最初に呼ばれたのはガルドだった
召喚殿の中は、
外よりずっとひんやりしていた。
高い天井。
白い柱。
中央には、
淡く光る召喚陣が
描かれている。
祭壇の前に立った神官が、
静かな声で告げた。
「これより、
本年度の召喚の儀を
執り行います」
さっきまでのざわめきが、
ぴたりと止んだ。
集まっていた子どもたちも、
その家族たちも、
一斉に祭壇の前へ
視線を向ける。
「呼ばれた者から
前へ出なさい」
その声に、
僕の肩がぴくりと揺れた。
とうとう始まる。
そう思った瞬間、
隣にいたガルドが
にやりと笑った。
「最初でも最後でも、
強いやつを引くのは
俺だけどな」
「まだ始まってもないのに」
ミオがあきれたように
小さく笑う。
「でも、ガルドの家って
前衛型が多いんでしょ」
「そうそう。
だからたぶん今回も、
かっこいいのが来るはずだ」
ガルドはそう言って、
胸を張った。
僕は苦笑しながらも、
少しだけうらやましくなる。
家柄の傾向が強い家は、
やっぱり期待されやすい。
僕の家には、
そういう分かりやすい話は
あまりなかった。
だから余計に、
何が出るのか分からなくて、
少し怖い。
「ガルド・バレス」
神官が最初に呼んだ名前は、
そのガルドだった。
「おう!」
元気よく返事をして、
ガルドが前へ出る。
歩き方はいつも通り大きくて、
緊張なんてしていないみたいだった。
けれど、
召喚陣の前まで進んだところで、
握った拳に少しだけ
力が入ったのが見えた。
やっぱりガルドも、
まったく平気ってわけじゃ
ないらしい。
「召喚陣の中央へ」
神官の指示に従って、
ガルドが陣の中心に立つ。
白い線で描かれた紋様が、
じわりと淡く光を帯びた。
「手を前へ」
ガルドが右手を差し出す。
その瞬間だった。
召喚陣が、
まぶしいほどの光を放った。
石畳を鳴らすような
低い振動が足元を伝い、
思わず僕は息をのむ。
おおっ、と
周囲から感嘆の声が上がる。
光の中から現れたのは、
灰色の毛並みを持つ
狼のような召喚獣だった。
ただの狼じゃない。
四肢は太く、
肩は高く、
鋭い目つきには
野生の力強さがある。
それに、
口元からのぞく牙は、
岩を削り出したみたいに
ごつごつとしていた。
足元に転がっていた小石が、
その前脚に触れた瞬間、
ぴたりと張りつく。
まるで石そのものを
鎧みたいにまとうように。
「すごい……」
思わず、
僕の口から声が漏れた。
ミオも目を丸くしている。
「本当に、
ガルドらしい召喚獣だね」
記録係のベルナが、
札を手にして読み上げた。
「種別、石牙狼型」
「固有能力、《礫鎧》」
召喚殿の中に、
ざわめきが広がる。
「やっぱり前衛型だ」
「ガルドの家らしいな」
「これは立派だ」
「騎士向きかもしれないぞ」
そんな声が
あちこちから聞こえてくる。
ガルドは目を輝かせて、
目の前の召喚獣を見つめた。
「おお……っ!」
灰色の狼も、
低くうなって
ガルドを見上げる。
その姿は怖そうなのに、
ガルドを前にすると
不思議と落ち着いて見えた。
ガルドは一瞬だけ
言葉を探すみたいに
口を閉じた。
それから、
いかにも満足そうに
にやっと笑った。
「今日からグランだ!」
名をもらった狼は、
その言葉が分かったみたいに
ぐるる、と喉を鳴らした。
そして、
誇らしげに胸を張る。
「わあ……」
近くにいた子どもが
感嘆の声を上げた。
フェルム先生も、
感心したように
腕を組んでうなずく。
「いい召喚だ。
《礫鎧》は防御に優れる。
鍛えれば、
強い前衛になるだろう」
「へへっ」
ガルドは
すっかり得意顔だった。
その横で、
グランが一歩前に出る。
前脚を床につけた瞬間、
周囲の小石がかたかたと震え、
薄く石の膜のようなものが
脚の周りを包んだ。
「おお……!
もう反応してる!」
「すげえ!」
子どもたちの声が
いっそう大きくなる。
ガルドはますます
誇らしそうだった。
そりゃそうだ。
こんなに分かりやすく
強そうな召喚獣が出たら、
誰だって嬉しいに決まってる。
少しだけ胸がちくりとしたけれど、
それ以上に、
僕は素直にすごいと思った。
ガルドは前から
剣や盾に憧れていたし、
こんな相棒なら
本当に騎士みたいだ。
神官にうながされて、
ガルドはグランと一緒に
僕たちのところへ戻ってきた。
その足取りは、
行きよりもずっと軽い。
「見たか?」
開口一番、
ガルドが胸を張る。
「うん。
すごくかっこよかった」
僕がそう言うと、
ガルドは満足そうに
鼻を鳴らした。
「だろ?
やっぱ俺には
こういうのが似合うんだよ」
「まだ召喚されたばかりなのに、
もうそんなこと言ってる」
ミオがくすっと笑う。
けれどその声は、
からかうというより
少し安心したようにも聞こえた。
グランはガルドの足元に座り、
静かに周囲を見回している。
落ち着いた目つきだった。
凶暴そうというより、
頼もしそう、という方が近い。
「いいなあ……」
思わずそうつぶやくと、
ガルドが僕を見る。
「リクだって、
きっと何か来るだろ」
「う、うん……」
そう返しながらも、
胸の中の不安は
少しだけ大きくなっていた。
ガルドの召喚は、
家柄の傾向にも合っていて、
誰が見ても
分かりやすく立派だった。
もし僕のところに、
全然違うものが来たら。
もし、
みんなに首をかしげられるような
召喚獣だったら。
そんな考えが、
どうしても浮かんでしまう。
だけど、
今はまだ順番を待つしかない。
祭壇の前では、
神官が次の名前を呼ぶ準備をしていた。
その静かな空気の中で、
僕はこっそり手を握り直す。
次は、誰だろう。
そう思った直後、
神官の声が
召喚殿に響いた。
「ミオ・フィール」




