第三十四話 夫婦の契り
妻木家との婚姻が正式に決まってから、幾日か。
ついに、その日が訪れた。
明智家と妻木家。
両家の者が集まり、婚礼の支度が整えられていく。
俺は静かに息を吐いた。
「……今日から、俺は夫になるのか」
戦場へ向かう時とは違う緊張があった。
刀を握るよりも、よほど落ち着かない。
*
婚礼の場。
俺が座して待っていると、やがて煕子が姿を現した。
白い装束に身を包んだ姿。
普段とはまるで違って見える。
「……」
思わず見入ってしまった。
「十兵衛様、どうされました?」
「……いや」
俺は慌てて目を逸らす。
「よくお似合いです」
「ありがとうございます」
煕子が微笑む。
その笑顔を見た瞬間、胸の奥が温かくなった。
*
両家の者が見守る中、婚礼の儀が始まった。
盃が用意される。
俺と煕子は向かい合って座った。
一つ。
二つ。
三つ。
盃を交わしていく。
静かな空気の中、俺は煕子を見る。
この女性を守る。
それが、これからの俺の務めになる。
やがて儀式が終わる。
「これにて、両家の縁は結ばれました」
その言葉とともに、俺と煕子は正式に夫婦となった。
*
夜。
二人きりになった部屋。
しばらく、どちらも口を開かなかった。
「……今日は疲れましたね」
煕子が小さく笑う。
「ああ」
俺も笑った。
「だが、不思議な気分だ」
「何がですか?」
「こうして煕子殿と夫婦になったことが」
「私もです」
煕子は少し俯いた。
「でも……」
「?」
「嬉しいです」
その言葉に、俺は微笑んだ。
「私もです」
*
煕子は夫となった十兵衛を見つめる。
不思議な人。
強い。
聡明で。
どこか、この時代の人間とは違うものを持っている。
時折見せる言葉や考え方。
まるで、自分と同じ世界を知っているかのような瞬間がある。
けれど――。
煕子は知らない。
目の前にいる男が、自分が現代で助けられた、あの男性だということを。
「十兵衛様」
「何だ?」
「これからも……よろしくお願いいたします」
煕子は深く頭を下げた。
俺はその手を取った。
「ああ」
そして、静かに告げる。
「こちらこそ、よろしく頼む」
こうして――。
明智十兵衛と妻木煕子は、正式に夫婦となった。
戦乱の世。
これから二人を待つのは、決して平穏な日々ではない。
それでも。
この夜だけは、二人の間にある未来を、誰にも邪魔されることはなかった。




