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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

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第六十七話「地下での決戦」

前半がアシュタル視点の三人称、後半がザック視点の一人称です。

 魔将(アークデーモン)のアシュタルはロックハート家が逃げ込んだ洞窟を見つめていた。


 妖魔(デーモン)が捕らえた鹿とゴブリンを使い、罠や待ち伏せを調べたが、二匹とも攻撃を受けた。視覚を繋げていたため、待ち伏せではなく、罠であることは分かっている。


(どこに消えた? 慌てて作った割にはよくできた地下室だ。しかし、それほど広い部屋ではない。隠し扉か何かで更に奥に通じているのだろう……ならば、爆発を起こせば、扉は吹き飛ぶ。奴らを見つけることは容易いはずだ……)


 火属性の爆発(エクスプロージョン)の魔法を地下室に向けて放つ。

 爆発音と共に砂塵や置かれていた物資の一部が入口から吹き出してくる。崖の上に空気穴があり、そこからも爆風が吹き出ていた。

 爆風は十秒ほどで落ち着くと、「中を見てこい」と妖魔に命じた。


 妖魔は慎重に中に進んでいくが、舞い上がった土埃で視界が確保できない。一分ほど待つと、それも治まり、再び中に進んでいく。

 中は寝台にしていたらしい岩の棚と暖炉があったが、毛布や道具類などはなく、人の気配はなかった。更に五分ほど調べるが、通路らしきものも見つからなかった。


 妖魔はアシュタルに何も見つけられなかったと報告する。


「そんなはずはない。貴様も見たであろう! 奴らが逃げ込んだのを!」


 アシュタルはそう吼えるものの、妖魔に任せても時間の無駄と考え、一体の妖魔に外で見張るよう命じ、残りの妖魔を引き連れ自ら中に入っていく。


 地下室に入ると、妖魔の報告通り寝台と暖炉しかなく、困惑する。


「どういうことなのだ? 奴らは確かにこの中に逃げ込んだ。まさか転移の魔法を使えるのか……いや、あれほどの人数を運ぶならその力を感じるはずだ。必ずこの中にいる……」


