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ハズレ召喚だと笑われた白いまんじゅう、実は《錬金釜》持ちの最強相棒でした  作者: ヨグー
第三章 小さな手伝いの先に、僕たちの初依頼が待っている

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19/20

荷車の手伝いをしていたら、ギルドの話が向こうからやってきた

 次の日の昼すぎ、僕は帳面を閉じて、

 大きく息をついた。


 石。

 薬草。

 釘。

 火石。

 そして、試さなかった灯り石。


 昨日と今日のことを

 忘れないうちに書き足していたら、

 思っていたよりも

 ずいぶん時間がたっていた。


 机の上では、ポコが帳面の横で

 ちょこんと丸くなっている。


「つきあってくれてありがとう」


「ぷきゅ」


 小さな返事が返ってきて、

 僕は少しだけ笑った。


 窓の外からは、乾いた風が

 草を揺らす音が聞こえる。


 家の中にいると落ち着く。

 でも、ずっと考えてばかりいると、

 頭の中まで

 同じところをぐるぐる回りそうだ。


「少し外、歩こうか」


「ぷきゅ」


 ポコはすぐに立ち上がって、

 ぴょこんと僕の肩に乗った。


 外へ出ると、村はいつも通りの

 昼の顔をしていた。


 鍛冶屋の前では、

 炭喰いトカゲが炉の熱を整えている。

 火床の赤い魔石が、

 規則正しく明るさを変えていた。


 洗濯場では、泡尾カワウソが

 魔水桶のふちを尻尾で叩いて、

 白い泡をふわりと立てている。


 井戸端では、水守り亀が

 甲羅に薄い水膜をまとわせて、

 桶の揺れをやわらげていた。


 召喚獣も、魔法も、魔道具も、

 全部が村の中に自然に溶けこんでいる。


 その中を歩きながら、

 僕はふと肩の上のポコを見上げた。


「ポコも、いつかああやって

 自然に働けるようになるのかな」


「ぷきゅ」


 短い返事だったけれど、

 どこか自信ありげに聞こえた。


 そのとき、広場のほうから

 あわただしい声が響いた。


「おーい、誰か手を貸してくれ!」


 声のしたほうを見ると、

 荷車のそばで男の人が

 困った顔をしていた。


 行商帰りのトマスさんだ。


 荷台には布袋や木箱が

 いくつも積まれていて、

 そのうちのひとつが

 斜めにずれて引っかかっていた。


「どうしたんですか」


 僕が近づくと、トマスさんは

 額の汗をぬぐった。


「おお、リクか。

 村に入る前の段差で揺れてな。

 荷台の留め具が少し歪んじまった」


 そう言って、

 横板のあたりを指さす。


「応急で直せりゃいいんだが、

 今ちょうど手が足りなくてな」


 見ると、横板を留めていた金具が

 ひとつ歪んでいる。

 補助の縄も擦り切れかけていて、

 このまま動かせば

 荷が崩れそうだった。


 荷車の下には、

 小柄な荷運び用の相棒が

 必死に踏ん張っていたけれど、

 今は荷を支えるので

 精いっぱいらしい。


「鍛冶屋まで持っていければ

 いいんだが、その前に崩れたら

 たまったもんじゃないんだよなあ」


 僕は思わず、肩の上のポコを見る。


 ポコもまた、歪んだ金具を

 じっと見つめていた。


 白い体の内側に、

 ほんの一瞬だけ青い線が

 走りかける。


 胸がどくんと鳴った。


 昨日の釘に、少し似ている。

 ここで試せば、

 ポコは何かできるかもしれない。


 でも、すぐに

 フェルム先生の声がよみがえった。


 むやみに人前で試すな。

 全部を一度に見せるな。


 僕はぎゅっと口を結ぶ。


 どうしよう、と迷った

 そのときだった。


「リク?」


 横から声がして振り返ると、

 ミオとガルドが

 広場のほうから歩いてきていた。


