分からない力だからこそ、僕は全部書いておく
フェルム先生は、整えられた釘を
僕に返しながら、少しだけ考える
ように目を細めた。
「リク」
「はい」
「今日見たことは、
今日のうちに書いておけ」
「書く……?」
思わず聞き返すと、先生は
当たり前みたいにうなずいた。
「何に触れたか。
どう光ったか。
どう変わったか。
そのとき、この子がどんな様子
だったか」
先生は指を折るみたいに、
ひとつずつ区切って言う。
「石と薬草じゃ反応が違った。
薬草と金属でも違った。
こういう力は、あとで見返せる形に
しておかないと、すぐ混ざる」
僕は手の中の釘を見る。
たしかに、今はまだ覚えていられる。
でも、明日また別の素材に触れたら、
細かい違いはあやふやになるかも
しれない。
「順番も大事だ。
どれを先に試したかでも、
見え方が変わることがある」
「順番まで……」
「疲れ方もな」
先生の視線が、僕の足元のポコへ落ちる。
ポコはさっきより少しだけ静かで、
でもちゃんと顔を上げていた。
「石のあと、薬草。
薬草のあと、金属。
そこでどれだけ消耗したか。
それも含めて記録しておけば、
この子の力の輪郭が見えてくる」
僕は息をのんだ。
ただ試すだけじゃなくて、
残すことにも意味があるんだ。
「でも、僕、
そんなに上手く書けるかな」
「きれいに書く必要はない」
先生は即答した。
「見たままを書け。
思ったことも、変だと感じたことも、
そのままでいい」
それから、少しだけ口もとをゆるめる。
「あとから読み返したとき、
子どもの目で見た最初の違和感が
いちばん役に立つこともある」
その言葉は、なんだか
不思議と心に残った。
子どもの目で見たこと。
今の僕にしか分からないこと。
そういうものにも、
ちゃんと意味があるのかもしれない。
「……分かりました。
帰ったら書いてみます」
「そうしろ」
先生は短く言ってから、
箱の中身を元に戻しはじめた。
「帳面がなければ、紙切れでもいい。
とにかく残せ。
この子の力は、たぶん
積み重ねた者のほうが強く使える」
積み重ねた者のほうが強く使える。
その言い方が、
なんだかポコの力らしい気がした。
派手に一度で全部分かるんじゃない。
少しずつ見つけて、
少しずつ手に馴染んでいく。
そういう力。
僕は膝の上のポコを見た。
「帰ったら、一緒に書こうか」
「ぷきゅ」
ポコが小さく鳴く。
その返事が、
なんだか少しうれしそうに
聞こえた。




