4話 我らは1−1
生徒手帳にのっていた構内図を頼りに自分たちの教室へと向かう。すれ違うほかのクラスであろう生徒達と目を合わせては逸らすの繰り返し。本校舎からもともと少し離れていた講堂から一階の廊下を通り階段を3階分上がる。階段を上がった校舎3階の突き当り。そこが私たちの教室、1−1だった。
「失礼しまーす……。」
ミラと一緒に後ろ側のドアから入る。すでに教室には10人ほどの生徒が集まっており、黒板には席順が書かれていた。私とミラは隣同士。教室の左後ろの席だ。
「ミラ、席あそこだよ。」
「やった、隣だね……。」
先程に比べて顔色は良くなっていたがまだ辛そうだ。無理もない。あんなことがあったのに平然としている方がおかしいのだ。長方形の教室には二人用の長机が横に2つ、縦に4つの計16席が用意されていた。椅子を引いて腰を下ろす。少しざらついた木製の椅子は体重をかけるとギイと音を立てる。座ったあともチラホラと生徒が集まり、最終的に14人の生徒が集まった。
「………………。」
気まずい。すごく。
すると前方のドアが開き、一人の女性が入ってくる。生徒ではない。おそらく先生だ。凛とした雰囲気を纏い、黒髪の長髪をなびかせながら教卓の前に立つ。クラスメイトたちの注目が集まる。名簿を教卓の上に置きこちらを見つめる。少しの沈黙の後……。
「…………。本当にごめんなさい……!」
先生の最初の一言は謝罪だった。先程の凛とした雰囲気が崩れる。
「私はこの学園の教師で……皆さんを守らなければいけない立場なのに……。」
声は震えていた。
「あいつがこの学園に現れたのは一ヶ月前でした。突然現れたかと思えば学園長が殺されて……。」
違和感。学園長が殺されたのは先程の出来事ではなかっただろうか?
「ちょ、ちょっと待ってくれよ先生。学園長がその……殺されたのはついさっきじゃねえのか?」
金髪の男子生徒が声を上げる。
「さきほど皆さんが見たのはあいつの……ヴォルドーが見せた偽物です。派手に登場したいから……と言っていました。学園長は一ヶ月前にすでに殺されています。」
あの男は自分が式で派手に登場するためだけに私たちに忘れられないトラウマを植え付けてきたらしい。
「私たち教員はヴォルドーに現在魔法をかけられています。」
先生が髪を上げてうなじを見せる。するとそこにあの男の魔法陣と同じ、赤黒い紋様が刻まれていた。それはまるで呼吸をするかのようにゆっくり点滅を続けている。
「この魔法により……私たちは常にあの男に命を握られています。解除を試みましたが……この学園の教師陣のなかに解けるものはおらず……。」
先生が髪を直してこちらに向き直る。
「先生方の中にヴォルドーと戦おうという方はいらっしゃらなかったのですか?」
金髪のツインテールでいかにもお嬢様らしい見た目の女の子が問う。その姿には風格が見える。
「もちろん反撃しようとしました……。先生達が命をなげうって。しかしヴォルドーは私たちが束になってもまったくと言っていいほど敵いませんでした。あの強さは……異常です。」
先生はその時を思い出すように目をつむる。
「しかもヴォルドーはそのあと私たちに特に何も危害を加えて来ませんでした。魔法で命を握っているから私たちを殺すことなどいつでも出来るということでしょう……。」
「なるほど……。」
お嬢様は考え込むように何かをつぶやいている。
「ヴォルドーが行うと言っていた定期テスト……。あれは教員にも詳細が教えられていません。何をするつもりなのか、どんな内容なのかが全くわかりません。」
話を続ける先生の目に少しの決意が戻る。
「ですが……。私たちはこの学園の、エルピス魔法学園の教師です。私たちがあなた達を死なせない。ヴォルドーに従うのは非常に不本意ですが……あなた達が定期テストで命を落とさないために、全力で教えます。私たちに現在許されている抵抗は、学ぶこと。そのために、私たちがいます。」
エルピス魔法学園は国内トップの魔法学園。つまりそこで教鞭をとる教師たちもとてつもない実力者だ。入室してきたときの凛とした雰囲気を取り戻した先生がこちらを見据える。
「改めて自己紹介を。私がこのクラスの担任、セレナ・アレイです。皆さん、よろしくお願いします。」
セレナ・アレイ。その名前が教室に響く。私たちの担任。
「先生。」
すっと手が上がる。手の主は先ほど先生に質問をしたお嬢様だ。
「つまりこのクラスの15人はともにテストを生き抜くための仲間ということですよね。でしたら、自己紹介をしませんか。皆さんいろんなことがあって混乱しているでしょう。わたくしも例外ではなく。ですので皆さんのお気持ちを少しでも和らげれたらと思ったのですがどうでしょうか?」
お嬢様が提案するとお嬢様の隣に座っていた茶髪の小柄な女の子がうつむいていた顔をあげ、目を輝かせる。
「お嬢様……!流石です……!」
「いいんじゃねえのか?ずっとこのお葬式みたいな雰囲気なのも耐えられねえよ。」
私とミラの前に座っていたガラの悪そうな生徒も同意の声を上げる。見た目に反して肯定的な態度だった。私とミラを含む他のクラスメイトたちとセレナ先生も頷き、反対するものは居なかった。
「先生、皆さん。ありがとうございます、ではわたくしから。まずは名前と…好きなことなど、差し支えなければ発現なさっている方は花紋も教えて頂きたいですわ。クラスメイトの魔法は把握しておいて損は無いでしょう。」
このお嬢様にはなんというかカリスマ的なものを凄く感じてしまう。話し方、立ち振舞い、全てに美しさが現れている。
「わたくしの名前はレイア・グレイス。花紋はトリカブト。花言葉は【騎士道】ですわ。」
「……!?」
「グレイスっ!?グレイスってあの……王家直属の宮廷魔法使いの一族じゃ……!?」
教室がざわめく。
「嘘は言いたくありませんのでグレイスとは名乗りましたが……その名ではあまり呼んでほしくはありませんわ。」
レイアと隣の小柄な茶髪の女の子の顔がすこし暗くなる。
「お嬢様……。」
名家の娘。
王家直属の宮廷魔法使いの一族。
なのにどうしてその名前を嫌がるのだろう……?