 アシュタルは妖魔たちに抜け道がないか調べるよう命じた。


「床と壁を叩いて調べるのだ。空間があるなら必ず音が変わる。だが、慎重に調べろ。奴がどんな罠を仕掛けておるか分からんからな」


 その命令に妖魔は剣を使って調べ始める。

 このような作業は初めてであり、中々要領を得ない。アシュタルはイライラとしながら、その光景を眺めていた。

 十分ほどで妖魔が音の違う箇所を発見する。


 アシュタルもその壁を叩いて確認するが、周囲の壁と見分けがつかない。その精巧さに驚きを隠せなかった。


「恐ろしく精巧な作りだが、確かにこの先に空洞がある」と呟き、「罠に気をつけて慎重に開けろ」と命じた。


 そして、自らはその壁から離れる。

 妖魔が偽装した岩の扉をゆっくりと開いていく。


 中は狭い通路になっており、湧き水でも出ているのかのように床が濡れていた。

 通路は十(メルト)ほど先で左に曲がっているように見える。

 再び獣を捕らえて送り込むことも考えたが、時間の浪費を嫌った。また、少し様子を見るだけであり、クロスボウなどが仕掛けてあれば戻せばいいと考えた。


「罠に注意して中を探ってこい。あの曲がり角までいって奥を覗け。だが、足元には注意しろ。紐を引っ掛けると作動する罠があるかもしれんからな」


 妖魔は翼を畳むと、狭い通路に入っていった。

 床は僅かに下がっており、水が三cm(セメル)ほど溜まっていた。


 一歩ずつ慎重に進むが、特に何も見つからない。十メルトほど先の曲がり角にたどり着く。待ち伏せを考え、慎重に覗き込むが、五メルトほどで行き止まりになっていた。

 単なる通路であり、先ほどの地下室のようにクロスボウが設置されていることもない。


 妖魔がそのことを報告すると、アシュタルが「行き止まりまでいけ」と命じた。

 妖魔は慎重に通路を進み始める。


 数歩進んだところで足に違和感を感じた。水の中に巧妙に隠された極細い紐があったのだ。

 その直後、カチッという何かが外れる音がした。妖魔は罠が発動したと思い、慌てて走り出す。

 しかし、すぐにガクンという音が天井から響き、上から砂が落ちてきた。


 何があったのかと上を見上げると、天井が外れて落ちてくることに気づく。

 更に逃げるが、既に通ってきた通路でも同じように天井が落ち始めており、あっという間に天井に押し潰されてしまった。


 ザカライアスの設置した罠は巧妙だった。

 テグスのような細い紐を水中に設置し上から見づらくする。更に曲がり角の先に設置することで、待ち伏せに警戒させるとともに、動きを止めることでそれまで払っていた足元への注意を散漫にさせた。


 天井は二重の構造だった。

 洞窟の天井の下に長さ五メルト、厚さ二十セメルほどの天井板を三枚設置していたのだ。この天井板は一枚当たり五トンほどの重量がある。


 水中に設置した紐が引かれると、壁の中に仕込んである小さな楔が外れ、その楔についていた金属製の重りが落ちる。その重りは天井板を支える楔と繋がっていた。そのため、天井板が支えを失い落下する。

 更に一枚目の天井板は別の板を支える楔と繋がっており、最初の板が落ちると連鎖的にすべての天井板が落ちる仕掛けとなっていた。


 地下室側で見ていたアシュタルには何が起きたのか、一瞬分からなかった。しかし、敵が落とし天井の罠を仕掛けてきたことはすぐに理解し、怒りに打ち震える。


(ここまで我を愚弄するとは……この先にもまだ罠があるはずだ。しかし、この程度の罠なら我は傷つかぬ……奴らがここに残っておるなら毒を使うことはできん。ならば、力ずくで進む方がよかろう……)


 アシュタルの能力であれば、天井が落ちてきても剣で叩き割ることでダメージを受けることはなかった。また、最初の弩弓(クロスボウ)の攻撃でも彼の防御力なら当たり所が悪くても軽傷程度で済み、治癒魔法で問題なく治せる。


 唯一懸念していたのは、以前大魔を倒した一酸化炭素中毒の罠だ。彼はそれを特殊な毒だと思っており、その存在が不気味でこれほどまでに慎重に行動していたのだ。

 しかし、敵が脱出した形跡はなく、物理的な罠ばかり仕掛けていることから、毒の罠は仕掛けてこないと確信した。


「お前は外で奴らが逃げ出さないか見張っていろ。もし逃げ出すようなら、サイクロプスたちを使って足止めするのだ」


 妖魔は恭しく頷くと、足早に立ち去った。妖魔系の魔物は自らの翼が使えない狭所を嫌うため、この場を早く去りたいと思っていたのだ。


 アシュタルは通路に向けて闇の球を無造作に放った。


(あれほど大掛りな細工の後に、まだ何かあるとは思えんが念のためだ。これで敵が隠れていようが、罠があろうが、問題なかろう……)


 壁といわず天井といわず、漆黒の球体をぶつけていく。その数は百以上で、通常の魔術師であれば十人は必要なほどの魔力を使っている。しかし、アシュタルは疲れた様子を欠片も見せず、そのまま落ちた天井板の上を歩いていく。

 彼の身長には天井が低いため、屈むようにして進んでいった。


 妖魔が罠に掛かった場所にたどり着く。先は岩の壁しかなく、行き止まりだ。


(あの岩も扉になっておるのだろう。ならば、魔法で破壊すればよい……)


 罠を警戒しながら突き当たりに向かう。

 何事も起きず突き当たりに到着すると、剣の柄で壁を叩くと、正面の岩の音が微妙に違うことに気づく。


(やはりこれが扉になっておるようだな。思った以上に分厚い。ならば、砂に変えればよいか……)


 土属性魔法の“砂の生成(サンドクリエイト)”の魔法を使い、岩を砂に変えようとした。しかし、すぐに考え直す。


(この先に敵が待ち伏せしているなら、穴を空けた瞬間に攻撃を仕掛けてくる。魔法ではなく絡め手を使ってくると厄介だな。薄くしてから魔法を撃ち込んで先手を取った方がよいだろう……)


