第二話「ダンのウェルバーン訪問:前篇」
最初はダン視点の一人称です。最後は第三者視点の三人称です。
四月二十日。
僕は今日、ウェルバーンに向けて出発する。
横には婚約者のエレアノール・メイスフィールドが立ち、後ろには三人の従士、ジェイル・バックス、エリック・カース、ハリー・ニーソンが控え、更に二人の若い自警団員のビルとデニスがその後ろにいる。ジェイルは僕と同じ二十四歳、他は二十歳から二十三歳と僕より若い。
目の前には御館様を始め、先代様やザック様など、ロックハート家の方々がいらっしゃり、僕たちの旅立ちを見送ってくださる。
「辺境伯閣下、オールダム殿、メイスフィールド卿によろしく伝えてくれ」
御館様から三通の封書を受け取る。
今回の旅は僕の結婚のあいさつが目的だが、ラズウェル辺境伯家への使者という重要な役目があった。
これはザック様が考えられたことで、神々の敵が暗躍した場合、帝国の混乱を狙ってくる可能性があるため、その注意を促すというものだ。
「命に替えましても使者の任を果たしてみせます」
僕が真面目に答えると、ザック様が笑いながら、
「使者の方はおまけだぞ。大事なのはエレナを嫁にもらうことなんだから」
御館様も同じように笑みを浮かべられ、「ザックの言う通りだ」と笑っておられた。
「気をつけていってらっしゃい。こっちは大丈夫だから」
リディアさんがそういって、子供の頃と同じように軽く抱き締めてくれた。
何となく甘い香りがして顔が熱くなるが、「はい」と答えて離れる。
父と母ともあいさつを交わし、馬に乗って館ヶ丘を下っていく。
馬は人馬族から贈られたカエルム馬で、僕が乗っているのは黒鹿毛の見事な軍馬だ。騎乗での戦いが得意とはいえない僕にはもったいないが、御館様のご命令で乗っていくことになった。
エレナが乗る馬も名馬で、つやつやとした毛並みの鹿毛で、額と足先が白く気品がある。
三人の従士たちもそれぞれ見事な軍馬を与えられており、アルス街道やアウレラ街道では目立つだろうなと思っている。
彼らの装備も目立つ要因だ。
ロックハート家の紋章が入った黒い革のマントに、磨き上げられたアルス鋼の兜と胸甲。それらが春の光を受けて銀色に輝いている。
エレナも同じように磨き上げられた鎧を纏い、兜から覗く金色の髪と整った顔で、物語に出てくる女騎士そのままという感じだ。
但し、僕だけは別だ。
ジェークス家の紋章が入った黒い革のマントはともかく、いつもの飛竜の鎧姿だ。更に馬の鞍には愛用の合成弓が取り付けてあり、腰には矢筒がある。
マントを外して弓を持てば、騎士というより冒険者だ。
これだけの装備を持っている冒険者は珍しいが、それでも武の名門ロックハート家の騎士の出で立ちではなく、メイスフィールド卿にあいさつに行くのに相応しいのかと思わなくはない。
エレナが「よくお似合いですし、問題ありません」と笑顔でいってくれるので、装備は変えなかった。
僕たち五騎の後ろにはビルとデニスが乗るロックハート家の紋章が入った屋根付きの荷馬車が一輌ついてきている。荷馬車には辺境伯閣下やメイスフィールド卿への土産がたくさん積んである。
土産といってもジェークス家が用意したものではなく、御館様とザック様が用意されたものだ。
八年物のスコッチ、いわゆるザックコレクションがメインで、“ホグスヘッド”と呼ばれる中型の樽が一つとザック様が作られた二十リットルの“ステンレスタンク”が五個ある。更にザック様が熟成させたシーウェルワインも二十ダースも積んである。
騎士家の馬車というより、高級酒を扱う商会の馬車のようだと思ってしまった。これだけの酒は帝都の商人でも揃えられないから、実際には存在しないのだけど。