 ミオの肩にはルゥがいて、

 ガルドの隣には

 グランがついている。


 グランは荷車をひと目見ると、

 低く鼻を鳴らした。

 肩口の毛並みの下に、

 礫色の筋がうっすら浮かぶ。


「なんだ、騒がしいと思ったら

 荷車か」


 ガルドが腕を組む。


「留め具が歪んでるみたいで。

 このままだと危ないんだって」


 僕が言うと、ミオは荷台を見上げた。

 ルゥがふわりと浮いて、

 荷の揺れ方を確かめるみたいに

 一度だけ上を旋回する。


「上の箱も少しずれてる。

 次に大きく揺れたら落ちそう」


「だろう?」


 トマスさんが困ったように

 肩をすくめる。


「だから誰か呼ぼうと思ってたんだが、

 ちょうど見かけたのがお前たちでな」


 ガルドは少しだけ顎を上げた。


「だったら俺のグランで

 支えればいいだろ」


 グランが一歩前へ出る。

 足元の砂利が、ざり、と鳴った。


「荷台が崩れる前に、

 横から押さえてやればいい」


「おお、それなら助かる」


 トマスさんの顔が明るくなる。


 ガルドが合図すると、

 グランは荷車の横へ回りこんだ。


 肩口から前脚にかけて、

 礫鎧がうっすらと広がっていく。

 灰色の光が毛並みの下で固まり、

 石の膜が重なるみたいに

 体つきがひと回り大きく見えた。


 どしり、と支えた瞬間、

 ぐらついていた荷車の揺れが

 ぴたりと弱くなる。


「すごい……」


 思わず僕がこぼすと、

 ガルドは少しだけ

 得意そうに鼻を鳴らした。


「当然だろ。

 こういうのは俺たち向きだ」


「まだ揺れるところあるよ」


 ミオが言う。


 ルゥは荷台の上へ舞い上がり、

 いちばん危なそうな木箱の上で

 小さく鳴いた。


「そこだね。

 重心が片寄ってる」


 その声に、トマスさんが

 あわてて荷台へ手を伸ばす。


「よし、こっちを寄せれば……」


 僕はその様子を見ながら、

 もう一度だけ歪んだ金具へ目をやった。


 グランが支えているから、

 今すぐ崩れることはない。


 でも、金具そのものは

 やっぱり歪んだままだ。


「いやあ、助かったよ。

 この留め具さえ、もう少し

 まともならなあ」


 トマスさんのその一言に、

 また心臓が強く鳴る。


 金具。

 歪み。

 使える部分を残して整える。


 昨日の釘と、よく似ている。


 だけど、今ここでやるのは

 まだ違う気がした。

 人の目もある。

 ミオも、ガルドも、

 トマスさんもいる。


「リク、どうしたの?」


 ミオが僕の顔をのぞきこんだ。


「えっ」


「なんか、考えこんでる顔してる」


「……少しだけ」


 そう答えると、ガルドが

 留め具を見ながら眉を寄せた。


「直せそうなのか?」


 その聞き方に、僕は一瞬

 言葉を失った。


 全部は言えない。

 でも、何も言わないのも違う。


「今すぐは……まだ分からない。

 でも、たぶん、

 こういうのを見ておくのは

 大事なんだと思う」


 ほとんど独り言みたいな

 言い方になった。


 ガルドは少しだけ

 不思議そうな顔をしたけれど、

 それ以上は聞かなかった。


「ふーん。まあ、考えるのは

 お前の得意分野だもんな」


「それ、褒めてるの?」


「半分くらいは」


 ミオがくすっと笑う。


 そのあいだに、トマスさんは

 縄をかけ直していた。

 グランが支え、

 ルゥが上の揺れを見ているから、

 作業は思っていたより

 ずっと順調に進んだ。


 やがて、トマスさんが

 ほっと息をつく。


「よし、これなら鍛冶屋まで

 持っていける。助かったよ」


 そう言ってから、今度は

 僕たち三人を見回した。


「やっぱり召喚獣ってのは

 こういうとき頼りになるなあ。

 村の手伝いだけでも十分助かるが――」