 そう考え、サンドクリエイトで少しずつ岩を砂に変える。

 思ったより変換が難しく、時間を掛けたが、五分ほどで十セメルほど薄くする。どの程度の厚みがあるかは確認できないが、一箇所だけ薄くし、そこに魔法を撃ち込むことにした。


 獄炎の槍(ヘルフレイムランス)の魔法を発動し、他より薄くした場所に撃ち込んだ。

 高熱を発するオレンジ色の槍が岩に突き刺さる。そして、岩の扉を貫通した。


■■■


 天井落としの罠が発動した。

 一つ当たり五トン以上ある岩の天井が直撃すれば、魔将(アークデーモン)といえども無傷ではいられないだろう。


 しかし、天井が落ちた後、多数の魔法を放った音が聞こえた。恐らく妖魔を先行させ、罠を回避したのだろう。

 これで通路に用意した罠はなくなった。この後は無傷の魔将とガチンコ勝負になるということだ。


「魔将は無事のようじゃ。だが、落胆することはない。元々、罠は気休め程度とザックも言っておったのだからな。この扉といえども奴なら簡単に開けるじゃろう。作戦通り、入ってきてからが勝負じゃ」


 祖父の言葉に兄たちが頷く。

 俺の配置だが、後衛ではなく前衛だ。

 当初は魔法で攻撃する予定だったが、敵に魔法が効かないことから、バイロンに代わって祖父の班に入っている。


「敵の魔力は膨大です。恐らく扉を吹き飛ばすつもりで魔法を撃ってくるでしょう。ですので、正面には立たず、壁に張り付くようにして待機しましょう」


「そうじゃな。儂はシムと共に左側で待機する。お前はブレットとシドを率いて右側で待機せよ。ウォルトの班も二手に分かれて待機じゃ。ロッド、ベアトリスの班も壁際で盾を構えて警戒するんじゃ」


 全員が無言で移動する。

 射撃台にいるヘクターたちも遮蔽用の岩の板の陰に隠れて様子を窺っていた。


 全員が息を飲んで待ち構えている。

 一度、岩の扉がドンという音を立てた。敵が魔法を放ったか、殴りつけたのだろう。

 その後、何度か岩の扉を硬い物で叩く音が聞こえた。


 それからしばらくは無音の状態が続く。

 突然、僅かに扉に何かが当たる音がした。それは軽い音で扉の厚みを確認するため、拳で叩いているように聞こえた。

 全員に緊張が走る。


 灰色の岩の扉の中央付近が赤く変色する。

 その直後、オレンジ色の炎の槍が高速で飛び込んできた。獄炎の槍(ヘルファイアランス)級の火属性魔法で、威力は俺のものに匹敵する感じだ。


 全員が扉の前にはおらず、被害は出なかった。しかし、それに安堵する時間はなく、岩の扉が粉砕されていく。

 魔法ではなく、純粋な物理力で破壊しているようで何度か剣先が見えた。それはアシュタルが持っていた巨大な剣で、あっという間に頑丈だった岩の扉は跡形もなく破壊された。


 祖父が俺に目で合図を送ってきた。奴が入ってきたところで同時に強襲を掛けるためだ。


 二メートル三十センチほどの巨体が頭を下げるような感じでゆっくりと入ってきた。


 祖父が魔法剣に炎を纏わせて斬り掛かる。もちろん、俺も同時に斬り掛かっており、左右同時攻撃となった。


 祖父の剣が放つ、ビュンという風切り音が地下室に響く。

 俺は振り抜くのではなく、脇腹目掛けて渾身の突きを放った。


 ガンという音が地下室に響く。祖父の必殺の斬撃がアシュタルの巨大な剣で受け止められていたのだ。


 更に俺の突きも受け止められていた。剣ではなく、素手によって。

 アシュタルは俺の突きを手の平で易々と受け止めたのだ。


 その信じられない光景に思わず動きが止まる。


「この程度の攻撃など効かぬ」とアシュタルは(うそぶ)き、俺の腹に蹴りを入れてきた。


 蹴り自体は素人同然の雑なものだが、その動きは魔闘術を使った俺の動きを凌駕しており、回避することができなかった。何とか後ろに重心を傾けることで力を逃がすことには成功したが、大きく吹き飛ばされてしまう。