他にもザック様が作ったクリスタルガラスのボトルやワイングラスが木箱に詰められ、この荷馬車だけでも数百万クローナ(日本円で数十億円)の価値があるだろう。いや、僕には分からないだけで、一千万クローナを超えるかもしれない。
荷馬車も特別だ。
板バネと魔物の革で作られたタイヤ、ベアリングと呼ばれる金属の球が使われた軸受とアルス鋼を使った車軸を持つ最新型のものだ。そのため、ビックリするくらい音が静かで振動も少なく、その分速度が出せる。
館ヶ丘の正門を出て村の中心に入っていくと、多くの人たちが手を振って見送ってくれる。
村の境界になっているフィン川を越えると、西の森に入ったところでようやく息を抜けた。
「今日はキルナレックまでだから、のんびりいこう」
普段、森に入る時には従士や自警団員を指揮しているけど、こういった一団を指揮したことがなく、どうすればいいのか困っている。
とりあえず声を掛けたものの、従士は真面目な者たちばかりで何となくやりづらい。
そんな僕の思いが伝わったのか、エレナが「御館様かザック様のやり方をまねされては」と助言してくれた。
「ありがとう。参考にしてみるよ」
ザック様とは何度も旅をしている。その時のことを思い出しながら、休憩のタイミングや周囲の警戒方法、街道での移動の指示を出していった。
午後二時頃、キルナレックに到着した。
城門をくぐり、中央通を真直ぐに進んで城主の館に向かう。
今はロッド様が領主代行としてキルナレックを治めており、あいさつをするためだ。
館に入るとすぐにキルナレック詰めの従士たちが現れ、馬を引き取ってくれる。
エレナと従士のジェイルを引き連れ、ロッド様の執務室に向かった。
執務室に入ると、ロッド様、長女のレティーシャ様を抱いておられるロザリー様、四歳になられた嫡男ディーン様がいらっしゃった。
「長旅だが気をつけていってこい」とロッド様が笑顔で激励してくださる。
ロザリー様たちともあいさつを交わし、「お父様によろしく伝えて」といって手紙を渡された。
その夜はロッド様が僕たちのために宴を開いてくださった。
楽しい会食が進み、ほろ酔い加減になる。
「ダンなら大丈夫だと思うが、道中は気をつけろよ。この間のことでロックハート家の噂が街道中で流れているらしい。無駄に挑んでくる奴がいないとも限らないからな」
地竜や一つ目巨人を倒して凱旋したことから、アルス街道中で噂になっているらしい。そのため、名を上げたい傭兵などが無駄に挑んでくるかもしれないということだ。
「僕に勝っても意味はないと思うのですが……でも、念のため気をつけておきます」
正直なところ、先代様やロッド様、ザック様に勝てたのなら自慢になると思うけど、二つ名もないただの斥候である僕に剣で勝っても自慢にはならないと思う。
ただ、ロックハート家の紋章は目立つから、狙ってくる者がいるかもしれないという話は素直に頷ける。
翌日、キルナレックの街を出発するが、城門で多くの商人たちに同行してほしいと頼まれてしまった。アルス街道最大の難所であるカルシュ峠を越える時にロックハート家が付いていてくれると安心なのだそうだ。
急ぐ旅でもないし、カルシュ峠では何度も襲撃にあっているので僕たちにとっても都合がいい。軽い気持ちで了承したのだが、五十輌もの荷馬車が集まってしまった。それだけロックハート家の名声が鳴り響いているということなのだろう。
何とか隊列を組んで出発し、その日は何事もなくボウデン村に到着した。
しかし、その翌日、峠の頂上付近で盗賊団の襲撃を受けてしまう。
頂上に到達する少し手前、灌木と枯れ草の荒れ地が右側に、左側は崖になっている場所に差し掛かった。荒れ地といっても幅は狭く、すぐに切り立った岩壁があるのだが、伏兵を置くには絶好の場所だ。
そんなことを思っていたら案の定出てきた。