 そこで少し言葉を切って、

 にやりと笑う。


「街のギルドに行けば、

 もっといろんな依頼があるぞ」


「ギルド?」


 僕が聞き返すと、

 トマスさんは大きくうなずいた。


「おう。冒険者ギルドだ。

 魔物退治だけじゃない。

 採取、運搬、修理補助、

 探索の付き添い、素材の回収……

 召喚獣の得意を活かせる仕事が

 山ほどある」


 その言葉に、ミオが

 少し目を輝かせた。


「探索の付き添いってことは、

 風読みも役に立つのかな」


「もちろんだとも。

 そういう子は森や街道で

 重宝されるだろうよ」


 ルゥが誇らしげに

 羽を震わせる。


 ガルドも腕を組んだまま、

 少しだけ口もとを上げた。


「俺のグランなら、

 前衛でも荷運びでもいけるな」


「そりゃ間違いない」


 トマスさんは今度、

 僕の肩の上のポコを見た。


「その白い子は……

 まだ何が得意か探り中って感じか」


 胸が、ほんの少しだけ固くなる。


 でも、トマスさんの目に

 嫌な色はなかった。

 値踏みじゃなくて、

 可能性を考える目だった。


「……うん。まだ少しずつ」


 僕がそう答えると、

 トマスさんはにっと笑った。


「だったらなおさらだ。

 最初は小さな頼まれごとからでいい。

 村の手伝いでも、街の雑用でも、

 ひとつずつ実績を作ればいいんだよ」


 実績。


 その言葉が、胸の中に残った。


 ポコの力は、まだ全部分からない。

 でも、小さな頼まれごとなら、

 少しずつ試していけるかもしれない。


 人前でむやみに見せるんじゃなくて、

 必要な場面で、必要な分だけ。


 それなら、フェルム先生の言葉とも

 ちゃんと両立できる気がした。


「……ありがとう、トマスさん」


「礼なら、こっちのほうだ。

 今日は助かった」


 荷車がゆっくり動き出す。


 グランが体を離すと、

 最後に側板がぎしりと鳴った。

 でも、もう崩れそうな気配はない。


 ルゥも荷台の上を

 一度だけ飛んでから、

 ミオの肩へ戻った。


「たぶんもう大丈夫」


 ミオが言うと、

 トマスさんは大きく手を振った。


「今度、街へ行く気になったら、

 ギルドの場所くらいは教えてやるよ」


 そう言って、荷車は鍛冶屋のほうへ

 ゆっくり進んでいった。


 広場に静けさが戻ると、

 ガルドがふんと鼻を鳴らす。


「ギルドか。悪くないな」


「ガルドは、やっぱり行きたい?」


「そりゃな。俺のグランが

 どこまで通じるか、試してみたい」


 そう言って、グランの首を叩く。

 グランは満足そうに

 低く喉を鳴らした。


 ミオもルゥの羽先を見ながら、

 小さくうなずく。


「私も少し気になる。

 ルゥの風読みが、

 村の外でどれくらい役立つのか」


 二人の言葉を聞きながら、

 僕も肩の上のポコを見た。


 ポコは相変わらず小さくて、

 白くて、丸い。


 でも、さっき歪んだ金具を

 見つめていた目は、

 昨日までとは少し違っていた。


 見えるんだ。

 気づけるんだ。

 たぶん、整えられる。


 まだ全部じゃなくても。


「……僕も」


 二人がこっちを見る。


「僕も、少しずつでいいから

 試してみたい」


 そう言うと、ポコが

 小さく鳴いた。


「ぷきゅ」


 その返事は、

 僕もそう思う、と

 言ってくれているみたいだった。


 ギルド。

 依頼。

 実績。


 昨日までは、まだ遠い話だった。

 でも今は、小さな頼まれごとの先に

 ちゃんと続いている道みたいに思える。


 僕は肩の上の軽い重みを感じながら、

 いつかその道を、

 ポコと一緒に歩く日のことを

 少しだけ想像していた。


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