第16章 番外編 格子から見える夜空の星
本編は、第15章で完結しました。
これは、その後の物語。
あの日から、長い年月が過ぎた。
二人は一度も会っていない。
約束したわけでもない。
待っていてくれと言ったわけでもない。
それでも、二人は信じていた。
――あの人も、同じ空を見ている。
第十六章 番外編
二人の物語の、本当の最後を。
長い年月が過ぎた。
あの日から、僕たちは一度も会っていない。
約束したわけでもない。
待っていてくれと言ったわけでもない。
それでも。
心のどこかで信じていた。
あの人は、きっと同じ空を見ている。
そう思うことでしか、前へ進めない日もあった。
自由のない部屋。
小さな窓。
見える景色は限られていた。
それでも夜になれば、空を見上げた。
月が見える日もあった。
星が見える日もあった。
そのたびに思った。
彼女も同じ空を見ているだろうか。
僕と同じように、過去を背負いながら生きているだろうか。
彼女もまた、苦しんでいた。
愛していた。
守りたかった。
でも、その気持ちを理由にして間違えた。
その事実から逃げることはできなかった。
何年経っても。
何十年経っても。
罪は消えなかった。
でも。
償うことはできる。
過去を変えることはできない。
失った命を戻すこともできない。
だからこそ。
残された時間をどう生きるか。
それだけは、自分で選ばなければならなかった。
歳月は人を変える。
鏡に映る顔には、昔の面影が少し残るだけだった。
髪は白くなった。
身体も昔のようには動かない。
それでも。
心の奥にあるものだけは、変わらなかった。
あの日からずっと。
彼女を待っていた。
そして彼女も。
同じように待っていた。
時が流れ。
僕は最後の日を迎えた。
重い扉が開く。
外の光が眩しかった。
長い時間を過ごした場所。
そこから一歩を踏み出す。
自由だった。
でも。
嬉しいより先に、不安があった。
自分はもう昔の自分ではない。
彼女もきっと変わっている。
それでも。
会いたいと思った。
歩き出す。
後ろを振り返らない。
過去は消えない。
でも、未来まで失う必要はない。
その時だった。
遠くに一人の女性が立っていた。
白くなった髪。
歳月を重ねた姿。
でも。
すぐに分かった。
探していた人だった。
彼女も僕を見ていた。
言葉は出なかった。
何十年分もの時間が、一瞬で胸に押し寄せた。
苦しかった日々。
後悔した夜。
それでも消えなかった想い。
全部がそこにあった。
彼女が一歩近づく。
僕も歩く。
昔のようには走れない。
でも。
気持ちはあの日のままだった。
「待ってた。」
彼女が小さく言った。
その一言で、涙が溢れた。
「信じてた。」
僕はそう答えた。
それ以上の言葉はいらなかった。
二人は静かに抱きしめ合った。
若い頃のような激しい愛ではない。
失ったものを知った人間の、
痛みを知った愛だった。
許されたわけじゃない。
過去が消えたわけでもない。
それでも。
二人はここまで歩いてきた。
同じ罪を背負い。
同じ空を見上げ。
それぞれの場所で、生き続けた。
「長かったね。」
彼女が言う。
「ああ。」
僕は答える。
「でも、生きてきてよかった。」
空を見上げる。
あの日と同じ星が見えた。
何十年経っても、
星は変わらなかった。
変わったのは人だった。
間違えて。
傷ついて。
失って。
それでも。
人はもう一度、誰かを大切にすることができる。
僕たちは、正しい愛を知らなかった。
だから間違えた。
でも最後に、
本当に大切なことだけは知った。
愛とは、
相手を自分のものにすることじゃない。
相手の人生も、
痛みも、
過去も全部抱えた上で、
それでも隣にいたいと思うこと。
二人はもう若くない。
残された時間も多くない。
それでも。
同じ星を見ることができた。
それだけで十分だ。
ここまで本当にありがとうございました。
第15章で本編は完結しましたが、
どうしても最後に、この二人の「その後」を描きたくて、第16章を書きました。
長い年月の中で、二人は自分たちの罪と向き合い続けます。
罪が消えたわけではありません。
失った命が戻ったわけでもありません。
それでも、過去を背負いながら生きることはできる。
そして最後に二人が再会した時、
そこにあったのは、若い頃のような愛ではありませんでした。
痛みを知り、
失うことを知り、
それでも誰かを大切にしたいと思えるようになった二人の愛です。
この物語が、ここまで読んでくださった皆様の心に、
少しでも残ってくれたら嬉しく思います。
これにて、本当に完結です。
最後まで読んでくださり、
ありがとうございました。