髭面の男たちが茂みからワラワラと街道に出てくる。その数は三十人を超え、更に増えていく。
「有り金と馬を置いていけ!」と首領らしい男が勝ち誇った顔で吼える。
僕は誰何することなく、合成弓を引き絞り、その男の頭目掛けて矢を放った。
その距離は二十メルトほど。
先代様やザック様くらいじゃないと避けきれない距離だ。
「ロックハート家など恐ろしくも……ぐはぁ!」と更に何か言おうとしていたところで喉に矢を受け、もんどりうって後ろに倒れ込む。
「お頭!」という叫び声が聞こえるが、僕は矢を放ちながら従士たちに指示を出す。
「ジェイル、エリック、ビルは前に! ハリーは三人のバックアップ! デニスは馬車を下げた後、ハリーの指揮下に入れ! 商隊の皆さん! 周囲の警戒を! 盗賊は我々で対処します!」
「私も前に出ます!」と言ってエレナが馬を飛び降り、走り出す。
「了解! だが無理はするな!」
彼女を戦いの場に出すつもりはなかった。でも、心配はほとんどしていない。
エレナも剣術士レベルは三十を超え、並の兵士以上の腕を持っている。囲まれさえしなければ、傭兵崩れの盗賊に遅れを取ることはないだろうし、ジェイルたちがフォローしてくれるはずだ。
僕は馬上から次々と矢を放ち、更に三人に致命傷を与えた。
その頃には盗賊たちも一時の混乱から立ち直っており、副頭目らしい男が大声で命令を出していた。
「敵は少ないぞ! 一度に掛かって殺してしまえ!」
矢で射殺そうかと思ったが、警戒しているのか、手下たちの後ろに隠れており直接狙えない。
エレナたちは無難に敵を捌いているが、数が減らないため、こう着状態に陥っている。
このままでは茂みから回り込む敵が出ないとも限らず、そうなると商人たちに被害が出るし、人質に取られて降伏を迫ってくるかもしれない。
そのため、僕も前にいった方がいいだろうと考えたが、この均衡を破るために奇襲を掛けることにした。
馬から飛び下りると、そのまま茂みに入り、姿勢を低くして身を隠しながら敵の側面に出る。敵も気づいたようで、「一人、茂みに入ったぞ!」と叫ぶ者がいた。
しかし、戦闘の喧騒に紛れたのか、それとも明確な指示が出ていないためかは分からないが、とりあえず僕の方に向かってくる敵はいない。
三十秒ほどで副頭目が見える位置に付く。
距離にして十メルト。迷うことなく弓を引き絞り、副頭目を狙撃する。
副頭目は指揮に慣れていないのか、僕の方を気にすることなく、怒鳴っている。
「何をしている! 敵は少な……ぐっ!……」
矢を首に受け、悲鳴を上げながら副頭目は倒れていく。更に数人に矢を放った後、弓を捨てて敵の中に飛び込んでいった。
「ロックハート家の家臣、ダン・ジェークスだ! 武器を捨てて降伏しろ!」
そう叫びながらも降伏を認める気はなかった。
相手が混乱してくれればいいと思って叫んだだけで、そのまま剣に魔法を纏わせて手当たり次第に斬り伏せていく。
僕の剣術スキルのレベルは五十一。ロックハート家の中では大したことはないが、僕のレベルを超える盗賊はほとんどいないはずだ。
狙い通り側面からの奇襲と前後からの挟撃の効果で、敵は大きく混乱した。右往左往する盗賊たちを斬り捨てていく。
五分ほどで盗賊の数は半分以下になった。足元には二十人以上が倒れており、街道は血の海になっている。
僕が見ている限りではエレナを始め、ロックハート家側に損害はない。それでも多くの敵と斬り結んでいるため、息が荒くなっている。
一方の盗賊たちは指揮する者がいなくなり、逃げ出すか、戦うか判断に迷っている感じで、動きに精彩がなかった。
最初に頭目と副頭目を倒したのは指揮官を潰すのが常道だとザック様に教えていただいたためだが、こんなに簡単に敵が弱体化するとは思わなかった。
「一気に殲滅する! 全員斬り込め!」
