」

「その子、何ができるんだい?」


 悪意のない声もあれば、

 半分面白がっている声もあった。


 僕は少しだけ迷ってから答える。


「《錬金釜》、だそうです」


 一瞬、へえ、という空気が広がる。

 けれど次の瞬間には、首を

 かしげる人のほうが多かった。


「錬金?」

「聞いたことはあるけど……」

「今どき珍しいねえ」


 誰も、すごいとは言わない。


 それが少しだけ胸に刺さって、

 僕は無意識にポコへ手を添えた。


 すると、ポコが僕の指先に

 自分の小さな前足をちょこんと

 重ねる。


「ぷきゅ」


 その声は小さいのに、

 不思議とよく響いた。


 パン屋のおじさんが、目を細める。


「まあ、何ができるにしても、

 相棒には違いないだろ。

 大事にしてやんな」


「……はい」


 その一言が、思っていたより

 ずっとありがたかった。


 広場を抜けて家のほうへ歩き出すと、

 村の風景が少しずついつもの顔に

 戻っていく。


 鍛冶屋の前では、火床の熱を

 安定させるために、小さな火の

 魔法陣が赤く灯っていた。

 その脇で、炭喰いトカゲ型が

 じっと炉を見張っている。


 道ばたの灯り石は、昼だから

 まだ眠ったままだ。夜になると

 魔力を受けて淡く光る、村では

 それなりに大事な魔道具だった。


 いつも見ていた景色なのに、

 今日は少し違って見える。


 召喚獣がいて、

 魔法があって、

 魔道具があって、

 みんなそれぞれの役目を持っている。


 じゃあ、ポコの役目は

 何なんだろう。


 僕の相棒として、

 どんなふうに生きていくんだろう。


 考えても、まだ分からない。


 でも、肩の上の軽い重みだけは、

 たしかにそこにあった。


「リク」


 ミオが少しだけ声をやわらげる。


「あとで、また見せてね。

 ポコが何に反応するのか、

 ちょっと気になるから」


「うん」


「俺も見てやるよ」


 ガルドも腕を組んだまま言った。

 素直じゃないけれど、その言葉は

 ちゃんとやさしかった。


「ありがとう、二人とも」


 そう言うと、ミオは笑って手を振り、

 ガルドは石牙狼を連れて大通りの

 ほうへ曲がっていく。


 ひとりになった帰り道で、

 僕はもう一度だけポコに触れた。


「……家に帰ったら、母さんと父さん

 にもちゃんと紹介しようね」


「ぷきゅ」


 今度の返事は、さっきより少しだけ

 元気だった。


 その声を聞いたとき、

 家の屋根が見えてきた。


 だけど、その前に。


 門のそばに立っていた母さんが、

 僕の肩の上を見たまま、ぱちりと

 目を丸くした。


「まあ。

 白いのが一匹、増えてるわ」


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