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ハズレ召喚だと笑われた白いまんじゅう、実は《錬金釜》持ちの最強相棒でした  作者: ヨグー
第一章 ハズレ召喚? 白いまんじゅうが現れた日

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5/23

《錬金釜》なんてハズレだ

 召喚殿のざわめきは、

 白い生き物が現れてから

 なかなか収まらなかった。


 みんな、

 何を見せられているのか

 分からない顔をしている。


 それはきっと、

 僕も同じだった。


 白くて、

 丸くて、

 小さい。


 見たことのない召喚獣。


 それだけは分かる。


 けれど、

 それ以上が何ひとつ

 分からない。


 記録係のベルナは

 何度も手元の札を見返していた。


 一度見て、

 もう一度見て、

 さらにもう一度確認する。


 その仕草だけで、

 普段ならあまりないことなんだと

 伝わってきた。


「ベルナ?」


 神官が静かに声をかける。


「……はい」


 ベルナは少しだけ

 困ったように眉を寄せて、

 それでも記録係としての声で

 はっきりと読み上げた。


「種別……

 アメフクラガエル型」


 その言葉に、

 会場の空気がまた揺れた。


「アメフクラ……?」


「何それ」


「聞いたことないぞ」


「カエル、なのか?」


 子どもたちも大人たちも、

 首をかしげる声ばかりだ。


 たしかに、

 言われてみれば

 少しカエルっぽいかもしれない。


 でも、

 村の誰かが知っているような

 普通のカエルには

 全然見えなかった。


 丸くて、

 白くて、

 ふくらんでいて、

 やっぱりどう見ても

 まんじゅうっぽい。


 そのアメフクラガエル型と呼ばれた

 白い召喚獣は、

 周りのざわめきなんて

 気にしていないみたいに

 のんびり瞬きをしていた。


 ベルナはもう一度、

 札に視線を落とす。


 そして今度は、

 さっきよりも少しだけ

 言いづらそうに口を開いた。


「固有能力……

 《錬金釜》」


 一瞬、

 召喚殿が静まり返った。


 そのあとで、

 今までとは違う種類のざわめきが

 一気に広がる。


「《錬金釜》?」


「錬金術って、

 昔のやつだろ」


「今どき?」


「そんなの、

 まだあったのか」


 困惑と、

 拍子抜けと、

 少しの失笑。


 そんな空気が

 あっという間に広がっていく。


 僕の胸が、

 すうっと冷えていった。


 錬金術。


 名前だけなら、

 僕も聞いたことがある。


 昔は使われていた技術で、

 素材を組み合わせて

 別のものを作るとか、

 性質を変えるとか、

 そんな古い知識だ。


 でも今の時代は、

 魔法の方がずっと早い。


 召喚獣の固有能力の方が

 もっと分かりやすく強い。


 わざわざ手間のかかることをする

 古臭い技術なんて、

 もう廃れている。


 そういう話を、

 ぼんやり聞いたことがあった。


「おいおい」


 ガルドが、

 さっきまでの驚きとは

 別の顔で僕を見る。


「《錬金釜》って、

 強いのか?」


 その問いに、

 僕はすぐ答えられなかった。


 だって、

 僕にも分からないからだ。


 ミオも心配そうに

 僕と白い召喚獣を見比べている。


「……フェルム先生」


 誰かの親が

 先生の方を見た。


「これは、

 どういう能力なんです?」


 視線が集まる。


 フェルム先生は

 少しだけ困ったように

 顎に手を当てた。


「錬金術そのものは、

 古い文献に名前がある。

 だが……」


 そこで言葉を切って、

 先生は召喚陣の上の白い子を

 じっと見つめた。


「正直に言えば、

 私も詳しくは知らん」


 その答えに、

 また会場がざわつく。


「先生でも?」


「そんな珍しいのか」


「っていうか、

 それって大丈夫なのか?」


 その言葉の一つ一つが、

 じわじわ胸に刺さる。


 先生ですら分からない。


 それはつまり、

 珍しいってことだ。


 でも同時に、

 誰も期待できないってことでもある。


 強いとか、

 便利とか、

 すごいとか。


 そういう前向きな空気は

 どこにもなかった。


 あるのはただ、

 戸惑いと、

 微妙な空気だけだ。


 白い召喚獣は、

 そんな空気を知らないみたいに

 また小さく鳴いた。


「ぷきゅ」


 のんきな声だった。


 そのせいで、

 近くの子どもが

 思わず吹き出す。


「やっぱり

 まんじゅうみたい」


「しかも鳴き声まで