 気絶こそ免れたものの、ダメージは小さくなく、すぐに立ち上がれない。


 その間に祖父は更に攻撃を加えていた。シムとブレット、シドの三人も祖父に加勢すべく、攻撃に参加する。

 ウォルトたち槍術士も剣術士たちの隙間を狙って突きを放ち、ヘクターたち弓術士も頭を狙って矢を放っていた。


 前衛七人、後衛六人から攻撃を平然と受けていた。

 さすがに祖父やウォルトの攻撃は剣で捌いているが、他の攻撃は効かないとでもいうのか、平然と身体で受け止めている。実際、血を流すことなく薄い傷が付いているだけだ。


 俺は自らに治癒魔法を掛けながら、この状況を分析していた。


(身体全体に障壁でもあるのか? シドやリッキーの攻撃が効かないのは分からないでもないが、シムとウィルはレベル五十を超えている猛者だ。それにどちらもミスリル製の武器を使っている。普通の魔法の障壁なら貫けるはずなんだが……)


 シムは剣術士レベル五十三、ウィルは槍術士レベル五十六だ。この二人は強靭な鱗を持つ地竜に傷を負わせていた。それがほとんど効かない。

 ヘクターもミスリルの鏃の矢を使っており、この至近距離で彼の剛弓から放たれる矢が効かないことも異常だ。


 治癒魔法を掛け終えると、祖父に代わって指示を出す。


「シム! ウィル! ブレット! シド! リッキー! 五人は一旦下がれ! 兄上、ニコラス、ベアトリス、メルは俺と共に攻撃に加わる! 他の者は誰かが倒れたらその穴を埋めろ! シャロン、その指示はお前に任せる!」


 前衛に指示を出すと、次は後衛に指示を出す。


「ガイとダンは剣術士の班に! ヘクターはそのまま四人で攻撃を続行!」


 全員から了解の声が返る。


 俺の出した指示はロックハート家の最高戦力を叩き付けるというものだ。当初の計画では漆黒の魔族と魔将アシュタルとの戦闘を考え、間断なく攻撃を加えるという布陣だったが、妖魔すらいない状況であり、最大戦力を叩きつけ、短期決戦を狙う。

 これで勝てなければ、どうやっても勝てない。


 交代までの僅かな時間に剣術士のブレットと槍術士のリッキーが斬り倒された。

 二人とも胸甲(キュイラス)が裂け、血が噴水のように噴き出している。明らかに致命傷だが、俺が治療をしている余裕はない。二人はシムたちによって引きずり出され、後方に送られた。

 治療に関してはリディの判断に任せるしかない。


 精鋭が集結したことから、ロックハート家の猛攻が始まった。


 祖父の剛剣が残像を残して敵の胴体を薙ぐ。既に魔法は消しているが、黒曜石のようなアダマンタイトの輝きが襲い掛かるが、アシュタルは巨大な剣でそれを易々と弾く。


 ニコラスがその隙を突いて光を纏わせたミスリルの剣で斬りつける。

 その攻撃を身体を傾けることで避け、更に横から攻撃を加えようとしていた兄に足払いを放つ。


 ベアトリスとウォルトは頭部を狙って同時に突きを放つが、それも頭を仰け反らせることで回避する。


 その動きは達人のもので、アンデッドの王ヴラド・ヴァロノスのような稚拙さは一切見られない。感覚的なものだが、アシュタルの剣術士レベルは最強の傭兵、フォルティスのギデオン・ダイアーに匹敵していると思われた。


 人口密度が高くなり、俺とメルの入る余地がない。メルは祖父と交代できるよう動きを合わせ、俺もニコラスか兄と代われるよう後ろで待つ。待っているといっても時々クナイを投げつけている。しかし、障壁らしきものに当たって弾かれるだけで嫌がらせにもなっていない。


 アシュタルの顔に焦りはなく、逆に俺たちに焦りが生まれ始めていた。

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
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