僕の命令にエレナたちが気力を振り絞って更に猛攻を加えていく。もちろん、僕も負けないように敵中で剣を振るい続ける。
こういう時、ロックハート家の訓練を受けていてよかったと思う。体力の限界でも気力で動くことができるのだから。
「こんな奴らに勝てるわけねぇ!」と一人の盗賊が武器を捨てて逃げ出した。
それがきっかけとなり、生き残っていた盗賊たちは次々と逃げ出していく。
ジェイルが「どうしますか!」と確認してきたので、
「追撃不要! 状況を報告せよ!」
僕の命令にジェイルたちから報告が上がるが、軽傷者すらおらず、僕たちの完勝だった。
「まだ生きている盗賊に止めを! デニスは商人方に死体の処理の手伝いを頼んできてくれ!」
二十分ほどで死体の処理が終わった。処理といっても使えそうな装備を外してから魔晶石を抜き、死体を道から離れた場所に捨ててくるだけだ。
最終的に倒した盗賊の数は三十五。十二、三人が逃げているから、五十人近くいたことになる。
「さすがはロックハート家でございますね」と商人の一人が言ってきたが、
「相手が大したことがなかっただけです。ここは血の匂いがしますから、すぐに出発を」
僕が話に乗ってこなかったので商人は少し残念そうに見えた。この機会に僕を通じてロックハート家と誼を結びたいとでも考えていたのだろう。
今回、圧勝できたのは僕たちの技量が優っていたこと、相手が人数で押せると油断し、側面から攻撃を仕掛けてこなかったことが大きな要因だ。
そして、もうひとつある。
ザック様に教えてもらった指揮官を最初に潰すという作戦が上手くいったことだ。
以前、ザック様からこんな話を聞いたことがあった。
「ロックハート家の自警団が強いのはなぜだと思う?」
僕は迷わず、「先代様たちに鍛えていただいているからです」と答えた。
僕の答えは正解ではなかったようで、ザック様は「それもあるが」と断った上で、
「うちの連中は確かに強い。でもそれ以上に強くしているのは父上とおじい様だ」
僕が首を傾げていると、
「指揮官がしっかりしていない組織は脆いんだ。例え一人一人が一騎当千の猛者であってもな」
「そんなものなんでしょうか」
「俺のいた世界にはこんな言葉があった。“一頭の獅子に率いられた百頭の羊は、一頭の羊に率いられた百頭の獅子に勝る”というものだ。意味は何となく分かるな」
何となく分かったため頷くが、それでも完全に理解できたとは言い難い。それが顔に出たのだろう。ザック様は更に教えてくれた。
「どんなに優秀な兵士がいても指揮官が無能なら戦争には勝てない。実際、ルークス聖王国が今まで存続できているのは、帝国の指揮官に無能な者が多いからだ……」
この話は以前聞いているのでよく分かる。
「……それにこの言葉にはいろいろな意味がある。一つは指揮官が優秀なら弱卒でも勝利は得られるという意味と、指揮官が無能なら戦力的に劣っていても勝機はあるという意味だ。これは指揮官になる者はそのことを肝に銘じなくてはいけないという戒めでもある……」
ザック様は騎士爵の嫡男である僕に心構えを教えてくれていると気づいた。
「……そして、重要なことは一頭の獅子さえ殺してしまえば、百頭の羊はただの羊になり下がるということだ。つまり、敵の指揮官を積極的に潰しにいくべきだという戦術にも繋がっている。特に訓練が行き届いていない徴兵された兵士や盗賊なんかは、指揮官がいなくなった瞬間、脅威でなくなることが多い。そのことを覚えておくといい……」
こんな話を聞いていたので、今回実践してみた。それが見事に当たったというだけで、僕の手柄でも何でもない。
勝利はしたものの、十人以上取り逃がしている。大した実力は持っていないとはいえ、盗賊を取り逃がしたことに僕は忸怩たる思いをしていた。