 弱そう……」


「何ができるんだ、それ」


 くすくすと、

 笑いが広がる。


 悪意ばかりじゃない。


 でも、

 面白がられているのは分かった。


 ガルドは

 露骨に笑ったりはしなかったけれど、

 どう反応していいか分からない顔で

 頭をかいていた。


「いや……その……

 何かできるんじゃないのか?」


 気をつかってくれたのかもしれない。


 でも、

 その言い方が余計に

 胸にひっかかった。


 ミオは小さく口を開く。


「でも、まだ

 能力をちゃんと見たわけじゃ……」


「名前が《錬金釜》だぞ?」


 後ろの方で、

 誰かの父親がぼそっと言った。


「今どき錬金術なんて、

 魔法よりずっと手間だろうに」


「それに、

 あの見た目じゃなあ」


「戦えるようにも見えない」


 言葉はそこまで強くなくても、

 空気は十分だった。


 ああ、

 これ、

 みんなハズレだと思ってるんだ。


 そのことが、

 いやになるくらい

 伝わってきた。


 僕は召喚陣の前で、

 ただ立ち尽くしていた。


 頭の中が

 うまく回らない。


 白い召喚獣。


 知らない種別。


 古い能力。


 先生も詳しく知らない。


 みんな困ってる。


 みんな少し笑ってる。


 それらが一気に押し寄せて、

 胸の奥がぎゅっと苦しくなった。


 やっぱり、

 僕はハズレを引いたんだろうか。


 ガルドみたいに

 かっこいい相棒でもなく。


 ミオみたいに

 きれいで役立ちそうな相棒でもない。


 白くて、

 丸くて、

 小さくて。


 しかも時代遅れの能力持ち。


 比べたくなくても、

 どうしても比べてしまう。


 そのとき、

 フェルム先生が

 少しだけ声をやわらげて言った。


「……能力名だけで

 全部を決めるのは早い」


 ざわめきが少しだけ止まる。


「錬金術は古い技術だ。

 だからこそ、

 今の者には分からないこともある」


 先生はそこまで言ってから、

 少し困ったように眉を下げた。


「とはいえ、

 詳しい使い方までは私も知らん。

 素材を前に置いてみるのが

 まず一番手っ取り早いだろう」


 その言葉に、

 何人かが顔を見合わせる。


「素材?」


「召喚獣の前に?」


「そんなので分かるのか?」


 先生は咳払いをした。


「少なくとも、

 何もしないよりはいい。

 召喚獣の能力は、

 実際に反応を見た方が早いこともある」


 その言い方は、

 先生自身も手探りなんだと

 よく分かるものだった。


 でも、

 それでも何もしないよりはいい。


 僕はその言葉に、

 少しだけ救われた気がした。


 完全に

 どうしようもないって

 言われたわけじゃない。


 まだ、

 何か分かるかもしれない。


 たとえ今は

 みんなに微妙な顔をされていても、

 もしかしたらこの子にも

 ちゃんと力があるかもしれない。


 僕はそっと、

 召喚陣の上の白い子を見た。


 その子は、

 相変わらずのんびりした顔で

 こちらを見上げている。


 まるで、

 周りの空気なんて

 まるで気にしていないみたいに。


「ぷきゅ」


 小さな声で、

 また鳴いた。


 その気の抜けた声に、

 またくすっと笑いが起こる。


 けれど今度は、

 さっきほど胸に刺さらなかった。


 僕はまだ、

 何も知らない。


 この子が何者で、

 何ができて、

 本当にハズレなのかどうかも。


 だったら、

 今ここで決めつけたくない。


 そう思ったときだった。


 白い召喚獣が

 ぴょこんと小さく跳ねた。


 そして、

 ぺたぺたと短い足で

 僕の方へ近づいてくる。


 会場が、

 また静かになる。


 みんなが見ている。


 僕も息を止めたまま、

 その小さな姿を見つめた。


 白い召喚獣は

 僕の足元まで来ると、

 ちょこんと止まった。


 それから、

 まっすぐ僕を見上げる。


 まんまるの目だった。


 怖がっている感じは、

 まるでない。


 ただ、

 まっすぐに見てくる。


 その視線に、

 胸の奥が少しだけ揺れた。


 次の瞬間。


 白い召喚獣は、

 ぴょんと小さく跳ねて

 僕の靴の上に乗った。


「……え?」


 思わず、

 声が漏れる。


 その小さな重みは、

 驚くほど軽かった。


 会場のざわめきが

 また遠くなる。


 白い召喚獣は、

 僕の靴の上で

 ちょこんと座り込んだ。


 そして――


「ぷきゅ」


 まるで、

 僕に話しかけるみたいに

 小さく鳴いた。


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