先生にもよく分からない能力 2
前足が乾いた薬草に触れた瞬間、
石のときとは違う変化が起きた。
ぱき、とか、ぽろり、じゃない。
まるで朝露が葉の上をすべるみたいに、
淡い青い光が、薬草の細い葉脈に
沿って、するすると走っていく。
「……わ」
思わず、声が漏れた。
乾いて、少し縮れていた薬草が、
光に包まれたところから、
ほんのわずかにやわらかさを
取り戻していく。
色まで変わるわけじゃない。
でも、くすんでいた緑が、
ひと皮むけたみたいに
落ち着いた色へ戻っていった。
「石のときとは違うな……」
フェルム先生が低くつぶやく。
ポコは薬草に触れたまま、
じっと動かない。
丸いお腹の中心にともった光も、
石のときよりやわらかい。
小さな炉火というより、
水の中で揺れる灯りみたいだった。
そのとき。
薬草の端から、白っぽい粉みたいな
ものが、ふわりと浮いた。
「えっ」
粉は風に散るでもなく、
ポコの前で一度だけ揺れてから、
力を失ったみたいに地面へ落ちる。
薬草のほうには、
さっきよりも葉の筋がはっきりした、
きれいな部分だけが残っていた。
「不要な乾きと、傷んだ部分を
分けたのかもしれんな」
先生がしゃがみこんだまま言う。
「分けた……?」
「薬草は石とは違う。
硬さより、中に残っている効き目や
状態のほうが大事だ」
先生は慎重に薬草をつまみ上げ、
指先で軽くこする。
「香りが違う」
そう言って、僕にも差し出した。
受け取って鼻を寄せると、
たしかに分かった。
さっきまでの薬草は、
乾いた草そのものみたいな
匂いしかしなかった。
でも今は違う。
弱いけれど、すうっと鼻に抜ける
青い香りがある。
薬湯を作る前の、芯のある匂いだ。
「……ほんとだ」
僕がそう言うと、
まわりで見ていた見習いたちも
ざわついた。
「薬草まで変わったぞ」
「乾いてただけじゃなかったのか?」
「これ、すごくないか……?」
その声を聞いて、胸の奥が
少しだけ熱くなる。
ポコは「ぷきゅ」と鳴いて、
薬草から前足を離した。
すると、青い光はすうっと消えて、
お腹の中心の灯りも静かに
収まっていく。
でも、薬草はそのままだった。
乾ききって使い物にならないと
思っていたものが、完全じゃなくても
ちゃんと使える状態に近づいている。
「これって……治した、のかな」
「治した、というより、
使える部分を整えたんだろう」
先生の言葉は静かだったけれど、
いつもより少しだけ強かった。
「石のときは不純物を弾いた。
薬草では傷みと余計な乾きを
抜けさせたように見える」
僕は手の中の薬草と、地面に落ちた
白っぽい粉を見比べる。
「じゃあ、ポコは素材ごとに
やり方を変えてるの?」
「おそらくな」
先生はうなずいた。
「力を一律にぶつけてるんじゃない。
中身を見て、その素材に合う形で
整えている」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥で何かがはっきりした。
《錬金釜》は、ただ何かを作る力じゃ
ないのかもしれない。
まず見て、
選んで、
整える。
そうやって、素材の持っている力を
ちゃんと使える形にする能力なんだ。
「ポコ」
僕が呼ぶと、ポコはくるりと
こっちを向いた。
「今の、すごかったよ」
「ぷきゅ」
その鳴き声は、
得意そうというより、
ちゃんとできたよ、みたいな
感じに聞こえた。