僕以外は八人で三十五人の盗賊を倒したことに満足しているらしく、返り血を浴びた状態でも笑顔でいる。それでもすぐに真面目な表情になり、ハリーがぼそりと呟いた。
「装備が血塗れになってしまった。手入れをしなくては……」
今回の装備は辺境伯閣下への謁見もあるため、いつもの装備より見栄えがする物だ。そのため、毎日磨き上げていたのだが、これだけ血塗れになったら、鍛冶師に手入れしてもらわないと元には戻せない。そのことに気づいたのだろう。
その後、ソーンブローの町に入り、盗賊たちの魔晶石を守備隊に渡した。
その結果、頭目がレベル三十五でもっとも高く、他は精々二十台後半が数人いるくらいで、ほとんどがレベル二十に満たない未熟者ばかりで自慢にもならない。
同じようなことを従士のエリックも思ったのか、
「うちの村なら十二、三の小僧くらいの腕ですね」と笑いながらいっていた。
商人たちが感謝の印を贈りたいといってきたが、丁重に断っている。ザック様が受け取らなかったのに僕が受け取るわけにはいかないからだ。
翌日からは安全な地域に入るため、僕たちだけでのんびりと街道を北上する。
四月二十五日、無事ペリクリトルに到着した。
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生き残った十二人の盗賊は森の中に逃げ込んだ後、拠点としていた洞窟に戻った。
全員が二十代前半の若者で農家の仕事が嫌で街に出たものの、傭兵や冒険者になることなく盗賊に落ちた者たちだった。
運良く斬られずに済んだ者たちだが、衣服や鎧には仲間の血がべっとりと付いている。そのことに気づいているものの手入れが面倒だと放置していた。
一人の盗賊が保存食をかじりながらぼそりと呟く。
「お頭や兄貴たちがいなくなっちまった。これからどうしたらいいんだ……」
その言葉を聞いた男が吐き捨てるように答える。
「俺たちだけで生きていくしかねぇだろう」
「そうだよな……でもよ、何でお頭はあんな強ぇ騎士を襲ったんだ?」
疑問を口にした男は頭目たちがロックハート家を狙った理由を知らなかった。
一人の男がその疑問に答える。
「兄貴と話しているのを聞いたんだが、あの荷馬車には何百万もするお宝が積んであったそうだ。ボウデン村で情報を集めていた奴が宝石で作った壺は一つ百万はするって話していたぜ」
「それでもよぉ、相手はあのロックハートだぜ。数万のアンデッドを三百人で全滅させ、二十人で竜と巨人を倒した、あのロックハートなんだ。知っていたら俺は抜けたぜ」
「俺も今ならそう思っただろうよ。だが、お頭は先のことを考えていたんだ」
「先のこと?」
「ああ、そろそろ根城を変えるって噂があっただろ」
「それとどんな関係があるんだ?」
「ロックハートに勝てば箔が付く。お頭はそう言ったんだ」
「箔が付く? 俺たちに箔が付いて何かいいことがあるのか?」
「ちらっと聞いただけだが、ラクスとサルトゥースの国境で人を集めているって話があったらしい。それでその組織に入るのにいいところを見せたかったんじゃねぇのか」
「バカバカしい。やられることを考えなかったのかよ……」
その言葉に全員が頷くが、その時彼らは油断していた。
洞窟の外に見張りを置くことなく、中から漫然と外を見ていただけだったのだ。そのため、血の匂いに誘われた灰色狼の群れに気づくのが遅れてしまう。
狼の遠吠えに気づき、「狼だ!」と叫ぶものの、戦うことなく、狭い洞窟の中に逃げ込むことしかできない。
洞窟は行き止まりになっており、逃げ道はなかった。
前にいる者から一人ずつ引きずり出されていくが、彼らに成すすべはなかった。
ダンは盗賊を逃がしたことを後悔していたが、結果から言えば問題はなかった。ただ、彼がそのことを知ることは永遠になかった。




